完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
――朝になり、俺たち三人は揃って村に戻った。
そうして昼までには支度をし、村を出ていく準備を整えた。
俺の見送りには、大勢の村人が集まってくれた。
六花しか友達がいなかった前世の俺では絶対に考えられない状況だ。
ジジイやババア、アミリアやノーラに小さな子供を抱えたマリー。
ハゲ散らかした村長の他、体の不調を治してやった多くの人や農作業を手伝ったことのある人、作った野菜をおっそわけしてくれた人……。
この村の人たちは皆温かいらしい。
「シュウ……本当に、行くんだ……なんだか、現実感がないや……」
昨日、あれほど話して、絡み合って、割り切ったはずなのに、アミリアは今にも泣きだしそうな顔をしている。
「シュウ……っ!!」
「アミリア……」
体が壊れるのではないかと思うほど、アミリアは俺を強く抱きしめた。
そして、揺れた瞳からは大量の涙が溢れていた。
「必ず戻って……戻って……私を迎えにきて……! 私、シュウ以外の人となんて、考えられないんだから……浮気でもなんでもしたらいいわ……でも、いつか、絶対……必ず……迎えにくることだけは、約束して……っ!」
ここに残ってほしいとは、最後まで言わなかったアミリア。
最後の最後で、なんて重いたい言葉を俺の脳に刻みつけやがるんだ……。
アミリアは俺がスキルを使うことで、女性との関係が増えてしまうと思っている。
でも、そんなことを言われたら、必ずここに戻って迎えに来るしかないじゃないか……。
「わかった……ちゃんと顔を出すから、たまに帰ってくるから。だから……あんま泣くんじゃねーぞ」
「シュウっ! シュウっ! シュウ……っ!!」
アミリアは俺の腕の中で泣きじゃくり、綺麗にした修道服がぐしゃぐしゃになってしまった。
そんなアミリアの様子は、妹のノーラですら邪魔できないようで、すぐ後ろで瞳を震わせていた。
「ノーラ……」
「シュウっ!!」
だから俺からノーラに声をかけて、三人で一緒になって抱き合った。
アミリアたちの抱擁を解いたあと、俺は向き直った。
「――シュウ、これを持っていきなさい」
するとババアから手渡されたのはフード付きの灰色のローブ。俺の髪色がライトグレーだとすれば、このローブはダークグレー。
ひらひらとしてはいるが触れると生地は硬めで、所々金や赤の装飾が入ったお洒落デザイン。トレンチコートのようにベルトで留められる仕様にもなっていた。
……それともう一つ、手紙を渡された。
「村長が錬金術で作ってくれた特殊な加工が施されたローブだ。……手紙にはとある二人の人物の名前と住所が書かれてある。何かあった時には頼ってみるといい」
「そうか、ありがとう」
ハゲ散らかした村長が後ろの方で笑顔を送ってくれていた。
えっとー、錬金術を使えるとか初耳なんですけど……。
結局、錬金術のことも聞けないまま、修道服の上からローブを羽織ってみると、俺にピッタリのサイズでとてもカッコよく見えた。
「ふっ。似合ってるじゃないかい」
ババアが満足そうにドヤ顔をした。
そうして俺は再度向き合う。
最後だから、ちゃんと言わなければいけない。なかなか言えなかった最後の言葉を――
「ジジイ……そしてババア。――五年間、俺を育ててくれてありがとう。二人に拾ってもらえて、本当によかった。それだけは、ちゃんと感謝してる」
「シュウ……」
「クソガキのくせに……!」
二人の目にはほんの少しだけ涙が浮かんでいた。
俺がこの村に来てからはじめて見る涙だった。
「――――っ」
俺は抑えきれない感情のまま、一歩前に踏み出し、オウジとミゼットに抱きついた。
「シュウ……シュウ……っ。元気で……元気でね……っ」
「簡単に死ぬんじゃあねえぞ……ワシが教えたこと、絶対に忘れるなよ……っ」
「あぁ……わかってる。わかってるよ……いつか落ち着いた時に、必ず戻ってくるから……」
この世界にきてから、本当の意味での無償の愛を知った気がした。
ジジイとババアには子供がいなかった。
子供ができたあと、早死したとかではないことは、俺も知っている。
俺は二人の子供ではない。
でも、ちゃんと二人の子供だったんだ。
この抱擁で、すべてがわかった気がした。
だから――
「――父さん、母さん……元気でな……!!」
二人のことをこの世界の親として、はじめてそう呼んだ。
「じゃあねーっ!!」
ノーラの大きな声が響いた。
隣には寄り添うようにしてアミリアが立っていた。
「じゃあな! 野郎共!!」
イリスが御者をしてくれている馬車に乗りながら、俺は手を振ってくれている村人たちに、手を振り返した。
遠ざかっていく村。森の中を進むと、どんどんその姿が遠くなっていき、ついには完全に見えなくなる。
数時間が経過すると、森から抜けることができ、そこには広大な草原が広がっていた。
俺がこの世界に来てからはじめて見る光景だった。
そんな時だった。
――ピカン、ゴロゴロゴロ……。
突如森の奥から大きな雷鳴が轟き、空を明るく照らした。
「ははっ、ケリュネイアのやつ……俺の門出を祝ってくれてるみたいだな」
そうして俺は、五年過ごしたイアシスの村から旅立って行くのだった——。
◇◇◇
「――やっぱり、心残りがありますよね」
どこか寂しげな表情をしていた俺を察してか、御者台に並ぶイリスが声をかけてくれた。
「そうだな……五年も暮らしたんだ。情が湧かないほうがおかしい」
「ふふ……そうですよね。そうだと思っていました。シュウ様は温かいお方です」
「何言ってんだか」
「だって――」
イリスがそっと手綱から片手を外し、その手で俺の目元の水滴を掬った。
「――こんなにも、涙を流しているんですもの」
俺は皆と別れるまで一滴も涙を流さなかった。
旅立ちは前向きだ。それに、俺は必ずこの村へ戻って来ると決めている。
なら、一生会えないわけじゃない。
だから泣く理由がないんだ。
そう、俺は薄情者で、ぶっきらぼうで、口が悪い。
自分の性格が良いと思ったことはないし、逆に悪いとも思っている。
だけど、それでもだ。
あいつらとの別れは、かなり心にキているらしい…………。
俺はこのあとしばらく涙を流し続け、それが枯れるまでイリスは静かにしていてくれた。
イアシスの村編――――完
第一章イアシスの村編はここで一区切りとさせていただきます。
ここまで見ていただいた方にお礼を申し上げます。
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次から第二章からは冒険都市ハレスへの旅路編となります。