完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
尻穴に指を突っ込むという、前代未聞の手段。さすがの俺も頭を抱えた。
正直、胸を揉んだりしゃぶったりした方が、まだマシだったかもしれない。
――だが、問題はここからだ。
どうやってセイラに信じてもらえるか。
そういえば、今は『麻痺』状態のままだったな。……よし、試してみるか。
「セイラ……俺は呪いを解呪できる……だが、信じてくれないと思う。そこで今お前にかかっている『麻痺』を解くから見ていてくれ」
「そも、そも……なぜ、わたしは、麻痺……に……」
「えっと……それはマジでごめん」
「クソ、ガキ、が……っ」
全身を硬直させたまま、顔だけ俺を睨みつけてくる。
その眼光の鋭さたるや、まるで蛇に睨まれた蛙だ。俺の背中に冷たい汗が伝う。
「ともかく、やるからな――<完全解呪>」
俺は『麻痺』だけを指定し、スキルを発動。
ただし、今回は触れずにだ。直接触れれば十数秒で済むが、物理接触抜きでは……少なくとも数十分はかかるだろう。
「なにか、してるのか……本当に、わけが、わからん……クソ、動かん……」
「できれば、動けるようになっても、俺を襲わないでくれ……」
「殺す……」
「勘弁してくれ……」
殺意まで向けられはじめたらどうしようもない。
だが、この沈黙の時間がもったいないので俺は説明を始めた。
「俺は女神様から授かった<完全解呪>ってスキルを持ってる。これはどんな呪いも状態異常も完全に治すことができるスキルだ。これまでに何人もの人の治療を行ってきた。呪いだって治した実績もある」
「女神、様……だと……? その名を使って、虚偽を述べたと、したら……異端、審問に……っ」
本当のことを言えば、女神と直接話したことすらある。
けど、そんなこと口にした瞬間、異端認定まっしぐらだ。
しかも今ここで聖女候補のイリスに〈鑑定〉で確認してもらってるとも言えない。
「俺は全部本当のことを言ってる。だからお前がもし、死にたくないと思うなら、考えてみてほしい。まだ二十歳そこそこなんだろう。これから先、まだまだ未来があるはずなんだ――」
口にした瞬間、胸の奥に、忘れられない名前が浮かんだ。
――六花。
あいつだって、誰が見ても将来有望だった。
成績優秀で人当たりもよく友達も多かった。
なのに、たった十五歳で――。
「だから、俺はお前に諦めてほしくない。生きて、やりたいことをもっとやってほしい」
「…………」
セイラの瞳がわずかに揺れた。
怒りとも、迷いともつかないその感情の奥に、ほんの少しだけ、希望のようなものが灯った気がした。
「――シュウ、終わりましたか?」
タイミングの悪いことに、マリエルが戻ってきてしまった。
だが、まだセイラに伝えなければならないことがある。
「マリエル……悪い。先に治療院に戻っててくれないか。あとでちゃんと行く」
「まったく……あなたという人は。まあ、いいでしょう。治療院で待っていますからね」
「ああ、助かる」
短いやり取りだったが、そこに以前よりも信頼の色が見えた。
マリエルはそれ以上何も言わず、軽くため息をついてから部屋を出ていった。
俺は扉が閉まる音を聞き、再びセイラの方へと向き直る。
依然として体を動かせない彼女の傍らで、〈完全解呪〉の光を維持したまま、『麻痺』の治療を進めた。
―― 結局『麻痺』の治療一つに三十分もかかってしまった。
「……体が、動く……」
「け、剣は没収させてもらうぞ」
「もう斬らん……なぜ『麻痺』にかかったのかは明らかに怪しいが、その『麻痺』は今治っている。通常<キュア>や薬草、ポーション以外では治らないはずなのに」
セイラはベッドの上で上体を起こし、ぎこちなく指を握ったり開いたりして、自分の手が動くことを確かめている。
その目には、わずかに戸惑いと警戒が入り混じっていた。
「…………それで、本当に私の呪いを解呪できるとして、お前は何かまだ隠しているのだろう?」
「鋭いな……ああ、さっきの『麻痺』の回復とは、また別だ。俺のスキル<完全解呪>は、人やその呪いや状態異常によって治療方法が異なる」
「それで?」
「心して、聞いてくれ……」
俺は一度、深く息を吸い込み――覚悟を決めた。
「――お前の『枯血呪』を解呪するには、三日間、尻の穴を指で揉みほぐす必要がある」
口に出した瞬間、自分でも頭がおかしいと思った。
けれど、笑うわけにはいかない。これは命に関わる問題だから。
「貴様……本気で言っているのか……?」
セイラは目を逸らしたまま、低く、地を這うような声で尋ねた。
その肩が怒りに震えているのがわかる。
「ああ、本気だ。信じるかどうかは任せる。でも、俺はただ――目の前で苦しんでいる人を助けたいだけだ。たぶん、俺が今お前に出会ったのも……何かの縁だと思う。だから、セイラ。お前には助かる権利があるんだ」
