※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第71話 観察

 葵が『リンパマッサージ』のスキルを受けた日の夜。

 彼女は理央を連れて、ファミレスに来ていた。

 

「――何度も言うけど、やっぱりおかしいよ。普通じゃない」

「心配してくれてるのは分かってる。でもね、私、自分のことが前より好きになったんだよ」

 

 ファミレスに着くまでの道中、理央は何度も同じことを繰り返していた。

 けれど、葵の意思は変わらなかった。

 

 弘世から距離を置いてほしいと訴える理央。

 だが今の葵にとって、それはまったく現実味のない話だった。

 

「理央も一度、体験してみる?」

「なっ……なに言ってるのよ!」

「前に興味あるって言ってたじゃん?」

「そ、それは……好きな人が相手ならって意味で……そんな軽々しいものじゃないの!」

 

 唐突な誘いに、理央は思わず声を荒げた。

 当然だ。見ず知らずの相手と肌を重ねるなんて言語道断。たとえ親友の提案でも、うなずける話ではない。

 

「でもさ、理央って結構奥手でしょ? このままだとずっと彼氏できないかもよ?」

「う、うるさい……葵だって奥手だったくせに」

「たしかに、それは認めるよ」

「どうして……どうして葵がこんな風に……純粋だった頃の葵を返してよ……」

「もう、理央は本当に優しいなぁ。見た目はちょっと怖いけど、中身はすごく乙女だもんね」

 

 理央は目つきが鋭く、よく怖がられる。

 特に後輩からは敬遠され、廊下を歩くだけで避けられるほどだった。

 

 でも、そんな彼女だって普通の女の子。

 恋だってしたい。

 

 ただし、それは葵の言うような軽いものではなく――もっと真剣な、深い恋。

 

「弘世先輩って、本命の彼女がいるんだよ」

「うそっ!? じゃあそれって浮気じゃん!」

「ううん、彼女公認なの。理央も知ってるでしょ、ひびき先輩。あの人が彼女だよ」

「えっ……えっ!? あの人って中学時代からめちゃくちゃ人気だったのに……意味がわからない……」

 

 葵とひびきは中学時代の先輩後輩。

 当然、理央にとってもひびきは先輩だ。

 

 ひびきの可愛さは校内でも有名で、葵が彼女を慕っていたことも理央は知っていた。

 

「色々と事情があるんだよ。話せない部分もあるけどさ。……でも、もし今よりもっと綺麗になれるとしたら、どう思う?」

「綺麗に……って、私がこれ以上――ぁ……」

 

 理央の視線が葵に向かう。

 中学三年の夏休みが明けたあたりから、葵は急に綺麗になっていった。

 

 彼氏ができたから、成長期だから……色んな理由は考えられる。

 でも、理央が一番感じていたのは、葵のまとう色気の変化だった。

 

「見てよ、私の肌。赤ちゃんみたいにツルツルでしょ? ムダ毛もないし、弘世先輩と出会ってから、こんな風になったんだよ」

 

 これ以上は言えない。『誓約』のギフトのせいで。

 ギリギリのラインで、葵は弘世の魅力を語る。

 

「――綺麗に、なりたくない?」

 

 具体的には何も言っていない。

 けれど、目の前の葵が実際に美しく変わったのは事実。

 

「でも、あの人は……きっと悪い人で……葵をこんな風にして……」

「ふふ。逆に言えばね、弘世先輩には悪いところなんて一つもないよ」

「え?」

 

 悪い人だと思い込んでいた理央に対して、葵はあっさりと否定する。

 

「イケメンってほどじゃないけど、女の子に振り回されるくらい優しくて、頼まれたら断れないタイプ。私のこともすごく心配してくれたし……それに、アソコもおっきいし……」

「最後のは聞かなかったことにするけど……葵が弘世先輩を好きだってことは、よく分かった。私が何を言っても無駄ってことも……」

 

 理央は弘世のことを否定してきた。

 でも、葵の言葉には嘘がないと感じた。

 

「――綺麗になれば、彼氏、できるかもしれないよ?」

 

 それは罠だ。

 葵の仕掛けた、戻れない蟻地獄のような罠。

 

