※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

61 / 115
第59話 聖女の片鱗

 ――冒険都市ハレス、西門前。

 

 次々と現れる大型の魔物。

 一体を倒すだけでも時間と体力を奪われ、前衛は押し下げられていた。

 

 低ランクの魔物にだけ意識を割いている余裕はない。

 冒険者と神殿騎士たちは、じりじりと後退を強いられていた。

 

 一体でもすり抜ければ、西門を破られる可能性が大きくなる。

 いまは辛うじて保っているが――その背後には、まだ数千の群れが蠢いている。

 

 Aランクの冒険者は、そう簡単には生まれない。

 元Aランクのバーグが最前線にいたのも二十年以上前。

 以来、この街でAに届いた者は片手で数えられるほど。

 

 そして今、この街だは現役のAランク相当は――誰一人としていなかった。

 実力でも数でも、状況は明確に不利だった。

 

「隊長〜。これ、本気で詰んでませんかぁ〜?」

 

 薄紫の髪を翻し、騎士剣を振るいながらリーチェが隣で戦うセイラへと声を投げる。

 

「……押し潰される前に、強力な魔物を優先して落とすしかない。数の圧を削るんだ……ッ!」

 

 セイラはそう言いながらも、胸の内でひとつの希望に縋っていた。

 

(……シュウ。もし、あの力が再び使えるのなら――)

 

 だが、同時に<完全解呪・反転>が代償無しとは到底思えなかった。

 千体近くの敵を一斉に沈黙させたのだ。セイラはこの場から消え去ったシュウのことが心配だった。

 

 

「――負傷者は下がってください! 回復は任せてください!」

 

 後方からイリスの声が響く。

 複数の神官が控え、治癒と支援に徹していた。

 

「大丈夫……シュウ様は必ず戻ってきます。だから、私たちは――耐えなければ」

 

 イリスが祈るように言った、その刹那。

 

「――ミノタウロスが抜けたぞぉぉぉ!!」

 

 五メートルを超える巨躯。

 巨大な戦斧を引きずりながら、西門へと突き進む。

 

 Bランク以上。

 この街の中でもグレンたち『銀の刃』が全員でかかってようやく止められる相手。

 

 ――門が破られる。

 

 誰もがそう理解した瞬間だった。

 

「ブモォォォォォッ!?」

 

 ミノタウロスの脚が崩れ、地へ倒れ込んだ。

 左脚が紫に侵食され、泡を吹くように腐り、溶け落ちていく。

 

「メディナ、様……!」

 

 姿は見えない。

 だが、確かにそこにいる。

 

「本来はシュウ様と共にドロテイアに奇襲を……ですが、こちらに残してくださったのですね」

 

 イリスは短く息を吸い、前線へと歩を進めた。

『火毒のナイフ』は、一撃でも通せばいい。レベル差など関係ない。

 メディナが抜け出した魔物を仕留めてくれるなら、まだここはギリギリ安全地帯。

 

「……私も、負けていられません」

 

 聖杖を握り直し、声を張り上げる。

 

「全員――一度下がってください!!」

 

 周囲の冒険者、神殿騎士たちが戦線を後退させる。

 そして、最後の一人がイリスの横を駆け抜けた瞬間――

 

(今、私が単独で発動できる唯一の上級光魔法――)

 

 掲げた聖杖が燐光を放つ。

 

「――<サンクトゥアリウム>」

 

 半透明の聖なる結界が、西門前に大きく円を描くように展開される。

 

 低ランクの魔物は触れた途端に光へ飲まれ霧散し、高ランクの魔物は壁面を叩き続け、鈍い衝撃音が響いた。

 

 だが、結界の一部には既に亀裂が走りはじめていた。

 

 通常、結界は一点でも破られれば瞬く間に消え去ってしまう。

 だが、この<サンクトゥアリウム>は発動し続ける限り、破れた箇所に魔力を注ぎ込めば、再び結界として維持できるのだ。

 

