完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「イリスっ!」
「は、はい!」
その場に広がる光景は、どう考えても異常だった。
人は似ることはある。血縁者であればなおさらだし、世の中には三人は似た人がいる――そんな俗説もある。だが、目の前の現実はそのどれとも違う。
そこに並んでいたのは、まるで鏡写しのように全員が同じ顔をした女性たちだった。
「――<鑑定>」
イリスが静かに詠唱し、瞳に光が宿る。
彼女が視た結果を待ちながら、俺たちはただ黙って息を詰めた。
「……呪いです。『醜化《しゅうか》』――これは術者が思う醜い顔に変える呪いのようです。それと『性病』『衰弱』も……」
「そんな……」
イリスの報告に、エリナの表情が曇る。
ここで生きることを強いられ、心も体も蹂躙され、さらに顔までも奪われる。これほど残酷な仕打ちが他にあるだろうか。
だが――治せる。俺ならできる。
ただし、それは今ではない。元凶を倒し、すべてを終わらせてからだ。
「イリス」
「はい……」
「ぶち殺しに行くぞ」
「はい……っ」
二度目の返事には、彼女自身の怒りが宿っていた。
俺たちは洞窟のさらに奥へと向かわなければならない。だがその前に――せめて彼女たちの体調だけでも整えてやりたかった。
「あとで必ず助けてやる。だから今は少しだけ待っとけ――<ヒール>」
「シュウ様のことを信じてください。私からも――<ピュリフィケーション>」
俺の回復魔法と、イリスの浄化魔法が重なり、女性たちの体を清めていく。
癒やしの光が彼女たちを包み込み、汚れた肌に柔らかな色が戻っていくのが見えた。
「……<ヒール>の威力が……傷の治りが速い。それに、<セイントヒール>でもないのに、複数人同時に……?」
感嘆の声を上げたのはエリナだった。
「シュウさん、あなたは一体……っ」
「エリナと言ったな……細かいことは気にすんな。必ず生きてここから出て……グレンってやつも助けるぞ」
「っ! はいっ!」
沈んでいたエリナの瞳に、再び光が宿る。
俺は彼女たちを残し、仲間とともにさらに奥へと歩を進めた。
◇◇◇
――ドスン、ドスン。
地響きのような音が近づいてくる。地震ではない。巨大な魔物の足音だ。
「ついに、この時がやってくるか……」
牢に囚われていたグレンは、力なく頭を垂れた。
最後に思い浮かぶのは仲間たちの顔。
リシア、ガロ、エリナ。
彼らは血よりも濃い絆で結ばれた存在だ。
五年前、十代の頃に出会ってから共に歩んだ冒険の日々。死線をいくつも越え、Bランクまで辿り着いた。だからこそ、彼らは家族同然だった。
バキバキと鉄格子が軋む音が響く。無理やりこじ開けられ、大木のような腕が伸びてきてグレンの体を掴んだ。
「…………クソっ」
もはや逃れられない。そう悟った。
鋭い牙を剥き、ねっとりと笑うゴブリンクイーン。
だがその背後には、小さな人影が立っていた。子供のような少女――怯えに震えているように見えた。
グレンは最後の力を振り絞って言葉を投げる。
「長生きしろよ……すれば良いこともあるかもしれない」
「――っ」
少女にその言葉が届いたのかはわからない。
ゴブリンクイーンは、グレンの履いていたズボンを脱がそうと、もう片方の手を伸ばし――
「グギャアッ!?」
絶叫。掴んでいた腕が、斬り飛ばされていた。
地面に落ちたグレンは、反射的に身を翻し、なんとか着地する。
「――<ヒール>」
「なっ!?」
眩い癒しの光が彼を包む。
さらにロングソードが宙を舞い、地面に突き刺さった。
「使え。俺を育てた愛剣だ。壊すなよ」
現れたのは黒い修道服を纏った少年。灰髪に鋭い眼差しを持つその姿は、牢獄の空気を一変させた。
◇◇◇
次々と湧き出すゴブリンを斬り伏せ、辿り着いたのは巨大なドーム状の最奥。
そこには他の魔物とは一線を画す存在がいた。
