完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「――こちらですね。メディナ様、お願いします」
「はいっ」
シュウ様との情報共有を終えたあと、私は外で待機していたメディナ様と合流した。
<ミラージュ>と<隠密>を維持したまま、人気の少ない夜の通りを抜け、目的の家へと向かう。
人の家に侵入するという聖女にあるまじき行為ではあるが、これはシュウ様の願い。
緊張の中、メディナ様は迷いなく懐から針金を取り出し、扉の鍵穴へと差し込んだ。
「本当に手際がいいですね」
「いえ……そんなことは」
彼女は小さく首を振るが、金属が擦れる微かな音ののち、十数秒もかからずにカチリと錠が開いた。熟練の技術に、私が感嘆の言葉を漏らすのは必然だった。
「では、ここからは私一人で」
「……外で待ってます」
頷き返し、私はそっと扉を押し開けた。
そこは、石造りの建物――いくつもの部屋が階層ごとに並ぶ中の一室だった。
物音を立てないよう細心の注意を払いながら、私は目的の人物――セイラ・クローヴァー様の部屋へと足を踏み入れる。
リビングは清潔に整えられ、調度品も質がよく、住人が相応の財を持つことを物語っていた。さらに奥、寝室と思われる部屋へ入ると、そこに彼女はいた。
カーテンの隙間から差し込む月光がベッドを淡く照らす。
水色の長髪を枕に広げ、凛とした顔立ちの女性が静かな寝息を立てていた。
その姿は穏やかでありながら、周囲に並べられた多数のポーション瓶がただならぬ事情を物語っている。
――この方が、セイラ様……?
そして私は、すぐに気づいた。
壁にかけられた一振りの長剣。
さらに枕元のサイドチェストの上に置かれた、鹿の紋章が刻まれた銀のペンダント。
――神殿騎士。
それは教会直属の剣士であるという二つの証拠品だった。
街を護る衛兵でもなく、王国に仕える騎士団でもない。
教会の意志のままに、異端者を狩り、闇を切り払う存在――。
そんな人物が、今は病に伏している。
私はベッドへ歩み寄り、深く息を吸い込んだ。
そして、そっと<鑑定>を発動する。
「………………っ!」
目に映った結果に、全身が凍りつく。
震えを抑えることもできないほどに、彼女の状態は想像を絶していた。
――早く、シュウ様に報告を。
私はすぐさま寝室を後にし、外で待つメディナ様と合流。
夜風を切って治療院へと戻った。
だが、その頃にはすでにシュウ様は深い眠りに落ちていた。
私は静かに机へ向かい、紙に見たままの内容を書き記すと、それをシュウ様の枕元に置いてからそっと治療院をあとにした。
◇◇◇
翌朝。
俺は最近の日課にしていた素振りのため、まだ夜気の残る早朝に目を覚ました。体を起こし、外に出ようとしたところで、枕元に置かれた紙に気づく。
「イリスか……行ってくれたんだな」
それは、セイラの家へ足を運び、<鑑定>をしてくれたイリスからの報告だった。
開いた紙には、彼女らしい几帳面な筆跡でセイラの病状が細かに記されている。
「対象の一族の血脈を枯れさせる呪い――枯血呪《こけつじゅ》。それがセイラ様を蝕んでいる呪いの正体……。やっぱり呪いだったか……」
呪いであることは薄々察していたが、それが決定的となった。
だが文面を読むうち、さらに厄介なことに気づく。
セイラ自身が標的なのではなく、一族そのものを絶やすことを目的とした呪い――血を断つ呪詛だというのだ。しかも『末端が二十歳を超えても一人っ子だった時』に発動する仕組みらしい。仕込まれたのは数十年、いや数百年前かもしれない。相当な執念と怨恨の産物だ。
セイラの先祖がいったい何をやらかしたのかは想像もつかない。だが、俺がやるべきことは一つ。――彼女を救う。それだけだ。
