※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

114 / 117
閑話 ジョブのランクアップ

 この世にはジョブという概念が存在する。

 それは〈鑑定〉スキルを通して確認できる、その人固有の職業のようなものだ。もっとも、一般的な職業とは異なり、後から変更することも可能らしい。

 

 ジョブには『剣士』『魔法使い』『アサシン』『レンジャー』『タンク』『神官』などがあり、これらは主に冒険者の代表的な例として挙げられる。

 

 だが、聖職者だけは少し事情が異なる。

 聖職者のジョブには明確な成長段階が存在し、それは儀式によって昇格していくのだ。

 

 見習いから始まり、儀式を経て神殿騎士見習いは神殿騎士へ。修道士見習いやシスター見習いは修道士(シスター)へと昇格する。

 さらに修道士は、聖職者としては一般教徒からのスタートとなるが、そこから階級を上げることで、助祭である『ディーコン』、司祭である『プリースト』、そして司教である『ビショップ』へと変化していく。

 

 加えて、扱える光魔法の範囲も段階的に広がっていく。

 例えば修道士までは下級光魔法〈ヒール〉しか扱えないが、助祭や司祭へとクラスアップすれば中級光魔法〈グレイスヒール〉が使用可能となる。さらに司教以上になれば、上級光魔法〈セイントヒール〉にまで手が届くという。

 

 もちろん、何もせずに魔法が使えるようになるわけではない。

 繰り返し訓練を重ね、鍛錬を積んだ成果として、ようやく扱えるようになるのだ。

 

 そんな中、俺はこの世界に来た時点で、儀式もなしにいきなり『プリースト』というジョブを授かっていた。階級で言えば司祭にあたる。

 本来なら〈グレイスヒール〉を扱えてもおかしくない立場だが、俺は回復魔法の鍛錬を怠っていたため、使えるのは下級の〈ヒール〉までに留まっている。

 

 だが――レベルの影響なのか、魔力量だけは異様に多いらしい。

 そのおかげで、ただの〈ヒール〉であっても、上級魔法〈セイントヒール〉に匹敵する威力と効果範囲を発揮できているのだった。

 

 

 ――この日、俺は校外学習の一環として、特別クラスの面々と共に神殿を訪れていた。

 

 神殿は王都の外れに位置しているが、徒歩でも十分に辿り着ける距離にある。聖職者のジョブ成長の儀式をはじめ、異端審問や各種の神聖儀礼が執り行われる場所らしい。

 

「す、すげええ…………」

 

 幾本もの柱に支えられた巨大な建造物。

 まるでパルテノン神殿を思わせるその威容に、思わず声が漏れた。

 

「あなた、神殿に来るのは初めてだったわね」

「ああ……規模も桁違いだし、柱の数も尋常じゃない。ルミナパレス大聖堂とはまた違う迫力があるな」

 

 そう声をかけてきたのは、エインフィリア王国第三王女――アリーシャ・エインフィリアだ。金色のツインテールを揺らしながら、神殿について説明してくれる。

 

「この神殿は、王都と共に長い歴史を歩んできたの。何千年も昔から存在しているらしいわ」

 

 さすがにその年月を考えれば、何度も補修はされているのだろう。

 でなければ、こうして内部に入れる状態を保つことなど不可能なはずだ。見た限りでは、建物はしっかりと整備されているように見えた。

 

「皆、入るよ」

 

 担任のレーベン・オカルト先生に促され、俺たちは神殿の内部へと足を踏み入れる。

 

「カナンもミュウミュウも、ここに来たことはあるのか?」

「うん。毎年、最低でも一度は校外学習で来るからね。特別な用事がなくても、ボクたちは皆訪れたことがあるよ」

 

 そう答えるカナンは、今や誰が見ても美しい少女の姿をしていた。

 修道服も男物から女物へと変わり、シスター姿で頭にはウィンプルを被っている。口調は以前のままだが、その外見とのギャップが不思議と印象に残る。

 