ただ――
「ゴ、ゴブリンクイーンだけではなく、他のゴブリンまで……っ」
その体躯と姿からホブゴブリンにゴブリンメイジが複数体。
そして小さなゴブリンとは比べものにならない巨躯。将軍とも呼ばれるジェネラルが四体、クイーンを守るように囲んでいた。
さらに、すべてのゴブリンの首には黒い首輪があった。
「グレンっ!」
「まだ生きてますっ」
ガロが反応し、エリナが目をきらめかせた。
「グレン……っ」
そしてリシアが瞳を震わせた。
「シュウ様っ!!」
迷っている暇はなかった。
クイーンの手がグレンを掴もうとしている。
「<エアブースト>」
風を纏い、瞬速で距離を詰める。
「<エアスラッシュ>」
ロングソードを抜き、風を纏わせて斬撃を放った。
グレンを掴んだクイーンの左腕を切断し、危機一髪のところを救った。
落ちたグレンの姿はボロボロ。
咄嗟に俺は<ヒール>をかけ、剣士だと聞いていたので大事なロングソードを投げ渡した。
「き、君は……」
クイーンの他に四体のジェネラル。そして他のゴブリン種も合わせると五十体以上。
分が悪い。普通ならそうだろう。
「傷は回復しただろ。お前も手伝え――ジェネラルをやれ。俺はコイツだ」
「君は神官では――」
「――<完全解呪・反転>」
その瞬間、クイーン以外の全てのゴブリンがジェネラル諸共動けなくなり、地面に倒れた。
「な、なんで――っ」
遠くから少女のような声が聞こえた。
フードを被った人間の少女だった。
「…………」
この空間におかしな存在だった。
しかし今は後回しだ。
「倒れたザコをやれ!!」
「任せて!」「わかった!」「わかりました!」
「お、お前たち……っ!」
グレンは、仲間たちが助けにきてくれたことを認識。
胸に熱いものが込み上げたかのように力が漲る。グレンはぎゅっと拳を握り、地面に突き刺さったロングソードを抜き取った。
「さて…………」
倒れたゴブリンの首を切り落とすだけの一方的な蹂躙がはじまった空間。
しかし、唯一<完全解呪・反転>を使わなかった相手がいた。
ゴブリンクイーンだ。
イリスやリシアたちはこのクイーンが相当に危険な個体だとしていた。
だから俺は、今後のためにも自分の実力を把握しておきたかった。
早く倒して、女性たちを助けにいく時間も惜しいが、これは俺のためでもある。
「グ、ギギギ……」
「はぁん……腕が生えてくるのか」
クイーンともなれば、腕がにょきにょきと再生するらしい。
村の森にはいなかった魔物の種類だ。
「君! 武器は大丈夫なのかっ!」
グレンの叫びに、俺は薄く笑って答える。
「――<聖製剣>」
十字の剣柄から青白い光が溢れ、一本の聖なる剣が形を成す。
クイーンの拳が振り下ろされる。だがその腕は、まるで豆腐のようにあっさりと斬り飛ばされた。
「私たちは、何を見ているの?」
「わかりません。これが女神様の加護の……」
リシアとエリナが息を呑む。
クイーンは血しぶきを上げながらも、なお突進してくる。
だが、左腕も同じように斬り飛ばした。
「……おい、本気か? 本気を出してんのか?」
俺の視線に、クイーンが怯んだように見えた。
「グ、ガガ……」
「そうか、そうか……」
背後の牢獄に横たわる亡骸たち。
グレンもあのように使い潰されて死ぬ運命を辿っていたのかもしれない。
そして、これまでにも、色々な人が――
「つまらない戦いだったな」
俺は『聖製剣』を鞘に収めた。
「じゃあな――<完全解呪・反転>」
何もできなかったゴブリンクイーンが、ドスンと大きな音を立てて、地面に倒れた。
「マジかよ……」
「夢か現実か……」
グレンとガロが呆然と呟く。
クイーンはまだ息をしていた。だが、体は動かせず、口からは泡を吹いていた。
まもなくして、ケリュネイアに傷を負わせた巨大な狼の<猛毒>によってゴブリンクイーンは息絶えていった――。