そう決めて、何用かわからないが、治療院に置いてあった木刀を携え庭へ出る。冷えた空気の中、上半身裸になり、汗を流すつもりで素振りをはじめた。
振るたびに腕に負荷がかかり、心臓が鳴る。だが今日はそれに加えて、魔技の訓練も兼ねる。
グレンから聞いた魔技習得の方法は、魔法のように放出するのではなく、魔力を纏わせて維持するイメージだという。
魔法は体内の魔力を外に具現化して放つ。
対して魔技は、魔力を体や武器に纏わせるもの。放出はしない。
例えばグレンの<虚刃>は、魔力で剣を伸ばした斬撃だが、あれも放出ではなく纏いの延長線だという。ならば俺も剣に魔力を纏わせればいいのだが――
「………………だぁっ! 全然わかんねえ!」
声が庭に虚しく響く。
ジジイに魔法を叩き込まれた時も随分苦労した。魔技だって習得に膨大な時間を要するらしい。
もしかすると、一生習得できない可能性すらある。そんな不安が胸をかすめた。
「――精が出ますね」
「早起きだな」
一息入れようとした時、既に修道服を纏っていたマリエルが現れた。
いつもクールな雰囲気の彼女だが、その根底には人を助けたいという信念があることを、俺は感じ取っている。
「今日はセイラ・クローヴァーの家への訪問ですね」
「ああ、頼むよ」
「…………」
会話が終わったと思ったのに、マリエルはじっとこちらを凝視してきた。
その眼差しは鋭く、眼鏡越しに射抜かれるようで思わず身じろぐ。
「……なんだよ」
「木刀を振る姿といい、その鍛え抜かれた肉体といい……あなたが本当に修道士なのか、疑いたくなるのです」
「セイラのオヤジさんには修道士だと説明したが、俺はプリーストだ」
「プリースト……あなたが、ですか?」
信じられないとでも言いたげに、マリエルの瞳が光る。
「聖職者のジョブに限っては――一般教徒である修道士やシスターからはじまり、助祭・ディーコン、司祭。プリースト、司教。ビショップ、大司教・アークビショップへと昇っていきます」
「なんだそれ……そんな仕組みがあるのか」
また知らない知識が増えた。
魔法使いや剣士にも、同じように階級や上位ジョブが存在するのかもしれない。ジジイだって元剣聖と言っていたし、ただの剣士ではなかったのだろう。
「知らなかったのですね。階級が上がれば強制的にジョブも成長します。ですが、それ以外でも鍛錬によっての昇格は可能です。――けれど、あなたの場合はどう考えても成長の過程をすっ飛ばしている。もし本当にプリーストなら、それは前例のないことです」
「成長過程をすっ飛ばしてる……」
俺がプリーストだと断言できるのは、転生時に女神がそう告げたから。そして、イリスやババアが<鑑定>した結果もそうだったはずだ。
「そうか……で、そのジョブの差って具体的に何なんだ?」
「いくつかありますが……一つは使える魔法の幅です。聖職者の場合、修道士はいくら鍛錬しても下級光魔法までしか使えません。一段上のディーコンになって、ようやく中級光魔法が扱えるようになるのです」
「マジか……」
つまり俺は、このまま鍛えても<ヒール>程度の魔法しか扱えない――そういうことになる。ただしマリエルは「聖職者のジョブに限り」と言った。ならば他のジョブにはこの制限がないのかもしれない。
それに、神官のエリナは中級光魔法を扱っていた。おそらく彼女はすでに高位ジョブに就いてから冒険者になったのだろう。
「じゃあ、聖女はどうなんだ?」
「聖女様は生まれた時から素質が桁違いです。鍛錬次第では、最上位である特級魔法にまで扱えます」
「すげぇな……」
イリスがどこまで使えるのかは知らないが、恐ろしいほどの可能性を秘めているのは間違いない。
今日一日でよくわかった。――俺は今、中級光魔法までは習得できるのだと。
やがて時間となり、俺はマリエルと共にセイラの家へと向かった――。