※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第73話 同じになりたい

 辿り着いた三階層の施術室。

 

 草原のフロアの端に、岩に埋め込まれた鉄の扉があった。自然に溶け込まない異質な存在だが、それこそが施術室へと通じる扉だった。

 

「……あれが、オーガってやつ?」

 

 扉の前に立っていたのは、三メートルを優に超える巨体。角を持ち、筋骨隆々の異形。三階層のフロアボスであると、すぐにわかった。

 

 このダンジョンは、下層に行くほどランクが上がる仕組みになっている。この三階層は、Dランク下位に分類されていた。

 

「問題ありません。あれも、マスターと麻未様の魔力から生まれた魔物。家族のようなものです」

「いや、それはちょっと……なんか、言い方がイヤ……!」

 

 魔力の大部分は麻未のものだが、一部には弘世の魔力も使われている。とはいえ、自分の魔力から生まれた魔物を家族と言われるのは、少し気味が悪かった。

 

「では、通りましょう」

 

 エコアの案内で、フロアボスであるオーガの脇を通り抜ける。動かず、何もしないが、目だけはギロリと動き、しっかりと弘世たちの動きを捉えていた。

 

 

 施術室は、事前にモニター越しで確認していたとおり、複数の施術台が整然と並ぶ空間だった。そんな中、なんとか髪を整えたひびきがふと気づく。

 

「何人同時に施術するのか分からないけどさ、これ、個室にした方がよくない? マッサージとかも普通は個室だよね」

「たしかに。陽鞠ちゃんと海莉ちゃん、お互いの施術丸見えだったし……。プライバシーは必要だよね」

 

 ひびきの提案に小春が頷き、以前の施術風景を思い出す。

 親しい仲とはいえ、裸に近い状態を見られるのは、誰だって恥ずかしいものだ。

 

「マスター、ご判断を」

「うん、個室でいいよ。いい感じに仕切っちゃって」

「かしこまりました」

 

 弘世の指示を受けたエコアが静かに手をかざすと、ズズズ……と地面がうねり、複数の個室が瞬く間に形成されていく。完成した部屋は扉付きで内鍵もある、シンプルながらも十分に機能的な空間だった。

 

「あー、そうそう。エコア、こういうのって準備できる?」

「はい。確認しました。後ほど対応いたします」

 

 ひびきがスマホの画面を見せ、エコアがそれに応じるように頷く。内容はよく分からなかったが、美容関連のことならひびきに任せるのが一番だと、弘世は判断した。

 

「――シャワールームになります」

 

 施術室の確認を終えた後、続いてエコアに準備させていたシャワールームも見て回る。

 

 隣接する部屋の扉を開けると、そこには浴槽のないシャワースペースが広がっていた。タイル敷きの床には排水口も完備され、どこか弘世の自宅風呂を彷彿とさせるデザインだった。

 

「……うん、ここも問題なさそう」

「あと残るは温泉ですが、こちらは別の扉になります」

「そっか。温泉は時間かかるもんね」

「はい。皆様がお帰りになった後、作成に取りかかります」

「うん、任せたよ」

「じゃあ今日は帰ろー! もう遅いしっ!」

 

 確認が終わると、ひびきが天井に腕を伸ばしながら元気よく声を上げた。

 

 一行は『マスタールーム』を経由して弘世の部屋に戻り、そこからそれぞれの帰路についた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――母さん、みんな帰ったよ」

「あら、そう。ご飯はもう少しかかるから、ちょっと待っててね」

「うん、いつもありがと――って、え、えええええっ!?」

 

 玄関でみんなを見送り、リビングに向かった弘世は、キッチンにいる母親・穂香に声をかけた。そして視線をテレビ前のソファに向けた瞬間、言葉を失う。

 

「き、君は……っ!?」

「ど、どうも……」

 

 そこにいたのは、両手でコーヒーカップを包むように持つ――葵の親友、小塚理央だった。

 

「母さん! この子、どうしてうちに!?」

「スーパーの帰りにね、家の前に立ってたのよ。また弘世の知り合いかなって思って、中に入れたの」

「そんな……またって……」

 