 弘世の周囲にいるのは年上の女子ばかり。

 だからこそ葵は、対等にいられる存在――理央を引き込みたかった。

 

「そうかもしれないけど……でも、私はまだあの人を信用できない……」

「思い出してみて。今日、美化委員で一緒だったんでしょ? 弘世先輩って、どんな人だった?」

「えっと……他の人がさぼる中、一人だけ真面目にやってて……」

「それって、本当に悪い人に見える?」

「…………でも、ヤリチンって噂も……」

「それは私の嘘。弘世先輩が求めてるわけじゃない。私たちが先輩を求めてるの。だから、先輩に非はないんだよ」

 

 眉を寄せている理央に葵はさらに続ける。

 

「じゃあさ……一週間、弘世先輩のこと観察してみて。それで誤解が解けたら――私のお願い、一つだけ聞いてもらうから」

「…………わかった」

 

 理央の返事を聞き、葵は満足そうに微笑んだ。

 

 理央は、葵には弱い。

 友達のいなかった自分に、ずっと寄り添ってくれたのが葵だった。

 だから信じたい。この先も友達でいたいから。

 

 ――こうして、理央の一週間の観察が始まった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「…………」

「弘世? 何かあった?」

「いや……なんでもないよ」

 

 翌日の昼休み。

 教室でひびきたちと弁当を食べていた弘世は、ふと視線を感じて周囲を見回した。

 

 しかし、見つけることはできず――まあ気のせいだろうと、その場はやり過ごした。

 だがその視線は、次の日も、そのまた次の日も続いた。

 

 そしてその日。弘世たちは『マスタールーム』に集まり、次の議題を進めようとしていた。

 

「――実はさ、新しいスキル、覚えたんだ」

「うそっ!」

 

 弘世の言葉に、皆が驚きの声をあげた。

 そして、気になるスキルの内容に、視線が集中する。

 

「『リンパマッサージ』っていうんだけど、委員会の後に偶然葵ちゃんに会って、試してみたんだ」

「リンパ!? なにそれ、すごく気になる!」

 

 馴染みのある言葉ではあるが、詳細までは知らない。

 マッサージというくらいだから、何かしら施術系だろうとは思うが――

 

「体力回復、疲労回復、むくみ解消、冷え性改善、生理痛の緩和……いろいろあるよ。でも、一番すごいのは――」

「ちょっと待って! 冷え性と生理痛!? それ、めっちゃすごいじゃん!」

 

 ひびきが弘世の話を遮って、思わず立ち上がる。

 

「……それは確かに魅力的なスキルですね。私はそれほどではありませんが、苦しんでいる子も多いですし」

 

 霧乃が落ち着いた声でそう言った。

 

「そうだね。……ひびきちゃん、弘世くんの話、最後まで聞こうね」

「ごめんごめん。続けて?」

 

 小春に注意され、ひびきが腰を下ろす。

 

「……でね、すぐに効果が出るスキルだったんだ」

「――今、なんて?」

 

 一同の驚きがさらに増す。

 弘世自身も驚いたのだ。これまでは数週間かかっていた効果が、施術直後に現れたのだから。

 

「施術にはいつも通り時間がかかったけど、その後すぐに葵ちゃんが“もう一回部活できそう”って言ってたんだ」

「つまり、体力がすぐに回復したと?」

「うん。だから思ったんだ。ダンジョンにもこういう回復ポイントがあってもいいなって」

「――それは素晴らしいアイディアです! 他のダンジョンにはない要素になりそうですし!」

 

 沙織が立ち上がり、拳を握る。

 体力・疲労だけでなく、生理痛なども緩和されるとなれば、これは目玉コンテンツになる。

 

「じゃあ、以前言ってた施術室の近くに温泉を配置して、その温泉に『リンパマッサージ』の効果を付けるのは?」

「スキル的に肌を揉み込む必要があるので、触手スライムなどが必要になるかと」

「じゃあ、とりあえず触手スライムにしておこうか。本人が受けるかどうか選べるようにして」

「了解しました。その方向で進めます」

 

 エコアの提案に弘世も同意。

 体力回復に触手スライムというのは一抹の不安もあるが、現時点では他に代案もなかったので暫定的にそうすることにした。

 

 

 

 

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