※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

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第96話 カナン探し

「――カナン、お前に縁談が申し込まれた」

 

 そう告げられたのは、シュウが元の姿で寮へ戻ってきて間もない頃のことだった。

 寮の部屋に自分宛ての手紙が届き、指示通り王都にある家へ戻ったところで、父――ベルクハルト・アルトリアから、その一言を投げかけられたのだ。

 

「そんなの、いつもみたいに断ればいいじゃんっ」

「すまない。今回ばかりは、そうもいかなくてな……悪いがカナン、どうするかはお前に任せる。ただ、顔合わせだけでも頼みたい」

「…………お父さんなんて、大っ嫌い!!」

 

 久しぶりに帰った家だったが、話を聞き終えるや否や、カナンは足早に自室へと引きこもってしまった。

 

「今回ばかりは、あなたが悪いわ」

 

 怒りを露わにして去っていくカナンの背中を見送ったのは、母であるミレイユ・アルトリアだった。

 ウェーブのかかった長いアッシュグレーの髪を背に流す、年齢を感じさせないとびきりの美貌。四十代のはずだが、夫のベルクハルト同様、どう見ても二十代にしか見えない。

 

「ああ……それは、わかっている。だが、どうしようもなかったのだ」

「ほんとお父さんって、いっつもカナンを怒らせてばかりだよね〜」

 

 俯いたベルクハルトにそう声をかけたのは、ソファで紅茶を飲んでいたカナンの姉――カレン・アルトリアだった。今は別姓だが。

 

 母と同じアッシュグレーの髪を肩まで伸ばした、こちらもまた目を引く美人。

 カレンはカナンより少し年上の姉で、すでに結婚し家庭を持っている。今回の話を聞きつけ、わざわざ実家へ戻ってきていたのだ。

 

「しかも相手って、北方辺境伯のアクダ・イカーンでしょ? 趣味が最悪って噂のアイツ。ほんとに会わせて大丈夫なの?」

「あの場には王族もいた……話の流れで、断れなかったのだ」

「まあ、お父さんの立場もわかるけどさ……でもカナン、今は夢があるんだよ? 結婚なんてずっと先の話じゃない」

 

 セイラのような神殿騎士を目指し、日々努力していることは家族全員が知っているし、応援もしている。

 だが縁談が正式に進めば、教会学校は辞めさせられ、神殿騎士の道は断たれ、そのまま妻として迎え入れられる未来が待っているだろう。

 

「ともかく、決まった以上は仕方がない。なんとかして、顔合わせだけでもしてもらわねばならん」

「これ以上カナンに苦労かけたら、私だってお父さんのこと嫌いになっちゃうからね〜」

「ああ……」

 

 ベルクハルトは深く頭を抱えた。

 避けられない縁談だった。カナンのために何かしてやりたかったが、結局――彼には、どうすることもできなかったのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「しかも、なに? 一週間後だって!? 急すぎるよっ! ボクが、なんのために今まで教会学校に通ってきたと思ってるのさっ!」

 

 自室に籠もったカナンは、ベッドに置いてあったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、行き場のない怒りをぶつけていた。

 

「今、結婚なんて絶対にあり得ないのに……するとしても、もっとずっと先で……それに、どうせなら……好きな人と――」

 

 カナンは、ぼんやりと未来の光景を思い浮かべてしまう。

 そこには白い修道服を纏ったよく知っている少年が立ち、自分自身は白いウェディングドレスに身を包んでいた。

 

「っ…………ボク、なに考えてるんだろ。シュウくんとの結婚だなんて……今のボクじゃ、絶対にあり得るわけないのに……」

 

 深く息を吐き、力なくベッドに身を沈める。

 

「……はぁ、憂鬱だよ……」

 

 その翌日。

 カナンは終始心ここにあらずで、授業もまともに頭へ入らず――そして気づけば、寮から姿を消していた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「――カナン。どこ行っちまったんだよ……」

