完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
――シュウがエリナの解呪を行っているその頃、イリスとメディナの宿泊する部屋には、五人が集まっていた。
「……やっと落ち着いたな。悪いが休憩は後回しにして、先に情報を共有しておこう」
口を開いたのはグレンだった。
彼の鎧は擦り切れ、盾には幾筋もの傷が刻まれている。だが、イリスの回復魔法により中身の肉体は無事だった。
とはいえ、ドロテイアとの戦闘の疲労は深く、メディナ以外の顔色は皆どこか青白い。
「まず、イリスとメディナには感謝と謝罪を。……俺たちを助けてくれて本当にありがとう。そして、無断で動いたことは悪かった。本来なら一度ギルドに戻るべきだった」
グレンは椅子に座ったまま、深々と頭を下げた。
リシアとガロもそれに倣い、静かに頭を垂れる。
「いいえ……確かに探すのは大変でしたが、皆さんが無事だったことが何よりです。私も正義感に突き動かされて突っ走ることがありますから、グレン様の気持ちも理解できます」
「そう言ってもらえると助かる」
実際、イリスは勢いのまま地下施設へ突入しようとしていた。
だがそれでは、ブルドグを捕らえるどころか、罠にかかって終わっていた可能性もある。
「――それで、これが記録の魔道具ですか」
「ああ。結局、メディナがいなければ記録は残せなかったが……再生してみよう」
「わかりました」
ピアスほどの小さな魔道具をイリスが手渡す。
グレンが壁に向かい<記録再生>と唱えると、魔道具から柔らかな光が溢れ、映像と音声が浮かび上がった。
「――――」
再生されたのは、ほんの数分の映像。
ブルドグが独り言を呟きながら執務室を歩き回り、ソファに腰を下ろして眠るまでの一部始終。
「……これが確固たる証拠となるかはわかりませんが、自ら発言したこと……知らないふりでは済まされないでしょう。それに――」
「帳簿か」
「はい。メディナ様がくすねてくださったこの帳簿には、取引先と金額が細かく記されています。異端審問まで持っていくことができれば、十分な証拠となるでしょう」
「それにしても、どれだけ儲けてるのよ……数字の数がおかしいじゃない……」 「ハレスで稼いでいる有名な商会を超える利益を得ていた可能性もありますね」
リシアが帳簿を見ながら眉を寄せ、イリスは険しい表情で頷いた。
「とりあえず、これらはギルマスに預けよう。……それと次は――ドロテイアの件だ」
その名が出た瞬間、室内の空気が一気に張りつめた。
「おそらく、ドロテイアは本気の半分も出していなかった。俺たちを嬲ってから殺すつもりだったんだろう。だからこそ、あれだけ時間が稼げた」
「同感だ。もし本気なら、全員が瞬殺されていたはずだ。……舐められていたのが、唯一の幸運かもな」
グレンの分析にガロが続ける。
「厄介だったのは、力と速さだけじゃなかった――闇魔法」
「ええ。私がかけた補助魔法が、すべて無効化されてしまいました」
ドロテイアが扱ったのは、闇属性魔法。
それは攻撃よりも妨害に特化した魔法が多く、力・防御・敏捷――あらゆる能力を削ぐデバフが中心だった。
強化を重ねても上書きされ、結果的に無意味となる。まさに格の違いを見せつけられた戦いだった。
「――それでも、です」
それまで沈痛な表情だったイリスが、ふいに顔を上げた。
その瞳には、確かな希望の光が宿っている。
「私は……シュウ様なら勝てると信じています」
「シュウが……勝てる?」
グレンが眉をひそめ、名前を反芻する。
「確かにあいつは強い。だけど、あれを相手にして勝てるとは――」
「いくらなんでも無茶よ」
「ゴブリンクイーンとは次元が違う相手だぞ」
三人が次々と否定の言葉を口にする。
だが、イリスの決意は微塵も揺らがなかった。
「まず一つ、メディナ様の『火毒のナイフ』が通じたことです」
「『火毒のナイフ』……?」
「ええ。シュウ様が持っていた特殊素材をもとに鍛冶師が打った武器です。私たちが撤退する直前、メディナ様が一太刀浴びせました。その瞬間――ドロテイアの爪が溶けたんです」
「……溶けた? どんな代物なのよ、それ」
