完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「ん……んぅ…………っ」
耳元で誰かの夢現な唸り声が聞こえる。
柔らかく、とてもじゃないが男とは思えない肌触りと匂い。
「――ぷはっ!? 息できねぇっ!?」
目覚めると俺はカナンの腕に抱き寄せられていて、密着していたからか息が出来なかった。無理やり引き剥がして大きく深呼吸。息を整えた。
「……んむ……あれ、シュウくん……おはよ……」
寝ぼけ目のカナンが俺の呼び名を間違って呼んでいる。
俺だとは気づかれていないはずだけど……体臭が同じだからだろうか。
……ヤベえ。
カナンの柔らかい肌に触れていたからか、健康的な男子が朝になってしまう現象が起きてしまった。
このまま気づかれてはマズい。先にシャワーを浴びて、朝の準備をはじめた方がいいだろう。
「おはようございます。俺、先にシャワー浴びてきますね」
「うん……わかった」
「――って、抱き寄せないでください!?」
承諾したはずなのに、カナンは背を向けた俺を引き寄せ、再び密着させられてしまう。
背中に彼女の柔らかなものが当たってしまい、さらに俺の下半身が膨張してしまう。
「シュウくんは抱き心地がいいなぁ……」
「そ、そんなことはいいのでっ……ふんっ! シャワー浴びてきますっ」
「あぁ……シュウくん…………」
再度、力づくで引き剥がし、俺はなんとかカナンから距離を取ることに成功した。
そうして一人でシャワー室へ向かう。
位置の調整にはかなり手間取ったが、それでもどうにかシャワーを浴びることができた。
身体を洗った後、身支度を進めていると、コンコンと控えめなノック音が響く。
少ししてからそっと扉を開けると、そこには子供用の服が箱ごと置かれていた。
中を確認すると、子供用の修道服まできちんと用意されていた。
他に選択肢もなく、俺はそれを身に着けることにした。
少し遅れてカナンも準備を終え、二人で食堂へ向かい、朝食を取る。
食堂に入った途端、かなりの視線を浴びた。
まるでアイドルにでもなったかのような気分で、特に女子生徒の注目が集まっているのを感じた。
「――礼拝、やり方はわかる?」
「えっと、はい」
校舎の隣に設けられた教会では、毎朝礼拝が行われている。
生徒数が多すぎるため、朝であれば各自好きな時間に礼拝をしてよい決まりだ。
膝をつき、両手を前に掲げるだけの作法で、特別難しいものではない。
それから俺はカナンと並んで教室へと向かった。
◇◇◇
「――おいおい、カナン。なんだその子供は。あの野郎の顔に似てやがるが」
最初に声を上げたのはガイツだった。
いつもならカナンの傍にいるはずの俺がいない。その違和感に気づいたのだろう。
「あはは……この子、シュウくんの従兄弟らしいんだ。シュウくんは用事があるみたいで、一ヶ月戻ってこないんだって。それで……なぜか代わりに来たのがこの子だったんだ」
普通に考えて、代わりに来るのが子供って意味不明だよな……。
「ああ? どういうことだよ」
「子供がこの教室で?」
「ちゃんとついていけるのか〜?」
ガイツの取り巻きであるダッドとモリスも、揃って怪訝な表情を浮かべる。
カナンは苦笑するばかりで、強く反論はできなかった。
そのまま教室の奥へ進むと、いくつか見知った顔が目に入った。
「ア、アリーシャさん……ですよね。ショウって言います。よろしくお願いします」
「…………」
どうやらアリーシャは、あまり男が得意ではないらしい。
それでも挨拶くらいはしておいた方がいいだろうと思ったのだが――
「かっ……」
「え……?」
様子がおかしい。
アリーシャは口をわなわなと震わせたかと思うと、バンッ! と机を叩き、そのまま勢いよく俺の方へと迫ってきた。
「可愛い! 可愛いわ、この子!!」
「うわあっ!? な、何するんだ!」
目を輝かせたアリーシャに軽々と持ち上げられ、俺はそのまま髪をぐちゃぐちゃにされ、頬をむにむにと弄ばれる。
どうやら相当な子供好きらしく、シュウとして出会った頃とはまるで別人の態度に、俺はただただ困惑するばかりだった。
そして、もう一人――。
「ぬわーっはっはっはっ!!」
普段は席からほとんど動かず、自分から近づいてくることのない人物が、こちらへ向かってきた。
大きな笑い声と共に、アリーシャと同じように俺を持ち上げる。
「ネメシアちゃん!?」
「我よりもちっこいぞ! わーはっはっは!」
「うわあああっ!?」
白銀の髪を揺らしながら俺を持ち上げ、ぶらぶらと揺さぶっているのは見た目が幼女のネメシアだった。
彼女もまた、遠慮なく俺の髪をくしゃくしゃにし、完全に玩具扱いである。
「もう……何するんだよ……」
だが、次の瞬間――俺は息を呑んだ。
ネメシアがすっと顔を寄せ、耳元で小さく囁いたのだ。
「――お主、シュウじゃろ? 我にはわかるぞ」
「っ!?」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべるネメシア。
すぐに俺から離れると、その後はずっと楽しそうに、ニヤニヤとこちらを眺め続けていた。
どうしてそんな結論に至ったのかはわからない。
だが、なぜか――ネメシアは本当に、俺だと見抜いているような気がした。
◇◇◇
「うおっ……うおおおおおおっ!?」
――ちょうど一ヶ月後。
フェルディの研究室を訪れていたその時、俺の小さな体は、ムクムクと音を立てるようにして元の大きさへと戻った。
