完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
シュウが冒険者ギルドを出たあと、グレンたち『銀の刃』は、受付嬢リーナの案内で二階へと上がり、ギルドマスターの執務室を訪れていた。
扉をノックして開けると――
「うおおおっ! グレン! お前たち、生きてたのか! 良かった、まったく……心臓が止まるかと思ったぞ!」
「はは、なんとか戻ってこれた。どうやら皆にずいぶん心配をかけたらしいな」
そう言って笑うグレンの両肩を、バシバシと力強く叩くのは、冒険者ギルドを十年率いてきた男、ギルドマスターのバーグ・ステーキ。
ガロよりは背丈が低いが、グレンよりは一回り大きく、岩のように筋骨隆々とした体躯。そして何よりも目を引くのは、毛一本生えていないピカピカの頭皮であった。
四十代にして冒険者上がりの貫禄を持つ、まさしくギルドマスターと呼ぶにふさわしい人物だ。
「リーナから聞いたぞ。ただのゴブリン討伐のはずが、何やら普通じゃない事態に巻き込まれていたらしいな」
「その件で詳しく報告がある。少し時間をもらえるか?」
「ああ、もちろんだ。リーナ、茶を頼む」
「はい、ただいま」
そうしてグレンたち四人は執務室のソファに腰を下ろし、バーグと向き合った。
「――まずは、これを見てくれ」
グレンが革袋を取り出してテーブルに置くと、中から転がり出たのは、掌どころか両手でやっと抱えられるほどの巨大な緑色の魔石。
「なっ、なんだこのバカみたいな大きさは!?」
「ゴブリンキングのメス個体――ゴブリンクイーンがいた」
「……はああっ!? ゴブリンクイーンだと!? そんな話、聞いたこともねえぞ!」
バーグの怒鳴り声が執務室に響く。
「それだけじゃない。ホブにメイジ、ジェネラルまでそろい踏みだった。回収できるだけ魔石は持ち帰った」
「……想像が追いつかん。ジェネラル一体でパーティが全滅することだってあるのに……それを四人で? よくぞ生きて帰ってこられたものだ…………待て。今、魔石を回収したと言ったな?」
その驚きも無理はない。普通ならば不可能。だが彼らには、常識を覆す存在が同行していた。
「ああ。五十以上のゴブリンを全滅させた。だが俺じゃない。全部やったのは――俺の恩人であり、プリーストのシュウだ」
「プリースト……だと?」
その言葉を耳にした瞬間、バーグの拳がギリ、と握りしめられ、盛り上がった血管が腕に浮かぶ。彼は教会嫌いで有名だった。聖職の名を聞くだけで、こうも露骨に反応する。
「だが安心してくれ。あいつは教会所属じゃない。どうやら魔郷の森の出身らしい」
「魔郷の森……? 確かにあそこに村があると聞いたことはあるが、おとぎ話かと……」
「本当よ、ギルマス。シュウは外の世界を何一つ知らなかった。それにプリーストを名乗りながら武器は剣。矛盾だらけなの」
「……わけがわからん。お前らの話を聞けば聞くほど、俺の頭がパンクしそうだ」
リシアが補足し、バーグは額を押さえる。
「それだけじゃない。なぜか聖女候補まで同行していた」
「聖女候補だと……?」
「だが安心しろ。シュウはまだ教会には染まっていない」
「……冒険者に引き込むなら、今しかないというわけか」
「その通りだ。本人も冒険者に興味を持っていた」
教会を毛嫌いするバーグにとって、教会に所属する者全員が嫌悪の対象。
だが、シュウはまだどちらにも転んでいない状況。グレンたちが認める力を持つなら、引き込みたいとも考えていた。
「それにな……シュウは呪いを解呪できる」
「……何だと?」
バーグの声が低くなる。
「俺の冗談に聞こえるかもしれないが事実だ。聖女候補にかけられていた呪いを解いたらしい。それとゴブリンに囚われていた女性たちにかかっていた呪いも解呪した」
「聖女ですらできないことを……あの男はやったと?」
「俺たちの見た限りでは、最低でも二つスキルを持っている。一つは呪いと状態異常の完全回復。もう一つは詳しくは聞けなかったが、視線ひとつで相手を昏倒させるようなものだ」
「……バカな……。だが、その力でゴブリンたちを?」
「ああ。俺たちの仕事は、動けなくなったゴブリンどもの首を刎ねるだけだった」
今でも信じがたい光景。
だが現実に、グレンたちは五十体以上のゴブリン相手に生き延びたのだ。
「そして、ここからが本題だ」
「まだあるのか……」
グレンは真剣な面持ちで続ける。
「ブルドグ大司教を知っているか」
「ああ、あのいけ好かないヤツか。街に来ているとは聞いているが」
「そいつが地下で性ビジネスを展開し、拉致した女性を使ってゴブリンを繁殖させていた」
「っ……!?」
後ろに控えていたリーナが口元を押さえ、震えた。
そしてバーグはドン、とテーブルを叩き、ツルリと輝く頭にまで血管を浮かせる。
「あのクソ野郎……!」
「これが奴らの使っていた魔道具だ」
メディナが持っていた黒球がテーブルに置かれる。
「信じがたいが、ゴブリンクイーンすら従える代物らしい」
「そんなバカな……。だが、ブルドグの背後にそんなものを用意できる奴が……」
「聖女候補によれば帝国のスパイ、そして魔族が関与している」
「なっ……帝国に、魔族だと!?」
バーグの顔から血の気が引く。すでに情報の許容量を超えているのか、こめかみから湯気が立ちそうなほど力が入っていた。
「つまり、この街に魔族が潜んでいる……?」
「その可能性が高い。俺たちだけでは抱えきれない問題だ」
グレンもまた拳を握りしめ、本題を切り出す。
「――シュウたちはブルドグを捕まえたいらしい。俺は助けられた恩もある。だから協力したい。だが、依頼書はギルドから出ているし、巣を潰した時点ですでに目をつけられているかもしれない」
「つまり、俺にも力を貸せと」
「そういうことになる。お願いできないか?」
バーグはグレンの言いたいことをすぐに理解。
そして口の端を吊り上げて笑った。
「ヤツを叩き潰せるなら、喜んで協力しよう。ただし……まずはそのシュウ本人をここに連れてこい。話はそれからだ」
「聖女候補はどうする?」
「……まとめて来てもらおう」
「わかった。今日は休ませる。明日には連れてくる」
こうして話はまとまり、グレンたちは執務室をあとにした。
静かになった部屋に残ったバーグは、頭をかきながら独りつぶやく。
「魔族か……笑えねえな。ギルドだけじゃとても抱えきれん。……チッ、あいつに連絡を入れるしかないか」
彼は一人の人物の名を思い浮かべ、深いため息をついた。