完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
――時間は夕方前。
俺たちは再び教会に集まっていた。
イリス、『銀の刃』の面々、そして救出した女性たちは奥で休んでいる。
事前にイリスが女性たちから事情を聞いてくれていたらしく、今から俺たちに要点を伝えてくれるらしい。
「――結論からお話しします。黒幕はウンディル・ブルドグ大司教です」
その名を耳にするのは二度目だった。
一度目は、イリスの<淫染呪>を解呪した時。そして今、改めて聞かされた。
「『銀の刃』の皆さまのためにも説明いたします。ブルドグ大司教は既にハレスの地下施設にて、呪いを使った性ビジネスを展開しています。それも、帝国のスパイや魔族と手を組んで」
「大司教ともあろう方が!? しかも帝国のスパイに魔族まで……話が大きすぎます!」
信じられないと声を上げたのは神官のエリナだった。
無理もない。教会の高位聖職者の悪事など、普通なら想像もできない。
「ですが、私は実際に目撃しました。そして、ドロテイアという魔族に<淫染呪>をかけられ……屈してしまいました。必死で魔郷の森に逃げ込んだところを、シュウ様に助けていただいたのです」
――這いつくばり、涙を流しながら、理性を失っていたイリスの姿が脳裏に蘇る。
粘膜接触で感染する副作用もあった。出会ったのが俺でなければ、事態はもっと悲惨なものになっていたはずだ。
「そ、そんなことが……」
エリナは絶句した。
「彼女たちの話を総合すると、独り身だったり、借金があったりと事情はさまざまでした。けれど必死に生きていたのです。――それがある日突然、気がついたらゴブリンの巣に囚われていた。そして……メディナ様も同様に連れ去られ、ゴブリンを操る役目に抜擢されました。それを直接命じたのが、ブルドグ大司教だったのです」
やはり、あの魔道具を渡したのもブルドグで間違いないだろう。
だが、なぜそこまでしてゴブリンを操ろうとしたのか。
「……なぜそんなことを?」
エリナが震える声で問う。
「教会最大の収入源をご存知でしょうか?」
「……回復魔法の治療費、だと思います」
「その通りです」
なるほど、と俺は思った。
村の教会でも治療でいくらか受け取っていたが、それはお小遣い程度。だが都市部では、それがビジネスとして確立しているらしい。
「ブルドグ大司教は――人間を孕み袋にしてゴブリンを効率的に産ませ、操り、人を襲わせる。そして死なない程度に怪我を負わせ、治療を求めて教会に来させる……。つまり今回の事案は治療ビジネスの一環として行っていたのです」
「っ……! クズ野郎にもほどがある!」
グレンの怒声が響く。
だが、まだ疑問は残っていた。
「結局――『醜化』の呪いをかけたのは誰なんだ?」
「以前お話ししたように、『醜化』は術者が思う醜い顔へと変える呪いです。ドロテイアも関わっているかと思いましたが……魔族といえども呪術はいくつも習得できるものではないでしょう。可能性があるのはブルドグ大司教、もしくは帝国のスパイ・サミュエル。その中でも私は、サミュエルが術者だと見ています」
なるほど……。
だが、あの『醜化』に意味はあるのか? すでに捕らえているのなら不要に思えるが――
「シュウ様。人は自分とは違うものを忌避します。……もし、私たちではなく別の方が巣に入っていたら? 豚のような顔をした者たちを人間として扱おうとするでしょうか?」
「…………」
その言葉に、俺は口をつぐんだ。
俺には<鑑定>があった。<完全解呪>もあった。だから彼女たちが人間であると理解し、元に戻した。
だが、もし他の誰かだったら? 魔物と勘違いし、見捨ててしまったかもしれない。
――そう考えると、イリスの推論は恐ろしく現実味を帯びていた。
「本当に……最低のやり口ね。そもそも治療費がバカ高いのだって、納得いってないのよ」
リシアが吐き捨てるように言う。教会の治療費ビジネスにも不満はあるようだが、それとは次元が違う悪意だ。
「それともう一つ……捕らえられていた女性は皆、美形だった。理由はわかるか?」
「それは……私にもわかりません」
「――顔の綺麗な人に恨みを持っていた……とか?」
グレンが低くつぶやく。
もしそうなら――完全に個人的な悪意で多くの人を巻き込んだことになる。
「グレン、お前もイケメンだからな。いつ狙われてもおかしくないぞ」
