※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

46 / 115
第44話 セイラの容態

 ――石造りの、少し高めの建物。

 

 日本でいうところのマンションに近い造りのその建物の中へ、俺はマリエルと共に足を踏み入れていた。

 前世の知識や技術がこの世界に流れ込んでいるせいか、階段の造りや各部屋の配置など、どうにも現代日本の集合住宅を思わせる雰囲気が漂っている。

 

 ただし、エレベーターは備えられていないようだ。魔道具を駆使すれば造れそうな気もするが、火魔法を応用したコンロのような小規模なものと違い、昇降機となれば相当な魔力と技術を要するのかもしれない。

 

「ここが……セイラの部屋か」

 

 目的の部屋の前に到着した俺とマリエルは、ドアの上に取り付けられた小さなベルを鳴らす。

 カランカラン、と乾いた音が廊下に響いた。

 

 今さらながら、アポなしで来てしまったことに気づく。もしセイラが眠っていたり、家に一人きりだった場合、このベルの音に気づくこともできないかもしれない。

 胸の奥で小さな後悔を覚えつつも、俺はしばし反応を待った。

 

「…………反応がないな」

「やはり突然すぎましたかもしれませんね」

 

 待つことおよそ一分。扉は開かず、物音すらしない。

 仕方なく踵を返そうとした――その瞬間だった。

 

「――誰だ」

 

 ギィ、と軋む音とともに扉が開き、中からひとりの女性が顔を覗かせた。

 淡い水色の髪。だがその美しい髪色とは裏腹に、顔色はひどく悪い。痩せこけ、頬はこけ、食事すらまともに取れていないことが一目でわかる。

 その姿から、彼女こそがセイラ・クローヴァーであると確信した。

 

「俺は診療所から来た修道士だ。えっと……あの豚……じゃなくて、アラスターさんだっけ……から聞いて……」

「ああ、豚おじの……」

 

 お前も豚って呼んでるのかよ。

 ていうか、あの豚オヤジって血縁者だったのか? どう見ても血縁には見えないが。

 

「アンタがセイラで間違いないな? ――俺は最近診療所に入った者だ。お前の容態を直接診たくてここまで来たんだ」

「ふん……。修道士でそんな口の利き方をする奴ははじめてだ……。だが、私に構う必要はない。帰れ」

 

 セイラは冷たく言い放ち、ドアを閉めようとする。

 俺は反射的に隙間へ足を滑り込ませた。

 

「貴様ぁ……この……ごほっ、ごほっ……!」

 

 睨みつけてきたセイラの瞳が揺れ、次の瞬間ひどい咳が込み上げた。ドアノブを握る手が力を失い、彼女はそのまま床へと崩れ落ちる。

 

「おい、大丈夫か! ――マリエルっ!」

「ええ、すぐに中へ運びましょう!」

「ぐっ……! うぅ……お前たちの手など……借りる気は……ごほっ、ごほっ……」

「そんなこと言ってる場合か! 無理矢理でもベッドへ運ぶぞ!」

「わかっています!」

 

 俺とマリエルは顔を見合わせると、即座に行動へ移った。

 二人がかりでぐったりとしたセイラの体を抱き起こし、なんとか部屋の奥のベッドまで運び込む。

 

 こうして、俺たちはようやくセイラを寝かせることができた。

 

 

「……く、薬……」

 

 ベッドに横たわったセイラが、弱々しくベッドサイドのチェストを指差した。

 そこには俺が処方した薬が置かれており、横には水差しとカップも用意されている。俺はすぐさま水を注ぎ、彼女の手に渡した。

 

「んくっ……んくっ……っ、ぷはぁ……」

 

 勢いよく薬を水で流し込み、荒い呼吸を整えること数分。

 先ほどまで苦しげにしていた体も落ち着きを取り戻し、セイラはようやく安堵の吐息を漏らした。

 

 

「……神殿騎士のようですね」

 

 セイラが落ち着くのを待つ間、マリエルは壁にかけられた長剣へ視線を向けながら口を開いた。

 

「神殿騎士?」

「ええ、教会所属の騎士のことです。王都を拠点とする国の王国騎士とは違い、神殿騎士は国中に配属され、異端者の排除や浄化を行うのが主な役目……」

「ふむ……浄化ってのは何だ?」

 

 聞き慣れない言葉に思わず問い返す。マリエルは神妙な表情で続けた。

 