「わ、私は……小さい頃から何度かお母さんに連れてきてもらっていて……もう、数え切れないくらい来ています」

 

 ミュウミュウの母親は現役のシスターとして活動しているらしい。

 彼女がシスターを志したのも、その母親の影響だという。

 

「へえ……じゃあ、ここに来たことがないのは俺だけか」

 

 王都で暮らす聖職者であれば、神殿と関わる機会は自然と多くなる。

 そう考えると、自分だけが初訪問というのも納得だった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ここが異端審問が行われる異端審問所だ。周囲を囲むのが傍聴席と関係者席。中央には異端審問官と異端者が立つ机があり――そして奥の上部に設けられている小さなスペースが、教皇様専用の席になる」

 

 レーベン先生は、初めて神殿を訪れた俺に配慮してか、丁寧に説明してくれた。

 教皇の席には天幕のような覆いがあり、足元しか見えない造りになっている。おそらくは、その姿を軽々しく晒さないための配慮なのだろう。

 

 そういえば、ブルドグはどうなったのだろうか。

 異端者として裁かれたのか――その情報はまだ俺のもとには届いていないが、いずれセイラから知らされるはずだ。

 

 次に案内されたのは、儀式場だった。

 左右には炎の灯った燭台が並び、中央には広々とした空間が広がっている。

 

 その手前には修道服を纏った聖職者たちが列をなし、一人ずつ前へ進み出ては、中央の机の前に立つ。そこでは、本を手にした聖職者が何やら儀式を執り行っていた。

 

「先生、あれは?」

「シュウくんも知っているとは思うが、あれが聖職者のジョブをランクアップさせる叙階式《じょかいしき》だ」

「ああ、あれが」

 

 どうやら、その叙階式がまさに今行われている最中らしい。

 耳を澄ませていると、本を手にした聖職者が厳かな声で告げた。

 

「……まだ司祭となるには研鑽が足りていないようです。出直してきなさい」

「そ、そんな……」

 

 呼ばれた聖職者の男は、肩を落としながら列へと戻っていった。

 

「ジョブのランクアップって、資格があるやつがなるんじゃないのか?」

「それは違う。すべては女神アルテミシア様の御意志によって決められる。修道士としてどれだけ人を救ってきたか――その積み重ねが認められた時に、ようやくランクアップできるのさ」

「へえ……」

 

 そう考えると、大司祭だったブルドグも、それなりに人を救ってきたということになる。

 もしかすると、最初は真っ当な人物だったのかもしれない。それが金や権力に囚われ、歪んでいったのだろうか。

 

「ちなみに、あの机の前に立っているのは『ビショップ』のジョブを持つ司教だ。この儀式場でランクアップできるのは、司教までということになる」

「じゃあ、大司教以上はどうなるんだ?」

「それはこの儀式とは別だ。教皇様や枢機卿、さらに教徒たちの承認を得て、投票によって決められる」

 

 確かに、一人の判断で上位の聖職者を量産されては、権力が偏りすぎてしまう。

 だからこそ、司教以上の昇格には厳格な手続きが必要なのだろう。

 

「ちなみに先生のジョブってなんなんだ?」

「ふふ、私かい? ――『ビショップ』だよ。つまり司教だ」

 

 大司教の一歩手前。

 レーベン先生は、思っていた以上に高位の聖職者だった。

 

「私は、この教職に就いているくらいがちょうどいいのさ。これ以上の権力を持てば、それに見合う責任も背負うことになる。それに、下の教徒たちの管理もしなければならなくなるからね」

 

 大勢の承認を経て就く大司教という立場には、逃れられない重責が伴うということか。

 俺もどちらかと言えば先生に近い考えだ。上に立てば立つほど、自分の自由が削られていく気がするからな。

 

「せっかくだ。シュウくんも儀式を受けてみるかい? 君は実に興味深い人物だからね。たとえランクアップの資格があったとしても、受けるかどうかは自分で選べる」

「せ、先生! シュウはまだここに来たばかりの見習いで……いえ、でも……あり得るのかしら?」

 

