※この作品はR-18です。

美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】   作:pelca

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第87話 美咲の決意

「あれ……高梨、どこいった?」

「ん、確かグラウンドの方に行くって言ってたけど……」

「そう、わかった」

 

 翌日。美咲は昼休みに弘世へ話を聞こうと思っていた。昨日から気になっていた件だ。

 しかし、気づけば彼の姿は教室から消えていた。

 

 近くにいた男子生徒に尋ねると、「グラウンドの方へ行った」との答え。

 その返事を聞いた美咲は、躊躇なく席を立ち、扉を押し開ける。

 

「……早瀬まで……チッ。なんなんだよ……こっちはEランク冒険者だぞ? 高梨の何がいいってんだよ……」

 

 弘世の行き先を教えた男子生徒は、学校でも珍しい高校生冒険者だった。

 しかもクラスカーストの上位に位置し、普段は女子に囲まれているタイプ。

 ただ、美咲は冒険者という肩書きにも、彼の自尊心にも興味はなかった。

 彼女の関心は、ずっとテニスだけに注がれているのだから。

 

「――高梨、何してんのよ」

「ん……ああ、早瀬さん。これ? 放課後に美化委員の仕事があるんだ。今日は俺が中心で進める予定だから、その準備」

 

 グラウンド脇の水飲み場。

 美咲が見つけた弘世は、スマホでメモをとりながら場所のチェックをしていた。

 

「今日は学校の外にある水飲み場を全部掃除するんだ。だから場所のチェックと、掃除用具の準備をしておこうと思って」

「……それって、今やらなきゃダメなの?」

「放課後でもいいんだけど……ほら、時間になって慌ててもしょうがないでしょ?」

「よくわかんないヤツ」

「はは、俺が好きでやってるからさ」

 

 美咲は、この短いやり取りだけで混乱していた。

 だってこの作業、誰も見ていない。放課後に美化委員が集まっても、裏でこんな準備をしていたなんて誰も知らないだろう。

 それでも彼は言われもしないのに皆のため動いている――それが、高梨弘世という人間らしい。

 

「それでさ――」

 

 美咲が本題に入ろうとした、その瞬間。

 背後から影がひとつ、音もなく近づいてきた。

 

「うわ……弘世先輩、また女の子はべらせてる……これだからヤリチンは……」

 

 声の主は少し目つきは悪くも、弘世によって美少女に変身した後輩の小塚理央だった。

 鈴川葵の親友であり、弘世と同じ美化委員でもあった。

 

「ちょっ!? 人前でそんなこと言わないでくれる!?」

「……先輩の毒牙にかかる人が減ったほうが世のためじゃないですか」

 

 言いたい放題。

 しかも美咲とはまだそこまで親しいわけじゃない。弘世の額に、汗がじわりと浮かぶ。

 

「ふーん。高梨って、やっぱり悪い子だったんだ。美少女をはべらせてるって、そういう意味だったんだね」

「早瀬さん!? 今の話全部信じないで!?」

「本当のことじゃないですか」

「理央ちゃん!? 本当にやめて……まだ関係の浅いクラスメイトなんだから……」

 

 この「ヤリチン」説を理央に吹き込んだのは彼女の親友の葵。

 そして今、理央から美咲へ――見事な伝言ゲームである。

 

「ふふ、すみません。先輩っていつも可愛い子に囲まれてるから、たまにいじめないと気がすまないんです……あ、てか、美化委員の準備するなら言ってくださいよ。私だって手伝いますから」

「貴重な昼休みに後輩を巻き込むわけにはいかないでしょ。葵ちゃんとお昼食べるんじゃないの?」

「まあ、そうですけど……廊下歩いてたら先輩の姿が見えたので、つい来ちゃったんです」

「理央ちゃんは優しいね」

「っ! う、うるさい! 別に優しくなんてないですからっ! じゃあっ!」

 

