※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

114 / 115
閑話 ジョブのランクアップ

 この世にはジョブという概念が存在する。

 それは〈鑑定〉スキルを通して確認できる、その人固有の職業のようなものだ。もっとも、一般的な職業とは異なり、後から変更することも可能らしい。

 

 ジョブには『剣士』『魔法使い』『アサシン』『レンジャー』『タンク』『神官』などがあり、これらは主に冒険者の代表的な例として挙げられる。

 

 だが、聖職者だけは少し事情が異なる。

 聖職者のジョブには明確な成長段階が存在し、それは儀式によって昇格していくのだ。

 

 見習いから始まり、儀式を経て神殿騎士見習いは神殿騎士へ。修道士見習いやシスター見習いは修道士(シスター)へと昇格する。

 さらに修道士は、聖職者としては一般教徒からのスタートとなるが、そこから階級を上げることで、助祭である『ディーコン』、司祭である『プリースト』、そして司教である『ビショップ』へと変化していく。

 

 加えて、扱える光魔法の範囲も段階的に広がっていく。

 例えば修道士までは下級光魔法〈ヒール〉しか扱えないが、助祭や司祭へとクラスアップすれば中級光魔法〈グレイスヒール〉が使用可能となる。さらに司教以上になれば、上級光魔法〈セイントヒール〉にまで手が届くという。

 

 もちろん、何もせずに魔法が使えるようになるわけではない。

 繰り返し訓練を重ね、鍛錬を積んだ成果として、ようやく扱えるようになるのだ。

 

 そんな中、俺はこの世界に来た時点で、儀式もなしにいきなり『プリースト』というジョブを授かっていた。階級で言えば司祭にあたる。

 本来なら〈グレイスヒール〉を扱えてもおかしくない立場だが、俺は回復魔法の鍛錬を怠っていたため、使えるのは下級の〈ヒール〉までに留まっている。

 

 だが――レベルの影響なのか、魔力量だけは異様に多いらしい。

 そのおかげで、ただの〈ヒール〉であっても、上級魔法〈セイントヒール〉に匹敵する威力と効果範囲を発揮できているのだった。

 

 

 ――この日、俺は校外学習の一環として、特別クラスの面々と共に神殿を訪れていた。

 

 神殿は王都の外れに位置しているが、徒歩でも十分に辿り着ける距離にある。聖職者のジョブ成長の儀式をはじめ、異端審問や各種の神聖儀礼が執り行われる場所らしい。

 

「す、すげええ…………」

 

 幾本もの柱に支えられた巨大な建造物。

 まるでパルテノン神殿を思わせるその威容に、思わず声が漏れた。

 

「あなた、神殿に来るのは初めてだったわね」

「ああ……規模も桁違いだし、柱の数も尋常じゃない。ルミナパレス大聖堂とはまた違う迫力があるな」

 

 そう声をかけてきたのは、エインフィリア王国第三王女――アリーシャ・エインフィリアだ。金色のツインテールを揺らしながら、神殿について説明してくれる。

 

「この神殿は、王都と共に長い歴史を歩んできたの。何千年も昔から存在しているらしいわ」

 

 さすがにその年月を考えれば、何度も補修はされているのだろう。

 でなければ、こうして内部に入れる状態を保つことなど不可能なはずだ。見た限りでは、建物はしっかりと整備されているように見えた。

 

「皆、入るよ」

 

 担任のレーベン・オカルト先生に促され、俺たちは神殿の内部へと足を踏み入れる。

 

「カナンもミュウミュウも、ここに来たことはあるのか?」

「うん。毎年、最低でも一度は校外学習で来るからね。特別な用事がなくても、ボクたちは皆訪れたことがあるよ」

 

 そう答えるカナンは、今や誰が見ても美しい少女の姿をしていた。

 修道服も男物から女物へと変わり、シスター姿で頭にはウィンプルを被っている。口調は以前のままだが、その外見とのギャップが不思議と印象に残る。

 

