完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「――グレンっ!!」
すべてのゴブリンを討伐し終えた直後だった。
まるで張り詰めていた糸がぷつりと切れるように、魔法使いのリシアが、勢いよくグレンの胸に飛び込んだ。
戦いが終わったことへの安堵――それだけではない。
彼女の大粒の涙が、グレンの胸元を濡らしていくのが見えた。どれほど心配していたのか、どれほど恐怖と不安の中にいたのか、その涙が雄弁に語っていた。
彼女の肩は小刻みに震えている。泣き笑いを浮かべながら、必死に「無事でよかった」と繰り返す姿は、恋人同士の再会そのものに思えた。
この距離感……もしかすると、この二人は本当にそういう関係なのだろうか、と俺は一瞬だけ考える。
「イリス、大丈夫だったか?」
「はい。防御魔法と攻撃魔法の詠唱準備だけはしていましたが……結局、その必要すらありませんでしたね」
「そうだな。……正直、拍子抜けだ」
「さすがはシュウ様……! 私、濡れてしまいました……!」
「…………ん?」
「涙で濡れてしまいました……!」
「そ、そうか……」
一瞬、俺の脳内で別の意味に変換されてしまったのは完全に事故だ。
が、冷静になって彼女の顔を見れば、涙など一滴も流してはいない。……いや、これは俺の考えすぎだろう。
「グレン……」
「グレン!」
そこへガロとエリナも駆け寄り、彼の無事を喜んだ。
四人の間に流れる信頼と絆は本物だ。血を分けた家族以上に、命を預け合う仲間の関係――それが目に見える形でそこにあった。
「ありがとう……君にはいくら感謝してもしきれないよ」
「ああ、どういたしまして」
グレンは深く頭を下げ、俺に礼を言った。その表情は安堵と感謝に満ちていた。
しばらく無事を喜びあった後、グレンは俺のもとに歩み寄り、ロングソードを差し出してきた。
「剣もありがとう。……俺の本来の武器はどこかにあるはずだから、それを探したい」
「ああ、好きにしてくれ」
「ただ――」
彼が口を閉ざし、視線を動かした先に、一人の少女がいた。
戦闘開始から一度も動くことなく、ずっと同じ場所に立ち尽くしていた少女。攻撃も防御もせず、ただただ俯いていた存在だ。
俺は黙って、その少女に歩み寄った。
「ひっ……」
近づいた瞬間、少女は恐怖に引きつった声を漏らし、反射的に後ずさる。だが足元の石に躓き、そのまま尻餅をついてしまった。
震える体。握りしめられた両手。
俺はフードを外そうとしたが、その必要はなかった。
「お前も……か…………」
見えた顔は、囚われていた女性たちと同じ――豚のように歪んだ顔だった。
「ごべんなざいごべんなざいごべんなざいごべんなざいっ!!」
少女は泣き叫びながら、両手で必死に顔を覆った。
その拍子に、ころりと黒い球体が彼女の手から転がり落ちる。
「これは……」
イリスがすかさず拾い上げ、<鑑定>を施す。
彼女の表情がわずかに硬くなった。
「これで、ゴブリンたちを操っていたようです……魔道具ですね」
「魔道具?」
「はい。魔道具の中でも、かなり特殊なものに分類されるでしょう」
魔道具――村にあった火魔法コンロを思い出す。現代日本でいうなら電気やガスに相当するものだ。
だがゴブリンの群れを操る魔道具など普通ではない。
しかし、疑問は残る。
なぜ、こんな物をフードの少女がこれを持ち、使っていたのか。
「リシアたちから少し話を聞いた。そこから察すると――」
「――この少女も誰かに呪いをかけられ、脅された結果、このようなことをさせられていた……」
グレンの推測に、イリスが続ける。
俺も同じ結論に至っていた。
怯えきった少女の様子からして、彼女が自ら望んでこの行為を行ったとは到底思えない。裏に必ず黒幕がいるはずだ。
「――治療しよう」
