完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「さっきのおっさん……ドワーフって言ってたよな……」
鍛冶屋を出た直後、俺は思わず足を止めてつぶいた。
あのときは何気なく聞き流していたが、あのおっさん――ゴッデア・ナッデムは、自分でドワーフだと名乗っていた。
ファンタジーでよく見聞きする、背が低く、逞しい筋肉と立派な髭を蓄えた鍛冶の民。まさか実在するとは思わなかったが、今見てきた姿は想像にかなり近いものだった。
「シュウ様は、ドワーフに会うのははじめてですか?」
「ああ、初めて見た」
「この世界には人間族以外にも、いくつかの種族が存在します。山岳を住処としてきた炭鉱族――それがドワーフ。そして今も森を住処としている耳長族――いわゆるエルフ族。大きく分ければこの二種族ですが、さらに細かい少数種族もいると言われています。総称して、私たちは『亜人』と呼んでいます」
「エルフっ!?」
思わず食いついた。
数は少ないらしいが、俺の中でエルフという単語は日本人なら誰でも反応するキラーワードだ。俺も例外ではなかった。
「エルフにご興味が?」
「まあ、正直、興味あるな……」
「ですが、エルフは気難しい性格だとも言われています。人間族と積極的に交流するエルフはごく少数。とはいえ、人間社会に溶け込んでいる者もいて、冒険者の中に姿を見かけることもあるようですよ」
「そうなのか……なら、この街にもいる可能性があるわけだな」
胸の奥が妙にそわそわする。
俺のイメージするエルフは、誰もが美男美女。出会えたら、たぶんそれだけでテンションが上がるだろう。
――そういえば、グレンが言っていた。
このハレスが冒険都市と呼ばれる所以は、冒険者が最も多く集まる街だからだと。
しかも街の外には、この国で唯一の『ダンジョン』が存在するという。
冒険者たちは依頼をこなすだけでなく、そのダンジョンに潜り、お宝を持ち帰るのだそうだ。
想像以上に、この街は夢と現実が混ざり合った場所らしい。
◇◇◇
最後に足を運んだのは、南地区――モグモ商会のある場所だ。
ここは一歩足を踏み入れただけで雰囲気が違う。服飾店や食材を扱う店が並び、人の往来も賑やかだ。
なるほど、商人モグモが拠点を構えた理由もわかる。
その中で俺が目をつけていたのは、とある店。
大きな扉を押し開けると、中は整然と並ぶ服の数々――防具ではなく、日常で着るための服や下着を扱う衣料店だった。
「――いらっしゃいませ」
清楚な装いの若い女性店員が、丁寧に頭を下げて迎えてくれる。
見た目も立ち振る舞いも整っており、店の格を物語っていた。
「本日は、どのようなご用件で?」
「俺はいい。けど、この二人の普段着とか、下着とかを揃えてやりたくてな」
「こちらのお二人ですね。なるほど……冒険者の方のようですが、とても可愛らしい方々です。きっとお似合いの服をご用意できるかと思います」
褒められて、イリスは控えめに微笑み、メディナは「えへへ」と照れ笑い。
……いや、イリスが聖女候補だと知ったら、この店員はどんな顔をするんだろうな。
「ありがとう。――ほら、二人とも行ってきてくれ。俺は適当に見てるから」
「はい、ありがとうございます」
「あっ、ありがとうございますっ!」
二人は店員に案内され、奥へと消えていった。
イリスは元々、街の教会の部屋を借りて生活していたらしいが、今はそこに戻れない。
服も下着も置きっぱなしなので、新しく揃えてやろうと思ったのだ。特に下着は足りてないだろうしな。
俺も暇つぶしに店内を眺めていると――
「――お客様」
「ん?」
声をかけてきたのは、スーツ姿の男性店員だった。
小綺麗どころか完璧な身なりで、髪型までピシッと決まっている。明らかにこの店の幹部か、かなり上の立場の人物に見えた。
「もしよろしければ、特別にご案内したい場所がございます」
「今、手持ちはそんなにないんだが……」
「ふふ。ご冗談を。あなた様は普通のお客様ではありませんよ。私の目がそう告げております」
……大げさだな。
だが確かに、ワイバーンの魔石をまだ売っていないから、潜在的な財力はある。モグモ曰く、相当な額になるらしい。
この男の言うことは間違っていない。
「まあ、売れば金は入るがな」
「ならば、ツケでも結構。お客様には特別なものをご覧いただきたいのです」
「……そこまで言うなら、ついていくか」
どうせイリスたちが戻るまで暇だ。俺は男についていった。
案内されたのは、二階の奥にある小部屋。
扉を開けると、中には……妙に眩しい光景が広がっていた。
「こちらは、貴族や富豪、高ランク冒険者に人気の商品でございます。女性からの評判も抜群で、勝負の一着として選ばれることが多いのです」
「へえ……で、商品名は?」
「――ボクサーパンツでございます」
その言葉に、思わず眉を上げる。
この世界にボクシングがあるかどうかは知らない。だが、その名は間違いなく前世で耳慣れたもの。
目の前に並んでいたのは、前世と同じ、ぴったりと体に沿うデザインの男性用パンツだった。
思い返せば、この世界に来てから履いていたのは、白い布パンツ一択。
