完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
懺悔室という場所は、罪の告白をする場所だと、ほんの少し前に聞いたはずだった。
しかし、初っ端からわけのわからない罪を告白され、俺は困惑した。
「ち、乳首……ですか?」
「そうなのです! わたしの罪は、この長い乳首なのです!」
本当に何を言われているのかわからない。
俺はどう赦し、どうアドバイスすれば良いというのか。
いくら何でも難題すぎるだろう。聴罪司祭ってのは毎回こんな悩みに向き合っているのか?
でも、ひとまずここは詳しく話を聞いておこうか。
「そのことが、どう罪だと言うのですか?」
「…………他の女性は普通なのに、わたしだけが長いのです! それだけで罪ではありませんか!? こんなの、許されるわけがありません!」
「ええと……俺――じゃなくて、私は赦します。あなたの乳首を赦しますよ」
何を言ってるんだ俺は……。
「本当に許してくださいますか? であれば、司祭様がわたしの乳首を見ても、快く受け入れてくださるということですか?」
「はい。私は受け入れますよ。あなたがどんな乳首であったとしても……」
「で、ではっ! これを見てください!」
「はい?」
すると、壁の向こうで衣擦れする音が聞こえた。
いや、まさか――
「ぐぬっ……ぐぬぬぬぬ……この網め……っ!!」
「ちょ、何をしているのですか!」
「司祭様にわたしの乳首を見てもらおうと! だって、そうしたら、わたしの心が少しは晴れるかもしれないからっ……!」
恐らくだが、彼女は声だけを通す網に乳首を押し付けていた。
しかし網目が小さく、向こう側も見えないほどの細かさだったためか、彼女の乳首を通すことはなかった。
「や、やめてください! 直接見る行為は禁止のはずですよっ」
「い、いいえっ。顔さえ見えなければ…………あひんっ!?」
「どうかしましたか!?」
「ぐっ……き、気にしないでください……これは、この呪いによる副作用のようなものなのです……長いがゆえに、常人より敏感になってしまい……下着の素材すら選ぶのに苦労しているのです……っ」
そうか。彼女は他の女性よりも長い乳首を持ってしまったことで、常に布地に乳首が押し付けられ、開発されてしまっていたのだ。
だからこの網に乳首を押し付けるだけでも、感じてしまって――
「も、もうやめましょう! さすがに見ることは叶いません!」
「……そ、そうですね……失礼しました。こんなお優しい司祭様に出会ったのははじめてのことだったので……」
いや、他の司祭はどんな反応をしてたんだよ……。
向こう側で衣擦れする音が聞こえる。乳首を押し付けることをやめた彼女は服を整えたらしい。
それにしても呪いと言ったか?
長い乳首の呪いなんてものが存在するのか?
もしそれが状態異常や呪いであれば、俺が彼女を救ってあげることはできるはずだが……。
「――それで、最後にひとつ、お聞きしたいことが」
「どうぞ」
「わたしは、この呪いを解呪するため、旅をしているのです」
旅……か。学校に入れたということは、恐らく最低でも学校関係者のはずだが、旅をしているのなら冒険者か? 思えばエリナだって臨時講師をしていたな。
「目的は――解呪師を探して、この呪いを解呪してもらうこと。しかし、長く旅をしてきても、なかなか見つからず……」
呪い。それは術を行使した術師が解除するか、術師を殺すことで解呪されるというのが、俺が聞いてきた一般的な話だ。
だが、解呪師なる存在は初めて耳にした。聖女ですら呪いを解くことは困難らしいし、俺以外にもそんな存在がいるのだろうか。
「エインフィリア以外の国にも渡り、必死になって探してきたのですが見つからず、一度、初心に帰るべきだと思い、この地に戻ってきたのです」
へえ、他の国にも行ったことがある人なのか。
俺も他の国には興味がある。もっと話を聞きたいところだが、本題はそこではない。
「もし呪いだとして、術師を探し出すというのは無理なのですか?」
「はい……これは、とある魔物から受けたと思われる呪いで……倒したはずなのに、ずっと解呪されることはなく……」
セイラの呪いだって、術師は死んでいるはずなのに、血縁を辿ってその末代であるセイラで術が発動した。そういう類の呪いもあるのだから、彼女の話も真実なのかもしれない。
だったら、俺が彼女の呪いを――
そう決意し、俺が声に出そうとした瞬間だった。
『――いけませんよ。シュウ・ミレイスター』
なっ!?
