完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
――シュウが二日目の治療院での業務を終えた翌日。
昨夜、地下施設に侵入した際の情報をイリスに報告したメディナは、翌朝になり、さっそく冒険者ギルドに向かい、その件について正式に報告しようとしていた。
「グ、グレンさんが……いない!?」
「ええ、今日は早朝からパーティー全員でどこかに向かうそうで、ギルドには顔を出さないとのことです」
「困りましたね……」
オリーブ色の髪を揺らす受付嬢リーナに要件を伝えると、『銀の刃』は全員出払っており、ギルドには来ないという。
それを聞き、イリスも思わず眉をひそめた。
「ギルドマスターに、至急報告しなければならないことがあります。繋いでいただけますか?」
「わかりました、緊急要件なら致し方ありません。少々お待ちください」
そう告げると、リーナは上階へと向かい、ギルドマスターのバーグに連絡を取った。
ほどなく、イリスとメディナはバーグの執務室に通され、昨日確認した内容を詳細に伝えることになった。
「――ふむ、帝国の商人と契約……それだけで異端審問にかけられかねない案件だな……」
「はい、グレン様たちには早急に伝えなければなりません」
「ああ、しかしな……今、あいつらが正確にどこにいるのか俺も把握していない。地下施設に関して個別に動いているのなら、ブルドグの屋敷か、あるいは他の冒険者に声をかけているのかもしれん……それにしても、衛兵のジルべか……」
メディナが伝えたのは、地下施設に侵入した際の報告だ。
ブルドグが帝国の承認のもと契約を結んでいたこと、そして衛兵ジルべがその施設の利用者の一人であったこと。
「『銀の刃』や私たちの検問をしていたのもジルべという衛兵です。ですから、その方を通じて、グレン様たちの動向も……」
「クソ……この街の誰が味方で、誰が敵なのか、全く見分けがつかねぇ……」
バーグは額に手をやり、頭を掻きながら険しい表情を浮かべた。
「ともかく、私たちは『銀の刃』を探して回るしかないな」
「もしギルドに戻ることがあれば、すぐに伝えておきます」
「頼む……」
バーグとの情報共有を終えたイリスたちは、ギルドを出るや否や、その足でグレンたちの行方を追い始めた。
◇◇◇
『――俺たちには、俺たちのできることをしよう』
そう、グレンの呼びかけで、早朝から動き出していた『銀の刃』の四人。
ブルドグが管理していたとされるゴブリンを討伐したことで、自分たちが狙われる可能性を理解していたため、表立った行動は控えていた。
だが、シュウたちへの協力を決めた以上、何もしないわけにはいかなかった。
「朝っぱらから悪いな、マスター」
「ほんとよぉ……うちは夕方からが本番なのに」
二階の奥からゆっくり降りてきたのは、露出多めのキャミソールワンピース姿に身を包んだ、大人の女性。色気のある雰囲気を纏い、口にはタバコを咥えて、どこか気だるげな様子だ。
彼女はギルドマスターではない。夜の街で情報を握る酒場のマスターで、夜は賑わうため、話しにくいことを聞くには人通りの少ない朝を狙ってやってきたのだった。
「で、四人揃ってどうしたのよぉ?」
「ああ、ちょっと聞きたいことがあってな……」
「へえ……よほど切羽詰まってるのかい?」
「ああ、まあ、一応な……」
グレンはマスターを信頼し、事の経緯を端から端まで正直に話した。
「ふーん……そいつはつまり、女の敵ってことかい?」
「そうなる。俺たちが把握しているのはそれだけだが、裏では他にも色々やっているはずだ。簡単に言えば、追い詰めるための材料が欲しいんだ」
マスターは煙をふかしながら、さらに話を進める。