「わ、私は……小さい頃から何度かお母さんに連れてきてもらっていて……もう、数え切れないくらい来ています」

 

 ミュウミュウの母親は現役のシスターとして活動しているらしい。

 彼女がシスターを志したのも、その母親の影響だという。

 

「へえ……じゃあ、ここに来たことがないのは俺だけか」

 

 王都で暮らす聖職者であれば、神殿と関わる機会は自然と多くなる。

 そう考えると、自分だけが初訪問というのも納得だった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ここが異端審問が行われる異端審問所だ。周囲を囲むのが傍聴席と関係者席。中央には異端審問官と異端者が立つ机があり――そして奥の上部に設けられている小さなスペースが、教皇様専用の席になる」

 

 レーベン先生は、初めて神殿を訪れた俺に配慮してか、丁寧に説明してくれた。

 教皇の席には天幕のような覆いがあり、足元しか見えない造りになっている。おそらくは、その姿を軽々しく晒さないための配慮なのだろう。

 

 そういえば、ブルドグはどうなったのだろうか。

 異端者として裁かれたのか――その情報はまだ俺のもとには届いていないが、いずれセイラから知らされるはずだ。

 

 次に案内されたのは、儀式場だった。

 左右には炎の灯った燭台が並び、中央には広々とした空間が広がっている。

 

 その手前には修道服を纏った聖職者たちが列をなし、一人ずつ前へ進み出ては、中央の机の前に立つ。そこでは、本を手にした聖職者が何やら儀式を執り行っていた。

 

「先生、あれは?」

「シュウくんも知っているとは思うが、あれが聖職者のジョブをランクアップさせる叙階式《じょかいしき》だ」

「ああ、あれが」

 

 どうやら、その叙階式がまさに今行われている最中らしい。

 耳を澄ませていると、本を手にした聖職者が厳かな声で告げた。

 

「……まだ司祭となるには研鑽が足りていないようです。出直してきなさい」

「そ、そんな……」

 

 呼ばれた聖職者の男は、肩を落としながら列へと戻っていった。

 

「ジョブのランクアップって、資格があるやつがなるんじゃないのか?」

「それは違う。すべては女神アルテミシア様の御意志によって決められる。修道士としてどれだけ人を救ってきたか――その積み重ねが認められた時に、ようやくランクアップできるのさ」

「へえ……」

 

 そう考えると、大司祭だったブルドグも、それなりに人を救ってきたということになる。

 もしかすると、最初は真っ当な人物だったのかもしれない。それが金や権力に囚われ、歪んでいったのだろうか。

 

「ちなみに、あの机の前に立っているのは『ビショップ』のジョブを持つ司教だ。この儀式場でランクアップできるのは、司教までということになる」

「じゃあ、大司教以上はどうなるんだ?」

「それはこの儀式とは別だ。教皇様や枢機卿、さらに教徒たちの承認を得て、投票によって決められる」

 

 確かに、一人の判断で上位の聖職者を量産されては、権力が偏りすぎてしまう。

 だからこそ、司教以上の昇格には厳格な手続きが必要なのだろう。

 

「ちなみに先生のジョブってなんなんだ?」

「ふふ、私かい? ――『ビショップ』だよ。つまり司教だ」

 

 大司教の一歩手前。

 レーベン先生は、思っていた以上に高位の聖職者だった。

 

「私は、この教職に就いているくらいがちょうどいいのさ。これ以上の権力を持てば、それに見合う責任も背負うことになる。それに、下の教徒たちの管理もしなければならなくなるからね」

 

 大勢の承認を経て就く大司教という立場には、逃れられない重責が伴うということか。

 俺もどちらかと言えば先生に近い考えだ。上に立てば立つほど、自分の自由が削られていく気がするからな。

 

「せっかくだ。シュウくんも儀式を受けてみるかい? 君は実に興味深い人物だからね。たとえランクアップの資格があったとしても、受けるかどうかは自分で選べる」

「せ、先生! シュウはまだここに来たばかりの見習いで……いえ、でも……あり得るのかしら?」

 