突如として脳内に聞き覚えのある声が響き、喉が詰まったかのように声が出なかった。
てか、息が……でき、ねえ……っ!
「あの……司祭様?」
「ぐ……っ。だ、大丈夫です……ええと……すみません。解呪師に心当たりはありません。ですが、エインフィリアで活動していれば、何か新たな出会いがあるかもしれません。しばらく王都へ滞在することをお勧めします」
「司祭様! ありがとうございます! ここに来て良かった! しばらくは王都に滞在することにします! というか、滞在予定はあったので、ちょうど良かったとも言えます!」
「そ、そうですか……」
「はい! それでは、わたしはこれで!」
すると、椅子から立ち上がったらしい彼女が扉を開け、懺悔室を出ていった。
「…………」
俺はぐったりとしながら、椅子に背中を預けた。
「クソ……あの女神、何しやがる……」
あの声は、間違いなく女神アルテミシアだった。
明らかに俺の邪魔をしやがった。
というか、俺の体にあんなふうに干渉することまでできるのか?
とんでもねえ奴だ……。
「――お疲れ様です」
「おお、アンタ!」
すると、入れ替わるようにしてやってきたのは、俺に聴罪司祭を押し付けてきた司祭の女性だった。
「先程はごめんねぇ。本当にお腹が痛くて大変だったの。あなたがいてくれて、本当に良かったわぁ」
司祭の女性は、初めて俺と会話した時とは打って変わり、聖母を思わせるような柔らかな雰囲気を纏っていた。顔色も大変良くなっていた。無事に出せたらしい。
「ほんと、大変な目に遭ったよ」
「でも、良い経験になったのでは?」
「経験か……まあ、懺悔室って存在を知れたことについては良い経験になったけど。やってくる人の相手は大変だぞ、これ」
「それが聴罪司祭のお仕事。どんな罪の告白にも真摯に耳を傾け、赦してあげるのよ」
「でも、こんなことは二度とごめんだな。それだったら俺は、罪を告白する側のほうがよっぽどいい」
「告白する罪がないのなら、それが一番良いことよ」
「まあ、そうだな……」
罪って言っても、どこからどこまでが罪なのか、俺にだって判断しようがない。
先程やってきた女性も、恐らく罪とは言えないだろう。
でも本人が罪だと言うのなら、罪ってことにもなるのかもしれない。
司祭の女性と会話を交わしたあと、俺は懺悔室を出ようとする。
「ああ、お礼と言ってはなんだけど、こちらを」
「これは?」
「少し前から巷で流行っているお菓子よ」
「へえ……」
懐から取り出した何かを受け取ると、それは透明な袋に包装されたお菓子だった。
袋の中には十個ほど、クッキーのような菓子が入っている。しかも、その形は鹿のようだった。
もしかして、ケリュネイアをイメージしているのか?
だったら、もっと前から似たようなお菓子があってもよさそうだが……。
「でも、食べすぎは良くないと言われているみたい」
「なんでだ?」
「食べ過ぎると鼻血が出てしまうのだとか? 血行を良くする成分が入っているのかもしれないわね」
「ほう……ともかく、これサンキューな」
でも、状態異常にかからない俺には、あまり関係なさそうだ。
俺は彼女からお菓子の袋を受け取ると、今度こそ懺悔室を後にした。
と、一瞬だけ背後を振り返った。
すると網目に白い液体が付着していた。
…………母乳? まさかな。
◇◇◇
「――さてと」
次に向かったのは、校舎の隣に建てられている教会だ。
全ての生徒は毎朝ここでアルテミシア像に礼拝をしてから、朝食や授業へと向かっている。
今日の朝も、俺は他の生徒たちと同じように礼拝をしてから校舎へ向かった。
それでも今、寮へと帰らずに再びこの教会へと足を運んでいた。
毎朝しているが、ただ祈るだけでは、あいつとは繋がらないらしい。
けれど、ちゃんと話したいと願って祈れば、おそらく繋がるはずだ。
誰もいない静寂に包まれた教会の中を進み、アルテミシア像の前で俺は膝をついた。
そして、目を閉じ、両手を重ねて胸の前へ掲げると――
『――ふふ。お久しぶりですね、シュウ・ミレイスター。待っていましたよ』
目を開ける。
その瞬間、まるで時間そのものが停止したかのように、世界が白と黒だけに染まっていた。
目の前にあるアルテミシア像だけが、淡い光を放ちながら、静かに輝いていた。