美容スキルでクラスの女の子を可愛くしたい【4/1第1巻発売】 作:pelca
はじめての施術を終え、美咲が再び自分の足で動けるようになるまで、弘世と二人きりで部室に腰を落ち着けていた。
ふとした沈黙を破ったのは、弘世の持つ他のスキルについての話題だった。
「『肌質改善』『脂肪燃焼』『髪質改善』『脱毛』『育乳』……いやいや、これ、どれも女の子が夢に見るやつじゃんっ!」
驚きと興味がないまぜになった声色で、美咲は大げさなくらい目を見開く。
弘世はそれぞれのスキルの効果や条件を淡々と説明し、そのうえで「誰にも言わないでほしい」と、改めて念押しした。
そんなやり取りのあと、会話は意外な方向へ転がった。
「高梨ってさ……やっぱり仲良くしてる女子の誰かと付き合ってたりするの?」
「そうだね。林道ひびきって子」
一年の時も二年の時も、弘世のクラスでは誰もが知る公然の事実だったが、美咲の耳にはそんな情報が届いていなかったらしい。彼女の生活圏では、そういった噂話はほとんど飛び交わない。
「あ、あの子か……すごく可愛い子だよね」
「ひびきのこと、知ってた?」
「うん。可愛い子って、自然と視線が向くじゃん? それに男子テニス部の子たちが、誰が可愛いかとか盛り上がってるの、耳に入ったことあるから」
(ひびきを知っているなら、小春や霧乃の顔も、もしかすると覚えてるかもしれないな……。俺を呼びにクラスまで来たこともあるし、名前までは一致しないにしても)
弘世の周囲にいる女子は、何かのきっかけで彼のクラスに顔を出すことも多い。三年にもなれば、同学年の名前くらいはなんとなく覚えている生徒も少なくないだろう。
「それを踏まえて聞くけど……私とこうやって会ってること、彼女さんは知ってるの?」
「知ってるよ。ひびきは俺の行動を縛るのが嫌らしくて、人助けのためにギフトを使うことにも賛成してくれてる」
「……そっか。私だけじゃないもんね」
「スキルの性質上、女子と関わることは避けられないって、ずっと昔から理解してくれてる。……本来なら良くないことだけど、ひびきは反動のこともわかってくれてるし、何より……俺にはもったいないくらい素敵な彼女だよ」
「高梨にそこまで言わせるなんて……彼女さん、羨ましいな」
――その言葉は、思わず口をついて出た。
自分でも気づかぬうちに、美咲の胸には羨ましいという感情が芽生えていたのだ。弘世と会話を重ね、その人となりを少しずつ知っていくうちに、彼に対する印象が変わりはじめていた。
「……って、そういう意味じゃないからね!?」
「え、そういう意味って?」
「わ、わからないなら、それでいいっ!」
(……たまにこうやって鈍感なんだよなぁ。この抜け感も、好かれる理由のひとつなんだろうな)
そんなやり取りを経て、二人は部室を後にし、それぞれの帰路についた。
◇ ◇ ◇
夕方、自宅マンションへ戻った美咲は、少し落ち着きを取り戻したものの、施術の記憶は鮮明だった。
ふとよみがえるのは、やはり弘世の姿。
誰にも見せたことのないホクロ、男子の前では決して晒さない下着姿。しかも、彼には彼女がいる。それなのに密着……まではいかずとも、限りなく近い距離感。
挙句、反動に耐えきれず、彼の耳をかじったり舐めてしまった――あの瞬間。
「高梨……耳、ちゃんと洗ってくれたかな……」
夕食を済ませ、風呂に入り、ベッドに寝転がる。
口をついて出た独り言に、顔がじわりと熱くなる。
「私……もしかして、えっちだったのかな……。いや、反動だって言ってたし、他の人もそうなるって話だったし……」
帰宅して真っ先に確かめたのは、下着の中。
そこには、自分の体液がしっかりと染み込んでおり、否応なく感じていたことを突きつけられた。
頭に浮かぶのは、弘世の他のスキル。
どれも女性にとっては垂涎の的。その中には、テニスプレイヤーとしての自分にも役立つものがいくつかあった。