 アリーシャが思わず声を上げる。最初は否定しかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。俺の力の一端を見ている彼女には、完全に否定しきれなかったのだろう。

 

「シュウよ、受けてみるのじゃ」

 

 静かにそう告げたのはネメシアだった。

 ここへ来るまでほとんど口を開かなかった彼女が、珍しく自分から意見を口にする。座学以外はなぜか欠席が多いネメシアだが、今回はどういうわけか参加していた。

 

「ネメシアが言うなら……受けるだけ受けてみるか」

「では、シュウくん。あちらへ――」

 

 正直なところ、『プリースト』という最初から与えられていたジョブの先に、さらに上があるのか――それは少し気になっていた。

 

 俺は聖職者の列に並び、しばらく待つ。やがて順番が巡ってきて、司教の前へと進み出た。

 

「こんにちは。あなたは初めてお見かけしますね」

「ああ、初めてだからな。説明してもらえると助かる」

「承知しました。叙階式では、こちら――アルテミシア様の魔力が宿っているとされる本型の魔道具を用い、ジョブのランクアップが可能かどうかを判定します」

 

 アルテミシアの魔力が宿った本、か。

 女神像を通じて意思疎通ができる以上、魔力が現世に残っていても不思議ではないが、それにしても興味深い代物だ。

 

「この本の上に手を置いてください。その後、現在のジョブ、あるいは昇格可能であれば上位のジョブ名が浮かび上がります。たとえば『ディーコン』であれば、昇格可能な場合は『プリースト』と表示され、不可能な場合はそのまま『ディーコン』と示されます」

「なるほど……よくわかった。ありがとう」

 

 面白い仕組みだ。

 ――とはいえ、今の俺はすでに『プリースト』だ。この司教にそれが露見しても問題ないのか? 見た目はどう考えても教会学校の生徒だし……。

 だが、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。

 

「では、こちらに手を」

 

 促されるまま、俺は本の上に手を置いた。

 次の瞬間、掌が淡く光を放ち、数秒後にはその輝きが静かに収まっていった。

 

「手を離してください。すぐに文字が浮かび上がります」

 

 言われるまま手を離し、俺は文字が浮かび上がるのを待った――が、その瞬間、とんでもない事態が起きた。

 

「な、な……っ!?」

 

 司教が目を見開き、本と俺の顔を何度も見比べている。

 浮かび上がった文字は、現在の『プリースト』でもなければ、その上位である『ビショップ』でもなかった。

 

「ハイ……プリースト?」

 

 聞いたことのないジョブ名だった。

 

「ええと……これって、どういうことだ?」

「わ、私も初めて見る事例で困惑しています……! こ、これは一体……!」

 

 司教ほどの立場の人物が、額に汗を滲ませて明らかに動揺している。

 

「見たことのないジョブ名です。それに、あなたの現在のジョブは……」

「あー……悪いけど、このことは忘れてもらえると助かる」

「そ、それはできません! このような前例のない事象は、すべて報告する決まりなのです! 大司教様か、それとも枢機卿様……いえ、教皇様に――」

 

 司教はぶつぶつと呟きながら、完全に報告モードに入ってしまっていた。

 これはまずい。俺のジョブで騒ぎになるのは避けたいのに。

 

 どうにか説得しようとした、その時だった。

 

「おい、お前」

「ん……あなたは……」

 

 背後に現れたのはネメシアだった。

 小柄な体に修道服を纏った彼女が、司教に向かって遠慮なく声をかける。

 

「ちょっと来い」

「え、わ……ええっ!?」

 

 ネメシアは司教の袖を掴むと、そのまま奥へと引っ張っていく。

 そして耳元で何かを囁き、さらに手に持っていた何かを見せた瞬間――

 

 司教の顔色が一変した。

 滝のような汗を流し、明らかに態度が変わっている。

 

「シュウよ、戻るのじゃ」

「え、あ……いいのか?」

「あやつは我の知り合いだ。気にするでない」

「へえ……さすがはいいとこのお嬢様だな」

「お嬢様? ……まあよい。戻るのじゃ」

 

 ネメシアに軽く引かれ、俺は儀式場の中央から皆のいる場所へと戻る。

 

「ま、またのお越しをお待ちしておりますぅ〜……」

 

 振り返ると、司教がハンカチで汗を拭きながら、どこか引きつった笑顔を浮かべていた。

 ……ネメシア、何を見せたんだ?