「言いたいのは、いくらドロテイアが強くとも無敵ではない。攻撃は通るということです」
一筋の希望――それがイリスの挙げた根拠のひとつだった。
だが、まだ確信には程遠い。
「そして、もう一つはドロテイアのレベルです」
「レベル五十九――あんなの反則だろ。……それがどう勝機に繋がる?」
「通常、レベルは高くなればなるほど上がりにくくなります。何百年も生きてきた魔族でさえ、五十九止まりなのです」
「止まりって……それが異常なんじゃない」
グレンたちは意味を測りかねた表情でイリスの言葉を聞いていた。
「シュウ様は……特別なお方です。グレン様も以前、彼のレベルを気にされていましたね?」
「ああ、あれほどの実力だ。少なくとも四十前後はあると思っているが……」
「別にシュウ様も隠しているわけではないようですのでお話します。シュウ様のレベルは――」
イリスがその数字を口にした瞬間、空気が止まった。
メディナを含め、全員が絶句する。
<鑑定>を持つイリスにしか見えない、衝撃の真実だった。
「……本気で言ってるのか……? それなら、まさか――」
「ええ。私は信じています。シュウ様なら、あの魔族にも勝てると」
イリスの瞳はまっすぐで、揺るぎなかった。
その強い信念に、グレンたちの表情にもわずかな光が差し込む。
――その時、コンコンと扉がノックされた。
「……終わったぞ」
軋む音と共に扉が開き、そこには汗に濡れたシュウの姿があった。
短い言葉で、解呪の完了を告げる。
「シュウ! エリナは――!」
「どうなったの!?」
グレンとリシアが同時に声を上げる。
「ああ、解呪は完了した。腹の淫紋も、完全に消えた」
「……シュウ、ありがとう! 本当に……!」
「良かった……本当に、良かった……!」
「お前には助けられてばかりだ。心から感謝する」
『銀の刃』の面々が次々に感謝の言葉を口にし、その瞳には安堵の涙が浮かんでいた。
「……ただ、今のエリナは少し酷い状態だ。女性陣、悪いが介抱とシーツの交換を頼めるか」
「ええ、任せて。イリス、メディナ、行きましょう」
「はい、すぐに」
「わ、わかりましたっ」
そうして女性三人がエリナがいる部屋へと向かっていった。
◇◇◇
エリナの解呪には一時間半を要した。
一度絶頂して気を失っている間はまだ落ち着いていたが、時間が経てばまた目を覚ます。
そのたびに絶頂と気絶を繰り返し、両手の指では足りないほど何度も頂点へ達していた。
解呪が終わると、俺はエリナにカーテンを改めてまとわせ、部屋を出て皆のいる場所へ向かった。
「さてと……まだ聞いていないことを共有してくれないか?」
解呪の間、グレンたちは情報を詰めていたはずだ。
俺はその内容を求めた。
「――その魔族、相当強かったんだな」
「ああ、俺たちじゃまるで歯が立たなかった。ゴブリンクイーンとは比べ物にならん」
ゴブリンクイーンの話が出る。戦力差は明白だ。ドロテイア相手では、より厳しい戦いになるだろう。
「多分、またどこかで狙ってくるだろう。でも、最強ってわけでもなさそうだ」
「どうしてそう言えるんだ?」
「メディナが関係してる」
メディナは俺らの中でレベルは低い方だ。
<隠密>は有用だが、それだけで勝てる相手ではないはずだ。
「シュウ、鍛冶屋で何か凄い武器を作ってもらったんだろう? それをメディナが使ったらしい」
「あ、そういえば治療院に俺のロングソードが届いてたな」
「いつ渡したのかは不明だが、メディナがその武器で爪を一撃したら、爪が溶けたらしい」
「マジで……あの素材、やべぇな」
少しは予想していたが、鍛冶師ゴッデアが作った武器はとんでもない破壊力を秘めていたらしい。
メディナに新しい武器が与えられて良かった。
「だから、不死身というわけではないはずだ。それに、シュウ――君なら勝てると俺は思っている」
「買いかぶりだな」
「ああ、それは俺も同意だ。シュウがちゃんと本気を出せば、な」
これまで会った中で一番強かったのはジジイ、次がおそらくババアだ。ドロテイアがそれ以上なら手強いが……。
それに、グレンたちを血まみれにするほど傷つけた相手――しかも殺さずにいたぶったというじゃないか。
情も湧いてきた友人にそんなことをした相手を許せるわけがねえ。だから――