美咲は大学進学後もテニスを続けるつもりだ。
長い目で見ても、ホクロ除去だけでなく、他のスキルにも興味が尽きなかった。
「リリーに紹介したら……どう思うかな」
口にした名前は、深澤・リリー・春奈。
別の高校に通う英国ハーフのライバル。関東大会で幾度となく対戦し、惜敗を繰り返してきた相手。
ライバルでありながら、唯一プライベートでも親しくなれた親友とも言える大切な友人だ。
「あの子、ヘルニア持ちだし……最後の大会くらい、ちゃんと出られるといいんだけど」
これまでにも彼女はヘルニアで何度か大会を棄権してきた。
だからこそ、三年生最後の舞台では、全力で戦いたかった。
「……高梨に、相談してみようかな」
そう呟きながら、いつの間にか手は無意識に下半身へと――。
◇ ◇ ◇
二回目の施術の日がやってきた。
土曜日の午後、美咲は弘世を自宅に招いた。理由は単純――部活帰りの汗臭いまま会うのは嫌だったから。
シャワーを浴び、髪を整え、万全の状態で待ち構える。
マンションのエレベーターを降り、インターホンを押す弘世。
「高梨、わざわざ来てくれてありがと」
「ううん、大丈夫だよ」
これまでにも何度も似たような状況を経験してきた弘世は、まるで出張マッサージ師のような心境だった。
だが、玄関に現れた美咲の私服姿に、ほんの少しだけ息を呑む。
着ていたのは白のニットワンピース。大人びたシルエットで、体のラインをしっかりと拾うタイプ。しかも今日はポニーテールではなく、ミルクティー色の長い髪を緩く巻いたウェーブヘア。
(学校の時と全然雰囲気が違う……これ、男子が見たら絶対可愛すぎるって言うやつだ)
メイクや学校では身につけていなかったピアスも普段とはひと味違う。
おそらく彼女は、学校ではあくまでテニスに集中できる装いを選んでいるのだろう。
「安心して。両親は出かけてるから」
「うん、わかった」
「……あんまり緊張しないんだね、こういうの」
「あはは……変に聞こえるかもしれないけど、慣れてるから」
「それ、ヤリチン発言だよ」
「う……でも、事実だから……」
弘世の頭の片隅には、別の懸念があった。
二人きりの部屋。施術経験済み。相手のホームグラウンド。――タガが外れる条件がそろいすぎている。
(まあ……人って、獣になれば普段じゃ出せない力を出すしな。施術後は体力奪われるし、抵抗なんて無理だろうし……)
半ば諦めつつも、心の準備だけはしておく。
「まさか高梨が、うちに来るはじめての男子になるとは」
「おお……すごい。トロフィーや賞状がいっぱいだ」
部屋は整然としており、メイク道具などの女の子らしい一面もあれば、壁にはテニス関連の品々がずらり。プロテニス選手のポスター、ラケット、地区優勝や関東大会入賞の証が輝いている。
「全国レベルじゃないけど、これも頑張った証だからね」
「うん……すごいよ。俺、スポーツで活躍してる人って、本当に尊敬する」
葵はバスケ部でも、かなりうまい方だと言われているらしいが、実際に賞状などを見せてもらったことはない。そもそも団体競技と個人競技の違いというのもあるだろう。
自分が持ち得ないもので活躍する姿は輝いて見えるものだ。
少し雑談したあと、美咲が切り出す。
今日、弘世に話そうと決めていたことだった。
「——高梨、私……他のスキルも施してほしい。それと、親友のリリーって子、ヘルニア持ちで……もし良ければ、彼女にも声かけたい」
前者は予想していたが、後者は意外だった。
ただ、ヘルニアに関しては過去治した経験がある。人気アイドルグループ『SPICE MIX』のリーダー南雲美波のヘルニアだ。
「早瀬さんは、施術部位のことや反動については、ちゃんと理解してるってことでいいのかな?」
このことだけは、何度も確認しなければいけない。
それは、誰が相手でも変わらないことだ。