「教会は国そのものを統治しているわけではありませんが、影響力は絶大です。だからこそ、教会に仇なす存在を滅する――それが浄化。表向きは信仰と秩序を守るためですが、実際には政治的な意味合いも大きいのです」

「じゃあ、異端者の排除とは別扱いってことか」

「ええ。異端は教義から外れた者や魔に手を染めた者。ですが、浄化は国家転覆や教会の安定を揺るがす者に下される罰……。国と教会は表向き協力関係ではないですが、どちらも互いに倒れては困るため、結局は切り離せない関係なのです」

 

 それって……ブルドグに当てはまるんじゃないか?

 帝国と繋がっているだとか、女たちを集めて性ビジネスを強いているだとか、さらにゴブリン育成までしているとか――やってること全部アウトだろ。

 

「ちなみに――あなたが街中で行使した回復魔法。一歩間違えれば異端審問にかけられていたかもしれません」

「なっ……マジかよ……」

「もし神殿騎士であるセイラさんに見つかっていれば、逃れるのは不可能だったでしょうね」

「……ってことは、見つかったのがマリエルでよかったわけか」

「ええ。私はただの助祭ですから」

 

 マリエルが口にしたのは一般教徒よりも一段階上の階級だ。

 

「助祭? てっきり一般信徒かと思ってた」

「いえ、こうしてあなたのような特異な人を見つけたときに、教会へと導くのも私の役目です」

「へえ、優秀なんだな」

「い、いえっ……私などまだまだ……っ」

 

 褒められ慣れていないのか、マリエルは急に耳まで真っ赤にして取り乱す。

 普段はきっちりした態度を崩さないくせに、こういうところは妙に可愛げがある。

 

 俺は苦笑しつつ、セイラへと視線を戻した。

 

「――それで、セイラ。お前は自分の身に何が起きているのか知っているのか?」

「わかるわけないだろう。こんな奇病……」

「体力と魔力が奪われ続けるって話なんだろ?」

「自分の体だ……死期が近いのはわかっている。消えかけのろうそくの火のようなものだ」

「…………そうか、お前の体の病状、聞きたいか?」

「はっ……何を今更……それに、私の病状を貴様が知っているだと? 誰にもわからないこの病気のことを、ぽっと出の貴様が知るはずがないだろう」

 

 まあ、普通はそう思うだろう。

 でも俺は知っている――昨日、この部屋に忍び込んだイリスが<鑑定>してくれたからだ。

 

「シュウ、嘘はやめなさい。昨日カルテを見たとき、あなただって驚いていたじゃありませんか」

 

 マリエルが鋭く言う。だが俺は真剣な眼差しで首を振った。

 

「マリエル……悪いが、部屋を出てくれないか」

「なにを――」

「頼む、セイラと二人で話したいんだ」

 

 その表情が冗談でないことを悟ったのか、マリエルはしばし考え込み――小さくため息をついた。

 

「……わかりました。昨日のあなたの活躍を認め、三十秒だけ許します」

「短すぎだろ!」

「では……五分」

「ああ、それで十分だ」

 

 そう言ってマリエルは扉へと向かい、静かに部屋をあとにした。

 

 

「そもそもここは私の家なのだが……なぜお前が部屋にいる人物の出入りを決めている」

「まあ、小さいことは気にすんな……。これから話すのは真剣な話だ。信じてくれるかわからないが、真実だ」

「ふんっ」

 

 ベッドの上のセイラは、顔を窓のほうへ背けながらも、耳は俺の言葉を拾っていた。拒絶しているようでいて、どこか期待も混じっているように見える。

 俺は深く息をつき、切り出した。

 

「セイラ。お前の体の異常――あれは病気じゃない……呪いだ」

「……な、に……? 呪い?」

 

 衝撃の宣告に、セイラは反応するしかなかった。

 

「なぜ俺が知っているか、今は詳しくは言えない。だが確かに知っている。そしてその呪いは――『枯血呪《こけつじゅ》』というものだ」

「…………」

 

 セイラは押し黙り、しかし否定もせずに俺の言葉を待った。

 

「『枯血呪』には発動条件がある。血族の末端が二十歳を過ぎても一人っ子だったときに発動する。つまり、この呪いは……お前の血筋を絶やすために仕掛けられたものなんだ」

 

