完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「救世主とか英雄とかやめてくれ……」
「いいえ、シュウ様はそれだけのお力をお持ちです……! 聖女候補である私がそれを保証します。いずれハラマリア様にもわかっていただけるはずです……!」
イリスの目は真剣だった。
彼女は将来、聖女としてこの国を守るため、真剣なのだろう。
救世主や英雄になるつもりは毛頭ない。
そんなキラキラしたワード、俺には無縁だし、気持ち悪いしむず痒い。
ただ、人を救いたい――それだけは俺が前世から求めていることでもあった。
「イリス……お前は俺が大勢の人を救えると思っているんだな」
「もちろんですっ! 女神アルテミシア様に誓います!」
アルテミシアか……俺は村人しか知らないが、そいつらはいつも教会で祈りを捧げる時、女神アルテミシアの名前を口に出していた。
その神に誓うということは、本気中の本気ということになるわけだが……。
「正直、俺はいつかこの村を出て世界を見て周りたいと思っていた。だから、俺を連れ出してくれるというのなら…………そうしてほしい」
「シュウ様……!」
「だが……数日くれ。俺はこの村には世話になりすぎた。多分、心の整理がすぐにつけられないヤツだっている……俺だってそうだ」
「はい。もちろんです……ですが、おわかりの通り、今こうしている間にもブルドグ大司教の魔の手が女性たちに広がっています……」
「ああ、わかってる。でも、それでも待ってくれ……これは俺がこの村にケジメをつけなければいけないことだから」
救うべき相手がいる。
でも、俺を育ててくれたこの村に対してまだまだ恩を返せていない気がする。
プリーストとして村人の状態異常を治してはきたが、それは俺がたまたまスキルを持っていたというだけ。スキル以外のことで、もっとできることがあったはずだ。
だからこの村を出るその時まで、少しの時間がほしい。
「ジジイ、ババア…………いいか?」
今、勝手に決めてしまったが、二人の意見を聞いていなかった。
だから俺は二人に聞いた。
「お前はまだまだ修行が足りん……が、止めはせん。お前がいなくなったら、遊び相手がいなくなって寂しいのう……」
「いつかその時が来るとわかっていた。それが今だ。……別れる相手には、ちゃんとケジメをつけてきなさい」
ジジイは寂しげに、そしてババアは恐らくアミリアのことを言った。
でも、背中は押してくれるようだ。
「ああ、本当に世話になった――」
◇◇◇
猶予は一週間もらった。
翌日から、俺は各所へと挨拶に行き、そして、アミリアと会った。
アミリアに出ていく話をすると、どこかへ走って行ってしまい、そのあとしばらく姿を見せなかった。
それもそうだ。深い関係になってから二年だ。
俺だってアミリアと離れるのは寂しい。もしかするとアミリアは俺以上に……。
前世の六花との別れと同じくらい、今の俺は心が締め付けられていた。
「――イリス。連れていきたいところがある」
そう言って、俺は聖女候補であるイリスを森の奥地へと連れて行った。
そこは、癒やしの泉と呼ばれる神聖な場所だった。
「ま、まさか……っ! 聖獣ケリュネイア様……!?」
巨大な鹿を前にイリスは腰を抜かすほど驚いていた。
俺はケリュネイアと会ってからの二年間、アミリアと一緒に何度もコイツに会いに行った。
たまにブラッシングもさせてもらったので、今じゃ仲が良いと勝手に思っている。
『――また面白い者を連れてきたものよ』
「わわっ、私は、聖女候補のイリス・カーネリアと申します! まさか女神アルテミシア様の眷獣であるケリュネイア様がこちらにいらっしゃるなんて……」
あとで知ったことだが、このケリュネイアはアルテミシアという女神の眷属らしい。
この世界には四つの大国があり、それぞれが信仰する神とその眷獣である聖獣がいるのだとか。ケリュネイアもその一つらしい。ただ、ケリュネイアのように聖獣がどこにいるのか特定できていない国もあるそうだ。
『……シュウよ。出ていくのだろう?』
「よくわかったな。そうだ」
『いつだ』
「一週間後」
『そうか……なら出ていく前日、我にもう一度会いに来い』
「わかった」
ケリュネイアも俺がいなくなったら寂しいのだろうか。
『ふっ、寂しいはずがなかろう。我がどれだけ長く生きてきたと思う。たった数年の付き合いのお主にそんな感情を抱くわけがなかろう』
