完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「――ぐへへ。もっと腰を振りやがれっ!」
「お゙ぅっ!? お゙ぅっ!?♡」
扉の隙間から見えた光景。
それは私が知り得ない世界だった。
「オラっ! オラっ!!」
「らめぇっ♡ らめなのぉっ♡」
甘い香が焚かれた大部屋に集まった複数人の男女。そこでは全員が裸で一心不乱になって体を絡ませ合っていた。
腰とお尻を打ち付け合う破裂音といやらしい水音……ここは天国か地獄か。
男性は全員大人だが、女性は小さな子供から大人の女性まで様々。
そして、その女性たちに共通していることがあった。
——下腹部に刻まれた淫紋。
淫紋一つとってもすべて同じだとは限らないが、どんな効果があるのかハラマリア様から聞かされたことがあった。
その瞬間気づいたのは、女性たちは無理やり発情させられ、男たちの相手をさせられているということだった。
「——酷い……!」
ぎゅっと拳を握った私は扉を開けて今すぐにでも止めようと考えた。
しかしそんな時だった。体がビクッと震え、何かドス黒い空気に反応したのは。
それを感じたのは、私が今見ている扉の中ではなく、別の扉からだった。
私は移動し扉に近づき、そして、細い隙間から中を覗いた。
扉の中には二人の人物がいた。
「――サミュエル殿、貴殿のお陰でやっとここまで大きくすることができました」
「いいえ。私など簡単な助言をしたまで……ブルドグ様のお力ですよ」
ウンディル・ブルドグ大司教!?
なぜあなたがここに……!
ウンディル・ブルドグ大司教といえば、エインフィリア王国でも数えるほどしかいない大司教クラスの神官。
教皇様の次に四人の枢機卿がいてその次が大司教。
故に国でも大きな権力を持っている方のはず……。
私は彼らの話を耳を傾け続けた。
「はは、口がうまい。帝国での性売買の知識、それに貴殿が紹介してくれたドロテイア殿には頭があがりませんな」
「奴隷階級の者や身寄りのない者、借金を返せない者などを効率的に活用するには性産業が一番ですから」
帝国!?
あの暗いフードを被ったサミュエルという男は、まさかミレディア帝国のスパイ!?
ミレディア帝国は我がエインフィリア王国とは違う神を信仰している国……どの国よりも性産業に力を入れていて、帝国で信仰している神・エロイスは快楽の女神とも言われ、性に関して解放的だとは聞いたことはありますが……。
「――まっ、アタシは効率的に精を摂取させてくれる場があるなら、なんでもいいけどねぇ……」
するとそこに一人の妖艶な女性が登場した。
「おお、ドロテイア殿……貴女のお陰で商品は逃げ出すこともできませんから、こちらとしても助かっていますよ」
「楽な仕事だ——抵抗力の低い者は簡単にかかってしまうからねぇ」
「ドロテイア様の『淫染呪《いんせんじゅ》』は三段階。それを使い分けることで、商品を思いのままに操れる……実に素晴らしい」
――魔族……!
白髪に薄紫色の肌。そして頭には二つの角。
なぜ大司教は魔族と取引を……。
ドス黒い雰囲気の正体はあのドロテイアという魔族。
私はとんでもない現場に遭遇してしまったようです……。
そんな時だった。
ドロテイアが私のいる扉の方に向かって視線を送ってきて――
「——それで、なんでアタシらの他に人がいるんだい?」
「なにっ!? 誰だ!!」
気づかれた——!?