そう言って、俺たちは少女を伴い、囚われていた女性たちのもとへ戻ることにした。
「待ってくれ」
「ん?」
グレンが声を上げ、俺を呼び止める。
「最低でもクイーンの魔石を回収しておこう。ハレスに戻った時、ギルドマスターに提出し、調べてもらう必要がある」
「……俺にはよくわからんが、そうしたいならそうしてくれ」
「感謝する」
魔石の回収は彼らに任せ、俺とイリスは先にフードの少女を連れて牢へ戻ることにした。
◇◇◇
「ゴブリン共は全て倒した。――今、出してやる」
俺は<エアスラッシュ>で鉄格子を切り裂き、牢を破壊する。
恐怖に震えていた女性たちの瞳が、わずかに光を取り戻す。
<ヒール>をかけてくれた人だと覚えてくれていたらしい。
鎖を外していくと、緊張が解け、嗚咽と喜びの声が漏れはじめた。
だが――
「あ、あなたは……っ」
女性たちの視線が、フードの少女に集中した。
敵意と憎悪に満ちた目。
「私たちを襲うようゴブリンに命令した子……許せない……!」
「どれだけ酷いことをされたか……忘れられるわけが……」
怒りと悲しみが噴出する。
だがイリスが一歩前に出て、強い声で制した。
「静まりなさい!!」
その場の空気が一瞬で変わる。
「私は聖女候補のイリス・カーネリアです!」
「せ、聖女候補……?」
「そんなお方が……」
その名乗りだけで、女性たちの敵意は揺らいだ。
さすがは聖女候補様だ。
「フードの子も、おそらく誰かに命令され、仕方なく……。顔を見ればわかるでしょう。あなたたちを変えた張本人は別にいます。恨むならその者を――」
イリスの声は真っ直ぐで、力強い。
十八歳の少女がここまで凛々しく振る舞えるのかと、俺は改めて感心する。
そして彼女は続けた。
「今私たちがここに来た理由……それは、その呪いを解くためです!」
牢の中がざわめいた。
「シュウ様は、私以上に女神様に愛された存在。頭のてっぺんからつま先に至るまで、女神様の加護によって守られているお方……そのシュウ様の奇跡で、必ずや呪いを解呪してみせましょう!」
……なんだその妙な紹介。だが嘘ではない。
女性たちの目に希望が宿りはじめるが、まだ疑いの域を出ない。
「そんなことが本当に……?」
「治るなら……治してほしいけど……」
願いが口をついて出る。
俺は真剣な面持ちで告げた。
「全員治す。もしできなければ、俺を煮るなり焼くなり好きにしろ」
覚悟を示す。
女性たちは互いに見つめ合い、やがて頷いた。
承諾がとれたところで、話を先に進ませる。
「覚悟は決まったようだな……だが、ここからは少し説明がある」
一歩前に出て<完全解呪>のリスクについて説明することにした。
はじめての相手には、緊急時を除いてちゃんと説明しなければいけない。
「俺は呪いや状態異常を完全に回復できるスキルを持っている。ただ、それにはリスクが伴う。そのリスクとは――ちょっとえっちなことをしなければいけないことだ」
俺は真面目な顔で話した。
すると時間が止まったかのように、女性たちは固まり、少しすると一人の女性が質問をくれた。
「あ、あなたも私たちにゴブリンと同じようなことをするということですか?」
「いや、違う……具体的に言うとだな……さっき確認したんだが、『秘部以外の下半身を揉む』ってのが、スキルに指示された内容だった……」
「シュウ様の仰っていることは本当です。私の<鑑定>スキルで確認済みです。シュウ様のスキルは人や呪いの程度によって、治療方法が異なるのです……それに、少し気持ちよくなってしまいます」
イリスの時は、今回の比ではないくらいの内容だった。
それに少し気持ちよくと言ったが、イリスの時は少しどころではなかった。
この説明、本当に大丈夫だろうか。
「気持ちよく……?」
「ゴブリンは痛かった……ただ、痛いだけ……発情させられて気持ちよくなるだなんて迷信もあったけれど、そんなことはなかった……」