「――今のうちに回復と体勢の立て直しを! 破れた箇所から随時迎撃してくださいっ!」

 

 イリスの力強い声が、戦場を震わせた。

 

「イリスさん……」

「イリス様……!」

 

 冒険者も、神殿騎士も――

 彼女の背中に聖女の片鱗を見た。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「どうしたんだい! 攻撃してこないのかい? ああ、違うね――当たらないだけだったねぇ!」

 

 挑発を交えながら、ドロテイアは影のように動き回り、あらゆる角度から爪を振るう。

 だが、俺はその全てを受け流していた。

 

「お前こそ、どうした。その程度じゃ俺に傷一つつけられないぞ」

「ハァッ……言ってくれるじゃないかッ! なら――<リフォース><リアーマー><リレイター>!」

 

 黒い魔力がドロテイアの腕から溢れ、俺の全身を包み込む。

 

「これで――折れるだろうがッ!」

 

 黒爪が閃き、俺のロングソードは弾き飛ばされた。

 一瞬、手元から武器が消える。

 

「決まったねぇッ!!」

 

 第二撃が、俺の胸を抉らんと迫る。

 

「――<聖製>」

 

 振り下ろされた刃より速く、俺の手には青白い光が凝縮され――『聖製剣』が形を取る。

 次の瞬間。

 

「グギィィィィィィィィィィッ!?」

 

 光が走り、ドロテイアの左腕が鮮血とともに宙を舞った。

 

「き、貴様ぁぁぁぁッ!! なぜっ、なぜ闇魔法が効いていない……ッ!! それに――」

「この剣か? ああ、魔族でも騙されるんだな」

 

 ロングソードを奪われた瞬間に生まれる隙。

 グレンのときと同じ。いや――ドロテイアはさらに深く油断していた。

 

『聖製剣』は、まるで生き物のように軽く、そして鋭かった。斬ったときの手応えは、ロングソードとはまるで別物だった。

 

「きさまぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 怒りと痛みが混じった形相。

 だが、そのとき――視界の後方で、異変が起きていた。

 

 アラスターさんと戦っていたブルドグが、膨れ上がっていた。

 肉が裂け、骨がきしみ、身につけていた物を全て弾き飛ばし、魔物じみた巨躯へと変貌していた。

 

 優勢だったはずのアラスターさんが、一撃で膝をついていた。

 

「危ない!!」

 

 ためらいはなかった。

 そして、今なら――届く。

 

「――<完全解呪・反転>」

 

 ブルドグは力が抜けたように、その場へと崩れ落ちた。

 

「――セイラのために、まだ死ぬなよ。豚のおっさん」

 

 気が緩んだ。ほんの一瞬だった。

 

「ぐっ……うっ…………」

 

 安堵の息と同時に、背中へ鋭い衝撃。

 一部欠けているとはいえ、ドロテイアのまだ健在な右手の黒爪が容赦なく突き刺さっていた。

 

「私を無視して何をしてるんだい? さすがにナメられたものだねぇ……」

 

 そうだ。俺は油断していた。

 だが――同時に、信頼もしていた。

 

 村長が錬金術で仕立ててくれた、この特製ローブの性能を。

 

「な、な…………なぜ…………」

 

 俺はゆっくりと振り返る。

 ドロテイアは爪を突き立てた姿勢のまま、呆然と目を見開いていた。

 俺が無傷でいる理由が理解できていない。

 

「素材のことは俺にもよくわからん。けど……ダイラタンシーって現象に似てるらしい」

「は? ダイラ……? 貴様、何を……!」

 

 強い衝撃には固体。

 弱い衝撃には液体のようになる、不思議な流体。

 現代日本でも話題になったことがある流体だ。

 

 このローブには、それと近い性質が組み込まれていた。

 

 強い一撃に対してだけ、この布はとてつもない硬度を示す。

 だから――強力すぎるドロテイアの爪はローブを貫けなかった。

 