 アリーシャが思わず声を上げる。最初は否定しかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。俺の力の一端を見ている彼女には、完全に否定しきれなかったのだろう。

 

「シュウよ、受けてみるのじゃ」

 

 静かにそう告げたのはネメシアだった。

 ここへ来るまでほとんど口を開かなかった彼女が、珍しく自分から意見を口にする。座学以外はなぜか欠席が多いネメシアだが、今回はどういうわけか参加していた。

 

「ネメシアが言うなら……受けるだけ受けてみるか」

「では、シュウくん。あちらへ――」

 

 正直なところ、『プリースト』という最初から与えられていたジョブの先に、さらに上があるのか――それは少し気になっていた。

 

 俺は聖職者の列に並び、しばらく待つ。やがて順番が巡ってきて、司教の前へと進み出た。

 

「こんにちは。あなたは初めてお見かけしますね」

「ああ、初めてだからな。説明してもらえると助かる」

「承知しました。叙階式では、こちら――アルテミシア様の魔力が宿っているとされる本型の魔道具を用い、ジョブのランクアップが可能かどうかを判定します」

 

 アルテミシアの魔力が宿った本、か。

 女神像を通じて意思疎通ができる以上、魔力が現世に残っていても不思議ではないが、それにしても興味深い代物だ。

 

「この本の上に手を置いてください。その後、現在のジョブ、あるいは昇格可能であれば上位のジョブ名が浮かび上がります。たとえば『ディーコン』であれば、昇格可能な場合は『プリースト』と表示され、不可能な場合はそのまま『ディーコン』と示されます」

「なるほど……よくわかった。ありがとう」

 

 面白い仕組みだ。

 ――とはいえ、今の俺はすでに『プリースト』だ。この司教にそれが露見しても問題ないのか? 見た目はどう考えても教会学校の生徒だし……。

 だが、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。

 

「では、こちらに手を」

 

 促されるまま、俺は本の上に手を置いた。

 次の瞬間、掌が淡く光を放ち、数秒後にはその輝きが静かに収まっていった。

 

「手を離してください。すぐに文字が浮かび上がります」

 

 言われるまま手を離し、俺は文字が浮かび上がるのを待った――が、その瞬間、とんでもない事態が起きた。

 

「な、な……っ!?」

 

 司教が目を見開き、本と俺の顔を何度も見比べている。

 浮かび上がった文字は、現在の『プリースト』でもなければ、その上位である『ビショップ』でもなかった。

 

「ハイ……プリースト?」

 

 聞いたことのないジョブ名だった。

 

「ええと……これって、どういうことだ?」

「わ、私も初めて見る事例で困惑しています……! こ、これは一体……!」

 

 司教ほどの立場の人物が、額に汗を滲ませて明らかに動揺している。

 

「見たことのないジョブ名です。それに、あなたの現在のジョブは……」

「あー……悪いけど、このことは忘れてもらえると助かる」

「そ、それはできません! このような前例のない事象は、すべて報告する決まりなのです! 大司教様か、それとも枢機卿様……いえ、教皇様に――」

 

 司教はぶつぶつと呟きながら、完全に報告モードに入ってしまっていた。

 これはまずい。俺のジョブで騒ぎになるのは避けたいのに。

 

 どうにか説得しようとした、その時だった。

 

「おい、お前」

「ん……あなたは……」

 

 背後に現れたのはネメシアだった。

 小柄な体に修道服を纏った彼女が、司教に向かって遠慮なく声をかける。

 

「ちょっと来い」

「え、わ……ええっ!?」

 

 ネメシアは司教の袖を掴むと、そのまま奥へと引っ張っていく。

 そして耳元で何かを囁き、さらに手に持っていた何かを見せた瞬間――

 

 司教の顔色が一変した。

 滝のような汗を流し、明らかに態度が変わっている。

 

「シュウよ、戻るのじゃ」

「え、あ……いいのか?」

「あやつは我の知り合いだ。気にするでない」

「へえ……さすがはいいとこのお嬢様だな」

「お嬢様? ……まあよい。戻るのじゃ」

 

 ネメシアに軽く引かれ、俺は儀式場の中央から皆のいる場所へと戻る。

 

「ま、またのお越しをお待ちしておりますぅ〜……」

 

 振り返ると、司教がハンカチで汗を拭きながら、どこか引きつった笑顔を浮かべていた。

 ……ネメシア、何を見せたんだ?