 

 なかなか寮に戻らないカナン。このままでは門限も過ぎてしまう。

 俺は一人で街に繰り出し、当てもなく彼女を探し回っていた。

 

 なんとなく、教会学校の敷地内にはいない気がしていた。

 とはいえ心当たりは少ない。その僅かな可能性を、一つずつ潰していくしかない。

 

「ここでもないか……」

 

 立ち寄ったのは、幼児化した時にカナンと一緒に来た洋食店だった。

 夕食時だし、もしかすると……と思ったが、どうやら外れらしい。

 

 いや、こんな状況で飯を食うわけもないか。

 昼だって、ほとんど口にしていなかったはずだ。

 

 …………まさか、な。

 

 洋食店を後にし、そのまま流れで、思いついたとある場所へ向かってみる。

 すると――

 

「……マジでいやがった」

「シュウ、くん……?」

 

 一人、微動だにせずショーウィンドウを見つめる姿。

 何をするでもなく、ただ立ち尽くし、その視線の先には真っ白なウェディングドレスが飾られていた。

 

「どうした。ドレスが気になるのか? カナンは可愛いからな。男だったとしても、俺は似合うと思うぞ」

「な、なに言ってるのさっ。ボクに似合うわけないよっ……だって、ボクは男の子なんだから…………」

 

 その表情は、あまりにも悲しそうだった。

 まだ縁談が始まったわけでもない。ただ断ればいいだけの話のはずなのに、カナンは深い悲壮感を漂わせて落ち込んでいる。

 

 正直、俺にはカナンが何を考えているのかよくわからない。

 人の気持ちを察するのは、昔から苦手だ。

 

 してほしいことがあるなら言ってくれ。

 望みがあるなら、わかるように示してくれ。

 そう思ってしまうが、女という生き物は、どうにも単純じゃない。前世から続く、俺の永遠の課題だ。

 

 ――だが、自分で口にした言葉なら、俺は貫ける。

 それがシュウとしてでも、ショウとしてでも、同じだ。

 

「――悩んでいるなら、俺に頼れ。俺はカナンのルームメイトで、大切に思ってる友達だ。その友達が悩んでるなら、俺は放っておけない」

「シュウ、くん…………」

 

 翌日が休みだったこともあり、俺たちは門限を過ぎても寮には戻らなかった。

 戻る手段はいくらでもあると言い訳しながら、俺はカナンを連れ回したのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「やっとシュウくんが、ボクのお買い物に付き合ってくれたと思ったのに……」

「また今度な。今はこれで我慢しろ」

「うん……」

 

 街で一緒に食事をし、俺が見たいと言った店をいくつか回った。

 結局、何も買ってはいない。

 

 それでも、カナンの表情は少しずつ柔らいでいった。

 

 歩き回ったせいか、カナンはすっかり疲れ切っていた。

 だから俺は、彼女を背負っておんぶしてやっていたのだ。

 

 今の状態でも、男装が完璧だと思っているのだろうか。

 俺はカナンが女だと知ってから、どうしても意識してしまう。

 

 今だってそうだ。胸は何かで押さえているようだが、すぐ横から漂ってくるのは、男にはない甘い香り――女の子特有の匂いだった。

 

「ボク、決めたよ。避けられないなら、真正面から縁談に出て、ちゃんと断る! それでいいんだからねっ」

「……そうか。それなら、よかった」

 

 やるべきことは見えた。

 カナンは俺と過ごした時間で、前向きに考えられるようになったらしい。

 

 固く閉ざされた校門の前に着くと、俺は<エアブースト>を発動した。

 驚きの声を上げるカナンを背に、俺は大きく跳躍し、寮の敷地内へと戻る。

 

 

 

 ――だが、カナンの縁談は、この先、思いもよらない方向へと転がっていく。

 

 すべては、最初から仕組まれていたことだった。

 

 

 

 

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