 穂香はもう慣れっこだった。

 次々と現れる美少女たち。誰が本命か察しつつも、こうして一年以上も見ていれば、さすがに驚きもしなくなる。

 

「弘世が降りてくるまで待ってたの。ご飯ができるまで、ちゃんと相手してあげなさい」

「……う、うん」

 

 さすがにここまで来られては無視できない。

 弘世は頭を抱えながらも、理央を放っておくわけにはいかなかった。

 

「えっと……小塚さん、だよね。リビングじゃアレだし、ちょっと上に来てもらってもいいかな」

「ま、まさか……私に酷いことを……っ」

「ち、違うから! 普通に話すだけ! 母さんも家にいるし、そんなことあるわけないって!」

「それもそうですね……でも、変なことしたら絶対に許しませんからっ!」

 

 とんでもない誤解を堂々と口にする理央。

 だが、穂香はそれを聞いていたはずなのに、微笑みながら夕食の準備を続けていた。

 

 二人で弘世の部屋へ移動すると、理央は遠慮がちにテーブルの前に腰を下ろす。

 弘世はあえて少し距離を取り、ベッドの上から話しかけた。

 

「それで……どうして家の前にいたの?」

「…………」

 

 質問を受けた理央は、答えずに部屋をキョロキョロと見渡すだけ。

 

「こ、小塚さん?」

「――私がはじめて入る男の人の部屋が、まさか……あなたになるなんて……っ」

「あ……ごめん」

 

 問いに答えず、初体験のショックをぽつりと口にする理央。

 

(ついてきたのはそっちなのにな……)

 

 と心で呟くが、声には出さない。

 

「――――あなたには、何もありません……っ」

 

 理央の目が鋭くなる。

 

「え、どういう意味?」

「つまり、私が思っていたような酷い人ではなかったってことです。周りに女の子はたくさんいるけど……なんというか、皆楽しそうで」

 

(ああ……違和感の正体、これだったんだ。葵ちゃんにも、なんか言われてたな)

 

 弘世は、理央の行動が自分を見定めるためだったと気づく。そして最近感じていた視線の正体も彼女だったのだと理解した。

 

「だから言ったよね。葵ちゃんに無理やりとか、そういうのはないんだ」

「……まだ完全には信じられませんけど……」

「俺だって、望んでこうなったわけじゃない。むしろ、振り回されてる側なんだ」

 

 スキルの副作用、そして葵の変化――自分にも責任はある。でも、今の葵は元気で明るく、前よりも悩みが減ったようにさえ感じられる。

 

「――週末、時間をください」

「……え? それってどういう……」

「葵に何かしたんでしょう。だったら、私にもしてください。私は絶対に負けませんからっ」

「ちょ、ちょっと待って、それは……」

「う、うるさいですっ! いいから、葵と同じことしてくださいっ!」

 

 本気なのか冗談なのか、判断がつかない。

 だが理央の目は本気だった。

 

「いやいや……小塚さん、これはそんな軽い話じゃ……」

「あなたは、葵を変えてしまった。もう元に戻らないというのなら、私は……私も―――葵と同じになりたい」

 

 ――葵のすべてを、理解したいから。

 

 理央は、友達のいなかった自分に手を差し伸べてくれた葵が大切だった。だからこそ、葵との距離が離れていくのが耐えられなかった。

 

「……わかった。とりあえず、ひびきに相談するよ。でも、一週間考えて。ゴールデンウィークも近いし、それまで時間とるから」

「…………はい」

 

 弘世の言葉に、理央はようやく少しだけ落ち着きを見せた。

 

 そして連絡先を交換する二人。――葵には言えないから、と理央は仕方なく交換した。

 

「もう暗いし、途中まで送ってくよ」

「……そういう優しさが一番ムカつきます。あなたのこと嫌いなのに、優しくしないでほしいです……」

「それでも放っておけないよ」

 

 無言で立ち上がる理央に、弘世はほっと小さく息を吐いた。

 

 夜の道を並んで歩き、途中まで彼女を見送ったあと――

 

「……ふう。これまでにないパターンだな……」

 

 弘世は夜風にあたって深く息を吐き、翌日、ひびきに今日のことを相談する決意を固めた。

 

 

 

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