「シュウ、俺はイケメンじゃない」
「は? お前本気で言ってんのか……」
俺は隣のリシアとエリナを見た。二人は顔呆れ顔で首を振った。
……こいつ、完全に無自覚イケメンだ。
「――で、イリス。どう動くつもりなんだ? 最初の予定ではハレスに向かって地下の女性たちを救うって話だったが……」
「……………………」
「……まさか行き当たりばったりだったのか?」
イリスが黙り込んだ瞬間、俺は頭を抱えた。
このままじゃ、本当に敵の本拠に突撃しかねない。証拠も準備もないままに。
「――イリス、シュウ。俺たちが協力しよう」
立ち上がったのはグレンだった。
『銀の刃』の仲間たちも即座に同意する。
「そもそも俺たちは、ハレスのギルドから受けたゴブリン討伐依頼でここに来た。どのみちハレスに戻る。そして俺たちを助けてくれた恩人が困っているなら――助けない理由はない」
「やっぱりイケメンじゃねーか……」
「シュウ、やめてくれ」
謙虚さまで完璧とか、本気でムカついてきた。
けど、心強いのは間違いない。
「地下施設の場所がわかっていたとしても、他に敵がどこに潜んでるかもわからないはずだ。まずは情報収集をしよう。俺たちはハレスで顔が利く。二人よりは動きやすいだろう」
「……頼もしすぎるぜ」
こうして俺たちは、『銀の刃』と共に冒険都市ハレスへ向かうことを決めた。
ただ――教会に残される女性たちのことが気がかりだった。身寄りのある者もいれば、そうでない者もいるだろう。事件が解決するまで、どこか安全な場所にいてほしい。
「――シュウ殿」
そんな時、声をかけてきたのは、教会の長ルエダだった。
「婆さん?」
「彼女たちはしばらく、うちで預かりましょう。魔石もいただきましたし、食べ物に困ることはありません」
「……いいのか? こんなに大勢」
「はい。事情はわかりませんが、それを解決されるまで、私たちが面倒を見ましょう」
「……感謝する」
ミゼットのことを知っていたようだし、信頼できそうな人に預けられるのはありがたい。
彼女たちの面倒を見てくれるということで、俺はルエダに礼をしたいと思った。
そこで目に入ったのは、歩行の補助に使っていた杖だ。
「イリス、悪い。婆さんを<鑑定>してくれ」
「かしこまりました」
言われるまま即座にイリスが<鑑定>すると、目を細め結果を告げた。
「……肩も腰も膝も、かなり悪いようですね」
それを聞くと立ち上がり、ルエダに近づいた。
「座ってくれ。俺からの礼だ」
「シュウ殿……?」
戸惑いの表情を見せるルエダを無理矢理に座らせると、俺は彼女の肩に手を当てた。
「――<完全解呪《パーフェクトクリア》>」
聖なる光がルエダの体へと流れていく。
硬くこわばった筋肉がほどけていくのを感じながら、俺はゆっくりと揉み解していった。
「あぁ……温かい……昔、孫に肩を揉んでもらった時を思い出します」
「はは、そりゃよかった」
そんな肩揉みも十数秒で終わってしまう。
「……婆さん、立ってみろ」
「ええ……? あら……? これは……!」
ルエダは驚いたように立ち上がった。
すると、杖を持たずとも歩けるようになったのだ。曲がっていた背筋も今ではまっすぐ。まるで二十歳は若返ったかのように見えた。
「すごい……体の痛みが消えている……! エイダ! 見なさい!」
「えっ……お婆ちゃん!? 杖なしで……!」
孫は最初に教会でイリスが声をかけたシスターだった。
先ほどの昔肩揉みをしてくれた孫というのが、このエイダだったのだろう。
かつて村でジジイやババアの『腰痛』を治した時も思ったが――<完全解呪>は、本当にそれまでの生活を変えてしまう。
「――シュウ。君はやっぱりすごいな。呪いだけではなく、体の異常まで治すなんて」
グレンが感嘆の声を上げる。
『銀の刃』の面々には、はじめてスキルの発動を目の前で見せた。
「いや、すごいのはスキルだ。俺じゃねえ」
「ならさっきの言葉を返すよ。イケメンなのは――君だ」
「グレン、俺はぶっきらぼうで、目つきも悪い。昔、友達だって一人しかできなかったんだぞ? イケメンであるわけがねえ」
「それでも、今こうして二人が笑っている。……それは君が優しい心を持ったイケメンだからじゃないかな」
ルエダとエイダ。二人の笑顔が眩しい。
だからこそ俺は肩をすくめて、グレンに言い返した。
「――それはイケメンが言うセリフだ」