「やられるなら人間がいい」
「気持ちよくしてくれるなら、その方が……」
「いやいやっ! これ、治療だからね? 呪いも、性病も、ちゃんと治る治療だよ!?」
なんだか話が変な方向にいっている気がしたので、しっかりとこれは治療だと釘を刺しておいた。
でも、受け入れてくれることになり、ひとまずは安心だ。
彼女たちの了承がとれたところで、治療の時間がやってくる。
「じゃあ、右の君から……いいか?」
「お、お願いします……」
俺は一番右に座っていた女性に歩み寄った。
顔は呪いによって豚のように歪んでいる。けれど、体つきは整っていて、女性らしい柔らかな曲線を残していた。
「――<完全解呪《パーフェクトクリア》>」
白く淡い光が両手から浮かび、女性の体へと染み込んでいく。
俺は足のつま先に触れ、治療を開始した。
「んっ……――魔力が、私の中に……でも、優しい……温かい力を感じる……」
最初は戸惑いながらも、次第に彼女の声色が変わっていく。
指先がふくらはぎをなぞるたびに、硬直していた筋肉が少しずつ解けていくのがわかった。
「はぁっ……あ、あっ……そ、そこ……恥ずかしい……みんな見てるのに……」
視線が突き刺さる中での治療。羞恥が彼女を襲う。
つま先から太もも、股関節……そして臀部へ。
彼女を四つん這いにさせると、俺は両手でお尻を揉みしだいた。
「あぁっ……だ、ダメ……っ! これ、感じちゃう……♡ お尻が……あ、あぁっ……気持ち……いい……っ」
呪いの抵抗が消えていくほどに、声は甘く、色を帯びていく。
俺はあくまで治療に集中していた。が、周囲の空気は次第に熱を帯びていた。
十五分ほど――
治療が完了し、俺は手を離した。
「あ、あなた……顔が……!」
「えっ……えっ……」
他の女性の叫びに、イリスが手鏡を差し出す。
女性は恐る恐る覗き込み、次の瞬間、崩れるように泣き叫んだ。
「――あぁ、あぁっ……私の顔……戻ってる!? 本当によかった……よかったよぉ……」
豚顔から、美しい二十代前半の顔立ちへ。
彼女は俺の手を掴みながら、震える声で感謝を告げてくれた。
「ありがとう……ありがとうございます……っ」
「ああ、よかったな……」
彼女の大粒の涙を見て、少しだけ報われた気がした。
俺は続く他の女性たちも順番に治療していった。
それぞれに羞恥や恐怖があった。だが同時に、救われたいという強い願いもあった。
揉まれるたびに漏れる声を必死に押し殺そうとする者。
逆にもっと強くと懇願してしまう者。
そして、我慢できずに大きな嬌声を響かせる者……。
一人ひとりの反応が違っていて、それぞれが必死に生き延びてきた証のように思えた。
イリスは横で一人ずつ<鑑定>を行い、確かに呪いと状態異常が消えていると証明してくれる。
そのたびに女性たちの表情は明るさを取り戻し、牢の中に次第に安堵の空気が広がっていった。
そして――最後に残ったのは、フードの少女だった。
「――終わったぞ」
俺が声をかけると、イリスが手鏡を差し出した。
少女は震える手でそれを受け取り、そっと覗き込む。
次の瞬間――
「あぁっ、あぁっ……あ゙ぁぁぁぁぁあああああああああ〜〜!!」
膝から崩れ落ち、大泣きした。
両手で顔を何度も触り、確かめる。そこにあったのは、もう豚顔ではない。
ウェーブがかった橙色の髪に大きな赤い瞳。
まだ十代半ばの幼さを残す顔立ち。だが確かに、人間としての未来を映す顔だった。
泣きじゃくりながらも、少女は何度も何度も自分の頬を撫で、声を震わせた。
「……よかったな」
俺は小さく呟いた。
彼女の心の傷を癒すことはできない。けれど、少なくとも顔の呪いは解いた。
その事実だけは、確かにここにある。
牢の中の女性たちは皆、涙を流しながらその少女を抱き寄せ、互いに温もりを分け合っていた。