 

「シュウくん、どうだった?」

「あー、ランクアップは無理だったみたいだ」

「そうなんだ! でもシュウくんなら、いずれどんなジョブにだってなれるよ!」

「さすがにそれは言い過ぎだろ」

 

 カナンは相変わらず俺を過大評価しすぎている。

 俺は先生と同じで、あまり権力に関わる立場にはなりたくない。せいぜい司教くらいで十分だ。

 

 それにしても――『ハイプリースト』か。

 まったく心当たりがない。

 

 そういえば、王都に来てからはまともに女神へ祈りを捧げていなかったな。

 学校での祈りはあくまで形式的なものだし、本気で祈らなければ通じないと聞いている。

 

 今度、ちゃんと教会に足を運んでみるか。

 信仰者の多い場所なら、女神とも長く会話できるらしいし――この王都なら、その機会もあるだろう。

 

 そんなことを考えながら、俺たちは神殿の見学を終え、王都へと戻っていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「なんじゃ、『ハイプリースト』じゃと?」

 

 神殿から王都へ戻る帰路。

 隊列の後方で一人、ぶつぶつと呟いている人物がいた。

 

 白銀の髪を靡かせる、幼女のような外見の少女――ネメシア・リュミリエールは、シュウの背中をじっと見つめながら思案に沈んでいた。

 

「これまでの歴史を辿っても、そのようなジョブは聞いたことがない……いや、存在せぬはずじゃ。となれば、アルテミシア様のお導きとしか言いようがないが……」

 

 腕を組み、さらに思考を巡らせる。

 

「だとしても、『ハイプリースト』とは一体どのような力を持つのじゃ? 枢機卿や教皇である我ですら、強力な光魔法は一通り扱える。もしそれ以上の魔法……あるいは、まったく別の力が備わるのだとしたら――」

 

 一拍置き、口元がにやりと歪む。

 

「……面白い。やはりイリスの言った通りの男のようじゃな。今日は課外学習についてきて正解じゃった。――なーはっはっは!!」

 

 突然の高笑いが、帰路に響いた。

 

「ネメシアちゃんがおかしくなった」

「たまにああいうとこあるよね」

「まあ、子供だしな……」

 

 クラスメイトたちは呆れたように、あるいは面白がるようにその様子を眺めている。

 

「なんじゃと貴様ら! 我が本気を出せば、貴様らなど木っ端微塵じゃぞ!」

 

 ネメシアは憤慨するが、その言葉を真に受ける者はいない。

 正体を隠している以上、教皇であるなど想像がつくはずもなかった。

 

「特にガイツ! 貴様じゃ! 笑うならこそこそせず、堂々と笑えい!」

「はぁっ!? 笑ってねえよ! 勝手に決めつけんな、このガキ!」

「なんじゃと!? ガキは貴様の方じゃろうが!」

「んなこと言っても誰も信じねーよ!!」

 

 言い合いはヒートアップしていくが、周囲はすっかり見慣れたものといった様子だ。

 

 ネメシアの正体を知る者は、この場には一人もいない。

 だからこそ彼女は、今日もまたただの生意気な子供として扱われるのだった。

 

 

 

 

 






【★宣伝★】

7月24日に書籍第2巻が発売します!!
ぜひともご購入お待ちしています!

→Amazon
→楽天ブックス
→一二三書房公式サイト
以下サイトはえっちな特典付きです!
→ゲーマーズ
→メロンブックス
→とらのあな


作者のXのフォローもお待ちしています!
→藤白ぺるかのX
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。