※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

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第20話 異変

「やっと……着いた……!」

 

 村からの長い移動を終えて約三日。

 ついに俺たちは最初の目的地となる村へと到着した。

 

 イアシス以外の村に来るのはこれが初めてだ。

 どんな場所なんだろうと胸を高鳴らせつつ、イリスと共に村の中へ足を踏み入れる。そこに広がっていたのは、田園に囲まれた穏やかな風景だった。

 

 家々はすべて木造で、尖った屋根のものが多い。どこかヨーロッパの田舎町を思わせる、素朴で温かみのある佇まい。村の名は『ポワン』と言うらしい。

 

 規模はイアシスと比べると半分以下だろう。けれど、それでもここで暮らす人々がいて、きっとこの土地にしかない愛着を抱いているのだろう。

 

 三日ほどで到着できる距離にあるのだから、イアシスともっと交流があってもよさそうだが……やはり森の魔物の存在が行き来を妨げているのかもしれない。

 

 まず立ち寄ったのは宿屋だ。

 イリスによれば、どんな村や街にも宿屋はあるらしく、旅人や商人のために必ず用意されているとのこと。

 

「ん? 珍しい格好の子たちだね。一泊銀貨三枚だけど、どうする?」

「はい。ひとまず一泊でお願いします」

 

 応対してくれたのは、ふくよかで愛想の良い女将さんだった。イリスの聖衣も、この村の人は知らないのか、特別視されないようだ。

 

 この世界には通貨が存在する。

 銅貨一枚=十円、銀貨一枚=百円、金貨一枚=千円、大金貨=一万円、白金貨=百万円。ざっくりこんな換算だ。

 

 一泊銀貨三枚、つまり三百円ほど。

 ……安すぎないか? どうやらここは全体的に物価が低いらしい。

 

 俺もかつて教会で治療をしていたとき、子供なら銅貨一枚、大人でも銀貨数枚程度しか受け取らなかった。商人がほぼ来ない辺境のはずなのに、みんな案外貨幣を持っていたのは、今思えば不思議だ。

 

「部屋は一緒でいいかい?」

「はい!」

「え……」

 

 イリス、男と同じ部屋で本当にいいのか?

 まあ、本人が気にしないなら……。

 

 部屋に入るとベッドは二つ。心底ホッとした。

 

「荷物を置いたら、夕食を食べに行きましょう」

「ご飯っ!!」

 

 ついに来た……この瞬間!

 村の外で食べる飯、一体どんな味なんだろうか。

 

 宿を出て数分歩くと、小さな飯屋を見つけた。

 

「いらっしゃい」

 

 カウンター越しに現れたのは、ちょっと怖そうな無口なおっさん。

 好きな席に座るスタイルらしい。

 

 テーブルに置かれたメニューを開いて――

 

「……あんかけ焼きそばぁ!?」

「ど、どうしました?」

 

 イアシスでは食べたことのない料理が並んでいた。

 俺が育った村では、ババアが日本料理っぽいものを作ってくれてはいたが……麺類は一度もなかった。

 

「俺は決めた。イリスは?」

「私は……こちらのとんこつラーメンにします」

「なにぃっ!? とんこつだと!?」

 

 あんかけ焼きそばに夢中で、他の料理を見ていなかった。

 よく見るとメニューには麺料理がずらり。まるで町中華みたいな品揃えだ。店の雰囲気は中華要素ゼロなのに。

 

「おっさん! あんかけ焼きそばと、とんこつラーメン!」

「あいよ」

 

 厨房で調理が始まる。

 その間、店内の客の会話が耳に入った。

 

「どうする……グレンが……」

「今の私たちじゃあの個体に勝てない……」

「そのグレンがやられたんだから、どうしようもないじゃない……」

 

 聞きたくなくても耳に届く距離。

 横目に見れば、旅装束の男女三人組。村の住人ではなさそうだ。

 

「一度ハレスに戻るか?」

「でも、そんなことしてる間にグレンが……」

「戻るなんて無理よ。相手はゴブリンクイーン。今まで見たこともない個体だもの」

 

 ……ゴブリンクイーン?

