完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「メディナ、どういうことか教えてくれ」
カナンを抱えたまま、俺たちは貴族街を歩く。
しばらく黙っていたメディナが、ゆっくりと口を開いた。
「――暗殺、教団……私が育った……場所、です」
ゴブリンクイーンの洞窟で出会った少女。
成り行きで共に行動するようになったが、彼女の過去を深く聞いたことはなかった。
自分から話してくれるまで待とう――そう思っていたからだ。
暗殺教団。
その言葉で、ある記憶が蘇る。
王都へ向かう途中、アリーシャ達の馬車が野盗に襲われた時のことだ。
あの野盗が暗殺教団と名前を出した途端、メディナは震えていた。
「そうか……そうだったのか」
「あの二人は、暗殺教団の団長と副団長で……お頭って呼ばれていた人が団長で、スレイマンって人が副団長、です……」
「トップ二人が直々に来たってことか……とんでもねえな」
確かに強かった。
だが、まさか組織の頂点とは思わなかった。
暗殺教団の名を最初に聞いたのは、あの野盗たちからだ。
任務に失敗すれば始末される、使い捨ての駒。
名前の通り、人を殺すことに躊躇のない組織なのだろう。
「そこで育ったんだな」
「は、はい……元は孤児だったと思います。気づいた時には教団の中にいて、戦闘技術を叩き込まれて……ある任務の途中でブルドグに捕まって……それで、あの洞窟に……」
出会った当初のメディナはレベル八前後だったはずだ。
そこまで高くないことを考えれば、実戦経験はあっても大量に殺してきたわけではないのかもしれない。
「その暗殺教団ってのは、どんな組織なんだ?」
「わ、私も全部は知りません……基本は依頼を受けて、標的を殺す……それだけです。でも、今回みたいに、時々実験もしていて……」
「実験?」
イカーンに『秘蹟』をかけ、その方法まで教えた。
カナンそのものが目的だったようには思えない。
だとすれば――イカーンを使って何かを試していた?
「私には詳しいことは見せてくれなくて……」
「そういや、あの赤髪。魔眼を使ってたよ」
横からドロテイアが口を挟む。
「魔眼? 聞いたことがないな」
「魔族の中には、ごく稀にスキルのような特殊能力を宿した眼を持って生まれる者がいる。それが魔眼さ」
魔法にスキル、魔技。
それだけでも十分ややこしいのに、今度は魔眼か。
世の中、厄介な力が多すぎるだろ。
「――でも、人間が持っていたんだろ?」
「アタシもそこが不思議でね……。小娘の話を聞く限り、その実験とやらの成果じゃないかい?」
「……まさか、魔族から目玉を抜き取って移植したってのか?」
「移植で能力がそのまま残るかは知らないけどね。人間のやることは、本当に……」
ドロテイアは呆れたように息を吐いた。
もしそんな実験が可能なら、暗殺教団は他にも常軌を逸した研究をしているかもしれない。
だが今、気にすべきはメディナだ。
「あいつらに、トラウマがあるのか?」
「見つかったら……絶対に、殺される……っ」
「任務に失敗したからか?」
メディナは小さく頷いた。
幼い頃から刷り込まれてきた恐怖。
簡単に消えるものではないのだろう。
「そうか――でも今は俺達がいる。俺もドロテイアもあいつらに負けなかった。ドロテイアなんて圧倒してただろ。……なんだ、胸元でぎゅるってさせる魔法使ってたけど」
「ああ、<グラビティホール>さ。重力の渦を生み出す闇魔法。普通なら身体ごとねじ切れていてもおかしくなかったけど、あいつはギリギリ逃れたみたいだねぇ」
えげつない魔法だ。
闇魔法の幅は広いらしい。デバフ、転移、重力操作――なんでもありか。
「俺とドロテイアは目をつけられただろうが、安心しろ。メディナは俺達が守る」
涙目のメディナがこちらを見上げる。
隣ではドロテイアが「え、アタシも守るの……?」とでも言いたげな顔をしていた。守るんだよ。
「今はあいつらはいない。元気出せ」
「わ、わああっ」
ぐしゃぐしゃと髪を撫でてやると、メディナはかすかに笑った。
◇◇◇
俺達は貴族街を抜け、王都の中心街へと戻ってきた。
そして、誰もいないレストランへと再び足を踏み入れた。
メディナとドロテイアには先に寮へ帰ってもらった。
ここにいるのは、俺とカナンだけだ。
『秘蹟』にかかったまま家へ返すわけにはいかない。
どこかで解呪する必要がある。
「ふう……」
イカーンと食事をしていた席に、カナンをそっと座らせる。
ウェディングドレス姿のまま眠る彼女は、息を呑むほどの美少女だ。
ずっと性別を隠していたカナンだ。目を覚ましたら、俺が隣にいて驚くだろう。
俺は静かに手をかざす。
「……呪いじゃないが、相応の覚悟はいるか」
『睡眠』は簡単に解けるだろう。
だが――『秘蹟』の方は、少し厄介そうだ。
「悪いな、カナン――」
普段とは違う、女性らしいカナンの顔に近づく。
そして、彼女の頬に手を添え、紅を差した唇に向かって自分の唇を接触させた。
「……ん……んぅ……」
魔力が注ぎ込まれているのか、眠っているはずなのにカナンに少し反応が見えた。
眉を寄せ、小さく声を漏らす。
一方的に俺がカナンの口をこじ開けて舌を絡めているのだが、その気持ちよさが伝わっているらしい。
カナンの唇は本当に柔らかくて、それは女性としか思えなかった。
よく今まで俺はこんなに可愛い子を男だと思いこんでたな……。
「ん……ぁう……ちゅ……ん、ぅ……っ」
唾液と唾液が絡み合い、唇同士がくっついて離れないのではというほどに濃厚なキスを繰り返し続けた。
そうしてキスすること、約十分。
長めのキスだが、これでも呪いの解呪よりはずっと短く終わった。
「…………カナン。起きれるか? カナン……」
軽く肩を揺さぶり、カナンに声をかける。
しばらくして、カナンはゆっくりと瞼を持ち上げた。
「……ぁ……んん…………ふえ?」
寝起きというのは、もっとも状況を把握しづらい瞬間だ。
ぼんやりしていた瞳が徐々に焦点を結び、やがて真正面の俺を捉える。
「シュウ……くん?」
「ああ、俺だ」
「えっと……ボク、なんで…………」
そこでカナンは言葉を切り、視線を下へ落とした。
目に入ったのは、自分の身体を包む純白のウェディングドレス。
俺を見る。
ドレスを見る。
また俺を見る。
交互に視線を行き来させ、理解が追いついた瞬間――
「うgふぇじ39qfめおfjぎゃああああああああ〜〜〜!?」
言語として成立していない絶叫が、店内に響き渡った。