 頬を赤く染め、理央は逃げるように去っていった。

 その背中を眺めつつ美咲はぽつり。

 

「……高梨って、本当に好かれてるんだね」

「今の会話……そう見えた?」

「あの子、ヤリチンって言うわりに楽しそうに話してたし……もしかして、あの子ともヤッた?」

「っ……してるわけないじゃん。後輩だよ?」

「高梨って、隠し事するの下手だよね」

「し、してないって!!」

 

 一瞬の間を美咲は見逃さない。

 目を細めて指摘され、弘世は慌てて否定する。

 ――実際はしているが、ここで認めるわけにはいかない。

 

「ふふ……高梨のこと、少しずつわかってきた気がする」

 

 理央とのやり取りを見て、美咲は彼の人となりを掴みはじめていた。

 最初の印象から大きくは変わらない。

 けれど、それ以上に――お人好しで、どこか優しい。

 そういう顔が、彼には確かにあった。

 

 

「――これでいいの?」

「あ、うん。ありがとう……でも、ここまで手伝ってもらわなくてもよかったのに」

 

 二人は、美化委員の作業で使う掃除用具をまとめるため、倉庫に来ていた。

 今日はチームごとに分かれて水飲み場を掃除する日で、それぞれのバケツに必要な道具を揃えているところだ。

 美咲は、わざわざ弘世の準備を手伝ってくれていた。

 

「ここまで来ちゃったら、何もしないってのも落ち着かないしね……でさ、昨日のことなんだけど…………『ホクロ除去』って話、本当なの?」

「うん。本当。早瀬さんは、誰にも言わないって信じられるから言うけど――俺、『美容』っていうスキルを持ってるんだ」

 

 最近なら、海莉の『誓約』でギフトの秘密を縛ることもできた。

 けれど、美咲の性格やこれまでの言動を考えれば、わざわざ広めるような真似はしないだろうと判断した。

 

「『美容』……って、もしかしてかなりすごいギフトなんじゃないの?」

 

 そのギフト名だけで、美咲は色々と考えを巡らせた。

 

「うん……その中にいくつかスキルがあって、そのひとつが『ホクロ除去』なんだ。覚えたのは最近で、まだ実際には使ったことがないけど」

「へえ…………あ、もしかして、それがあるから可愛い子ばっかり近くにいるの!?」

「まあ……そんな感じ」

「そっか……それなら納得。高梨ってパッとしないし、なんでだろうって思ってたけど……」

「普通にディスるね」

 

 美咲の頭の中で、今までの疑問が次々と繋がっていく。

 どうして美少女ばかり弘世の周りにいるのか。なぜ彼女たちは、弘世から近づいて行かなくても、わざわざ会いに教室まで来るのか――その理由が、見えてきた。

 

「でも……ギフトがあるだけじゃ、ああはならないよね……やっぱり高梨の性格がそうさせてるのかなぁ……」

「……本当にスキルを持ってるって、信じてもらえた?」

「辻褄は……合う」

 

 ここまで聞けば、美咲も信じないわけにはいかなかった。

 けれど、スキルの使い方まではまだ聞いていない。

 

「――それでね、ここからがすごく大事なことだから、ちゃんと聞いてほしい」

「う、うん……」

 

 美咲は思わず息を呑んだ。

 説明をするだけのはずなのに、弘世が真剣な顔をしている。

 

「『ホクロ除去』は、発動する時、その部位に直接触れなきゃいけない。時間は……前よりは短くなったけど、だいたい六分。それを数日おきに六回」

「じゃあ……スキル中は、私の太ももに触れるってこと?」

「うん……でも俺、まだ早瀬さんとは信頼関係ができてない。普通に考えれば、そんな相手に太ももを触らせるなんて無理でしょ?」

「…………」

 

 これまで施術を受けた人たちも、最初は同じように迷っていた。

 けれど、長年の悩みが改善できるなら――そのために触られるくらい、我慢できると答える人がほとんどだった。

 

