※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

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第50話 脱出

「くふふ……儲けて儲けて仕方ありませんね……」

 

 執務室で背もたれの高い高級椅子にどっしりと座っていたのは、ウンディル・ブルドグ大司教。

 帳簿に並べられた数字を眺め、思わず笑みがこぼれる。長い赤髪がゆっくり揺れ、窓から差し込む月光を受けて煌めいた。

 

「私が枢機卿の座に上り詰めるには、さらなる実績が必要……そのためには金と帝国の力が欠かせない。公に信徒を使えぬのなら、外部に頼るしかありませんね」

 

 ティーカップの紅茶を静かに啜り、一息つく。

 後にブルドグは立ち上がり、ゆっくりとソファに腰を下ろした。

 

「ゴブリンの洞窟は一つ潰されましたが、作ろうと思えばいくらでも作れるでしょう。地下の性ビジネスも順調そのもの……今日も協力者たちが、いたいけな女性たちを相手に楽しんでいるはず……」

 

 薄ら笑いを浮かべ、今度はそのままソファをベッドにするように横になる。

 

「大司教といえど、さすがに仕事量は多い……少しは休みたいものだが、今は頑張り時だ……そういえば、私が懇意にしている治療院に、素晴らしい新人が入ったとの報告があったな……時間がある時にでも、久しぶりに顔を出してみるか……」

 

 言葉を残したまま、ブルドグは疲れのせいか、そのまま目を閉じ、ソファの上で眠りに落ちた。

 

「――――」

 

 足音、息遣い、物音……何も動いていない空間。

 だが、この夜、確実にそこには誰かがいた。

 

 ブルドグの執務室から、一冊の帳簿が静かに消え去った。

 そして、とある魔道具によって、彼の姿と声が確実に記録されていたのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「回復が追いつかない……っ」

 

 グレン、リシア、ガロ。三人は既に満身創痍で、血と汗にまみれていた。イリスは何度も回復をかけ続けていたが、ドロテイアの執拗な追撃の前ではそれも焼け石に水だ。

 

「そろそろ茶番はおしまいかねぇ」

 

 一方、微塵も傷を負っていないのはドロテイアだけだった。彼女が闊歩するたびに、力と速度で四人を圧倒する。場の空気が、その存在によっていとも容易くねじ曲げられている。

 

「ドロテイア……お前は、どのくらいのレベルなんだ……!」

 

 これほどの差を前に、誰も勝ち目があるとは思えなかった。Aランクの冒険者でさえ歯が立たないだろう相手だ。グレンは、藁にもすがるように、あり得ないと思いつつも問いを投げた。

 

「どうせここで全員死ぬ……いいだろう。教えてやろう――私のレベルは、五十九だ」

「ご、五十九ですって……?」

「俺たちの二倍近くだと……聞いたこともない数値だ」

 

 ドロテイアの口から告げられた数字は常軌を逸していた。『銀の刃』の面々は顔面蒼白になり、現実を突きつけられる。彼らのレベルは三十弱。差は絶望的だった。

 

 ただ、その場に一人、小さな安堵を胸にしまう人物がいた。口には出さないが、その安堵は確かに存在した。

 

「ふふ……人間にしてはよくやったねぇ。だけど、たった一人が動けなくなったら、この戦局は一気に崩れると思わないかい?」

 

 ドロテイアは余裕たっぷりに笑い、さらに不穏な言葉を落とす。

 

「何を――」

 

 グレンが反応した瞬間、イリスが慌てて叫んだ。

 

「み、皆さん、そこから離れてくださいっ!!」

 

 イリスの目は凍りついていた。過去に地下施設で嗅ぎ取った邪悪な魔力の気配を、強く感じ取ったのだ。しかし、警告は間に合わない。

 

「――<淫染呪《いんせんじゅ》>」

 

 ドロテイアが右手を向ける。術式の名が闇に溶けるように響いた。その矛先は、杖を構えるリシアのいた場所を指していた。

 

「な――っ」

「その呪いは――」

 

 イリスから聞かされていた呪術名が耳に入ると、グレンとガロはリシアへと視線を投げた。

 

「――リシアっ!!」

「っ――――」

 

 だが、叫んだのは三人の誰でもなかった。突如、誰かの力でリシアの体が弾き飛ばされ、街路に転がる。彼女を弾いたのは――

 

「エ、エリナ……?」

 

 かすれた声が上がる。屋敷の中にいたはずのエリナが、今戻ってここにいる。だがその戻ってすぐの彼女に異変が訪れてしまう。理性を奪われたような表情が浮かび、体は呪いに蝕まれていく。

 

「ん゙っ……あ゙っ…………体が、あつ、い……っ」

「エリナ様っ!!」

 

 慌ててエリナに近づくイリス。

 自分の身に起きた事象を知っている彼女は、その危険性をよく理解していた。

 故に――

 

「メディナ様っ!」

「ぐっ、うっ……」

 

 ふいにエリナの首に不可視の何かが叩き込まれ、即座に意識を失った。

 

「……何かしたね……? だけど、一人動けなくなったのは事実だ。お前たちはもう終わりだよ」

 

 ドロテイアは爪を煌めかせ、エリナとイリスの方へと近づいていく。勝利を確信したような足取りだ。

 

 しかしイリスの目はなお澄んでいた。諦めの色などない。

 

「――そうですね、終わりにしましょう」

 

 そう言うとイリスは静かに立ち上がり、聖杖を高く掲げた。

 

「――皆さん、目を閉じて!! ――<シャインミスト>」

 

 詠唱が一斉に走ると、眩い光が炸裂した。夜の街路は瞬時に白昼のような、いやそれ以上の強烈な光に包まれる。

 

「ぐぅ――っ」

 

 ドロテイアは直撃を受け、目を閉じて身を翻す。光で視界を奪われ、動きが鈍る。

 

「この程度で逃がすか!!」

 

 だが、単なる光で諦めるほどドロテイアは甘くはない。爪を振るってイリスたちのいる地点へ突進する。すると、そこには半透明の壁が忽然と出現していた。ドロテイアの爪はその壁に阻まれ、鋼の音が響く。

 

「イライラするねぇ……っ!!」

 

 連続で爪を叩き込むと、数秒後――その半透明の壁は破壊される。光の霧が晴れていき、視界が徐々に戻ると、そこにあったはずの者たちの姿は消えていた。

 屋敷の端にあった馬車が一台、すっと姿を消していたのだ。

 

「クソ……遊びすぎたか……まあいい。いつでも殺せる相手だ。次は容赦しないよ……」

 

 ドロテイアは怒りを抑え、闇の中へと去ろうとした。そのとき、自分の肉体に異変を感じた。

 

「――――は?」

 

 右手の五本の爪の先端が、みるみる紫色に変色してゆき、まるで熱せられた蝋のように溶けはじめたのだ。

 

「ぐっ――ふんっ!!」

 

 慌てたドロテイアは左手の爪で、右手の爪を全て叩き斬った。

 切り落とされた爪は瞬く間に溶け去っていく――跡形もなく。

 

「アタシの爪がぁぁぁぁぁっ!! ……あいつらぁ……絶対に殺してやる……!!」

 

 光の霧や半透明の壁がなければこうはならなかったはずだ。

 いつの間にか不可視の攻撃を受けていたドロテイアは、痛烈な怒声を残し、悔しさと憤りを募らせながら、暗闇に溶けていった。

 

 





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