 初耳の単語に眉をひそめた瞬間――

 

「ゴブリンクイーン!?」

 

 イリスが思わず声を張り上げ、三人がこちらを振り向く。

 

「おいイリス、勝手に……」

「シュウ様、これは一大事です!」

「何がだ」

「通常、ゴブリンの上位種はホブゴブリン、メイジ、ジェネラル、そして最上位のキング……。ゴブリンクイーン――名前からしてメス個体……こんなの前例がありません。異常事態です!」

 

 イリスの真剣な顔に、俺もただ事ではないと察する。

 魔物の進化や変異は、この世界に何らかの悪兆をもたらすのだろうか。

 

「お、お前たちは……」

「ああ、悪い。聞こえちまったんでな。こいつが驚いただけだ」

「――聖女、候補……?」

 

 銀髪を三つ編みにした美しい女性が目を見開く。

 その服装は修道服に似ているが、白と黒を織り交ぜた独自の意匠だった。

 

「シスター……?」

「違います。私は冒険者ですから神官です。そして――そちらの方、聖女候補ですね?」

「はい! 私は聖女候補、イリス・カーネリアです!」

「やはり……! なら、どうか私たちの話を!」

 

 流れるように会話が進む。

 イリスが頷いた以上、俺も黙って聞くしかない。

 

「私たちはBランク冒険者パーティー『銀の刃』。ゴブリンの巣を討伐する依頼を受けたのですが……リーダーのグレンが捕まり、残された私たちでは到底太刀打ちできず……」

 

 冒険者。噂には聞いていたが、実際に出会うのは初めてだ。

 

「その相手が――ゴブリンクイーン。数十のゴブリンを従え、私たちではどうにもならなかったのです」

 

 グレンという剣士が仲間を逃すため残った。その結果、この三人だけが助かったらしい。

 

「聖女候補なら、どうにかできませんか? 私は神官として、あなたのご活躍を耳にしています。八歳にして聖女候補に選ばれ、今まで研鑽を積んできたと」

「……はい。まだ未熟ですが、できる限りのことはしたいと思っております」

「ありがとうございます!」

 

 だが本当にどうするつもりなんだ?

 イリス一人でゴブリンクイーンと多数のゴブリンに挑むなんて無謀に思える。

 

「でも、実際どうやって――」

 

 と、大柄な男が疑問を口にした瞬間。

 

「安心してください! なぜなら――」

 

 ゴクリ、と唾を飲む俺たち。

 

「――ここにシュウ様がいるからですッ!!」

 

 ……って俺!?

 

「この男が……?」

「ここにおわすお方をどなたと心得る! 生まれながらに女神アルテミシア様の加護を受け、あの魔郷の森で育ったシュウ様であらせられるぞ!」

 

 どこかで聞き覚えのある口回しで俺を紹介したイリス。

 てか、言っていいのかそれ!?

 

 案の定、三人組は口をぽかんと開けている。

 

「いける……! いけるかもしれない!」

「アルテミシア様の加護持ち……しかも魔郷の森の出身ともなれば……」

「神は私たちを見捨てていなかった……!」

 

 ……信じるの早すぎだろ。

 

「では、シュウ様。共に仲間を助けに!」

 

 俺はプリーストで、人を癒すのが本分。

 けれど女神は「多くの人を助けよ」と言っていた。その意味は病や呪いだけではなく、こういう事態も含むのだろうか。

 

 イリスも、ハレスでの淫染呪の件を解決したいはずなのに、それを脇に置いて困っている人に手を差し伸べようとしている。……やっぱり、目の前の人を見捨てられない性格なんだな。

 

「……はぁ。しゃーねえな」

「シュウ様ぁっ!」

 

 こうして俺は、彼らの仲間を助けることを決めた。

 ――けれど、このゴブリンクイーンとの遭遇が、さらに闇深い事件への入口になるとは、まだ知る由もなかった。

 

 

 

 

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