「……うん。私、今までテニス一筋で……男子から告白されても避けてきた。でも、高梨からスキルの話を聞いたら……もっと綺麗になれるのかなって思っちゃったんだ」
それは、男性とは違う女性としての本能なのかもしれない。
彼氏が欲しいとか、ほしくないとか、そんなことは関係ない。
ただ綺麗になりたい。綺麗でいたいという思いが、テニスばかりしていた美咲にもあったのだ。
「体に触れられるっていうそんなリスクを負ってでも、そうなりたい……?」
「恥ずかしいよ、もちろん。でも、私からすれば、もう恥ずかしいところは見せちゃってるわけで……その範囲が広がるだけだから……」
今の彼女は、強気な部活少女ではなく、確かに女の顔をしていた。
「じゃあさ、今から気持ち悪いこと言うけど、いい?」
「いいよ」
「俺、大好きな彼女も、大切な人もいる。……でも、それでも、可愛い女の子に対して欲情しないなんてことは無理なんだ」
「う、うん……」
「だからさ、早瀬さんのことを変な目で見たり、変なこと思ったりする気持ちは抑えきれない……」
「そう、だよね……高梨も男の子だもんね」
「そういう気持ち悪いことを心の中で思っている相手に、大切な体を任せても大丈夫?」
美咲の大きな目的はホクロを除去すること。
でも、それ以外は美容目的の自分を高めるためのもの。しなくても良い施術は、弘世だってしようとは思わない。
とはいえ、これまでの相手には、求められるものは全て提供してきた。
ただ、気軽な気持ちで自分に肌をさらして、本当に良いのかと問うたのだ。
「ふふ、高梨ってすごいね。誠実すぎてこわいくらい。だからこそ、高梨にお願いしたいって、そう思ったんだよ」
「……早瀬さんの意思が固いなら、俺はもう何も言わない」
「ありがとう」
「その、リリーさんのことについては、施術が終わってからまた聞かせてもらえる?」
「うん」
そうして話はまとまり、新たにしてほしい施術メニューの確認に入る。
「それで、どの施術をしてほしい?」
美咲は膝上に置いていた丸いクッションを抱きながら、スキル名を口にした。
「えっと……『肌質改善』『脂肪燃焼』『脱毛』『髪質改善』『姿勢改善』『体臭改善』『リンパマッサージ』……多い、かな?」
「意外と欲張りだね」
「だって全部魅力的なんだもんっ!」
「でも、『育乳』はいいんだ? ……あ、デリカシーなかったね。ごめん」
弘世が持っているスキルの中でいくつか口に出なかったものがあった。
その一つが『育乳』だった。
「私これでもEカップあるんだけど、正直これ以上なくてもいいかなって……」
「そっか……うん。必要ないね」
「……やっぱり、男の子はおっぱい好きなんだ」
「さ、さっきも言ったじゃん。俺も男だし、欲情しないなんて無理だって……」
「ふふ、だね」
そうして、ついに施術がはじまる――
その前に一つだけ聞きたいことがあった。
「ごめん。確認なんだけど……『肌質改善』は全身でいいの?」
弘世はそのままの意味で聞いた。
「高梨は、やりたい?」
「それはズルい質問というか……ちゃんと答えて」
「ごめんごめん。えっと……上は、お願いしたい、かな……」
それは、乳首、という意味だった。
「嫌なことは絶対しないから。嫌だと思ったら止めて」
「うん。でも大丈夫。高梨には、見てほしいって思ってるから――」
「どちらにせよ、『姿勢改善』では、全身やらなくちゃいけないんだけど……」
「うん……大丈夫だよ」
美咲はゆっくりと弘世の前で服を脱ぎ、下着姿になった。
白い肌に少しだけ日焼けした部位があり、なんとも欲情を掻き立てるスタイルだった。
テニスで鍛えられたしなやかなふくらはぎの筋肉やうっすらと見える腹筋は、どこか同じくスポーツをしている葵と似た部分があった。
そうして美咲はほんのりと頬を染めながらベッドへと向かうのだった――。