美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
次の冒険者が訪れるまでの合間、弘世はずっと胸の奥で引っかかっていた疑問を、ついに口にする決意をした。
それは、最近になって自覚しはじめた――自分の身体のある変化についてだった。
答えを知っていそうなのは、エコアしかいない。だから、彼女に声をかける。
「エコア、ちょっといいかな」
「はい、マスター。なんなりとお聞きください」
メイド服に身を包んだエコアが、柔らかく微笑みながらテーブルの前にやってきた。周囲ではひびきたちが談笑しているが、弘世の座るテーブルの端の会話までは届かない。二人きりの空間のような、静かな距離感。
「もしかしたらエコアでもわからないことかもしれないんだけど……最近、なんというか……性欲が、妙に増してる気がするんだ。前よりも興奮しやすくなって、それがなかなか収まらなくて……」
それは気のせいではなく、明確な変化だった。誰かと体を重ねたとき、自分の欲求はとどまることを知らず、相手が果てて気を失うまで、何度でも求め続けてしまうような――そんな状態になっていた。
普段は攻め側に回ることが多いひびきたちでさえ、気づけば受けに回り、へとへとになってしまう。これは明らかに、何かがおかしい。
「マスター。それは……十中八九、ダンジョンの影響かと」
「やっぱり、ダンジョンか……薄々そうじゃないかと思ってはいたけど、まさか本当だったとは」
思い返してみれば、この異常な体質になったのは、ちょうど『ダンジョン・コア』を起動させた時期と一致している。もう一ヶ月ほど前の話だ。
「はい。マスターがこのダンジョンの主になったことで、ダンジョンの魔力が直接干渉し、欲求が増幅されているようです」
「でもさ……増してる欲求って、性欲だけなんだよね。他の食欲とか睡眠欲とか、そういうのは特に変わってない気がする」
「それはおそらく、生物的な本能に根差したものかと思われます」
「……生物的本能?」
「はい。人間で言えば“子孫を残すため”の本能です。ダンジョンという存在そのものが、魔力から何かを“生み出す”場所。魔物を生み出すこと自体、ある種の“出産”のような行為とも言えます」
「……俺、魔物何千体も産んでるのかよ……」
思わぬ方向からの説明に、弘世の思考は一瞬止まった。自分が「産んでいる」側になるとは、夢にも思わなかったからだ。
「それにしても、麻未ちゃんには特に変化はなさそうだけど?」
「麻未様はあくまでサブマスターですから。影響を受ける方向性が異なります。また、実際にこのダンジョンの大部分の魔力は麻未様によるものであり、マスターはその魔力を逆流する形で受けていると思われます」
「逆流……なるほどね」
つまりまとめるとこうだ――
ダンジョンとは、魔力によって生み出される存在であり、その中心に立つマスターは魔力に強く干渉される。そして、生殖に似た創造を繰り返すことで、性欲という欲求が過剰に刺激されてしまう。
さらに、その魔力のほとんどが麻未によるものだったため、弘世の中にそれが流れ込み、より強く影響を受ける結果となっている。
……その二つが原因で、弘世の体はとんでもないことになってしまったわけだ。
「つまり、これ……もう元に戻らないってこと?」
「現時点では、その可能性が高いかと」
「ま、マジか……」
正直、目の前にいるエコアのメイド服から覗く柔らかな胸元を見るだけでも、今の弘世の身体は過敏に反応してしまっているのだから、洒落にならない。
「私の身体、気になりますか?」
「あっ、いや……ていうか、俺の思考読まないでくれないかなぁ……」
「マスターと私は深くリンクしています。思考が流れてくるのは……止めようがないのです」
「……うぅ」
エコアにだけは心の内が丸見えなのは、ありがたいようで困りものでもあった。