「もう、終わりにしよう。俺も早く戻りたいんだ」

「く……うッ……!」

 

 血を流す左腕を押さえながらも、ドロテイアはまだ戦意を失っていない。

 

「お前は、一つ勘違いをしているよ」

 

 ドロテイアは不敵に唇を吊り上げた。

 

「私はまだ、本気を出していない」

「だからなんだ」

「ふ……ふふふっ……ふははははははは!!」

 

 痛みに歪むはずの表情は、逆に愉悦に満ちていた。

 

「状態異常や呪術は、レベル差が大きいほど効果が通りやすい」

「……そうなのか」

 

 初耳の知識だ。だが、なぜ今それを言う。

 

「私のレベルは五十九ッッ!! 数々の人間の精気を啜り、殺し続けてきた果ての力だよッ!」

「…………」

「貴様に闇魔法が通らない理由は知らないが……呪術ならどうだい?」

 

 確信に満ちた笑み。

 右手が再び俺へと向けられる。

 

「この地に、私以上の相手など存在しない――ッ!」

 

 紅い舌が唇を舐める。

 

「私を求め、溺れ苦しんで死ね――<淫染呪>」

 

 ドロテイアの手から、歪な魔力が放出される。

 その意識を深淵へと誘う漆黒の魔力は、俺の体を包み、そして――――弾け飛んだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『シュウ様は……特別なお方です。グレン様も以前、彼のレベルを気にされていましたね?』

『ああ、あれほどの実力だ。少なくとも四十前後はあると思っているが……』

『別にシュウ様も隠しているわけではないようですのでお話します。シュウ様のレベルは――――――――八十三です』

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……………………何かしたか?」

「意味が、わからない……! なぜだい! 呪いは絶対に効くはずだ! ああ、そうか……効きが遅いだけ……そういう相手もいたさ! 最終的には皆、私の呪いに溺れていった!!」

 

 ドロテイアは必死に言葉を重ねていた。

 だが、左腕から滴る血は止まらない。

 その焦りは、隠しきれていない。

 

「確かにお前のレベルは高いんだろう。だが――俺よりは下だ」

「貴様あ……ッ! つまらない嘘をつくんじゃあないッ!!」

「お前がどれだけ長く生きてきたのかは知らない。だがな――世界は案外、広いんだ」

 

 本当のところ、俺だって世界を知らない。

 だが、あの化け物じみたジジイやババアを思い出せば、自分を頂点と思い込んでいるコイツが、どれほど狭い世界で生きてきたかはよくわかる。

 

「――まあ、俺に呪いが効かなかった理由は、レベル差じゃないんだけどな」

「ぐっ……ぬ、ぬぬぬ……!」

 

 効かなかった理由は、女神の加護だ。

 

 そして今回、レベル差があれば、状態異常や呪いの攻撃も成功しない場合があるとも知れた。

 ドロテイアとの戦いは、また一つ自分の経験として積み重なったようだ。

 

 

 だから――もう終わりにする。

 

「お前は他人にかけた呪いが、どんな苦しみがあるのか知っているのか?」

「呪いを自分にかけるバカがどこにいるんだい! ――死ねぇぇぇッ!!」

 

 最後の悪あがき。

 欠けたままの右手の黒爪が鋭く突き出される。

 

 俺はそれを軽く身をひねって避ける。

 そして、横を通り過ぎる彼女の耳元で、そっと声を落とした。

 

 

「――――――<淫染呪>」

 

 

 

 

 

 

 

 





【★宣伝★】
本作の書籍第一巻が4月24日に発売されます!
ぜひともご購入お待ちしています!

Amazon
楽天ブックス
一二三書房公式サイト
以下サイトはえっちな特典付きです!
ゲーマーズ
メロンブックス
とらのあな

作者のXのフォローもお待ちしています!
藤白ぺるかのX
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。