正直ダサいし色気もないが、村人の間ではそれが普通だったから気にも留めなかった。
だが今、目の前にあるのは――色も柄もデザインも工夫されたパンツの数々。
どうやら富裕層は、下着で勝負をかけることすらあるらしい。
「……下着ひとつで、そんなに変わるもんかね……?」
俺は首を傾げつつ、ふとイリスたちのことを思い出した。
あいつらはどんなのを選んでるんだろうな。
◇◇◇
「お、お客様……こ、これは……大層なものをお持ちで……っ」
「ふふ。このお店、私のサイズまで展開しているなんて、本当に素晴らしいですね」
鏡の前に立ち、真新しい下着を身にまとったイリスは、艶やかに微笑んでいた。
彼女の胸はあまりにも巨大で、普通の店なら到底収めきれない代物だ。だが、今その豊満さをしっかりと受け止めているのは、雪のように白く、まるで天使の羽根を思わせる繊細なレースの下着だった。
「お客様ほど大きな方は滅多にいらっしゃいませんが、当店は品揃えに自信がございます。それに、代表のモニカ・シュトラウデンは女性です。とりわけ女性のお悩みに寄り添い、解決できるよう尽力されておりまして」
「まあ……それは素敵なお話ですね」
「ええ。本店は王都にございますので、もし王都に向かわれることがあれば、ぜひ足を運んでみてくださいませ」
イリスは満足そうに頷き、他の下着も楽しそうに試着していた。
その頃、隣の更衣室からは布擦れと小さな呻き声が聞こえてきた。
「メディナ様? 大丈夫ですか?」
「だ、だいじょぶですっ……でも……っ、こ、こんな綺麗な下着、わ、私には……っ」
更衣室の中でメディナは四苦八苦していた。
彼女がこれまで身に着けてきたのは、布を巻いただけのさらしや簡易的なものばかり。色気とは無縁の生活だったのだ。
だからこそ、きちんとした下着に触れるのは初めてで、うまく着けることすらできずにいた。
「それに、サイズも……私、小さすぎますし……こんなに綺麗な下着を身に着けても……似合わない気がして……」
「お客様。ご安心ください。当店の下着は寄せて上げる機能も備えておりますので、必ずお役に立てます」
「で、でも……っ」
「失礼いたしますね」
「ひゃうぅっ!?」
不意に店員が更衣室に入り込み、慣れた手つきでメディナの胸元に手を添えた。
小さなふくらみをぐっと寄せて、上に持ち上げる。左右交互に行い、最後にブラのホックを整えると――
「さ、鏡をご覧くださいませ」
「あ……え……す、すごい……っ!」
目を見開いたメディナの胸元には、今まで存在しなかった谷間が生まれていた。
わずかな膨らみを集めただけなのに、見違えるほど女性らしいラインになっている。
「ご覧の通り、谷間ができたでしょう? さらに盛りたい方にはパッドもご用意しております」
「ほ、ほんとに……わ、私にも……ありがとうございますっ!」
頬を真っ赤にしながらも、メディナは自分の変化に感動していた。
やがて二人は気に入った下着をいくつか選び、会計に向かおうとした――その時だった。
「お客様。最後に、ぜひご案内したいお部屋がございます」
店員に導かれて入ったのは、奥へと進んだ小部屋。
そこで目にした光景に、イリスとメディナは同時に息を呑んだ。
「こ、ここは……っ」
「な、なにこれっ……」
壁一面に並ぶのは、普通の下着とはまるで違う、刺激的で妖艶なデザインの数々。
大胆に透ける布、飾り立てられた紐、ほとんど隠す部分が存在しないものまで。
「ご一緒されていた方とのご様子から……親しいご関係とお見受けしました。もし間違いなければ、こちらのお品が、お二人のお役に立つかと」
「……ふふ。なるほど、よくわかっていらっしゃるお方のようですね」
イリスは唇を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべると、一つの下着に指先を滑らせた。
それはレースの網目しか存在しないような、大事な部分を隠すどころか逆に見せるための下着だった。
一方で、メディナが目を止めたのは――透け透けのベビードール。
薄布越しにすべてを透かしてしまうそれに、顔を真っ赤にして後ずさる。
「な、なぜ、こんなものが……っ」
「ふふ……こういう楽しみも、時には必要ということですね」
二人は時間をかけながら、普通では手を伸ばせないような大胆な下着を選んでいった。
◇◇◇
「お、結構買ったな」
店を出ると、イリスとメディナは両手に大きな紙袋を抱えていた。
対して俺の手にあるのは、小さな袋ひとつだけ。
「はい。ですが、不思議ですね……なぜか今は支払い不要と言われてしまって。シュウ様、何かされましたか?」
「ああ、ツケで良いってさ」
「……なるほど。シュウ様から漂うお金持ちオーラを店員が見抜いたのかもしれませんね」
「はぁ!? 俺のどこにそんなオーラがあるんだよ」
イリスは時々、本気で俺を買いかぶりすぎるんだよな……。
これで、もしワイバーンの魔石がまともに売れなかったら、マジで詰むんだが。
「じゃあ、そろそろ良い時間だし、『凪の霧亭』に向かうか」
「はいっ!」
紙袋を抱えた二人と共に、俺はシュトラウデン商会ハレス店を後にし、北地区の宿――『凪の霧亭』へと歩き出した。