「君がちゃんと元の体に戻ってくれて、本当に良かったよ」
安堵した表情を浮かべるフェルディ。
その顔を見て、ワンチャン、元に戻らない可能性もあったんじゃないかと勘ぐってしまったが、実際にこうして戻っている以上、今さら突っ込む気にもなれなかった。
実のところ、この一ヶ月間は、とんでもない出来事の連続だった。
ほぼ毎日のようにカナンと同じベッドで眠る羽目になったり。
子供好きだったアリーシャに無理やり連れ回され、挙句の果てには女子寮の大浴場にまで一緒に入ることになったり。
<完全解呪>で治療し、なんとか一人で発情期を我慢できるようになったミュウミュウに見つかり、襲われそうになったこともあった。
俺の衣服の洗濯を任せていたドロテイアとメディナには、色んな意味で散々弄ばれた。
セイラとエリナに至っては、ネメシアと同じく、なぜか俺がシュウだと見抜いてしまい、その弱みをいいことに好き放題。
子供の体では抵抗などできるはずもなく、結果として様々な連中に振り回されることになったのだ。
それでも――なんとか耐え切った。
こうして無事に元の体へ戻り、ようやく俺は、本来の生活へと帰ってくることができたのだった。
◇◇◇
そんな、とある日のことだった。
「………………」
昨夜から、カナンの様子が明らかにおかしかった。
授業が終わったあと、家族に会う予定があると言って出かけていき、寮の部屋に戻ってきてからは、ずっと一人で思い悩んだような顔をしていた。
そして翌朝になってもその状態は変わらず、心ここにあらずといった様子で、授業にもまるで集中できていない。
「――カナン、何かあったのか?」
「ひぁっ!?」
昼休み。
食堂でラーメンを注文したにもかかわらず、箸をつけないままぼんやりしていたカナンに声をかけると、思いきり驚かれてしまった。
「カナンくん、少し様子がおかしいです……朝からずっと心配していました」
発情期を終え、耳も尻尾も元に戻ったミュウミュウが、眉を寄せて言う。
「――その様子だと、縁談でも申し込まれたのかしら?」
「な、なんでそれを――!?」
「いえ……適当に言ってみただけだったんだけど……」
「ぁ…………」
最近は学校でも一緒に行動するようになったアリーシャの、半ば勘のような一言。
だが、カナンはそれに反応してしまった。どうやら、図星だったらしい。
「まさか本当に当たるとは思わなかったけれど……あなたの一存では避けられない話なのでしょうね。相手はそれなりの神殿騎士か、それとも貴族か……」
アリーシャが貴族と口にした瞬間、カナンの肩がびくりと跳ねた。
「……実は、そうなんだ。でもボクは、そういうのはちょっと……」
カナンは神殿騎士になるために、五年もの間この学校に通っている。
それなのに女性としての縁談が持ち上がるとなれば、その道を諦めることにもなりかねない。
「避けられないなら、一度は顔合わせをする必要があるわね。その時に、自分がいかに相手に合わない人間かを理解させる……そういう手もあるわ。政略結婚でないのなら、すでに想い人がいる、という話でも通るかもしれない」
「恋人…………」
さすがは王族だ。
アリーシャ自身も、これまで幾度となく縁談をかわしてきたのだろう。その助言は、確かに現実的だった。
◇◇◇
「ふぅ……カナンの家は美形揃いですもの。いずれこうなることは、本人もわかっていたとは思うけれど……」
「カナンくん、大丈夫でしょうか……」
昼食後、一人になりたいと言ったカナンを食堂に残し、俺たち三人は先に席を立った。
「カナンはどうするのかしら。ドレスを着て会うのか、それとも――」
「ちょ、ちょっと待て」
「ん、どうかしたの?」
俺は、アリーシャの言い回しに引っかかりを覚えた。
まるで――カナンの性別を知っているような口ぶりだったからだ。
「アリーシャ……お前、カナンのこと……その、わかってて言ってるのか?」
「ええ。五年も同じ教室で過ごしているのよ。わかるに決まっているじゃない。ミュウミュウだって最初から気付いていたわ」
「嘘だろ!?」
思わぬ事実に、思わず声が裏返る。
「わ、私は……その……鼻が利きますから。入学当初からわかっていました。でも、何か事情があるのだと思って、深くは聞かなかったんですけど……」
「マジかよ……」
「このクラスの女子は大体わかっているわ。でも、男子はバカだから理解している人はいないようだけれど」
「おい、俺のことバカって言ったか?」
「あら、気付いていなかったの?」
「……いや、最近になってようやく気付いたというか……」
多分、アリーシャは俺が真実を知ったからこそ、この話を切り出したのだろう。
でなければ、わざわざ暴露する理由がない。
実際のところ俺は幼児化してから知ったんだけどな……。
「見たところ、カナンには手を出していないようだけれど……この学校で、あの子の傍にいられるのは多分あなただけよ。ちゃんと話を聞いてあげなさい」
「手を出すって……お前な……」
「私に手を出したくせに、すぐにいなくなるんですもの――まあ、あなたの従兄弟とたくさん遊べたから許すけれど」
女風呂だけでなく、買い物や外出にも散々付き合わされた。
ショウと遊んでいた頃のずっと楽しそうだったアリーシャの笑顔が、今となっては懐かしい。
「――とにかく、カナンをちゃんと支えてあげなさい」
その日、授業が終わっても、カナンはなかなか部屋に戻ってこなかった。
俺は彼女を探すため、一人で外へと出るのだった。