「それと、もうひとつある」

「え、まだあるの?」

「うん……スキルを使ってる間、肌が敏感になって、体が熱くなるんだ」

「えっとー……はい?」

「敏感になって、熱くなるんだ」

 

 美咲は瞬きを繰り返す。弘世は真面目な顔のまま、一切笑わない。

 

「び、敏感になったら、どうなるの?」

「心して聞いて。今まで施術した人は、例外なく……変な声を出しちゃうんだ」

 

 その言葉で、美咲の中の点と点が完全につながる。

 

「も、もしかして……皆、高梨の手で……トロトロになっちゃうってこと!?」

「俺が言うのもあれだけど……そうなるね……」

 

 弘世もさすがに、まっすぐ彼女の目を見られなかった。

 美咲の頬が、うっすらと赤くなる。

 

 彼氏ができたことはない。けれど、美咲はまったく無関心というわけでもなかった。

 

「人の悩みを改善できる代わりに、そういうリスクがある。だから、もし施術を受けたいなら、そのことだけは理解しておいてほしい」

 

(……この反動のこと、黙っててもよかったはず。でも高梨はちゃんと伝えてくれた。私に誠実さを見せてくれたんだ……)

 

 あの美少女たちが、笑顔で弘世に接している理由もわかる。あれは作り笑いじゃない。本当に弘世を信頼し、惹かれているのだ。

 ギフトだけじゃない、人を惹きつける何かが、この人にはある。

 美咲は心の中で揺れていた。

 

「……しばらく考えてみて。同じクラスだし、いつ声かけてきてもいいから」

「わかった……」

 

 そう言って話を切り上げ、二人は倉庫を出ようとした――その時。

 

「ぁっ!」

 

 美咲の怪我をしていた足が、立てかけてあった箒に引っかかった。

 その拍子に他の掃除用具も一斉に彼女に迫る。

 

「早瀬さん危ない!」

「きゃあっ!?」

 

 土埃が舞い上がり、ゆっくりと晴れていく。

 そこには、美咲を覆うようにして、倒れてきた掃除用具から守る弘世の姿があった。

 

「――いった……」

「た、高梨! 大丈夫!?」

「なんとか……それより、早瀬さんは?」

「高梨のおかげでなんともないけど……」

「そっか……大会に出られなくなったら大変だし、怪我がなくて本当によかった」

「――――っ」

 

(……顔が近い。息遣いがわかるくらい近い。それに、私より肌きれい……これもギフトの効果? 髪もサラサラだし、ほのかに香るこの良い匂いだって……)

 

 弘世は美咲を起こし、土埃を払ってやる。

 それから心配そうにもう一度、怪我がないか確かめた。

 

「本当に大丈夫?」

「大丈夫」

「そう……」

 

 わずかに漂う、妙な空気。

 美咲は瞳を震わせながら、言葉を紡いだ。

 

「――ねえ、ホクロがなくなったら、水着……着られるのかな。温泉やプールも……それに、もし男の子と付き合ったら……恥ずかしくなくなった体も、見せられるのかな……」

 

 それは、自分に語りかけるような問い。

 でも、美咲が語りかけたのは弘世だった。

 

「……実は、似た悩みを持ってた人がいるんだ。好きな服も着られず、夏でも肌を隠して……水泳の授業は休んで、恋愛も諦めてた。でも――」

「でも?」

「施術を受けてからは、誰の目も気にせず好きな服を着て、性格も明るくなった」

 

 小春と霧乃のことだ。

 悩みが消えた途端、まるで世界が違って見えるように変わった。

 彼女たちは施術のお陰で全てがプラスの方へ大きく変わったのだ。

 

「うん。うん…………」

 

 美咲は優しい弘世の声音を聞きながら、気持ちを固めた。

 そして――

 

「――私、高梨の施術、受けるよ」

 

『ホクロ除去』の施術を受けることに決めたのだった。

 

 

 

 

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