だから心読むなって。
でもそれ、ツンデレっぽい発言だぞ。
『――それとイリスよ』
「はいっ」
『この村を出るまで、毎日この泉に体を清めに来るのだ。加護の力が増すであろう』
「よろしいのですか!?」
『……せっかくだからな』
「あぁっ、ケリュネイア様……っ!」
癒やしの泉にはそんな効果があったのだろうか。
確かアミリアも定期的にこの泉で体を清めていると言ってたっけ。
それから俺は、村人の手伝いをしまくった。
農業の手伝いから魔物の解体。雑草を抜いたり、どぶさらいをしたり、もちろんいつもの治療も。
ジジイとの剣の稽古だって毎朝やった。
結局一度も勝てなかったが……まあ、それでいい。満足そうにしていたから。
ただ、アミリアだけは俺には会ってはくれなくて、時間だけが過ぎていった。
◇◇◇
『もう一週間か』
「ああ、その前日、だけどな」
俺は言われていた通り、一人でケリュネイアの下へとやってきていた。
「なあ、お前の用事の前に一つ聞きたいことがある」
『なんだ』
「女神の加護が俺についてるって話だが……これ、自由に取り外したりできないか?」
これは、俺の今後の戦闘スタイルに関する重大なことだった。
もしそれができるとすれば、やれることが増えるからだ。
『ふむ……女神様の加護を外そうとする不届き者がいるとはな』
「一時的にだよ。つけたり外したり。指輪みたいにな」
俺は右手中指に嵌めている反転の指輪をきらめかせた。
『できなくはない……が、条件がある。ここを出たら、できる限りその街の教会に顔を出し、女神様に祈りを捧げよ』
「ああ……それくらいでいいなら捧げるよ」
『ふむ……ならいい。加護を外すのは簡単だ。お主のその髪の毛を一本抜き取り、生贄にして念じるだけだ。加護を戻す時はまた同じようにせよ』
「……将来ハゲないか心配だけど……まあ、わかった」
一本で良かった……。複数本って言われたら本当に髪がなくなりそうだ。
『では、我からお主へ授けるものがある――』
俺の質問が終わったため、ケリュネイアの用事がはじまった。
すると反転の指輪をもらった時のように、一度癒やしの泉の中へ入り、そこから出てくるとふよふよと何かを浮かせて俺に渡した。
「十字架……?」
『シュウ……お主は聖職者だというのに、なぜか武器は剣のようだからな。これが役立つだろう』
手に収まったものは十字架……の、ような見た目のものだった。
俺が身につけているロザリオよりもだいぶ大きい。
しかしよく見れば、刃がない十字の剣の柄のようにも見えた。
『お主が身につけている反転の指輪。それには我の加護が宿っておる。その指輪に魔力を込めるように念じ、<聖製《せいせい》>と唱えよ』
俺は試しに十字の中でも柄の長い部分を手に取り、ケリュネイアの言う通りにしてみた。
「――<聖製>」
すると、突如十字架が輝き出し、一瞬のうちにビームサーベルのような青白い光が刃がなかった剣先から飛び出し、それが剣の形に変形した。
いつも使っているロングソードのようだが、どこか色合いが神秘的にも見える。
「うおっ!? なんだこれ!?」
『――『聖製剣』。刃こぼれもせず、柄さえあれば、半永久的に使えるお主専用の剣だ』
「マジかよ……これ、光魔法か?」
俺が使えるのは光魔法と風魔法だから聞いてみた。
『お主の魔力を使って具現化しているが、光魔法とはまた別だ。どの属性とも違う。――言うなれば聖属性とも言えよう』
いや、光も聖もほぼ一緒に思えますケド……違うの?
……まあ、気にすることでもないか。
『それともう一つ』
ケリュネイアはまだ用事があるようだった。
『本当の身に危険が迫った時、指輪に魔力を込め、<ルミナス・アル・サモンズ>と唱えよ。必ずやお主の力になろう』
どのような力になるのか、俺にはよくわからない。
でも、力を貸してくれるのなら、ピンチの時には使わせてもらおう。
「……わかった。サンキューな」
『元気でな』
「ああ、お前こそ……」
最後に軽く別れの挨拶を交わし、俺はケリュネイアと別れた。
癒やしの泉から離れ、一人で森の中を歩く。
一枚の紙切れに書かれた文字を見ながら歩き続ける。
しばらくして辿り着いた先にはポツリと木造の小屋があった。
木造と言ってもとても綺麗に整備された小屋で清潔感があった。
俺は小屋の扉を開けた。
すると中には一人の少女が立っていて――
「――シュウ、待ってたよ」
修道服を着た、いつものアミリアが優しい表情で俺を出迎えたのだった。