完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「――なあ皆。俺を助けてくれた、あのシュウって呼ばれていたヤツは、一体何者なんだ?」
自分の剣を取り戻し、魔石の回収を終えたグレンは仲間たちに問いかけた。
感謝の念は当然ある。命を救ってもらったのだから、頭を下げても足りないほどだ。
だが、それ以上に――あの存在は異常だった。
自分たちが力を尽くしても歯が立たなかったゴブリンクイーンを、あの灰髪の少年は、まるで子供の相手でもするかのように一人で圧倒していた。
長い冒険者生活の中で数多の強者を見てきたが、あれほどの存在は記憶にない。
それなのに名前も聞いたことがなければ、冒険者ギルドに登録されていた形跡もない。
修道服姿で剣を振るうというちぐはぐさも、なおさら得体の知れなさを際立たせていた。
「私たちも、昨日初めて会ったんだよ」
「ポワンの飯屋でな。グレンの話をしていたら、イリスって子が声をかけてきて……」
「聖女候補だと聞きましたので、神のお導きに違いないと……」
「――聖女候補? あの白い服を着ていた子か。……でも戦闘中、何もしていなかったように見えたが?」
グレンの記憶にあるイリスは、戦場の端でじっと様子を見ていただけだった。
魔法を使う素振りもあったが、シュウが一瞬で敵を戦闘不能してしまったため、その必要すらなかったのだ。
「そうですね。ですがグレンも見たでしょう? ――すべては、あのシュウさんによって終わったことを」
「ああ。……だからこそ不思議なんだ。イリスが聖女候補というのは納得できる。けれど、あの少年の正体は……」
「イリスさんによれば、東の果てにある魔郷の森から来たそうです」
「は……? 魔郷の森だと?」
エリナの言葉にグレンの眉が跳ね上がった。
強力な魔物しか棲まないとされるその森は、冒険者の間では近づいてはならない禁域として有名だった。
人が住むどころか、生きて帰ることすら難しい場所。
これまでは空想上の話だと思っていたが、シュウの実力を見せられると、途端に現実味を帯びてくる。
「はい。あの力を見れば、納得せざるを得ません。……会話した感じ、森の外の常識はほとんど知らないようでした」
「ふむ……。だが悪いヤツには見えなかったな」
「そうだね。むしろ、不器用だけど真っ直ぐな感じがした」
「何者かは、あとで本人に聞けばいいさ」
「同感だ」
グレンを含め、一同は興味津々という顔を隠さなかった。
しかし、その興味をさらに上回る驚きが、彼らを待っていた。
◇◇◇
牢から救い出された女性たちの治療が終わり、俺は一息ついていた。
そこへ大量の魔石を抱えて戻ってきたグレンたちが現れた。
その中でも、グレンが腕に抱えていたのは、ダチョウの卵ほどもある紫色の魔石。おそらくゴブリンクイーンのものだ。ワイバーンの魔石よりも一回り大きい。
「ど、どういうことですか……!?」
解放された女性たちの姿を目にして、一番に声を上げたのは神官のエリナだった。
彼女らの顔は本来の美しさを取り戻し、呪いの影はどこにも残っていなかったからだ。
「俺が治した。全部な」
「イリスさんは呪いだと……故に術者以外には解呪できないはず。そんな呪いを解けるだなんて……」
「――俺には<完全解呪>ってスキルがある。どんな状態異常でも回復できる。それで治したんだ」
簡単に告げると、場にいた全員が息を呑んだ。
反転の指輪の効果は言えないが、このスキルだけでも十分常識外れだ。
「そんなスキルが……やはり、あなたは……」
「エリナ、どういうことだ?」
「彼女たちが受けていた呪いについて説明します――」
エリナが、囚われていた女性たちが受けていた仕打ちを語る。
聞くにつれて、グレンの表情は険しくなり、握りしめた拳が震えていた。
「……許せねぇ」
怒りを押し殺すように呟いた。