 

「シュウくん、どうだった?」

「あー、ランクアップは無理だったみたいだ」

「そうなんだ! でもシュウくんなら、いずれどんなジョブにだってなれるよ!」

「さすがにそれは言い過ぎだろ」

 

 カナンは相変わらず俺を過大評価しすぎている。

 俺は先生と同じで、あまり権力に関わる立場にはなりたくない。せいぜい司教くらいで十分だ。

 

 それにしても――『ハイプリースト』か。

 まったく心当たりがない。

 

 そういえば、王都に来てからはまともに女神へ祈りを捧げていなかったな。

 学校での祈りはあくまで形式的なものだし、本気で祈らなければ通じないと聞いている。

 

 今度、ちゃんと教会に足を運んでみるか。

 信仰者の多い場所なら、女神とも長く会話できるらしいし――この王都なら、その機会もあるだろう。

 

 そんなことを考えながら、俺たちは神殿の見学を終え、王都へと戻っていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「なんじゃ、『ハイプリースト』じゃと?」

 

 神殿から王都へ戻る帰路。

 隊列の後方で一人、ぶつぶつと呟いている人物がいた。

 

 白銀の髪を靡かせる、幼女のような外見の少女――ネメシア・リュミリエールは、シュウの背中をじっと見つめながら思案に沈んでいた。

 

「これまでの歴史を辿っても、そのようなジョブは聞いたことがない……いや、存在せぬはずじゃ。となれば、アルテミシア様のお導きとしか言いようがないが……」

 

 腕を組み、さらに思考を巡らせる。

 

「だとしても、『ハイプリースト』とは一体どのような力を持つのじゃ? 枢機卿や教皇である我ですら、強力な光魔法は一通り扱える。もしそれ以上の魔法……あるいは、まったく別の力が備わるのだとしたら――」

 

 一拍置き、口元がにやりと歪む。

 

「……面白い。やはりイリスの言った通りの男のようじゃな。今日は課外学習についてきて正解じゃった。――なーはっはっは!!」

 

 突然の高笑いが、帰路に響いた。

 

「ネメシアちゃんがおかしくなった」

「たまにああいうとこあるよね」

「まあ、子供だしな……」

 

 クラスメイトたちは呆れたように、あるいは面白がるようにその様子を眺めている。

 

「なんじゃと貴様ら! 我が本気を出せば、貴様らなど木っ端微塵じゃぞ!」

 

 ネメシアは憤慨するが、その言葉を真に受ける者はいない。

 正体を隠している以上、教皇であるなど想像がつくはずもなかった。

 

「特にガイツ! 貴様じゃ! 笑うならこそこそせず、堂々と笑えい!」

「はぁっ!? 笑ってねえよ! 勝手に決めつけんな、このガキ!」

「なんじゃと!? ガキは貴様の方じゃろうが!」

「んなこと言っても誰も信じねーよ!!」

 

 言い合いはヒートアップしていくが、周囲はすっかり見慣れたものといった様子だ。

 

 ネメシアの正体を知る者は、この場には一人もいない。

 だからこそ彼女は、今日もまたただの生意気な子供として扱われるのだった。

 

 

 

 

 






【★宣伝★】

7月24日に書籍第2巻が発売します!!
ぜひともご購入お待ちしています!

Amazon
楽天ブックス
一二三書房公式サイト
以下サイトはえっちな特典付きです!
ゲーマーズ
メロンブックス
とらのあな


作者のXのフォローもお待ちしています!
藤白ぺるかのX
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。