 どれほど昔に仕込まれたのかはわからない。セイラに直接かけられたわけでもないかもしれない。

 だが彼女に関係ないのだとしたら、完全にとばっちりだ。本人にはなんの罪もない。

 

「ははっ、ははははははははっ!!」

 

 突如、セイラが笑い声を上げた。涙が滲むほどの笑い。嘲りか、絶望か、それとも諦めか――読み取れない。

 

「ついに、ついにやってきたというわけか……ああ、そうだろうな、そうだろうさ。このうす汚れた血筋など、王家には必要ないだろうからなっ!!」

「…………王家?」

 

 俺の思考が止まる。予想もしなかった言葉だった。

 

「私は数百年前、当時のエインフィリア王の妾から派生した血筋。その末裔だ」

「……!」

「王家の血というだけで、周囲は勝手に特別視する。直系でないこの血筋を邪魔だと思う連中がいて当然だ」

「これまでも……何かあったのか?」

「ああ。だから私は自ら王家から距離を取り、教会に身を寄せた。教会は心地良い……王家とは違って、私を平等に見てくれる。実力を買い 、神殿騎士にだってしてくれた」

 

 語られたのは、彼女の背負ってきた孤独と過去だった。

 高貴に見えるその姿の裏に、俺の想像をはるかに超えた重荷があるのだ。

 

「……なら、あのアラスターって人は、王家の血なのか?」

 

 豚おじと呼んでいた。血縁者だとばかり思っていたが――

 

「ふっ、お前もあのマリエルとかいうやつも、本当に何も知らないらしい……」

「え?」

「今の私には身寄りがないし親もいない。……そんな私を引き取ってくれたのが、あの豚おじだ……故に血縁などはない」

「父さん……とは呼ばないのか」

「本当の娘とすれば、豚おじに余計な火の粉が降りかかる。それを避けるため、養子縁組もしていない。それでも、彼は私を育ててくれた」

 

 そこに偽りはなかった。血の繋がりはなくとも、彼女にとっては確かな家族。

 その言葉に、俺はほんの少し、自分の境遇と重ねてしまった。

 

「……で、話は終わりか? 呪いの真実を伝えて、私を追い詰めて楽しいか?」

「なかなかひねくれてるな……でも、そう思われてもしょうがないか」

 

 俺は一歩、セイラへと踏み込む。

 そして告げた。

 

「――俺はお前の呪いを解呪できる」

 

 その一言で、空気が変わった。

 

「…………なに?」

 

 セイラは顔色を変え、荒い息を吐きながらベッドから立ち上がる。

 そして、壁にかけられた剣を掴み、俺に向けた。

 

「貴様っ、私をこれ以上愚弄する気かっ!!」

「バカっ! 部屋の中でっ! 剣を、振り回すなっ!!」

 

 怒気を纏った剣筋は、体調が悪いはずなのに恐ろしく鋭い。

 俺は必死にかわし続けながら、心の中で叫ぶ。

 

 くそっ、このままじゃ本当に斬られちまう……!

 申し訳ない気持ちになりながらも俺は覚悟を決め、<麻痺>を発動させた。

 

「なっ……身体が……!」

「悪いな、セイラ。でも最後まで話を聞いてくれ」

 

 痺れで動けなくなった彼女を支え、ベッドへと横たえる。

 

「本当に俺は呪いを解呪できるんだ。だから少しだけ待っててくれ――」

 

 俺はセイラに手をかざし、治療方法を調べる。

 

「な、なんだよこれ……!?」

 

 ……わかっていた。わかってはいたんだ。

 死に関係する呪いなど、どう考えても、難易度の高い要求がされるのだと――

 

 指示されたのは、とても人に言えるような方法ではなかった。

 

 

 ――『三日に渡り、尻穴に指を入れて揉みほぐす』

 

 

 あまりに非常識すぎる解呪条件に、俺は思わず頭を抱えた。

 こ、こんなの、ドスケベ肛門拡張じゃねえか!!

 

 

 

 

 





【★宣伝★】
本作の書籍第一巻が4月24日に発売されます!
ぜひともご購入お待ちしています!

Amazon
楽天ブックス
一二三書房公式サイト
以下サイトはえっちな特典付きです!
ゲーマーズ
メロンブックス
とらのあな

作者のXのフォローもお待ちしています!
藤白ぺるかのX
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。