今すぐこの場から逃げないと。
魔族はとんでもなく強いと聞いたことがある。
でも今の私にはおそらく倒せる力はないだろう。だからこの場は——
「——<淫染呪>」
瞬間、扉越しに禍々しい魔力が、私の体を襲った。
「————っ」
しかしそれでも私は気にせず、この場から離れることに集中した。
「お前たち、追いなさいっ!!」
後方からはブルドグ大司教の声が響き、それに応じた複数人の部下がどこからか現れ、私を追ってきた。
盗賊のような身なりだったことから考えても、教会に所属する神殿騎士ではない。おそらくサミュエルという男が集めたのだろう。
私は逃げながら持てる限りの魔法を行使した。
しかし街中で攻撃魔法を放つわけにはいかない。
だから自らを防御する魔法と認識を阻害する魔法を使い、なんとか追手を振り切った。
「お馬さん、持ち主さん、ごめんなさいっ!」
切迫した状況に、誰のものかもわからない馬車を勝手に奪い、私は街から逃げた。
逃げて逃げて逃げて。
途中の村は通り過ぎ、いつの間にか一週間近くも経過していて……。
食べ物は馬車の中にあったものを拝借。
聖女候補にあるまじき行いだったが、今死ぬわけにはいかないと、私は食料を喉に通した。
そうして一心不乱に逃げていたからか、私の知らない土地に辿り着いてしまった。
「この森は……東の果ての魔郷《まごう》の森。書物の情報が正しければ、確か小さな村があると——」
魔郷の森はとても強力な魔物が複数生息していると言われている。
そのため、近寄る人はほとんどいないと聞いたことがある。
でも、戻れば追手に囲まれるかもしれない。
私は覚悟を決めて森に入ったはいいが……その時から体に不調がではじめて、そして——。
◇◇◇
イリスから事の全容を聞くことができた。
しかし俺が知らない言葉が多すぎて、とてもじゃないが、今の話だけでは理解できなかった。
てかなんだよ、魔族ってあれか? ラノベでよく出てくる絶対に敵っぽいやつ。
ブルドグ大司教ってやつもブルドッグみたいな名前しやがって……やっぱりブルドッグ顔なんだろうか。
それに——
「ババア、『淫染呪』は確か粘膜接触で伝染していくって話だよな?」
「<鑑定>ではそうだったはず……今のイリスの話を聞く限り、それだけの効果ではないらしい。まあ、イリスにかけたのが、一番危険な三段階目だとは思うが……」
それは俺も同意見だった。
イリスみたいな発情状態で客を取った場合。客も正気ではいられなくなる。
おそらくは逃さないために一番強力なものをかけたのだろうが、これでイリスが街の人と接触してしまった場合は、どうするつもりだったのだろうか。
でも相手は魔族。人間のことなどどうでも良かったという場合もありそうだ。
「一週間も耐えたのか? すげえな」
「私はまだ女神様の加護の力が弱いので、結局は呪いに負けてしまいました……ハラマリア様ならこんなことにはならなかったはずです」
「加護にも大小があるのか……知らんかった」
俺はジジイとババアを見た。
そっぽを向かれた。
こいつら、いつになっても教えてなかったことがあるらしい。
「あ、あの……! 突然のことで申し訳ないのですが……シュウ様を<鑑定>してもよろしいでしょうか?」
「ん、なんだお前も使えるのか。いいぞ」
人の情報を盗み見るようなチートスキルだ。
ババアにしか使えないと思っていたが、イリスも使えたのか。
「では、失礼して——<鑑定>」
イリスは俺に向かって<鑑定>を発動した。
そうして、俺の情報を確認したイリスだったが——
「ま、ま……まさか……そんな、そんなことって……っ!」
イリスは震える口元を抑えるようにして椅子から崩れ落ちた。
「お、おいっ、大丈夫かよ」
「え、ええ。大丈夫です。大丈夫なのですが……」
俺は手を差し伸べ、イリスを椅子に座らせた。
「ミゼット様……これは……」
イリスはババアに何かを訴えた。
それに対してババアは軽く頷いただけだったが……。
「——シュウ様。やはり私の見立ては間違っていませんでした。女神様の加護を持ち、どんな呪いをも解呪できるあなたは、いずれこの国の救世主となるでしょう」
話が大きくなってきた。
俺はそこまで望んじゃいないし、救世主にも興味がない。
「ですから、その英雄譚のはじまりとして、私と共にこの村を出て、大司教の許されざる犯罪から女性たちをお救いいただけませんか?」
――それは、イリスから告げられた、俺がこの村から出るきっかけの言葉だった。