美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
『リンパマッサージ』のスキル効果を、回復スポットとして応用することに決めたあと、全員で『肌質改善』フロアの一階層へ向かうことになった。
「へえ〜、ここが……!」
弘世たちの目の前には、多摩川のゲートから入れるようになる最初のフロアが広がっていた。
何もないスペースに設置された八つの扉。その横には、それぞれ募金箱のような小さな箱が取りつけられている。
エコアの話によれば、その箱に一人五百円を入れることで、扉の先へ進めるという仕組みらしい。
「では、一番右側の扉をお願いします。入場できるように設定済みです」
その扉こそが、『肌質改善』のフロアであるようだ。
弘世が扉を開くと、ひびき、小春、霧乃、麻未、沙織の六人が順番に中へ入っていき、最後にエコアも扉の奥へと姿を消した。
扉の先に広がっていたのは、一面の草原だった。
見渡す限り、鮮やかな芝生が絨毯のように敷き詰められている。
「広すぎない!?」
驚いたように声を上げたのは、ひびきだった。
「ダンジョン観光のときも、けっこう広かったでしょ。同じ感じだよ」
「そうだけど……これ、冒険者って大変だね。魔物と戦いながら、こんな場所をずっと進むんでしょ?」
「うん、体力がいるね」
この一階層はFランク。出現する魔物はかなり弱いように設定されているが、それでもただ歩くだけで、相当な体力を消耗する。
ダンジョンの階層というのは、その最奥にある階段のような場所まで辿り着くことで、次の層へと進むことができる仕組みになっている。
いくら強力なギフトを持っていたとしても、体力面ではやはり苦労するのだ。
そうして一同がダンジョンを進んでいくと、やがて一体の小さな魔物が姿を見せた。
角の生えたウサギ――『ホーンラビット』と呼ばれる魔物だ。
「『マスタールーム』に出入りした方々には攻撃しないよう設定してありますので、ご安心ください」
「す、すごいな……そんな細かいコントロールまでできるのか……」
エコアの説明に、弘世は動く『ホーンラビット』を横目に彼女を信じて歩みを進めた。
しばらく進むと、草原だった風景に変化が訪れた。
森とまではいかないが、木々や泉が現れ、まるでオアシスのような場所が目の前に広がった。
単調な風景が続くよりも、こうした変化がある方が面白い。
エコアが独自に作ってくれた空間ではあるが、こういった休憩スペースは、冒険者にとってもきっとありがたいだろう。
「あ! なんか変なのある!」
オアシスを越えたところで、ひびきが何かを発見した。
目を向けると、地面の芝生がチェスボードのように、明るい色と暗い色のマス目で構成された一角が見えた。
「……試しましょうか? 罠が作動しても安全な設定にしてあります」
「へ、へえ……」
「弘世行ってみなよ」
「お、俺ぇ!?」
「マスターなんでしょ。はい、どうぞ」
安全だと言われても、「罠」と聞いた途端、体は自然と身構えてしまう。
ひびきに背中を押され、弘世はおそるおそるチェスボード状の芝生の上に足を踏み入れた。
一歩、また一歩と進んでも、特に変化はない。
とはいえ、ここには何らかの罠が設置されているという話だった。
――その時だった。
弘世が暗い色の芝生を踏んだ瞬間、カチッという音が響いた。
足元の四角い地面が沈み込み、彼の体が一気に落下していった。
「――ぁ」
か細い声と共に、弘世は姿を消す。そこには、踏み場のない落とし穴が口を開けていた。
「弘世くんっ!?」
小春と霧乃が驚きの声を上げる中、ひびきだけは冷静だった。
エコアが助けると言っていたため、安心して見守っていたのだ。
「いだっ……」
暗闇に飲み込まれた弘世だったが、数秒後、皆のすぐ後方にある芝生地帯で尻もちをついていた。
「本来は入口まで戻される仕様です。ただ、それでは移動に時間がかかるため、今回は近くに出現するように設定しました」
「びっくりした……あの落ちていく感じ、ほんと怖い。ブラックホールに飲み込まれるって、ああいう感じかも」
「……冒険者って、本当に大変だね」
「他にもこのような罠をいくつか用意していますが、長くなるので、先に進みましょう」
エコアがそう言いながら、空に手をかざした。
「ええっ!?」
次の瞬間、空から何かが降ってくるのを一同は感じた。
疑似太陽のような輝きの中心から一直線に飛来してきたのは――漆黒の翼を持つ、巨大な鳥の魔物だった。
「『ブラックガルーダ』です」
「もしかして……これに乗って移動するってこと?」
「ええ。ちゃんと掴まっていれば、落ちることはありませんのでご安心を」
その体長は、ざっと見積もっても十メートルを超えていそうだった。
七人全員が乗れるのか不安になっていた弘世の視線に応えるように、エコアはもう一体の『ブラックガルーダ』を呼び出す。
「マジか……」
「二手に分かれて、フロアの奥へ向かい、下層を目指しましょう」
そうして三人と四人に分かれ、それぞれ『ブラックガルーダ』の背に乗ることに。
羽毛にしっかりと掴まると、黒い影は空へと舞い上がった。
「ぎえええええ〜〜〜〜!?」
悪役じみた悲鳴を上げながら、弘世とひびきは必死に羽毛にしがみつく。
一方、小春たちの乗ったもう一体の『ブラックガルーダ』では、『軽減結界』のスキルを使ったおかげで、風の影響をほとんど受けずに済んでいた。
こうして、一行はフロアの調査を続け、やがて三階層にある施術部屋の前までたどり着いた。
「……疲れた……」
風にあおられ、弘世とひびきの髪はボサボサになっていた。
同じく乗っていたエコアだけは、なぜかまったく乱れのない髪のままだった。
◇ ◇ ◇
「――ここが、あの変態の家……」
一方その頃、小塚理央は一人、弘世を尾行しながら彼の人柄を見極めようと動いていた。
そうしているうちに、なんと彼の自宅までたどり着いてしまっていたのである。
「あら、弘世の知り合い?」
そのとき、背後から突然声をかけられた。
「えっ、あっ……」
「あら、可愛い子じゃない。せっかくだし、用事があるなら上がっていきなさい。夕食はこれからよ」
「か、可愛い!? 私が可愛いなんて……って、そういうんじゃなくて……!」
「いいからいいから」
「えっ、えっ……」
声の主は、弘世の母親・高梨穂香だった。どうやら友達だと勘違いされてしまったようで、理央はそのまま背中を押され、家の中に招き入れられてしまう。
「多分、もうすぐ戻ってくると思うから。リビングでくつろいでて」
「あ…………」
なぜか断れず、理央はそのままリビングに通され、お茶を飲むことに。
「……ていうか、家にいるんじゃなかったの? 戻るってどういう意味……?」
弘世をずっと観察していた彼女は、家に入る彼の姿を、他の女子たちと一緒に確かに目撃している。
――それなのに、今はいない? どういうことなのか。
理央の中で、得体の知れない疑問がふくらんでいった。