「――俺がそいつに遭遇したら、必ず仇は取ってやる」
◇◇◇
「エリナ、入るわよ?」
リシアを先頭に、イリスとメディナがエリナのいる部屋の扉を開けた。
「な、なにこれ……すごい匂い……」
ドアを開けた瞬間、湿り気を帯びた特異な香りが三人の鼻をくすぐる。
その正体がエリナの体液によるものだと気づいても、仲間であるリシアは決して臭いとは言わなかった。
三人はそっと足を踏み入れ、ベッドのそばへと近づく。
そして、その光景を目にして息を呑む。
「エ、エリナ……」
「み、湖みたい……」
「まるで、ゼイリーク湖のようですね」
イリスが例えたゼイリーク湖は、四大都市の一つである水園都市ラグア近くの広大な湖。
それほどまでに、エリナの下半身を中心に彼女の体液がシーツを染め、一種の湖を作っていた。
「メディナ、替えのシーツをお願いできる?」
「わ、わかりましたっ」
「イリス、一度エリナを床に移動させましょ」
「はい……了解です」
(エリナ様……私のとき以上の状態に……。シュウ様、一体どんな解呪を……。この匂いだけで、胸が熱くなってしまいます……。いけない、今はそんなことを考えている場合ではありません。この都市を覆う闇を、早く――)
リシアはイリスと協力して、そっとエリナをベッドから抱き起こす。
床に寝かせると<ピュリフィケーション>を重ね、体を優しく清めていった。
やがて十数分後――エリナが、ようやく瞼を開く。
「あ……ぅ……」
「おはよう、エリナ。時間はもう夜中に近いけど」
「リ、リシア……?」
「そう、リシアよ。ほら、私の太もも、寝心地よかったでしょ?」
「あ……はい……とても……」
まだ意識がふわふわしている様子だが、リシアの顔を見ると安心したように微笑む。
「無理しなくていいわ。少しずつでいいから、起き上がってみて」
「はい……」
エリナはゆっくりと身体を起こし、自分がどこにいるのかを確認する。
やがて、イリスとメディナの姿、そして身にまとった緑のカーテンに気づいた。
「エリナ、あなたは私を庇ってドロテイアの呪いを受けたの。覚えてる?」
「ええと……屋敷に潜入して……ジルべに襲われそうになって……メディナさんに助けられて……記録の魔道具を使って……脱出して――」
「そのあたりはメディナから聞いたわ。ジルべには殺したいほど腹が立つけど、今はあなたの状態が優先」
エリナは眉を寄せ、途切れ途切れに記憶をたどっていく。
「屋敷を出たと思ったら、リシアが狙われていて……気づいたら、飛び出してしまって……」
「エリナ、あの時はありがとう。あなたのおかげで助かったわ」
「いいえ……リシアが無事なら、それで……」
「その後のこと、覚えてる?」
リシアがイリスとメディナの方をちらと見ながら、慎重に尋ねた。
「突然、体が熱くなって……首に衝撃が走って……」
「ご、ごめんなさい……!」
メディナが申し訳なさそうにうつむく。
「いいえ……それで、次に意識が戻った時には……口と胸が、とても気持ちよくて……あの……シュウさんが…………」
「シュウが?」
「シュウさんが……あ、あれ? 私……えっ、ええっ!?」
その瞬間、エリナの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「ま、まさか私……そんなこと……っ」
「落ち着いて、エリナ。詳しいことは聞いてないけど、それは解呪に必要だったみたい。だから、シュウのことは……責めないであげて」
リシアの言葉に、エリナは混乱しながらも理解しようと頷く。
だが、イリスがまっすぐな瞳で問いかけた。
「エリナ様、気持ちよかったですか?」
「………………」
イリスの顔を見るエリナ。
すると、シュウにされたこと、自分がどうなっていたのかを完全に思い出す。
「いっ、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!?」
顔を真っ赤にして叫ぶエリナ。イリスは微笑みながら観察し、リシアは深いため息をつく。
その悲鳴は壁を突き抜け、隣の部屋まで響いた。
「顔合わせづれぇ……」
それを聞いたシュウは、複雑な表情をしながらぼやいた。