「…………」
「解呪が成功しなかったら、俺をその剣で殺してくれて構わない。でも、もし本当に解呪が成功したら……そのとき、聞いてほしい話がある」
ブルドグの悪行について。
彼女がもし俺を信じてくれたなら、きっと協力してくれるはずだ。
「今日はこれで帰る。また明日来る。その時、答えを聞かせてくれ」
「…………」
セイラは黙ったまま、俺の背を見送った。
けれど、さっきのように剣を振り回すことはしなかった。
その後、俺は治療院に戻り、昨日同様に患者を診ながら――ブルドグの情報を集め続けるのだった。
◇◇◇
「――あの、クソ修道士……一体、何なのだ……」
思わず、ベッドの上で呟いてしまった。
これまでにも優しい修道士やシスターはいた。
私の病を気にかけ、薬を処方してくれた。
だが、誰一人として家にまで訪ねてきた者はいない。
それなのに、よりによってあんな無礼者――神殿騎士である私に対して、言葉遣いひとつ礼を欠くような奴が……なぜ。
「『麻痺』の付与に、『麻痺』の治療……そして、私の呪いを見抜き、解呪できるとまで……」
信じがたい話だ。
だが、実際に『麻痺』は治った。
結果が事実としてそこにある以上、否定のしようがない。
――にもかかわらず、あの男のことは謎だらけだ。
女神様から授かったスキルなど、聞いたこともない。
そもそも、どうやって女神様から授かったと断言できるのか。
考えれば考えるほど怪しい。
けれどあの時――彼の瞳に映った光だけは、どうしても嘘とは思えなかった。
あれは神殿騎士として誇りを胸に戦ってきた私のそれと同じ光だったから。
「ただ…………お尻って、なんだ……意味がわからなすぎるだろう……っ」
生まれてこの方、男に肌を晒したことなどない。
清廉な体を清め鍛え、神殿騎士としての道を登り詰めてきた。
そんな私が――初対面の男に、尻の穴を見せる?
……いや、あり得ない。あり得るはずがない。
しかも見せるだけではない。指を入れるなど常軌を逸している……っ。
「セイラ、起きていたか」
「豚おじ……」
タイミングよく、豚おじが様子を見に来た。
彼は私の親代わりのような温かい人。私の血筋を知って、引き取ってくれた優しい人だ。
「鍵はちゃんと閉めておかないと危ないぞ」
「ああ……来客があってな」
「ん? 来客?」
豚おじは手に柔らかいパンやスープの包みを持っていた。
それをテーブルに並べながら、穏やかな目でこちらを見た。
「ああ、シュウという修道士だ」
「昨日のあの子か」
「知っているのか?」
「ちょうど昨日、セイラの薬を処方してくれたのが彼だよ。まさか直接様子を見に来てくれていたとはな……」
「…………一つ、聞きたいんだが。豚おじから見て、あいつは……どういう人間なんだ?」
豚おじから見たあいつがどんな奴なのか知りたかった。
すると豚おじは少し考え、眉を寄せた。
「…………聖女様にも感じたような……いや、それ以上……会った瞬間から色々と違和感を感じていたが…………彼は女神様に祝福されているのかもしれない」
「…………っ!」
胸の奥がざわついた。
ヤツが言っていた女神様からスキルを授かったという話が真実味を帯びてくる。
「私に〈鑑定〉のスキルはないが、それなりに人は見てきたつもりだ。だが、彼のような空気を持つ者には……そうそう出会えん」
「……本当に……? でも……お尻が……」
「ん? お尻?」
「あ、いやっ、気にしないでくれ!」
豚おじに呪いの解呪方法について言えるわけがない。
尻の穴に指を突っ込むだなんて……言えるわけがないだろう……っ。
「…………セイラ、今……幸せか?」
不意に、豚おじが遠くを見るように言った。
「ふっ……豚おじに面倒を見てもらうようになってからは、ずっと幸せだ。神殿騎士のことだけを考えていればよかったからな」
「そうか……それなら、まだ生きたいよな」
「当たり前だ。やっとこの地位まで上り詰めて、この街を任されたんだ。……今の私は、部下たちに顔向けできないけれど、それでも――もしこの奇病が治るなら……」
「本当にすまない。私には何もすることができなくて」
違う。
豚おじが謝ることなんて、一つもない。
あなたが私を拾ってくれたから、今の私がいる。
あの日からずっと、感謝しかないんだ。
「――豚おじは、私が……もう少し長生きしたら、嬉しいか?」
「それを愚問というのだよ、セイラ。……養子縁組なんて関係ない。お前は、最初から私の娘だ」
「……そう、か…………」
胸の奥が温かくなって、少し涙が滲んだ。
そしてこの瞬間――覚悟が決まったのかもしれない。
死の恐怖と比べたら、恥ずかしさなんて取るに足らない。
三日間だけ、耐えればいい。それだけで、生きられる。
……生きて、また豚おじの笑顔を見られるのなら。
そのためには、準備だって必要だろう。
「なあ、豚おじ…………ローションって、知ってるか?」