「まずは全員を村に連れて行きましょう。少し休みをとってから、彼女たちの身に何が起きたのかを私が聞きます。教会を頼れば一時的な保護もしていただけるでしょう」
「君がイリスか」
「はい、及ばせながら聖女候補と呼ばれています」
「……助けてくれて感謝する」
「私は何もしていません。感謝するならシュウ様へ」
「そうか……だが礼は言わせてくれ」
「律儀な方ですね」
簡潔なやり取りの中にも、互いの信頼が芽生えていくのを感じた。
彼女たちは心身ともに消耗しており、歩くことも大変だろう。
俺たちは彼女たちを交代交代馬車に乗せて休ませながら、徒歩で村へ戻ることを決めた。
◇◇◇
道中、俺は一人の少女に声をかけた。
「なあ」
「ひゃいっ!?」
話しかけただけで跳ねるように驚かれる。
俺は苦笑して肩をすくめた。
「別に何もしねえよ。治したのは俺だろ?」
「は、はい……。助けてくださって、とても……嬉しかったです」
小さな声だったが、ちゃんと会話はできそうだ。
「名前は?」
「……メディナ、です」
「いい名前だな。人を助けるような響きだ」
「人を……助ける?」
彼女はこれまでゴブリンを操り、人を傷つけてきた。
だからこそ俺の言葉は意外だったのだろう。
「俺の故郷にはメディカルって言葉があってな。医学や医療を意味するんだ。お前の名前はそれに似てる」
「医療……」
「俺も昔は医者を目指してたんだが、頭が足りなくてなれなかった。でも今はプリーストだ。……お前を治したスキルを授かってな」
「……すごい、お方です」
「すごいのはスキルだ。俺はただの一般人だよ」
「それでも……すごいです」
メディナは頑なに首を振った。
聞けば十四歳だという彼女は、俺より三つ下だが、ずっと幼く見えた。
「親は?」
「いません」
「……俺も今は同じだ。けど、親代わりはいる。お前も、そういう人を見つけられるといいな」
「……見つかるでしょうか」
「お前は可愛いからな。きっとすぐだ」
「かっ……可愛い!?」
顔を真っ赤にし、慌てて手で隠す姿に、俺はつい意地悪したくなった。
「可愛いぞ。メディナは可愛い」
「や、やめてください……っ」
「かわいい、かわいい。かわいい」
「やぁぁぁっ!?」
その様子を面白がっていると――
「シュ・ウ・さ・まぁぁぁぁっ!!」
背後から鋭い声。
振り返ると、イリスが物凄い形相で仁王立ちしていた。
「お前、いつから見てた!?」
「最初からです! ……シュウ様は幼い子が好きなのですか?」
「いや、お前だって背低いし似たようなもんだろ」
「つまり私のことも好きだと!?」
「好きとは言ってねえ!」
妙に突っかかるイリスに頭を抱える。
イリスはおそらく百五十センチほど。それに対しメディナは百四十センチ後半といったところだろう。
俺からすれば似たりよったりの身長だ。
「それでも! ……あんなに私のお胸を吸ったのに」
「お胸……?」
「ばっ……バカかお前は! こんなところで言うなよ!」
余計なことを暴露され、顔が熱くなる。
メディナはきょとんとしながらも、自分の小さな胸を見下ろし、暗い顔をした。
「……私、小さい……」
「これから成長するさ」
「ふふふ……やはり私の方が圧倒的ですね」
「年下相手にマウント取るな。ほんとに聖女候補かよ……」
「聖女級のお胸、と呼んでください!」
まさか本物の聖女も胸がデカいとか言わないよな……。
やれやれ、とため息をつきながらも、妙に和やかな空気が流れていた。
◇◇◇
数時間歩き、ようやくポワンの村が見えてきた。
「…………なあ、なんで魔物が一体も出ないんだ?」
道中、魔物が一体も現れなかったことにグレンが首を傾げたが、それは俺が<完全解呪・反転>を即座に発動していたせいだ。
近づく魔物は俺に気づかれた途端、その場に倒れていることだろう。
村に入った俺たちは、一つしかないという教会へと向かった。
――これからが本番だと、胸の奥で小さく呟きながら。