「そうさねぇ…………アタシが知っているのは、そいつの屋敷では、夜な夜なパーティーが開かれているらしい。アタシにできるのはコンパニオンの紹介くらいだけど……意味はわかるだろ?」
「潜入する、ということか?」
「ああ。ただ、逃げられなかった場合、どんな目に遭わされるかわからないよ。そこだけは覚悟しておきな」
マスターの話を聞き、グレンは仲間たちを見渡した。今は四人バラバラに行動するのは危険だ。それでも、今得た情報を有効活用するためには、誰かが潜入し証拠を掴むしかなかった。
「私、やります!」
「エリナ……」
「グレンにはリシアがいますから、そんなことはさせられません」
「エリナ、本当に大丈夫?」
グレンとリシアは、心配そうな視線を彼女に向ける。
「はい。でも、危なくなったら助けてほしいです」
「当たり前だ。屋敷の前でいつでも突入できる態勢で待つ」
ガロはエリナの背中を軽く押すように、万全の備えを示した。
「決まり、ですね――しっかり変装して向かいます」
すると、マスターがコトンと長テーブルの上に小さな物体を置いた。ピアスほどの小さな結晶状の魔道具だ。
「これは……?」
「記録の魔道具さ。証拠を掴むなら、しっかり残しておかないとねぇ」
「ありがとうございます! これを使って、ブルドグ大司教の悪事の証拠を掴んでみせます!」
エリナは魔道具を握りしめ、瞳に覚悟の炎を宿した。行動は既に決まった。あとは夜の幕が下りるのを待つだけだ。
◇◇◇
「――全然見つかりませんね……」
「はいぃ……」
イリスとメディナは、グレンたちを街中で探していた。しかし、この冒険都市ハレスは非常に広く、情報もなく簡単に目当ての人物が見つかるような街ではなかった。
「仕方ありませんね。一度、鍛冶屋に向かい、シュウ様とメディナ様の武器を受け取りましょう」
「はいっ」
二人がやってきたのは、西地区にある鍛冶屋ナッデム。扉を開けると、桃色の髪を揺らしたカルタ・ロッソが元気よく迎えてくれた。
「あー! お客さん! 武器、できてるッス! でも……」
カルタの表情にはどこか微妙な緊張感が漂う。奥へ一旦引っ込み、今度は店主であるゴッデア・ナッデムを連れて戻ってきた。
「よう、来たな……ロングソードは完璧に仕上げておいた。じゃが――」
ゴッデアはシュウの愛剣であるロングソードを丁寧にテーブルに置いた。続いて机の上に置いたのは、刃の半分が紫色に鈍く光る、見るからに怪しいナイフ。
「こいつは人生で初めて目にする素材じゃったから加工にとても苦労した……正直、まだ小さなお前さんに渡して良いものか判断に迷う……じゃから、ちょっとこれを見てくれ」
そう言うと、ゴッデアは少し古びた、もう使わない剣を取り出し、紫色のナイフを突き立てた。すると――
――ジュウウウウウウウ……。
焼けるような音とともに、紫色の泡がぽこぽこと噴出し、瞬く間に剣は溶けるように折れてしまった。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ……!」
「これは……っ」
メディナは恐怖で顔を引き攣らせ、イリスは鋭く目を細めた。
「ワシはこの焼けるような猛毒を持つナイフを『火毒《かどく》のナイフ』と名付けた。使い方を誤れば、一突きで相手を死に至らしめることも可能じゃ……」
ゴッデアは専用の柄を取り出し、ナイフをしっかり収める。
「柄は特製じゃ。同じ素材で作られているから、溶ける心配はない……じゃが、本当に使う気か?」
「使い……ますっ! シュウ様のために、私、必ず役に立ちたいですっ!」
メディナの瞳には、最初の恐怖は消え、強い意志が宿っていた。
「メディナ様なら大丈夫です。きっと上手く使いこなしてくれます」
「は、はいっ!」
「なら、渡そう」
こうして、イリスとメディナは、シュウのロングソードと『火毒のナイフ』を無事に手に入れた。