ともかく、原因ははっきりした。
弘世は軽くため息を吐き、天井を見上げたその時――エコアが、そっと耳元に顔を寄せる。
「私、マスターのすることに……とても興味があります。ずっと隣の部屋での様子も、見てきましたから。もしよろしければ、私の身体を……その欲が収まるまで、存分にお使いください」
「エコア……」
彼女は、“人”ではない。『ダンジョン・コア』から生まれた存在であり、姿すら消すことができる不思議な存在だ。
けれど、その中には確かに“人に近い感情”がある。愛情か、好奇心かはわからないが――確かにそこには、意思があった。
「私は、いつでもお待ちしております」
「……まずは、ひびきに相談してから、かな」
人ではないとはいえ、エコアは“女性”の姿をしている。了承なしに手を出すわけにはいかない。まずは、彼女に誠実でありたいと思った。
◇ ◇ ◇
そうして時間は過ぎ、日が傾く頃には――『美容ダンジョン』に訪れる冒険者の数は、明らかに増加していた。
先陣を切ったのは綺羅璃たちだったが、以降は出入口や罠の調整も行い、“防具を溶かす罠”は撤去した。他は現状維持で様子を見る方針。
様子を見ていると、徐々に低ランクの冒険者たちも挑みに来るようになった。
とはいえ、いきなり下層まで辿り着くということはなく、多くの冒険者が最初の施術部屋がある三階層まで探索したあと、地上へと戻っていった。
ちなみに、なぜか最初に一番端にある『肌質改善』の扉ばかり選ばれていた。
どうやら日本人の真面目な性格が出ているらしい。他の七つの扉には、まだ誰も踏み込んでいなかった。
施術室までたどり着いた者たちは、次々とあられもない姿になって出てくる。
冒険者は男性が多いが、女性のみで構成されたパーティもおり、彼女たちは全員『リンパマッサージ』まで受けてしまったため、最後には元気になるが、なんとも言えない顔で出てくることになった。
そして――その日の夜、冒険者専用の掲示板は、異様な盛り上がりを見せていた。
:FランクからSランクまで対応する新ダンジョン、マジでやばかった
:ああいうの、はじめてだった。行くやつは……覚悟しとけ
:そんなにやばいのか? 具体的に何が?
:低層の魔物は大したことない。だけど、問題は『施術室』だ
:施術室……?
:ああ。その場所で、なんかすげーもん受けた。
:どんな施術なんだよ、それ。ダンジョンだよな、そこ?
:三階層の扉に入ると、『肌質改善』ってプレートがあってさ。そこで……まあ施術を受けて美容効果を受けられる。何度か受けないと効果はないが、たぶん本当に肌がきれいになる
:美容……!? まさか、ギフトみたいな効果があるってことか?
:たぶんな。ちなみにダンジョンに入るには一人五百円かかる
:金取るのかよ!?
:もしちゃんと効果が出るなら、五百円以上の価値はある
:女性冒険者向け? 男でもおけ?
:男でも入れたけど……女性の方が喜ぶだろうな
:なんだそれ。エステみたいなもんか?
:いや、なんか……エステというか……そこは聞かないでくれ
:おいおいおい、なんだその危険な香り
:あとは八つの扉が並んでた。俺が入ったのは一番右の扉だ。残り七つは未知数
:一つのダンジョンに八つもダンジョンあるってこと!? 意味わからん。
:あの施術受けたら、下層に行く気力をなくす。温泉で回復はしたけど
:温泉もあんのか!? スパじゃねえか!
:私は女性冒険者だけど、効果が出るまで通う予定
:もし本当に効果が出るならこれは……流行るかもな
『美容ダンジョン』に潜った冒険者の書き込みで盛り上がった掲示板。
最初は様子見と言っていた冒険者も、情報が明かされていくと、徐々に興味をもちはじめていく者が増えていったように思えた。
この情報は、もちろん弘世たちも見ている。
反応によってこれからの対応も変えようとしていたが、現時点ではそのままでしばらく様子見しようということになった。