※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

63 / 117
第61話 目覚めの朝

「――結界、抜けたぞ!」

「押し返せ! 集中砲火だ!」

「だめだ、こっちも来るっ!」

 

 イリスが展開していた上級光魔法<サンクトゥアリウム>は、数千の魔物の圧に耐えながら、辛うじて戦線を支えていた。

 しかし、限界は近い。押し寄せる魔物の勢いは凄まじく、結界には細かい亀裂が走り、ついに一部が破られた。

 

 そこから流れ込んだのは、Bランク以上の厄介な魔物。

 一般の冒険者が対処できる相手ではない。だが――退くわけにもいかない。

 

「どらぁぁぁぁぁっ!!」

「はあああああぁッ!!」

 

 元Aランク冒険者バーグの戦斧が、怪物の首を一息で断ち切り、神殿騎士クローヴァー隊隊長のセイラが騎士剣で分厚い胴を貫く。

 

 その二人の前では、強敵すらなすすべなく崩れ落ちていく。

 だがそれでも、強力な魔物の数は増える一方だった。

 

「皆さん……もう少し、あと少しだけ持ち堪えてください……!」

 

 イリスは震える腕で聖杖を掲げ、崩れた部分に魔力を注ぎ込む。

 しかし修復中にも新たな亀裂が広がり、次々と結界が砕けていく。

 

 西門はまだ突破されていない。しかし、それも時間の問題だった。

 そして、ついに――

 

「っ……!?」

 

<サンクトゥアリウム>の結界全体がガラスが割れるように砕け散った。

 怒涛の黒い波が、冒険者たちへと雪崩れ込む。

 

「うあああああああああっ!!」

 

 絶望の悲鳴が響く中、イリスは唇を噛みしめ、目を閉じた。

 

「シュウ様…………」

 

 その時だった。

 

 砕け散ったはずの結界が――まるで巻き戻すように修復されはじめる。

 

「え……?」

 

 背後から、重く、地を響かせるような足音が近づいた。

 

 片手に抱えられた黒革装丁の特別製の聖典。

 血に濡れた法衣だが、身体はピンピンしており、強く地を踏んでいた。

 

「よく支えたな、イリス・カーネリア。……さすがは聖女候補」

 

 低くよく通る声。イリスは息を呑んで振り返る。

 

「ア、アラスター・ランドレース……枢機卿……!」

「久しいな。前に顔を合わせたのは王都の大聖堂であったか」

「はい……まさか、こちらにいらっしゃるとは……」

「ここしばらくは、娘の世話でな……」

 

 会話は淡々としていたが、今結界を立て直したのが彼であることは明らかだった。

 

「あとは私が抑えよう。魔力回復ポーションを飲め。結界が再度割れた時――その敵を屠るのだ」

「……はいっ」

「もうしばらくすれば、待ち人はやってくるだろう――」

 

 その言葉に、イリスの瞳が揺れる。

 

 名は言われなかった。

 それでも、誰のことかは分かっていた。

 

「皆さん! あと少し――あと少しだけです! 必ず勝利できます!!」

 

 根拠はないが、言葉には確かな力があった。

 

 その言葉に力をもらった冒険者たちが、結界内に侵入した魔物を確実に仕留めていく。

 

 

 ――そして、数十分。

 

「く……さすがの私でも、これ以上は……っ」

「アラスター枢機卿!」

「豚おじ! 弱いとこを放棄しろ! 私が全て斬るッ!」

 

 セイラが叫ぶと同時に、限界を迎えた箇所の魔力をアラスターが意図的に弱めた。

 結界が破れ、魔物が噴き出す。

 

 セイラはその渦へ一直線に踏み込んだ。

 

「私は倒れん。この剣にかけて――ッ!!」

 

 叫びと共に剣を振りかぶった――だが、そのセイラの騎士剣は魔物に届くことはなかった。

 なぜなら――

 

 

「――なぁ、衛兵。俺が倒れたら、下にいる聖女候補のところまで運んでくれ」

「え……誰だアンタ!?」

 

 西門の上。

 そこには、いつの間にか濃灰色のローブを纏う一人の少年が立っていた。

 

「ああ、ここなら全てが見渡せる――」

 

 右手を掲げる。

 水色の指輪が淡く光った。

 

「――<完全解呪・反転>」

 

 次の瞬間。

 地響きのような唸りを上げていた魔物の群れが、同時に動きを止めた。

 

 身体が硬直し、泡を吹き、白目を剥く。

 次第に命が失われ――西門前は静かになった。

 

 冒険者たちは、言葉を失った。

 最初に声を上げたのは、門上にいた衛兵だった。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 その叫びを皮切りに――

 歓喜が戦場全体へ広がる。

 

「よ、かった……」

 

 少年は力が抜けたように崩れ落ちた。

 

「おい! 少年! しっかりしろ!」

 

 衛兵たちに支えられながら、意識は闇に沈んでいった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ん……ぁ…………」

 

 白い天井。見慣れた部屋。

 ここは――俺が少し前まで働いていた治療院だ。

 

「――おはようございます、シュウ」

「……マリエル、か」

 

 目を開けると、眼鏡越しの優しい瞳が俺を覗き込んでいた。

 修道服の襟元には、夜通し看病していたのだろう、少しだけ皺が寄っている。

 

「身体、起こせそうですか?」

「ああ……なんとか」

 

 腕に力を込め、ゆっくりと上体を起こす。

 手のひらを開閉しながら、自分の体の状態を確認していく。

 

「魔力を使い切って倒れたと聞きました。戦場に……いたのでしょう?」

「……ああ」

 

 俺は短く答え、ベッドから足を下ろす。

 まだふらつくが、立てないほどではない。

 

「無茶をしたのですね」

「そうかもしれないな……ありがとう、マリエル」

 

 マリエルは俺が何をしたのか――本当のところまでは知らないだろう。

 ブルドグの件も、まだ耳に入っていないはず。

 だが、今日の彼女はいつもよりも優しいマリエルに思えた。

 

「では――教会へ向かいましょう」

「え?」

 

 言われるまま、俺はマリエルに先導され、治療院隣の教会へ向かう。

 扉を開けると、眩しい朝の光が射し込んだ。小鳥の鳴き声が心地よく聞こえる。

 俺はかなり長く眠っていたらしい。

 

 薄暗い教会内の広間へと進むと――何人かの影が並んだ椅子で毛布を被り眠っていた。

 その姿を見た瞬間、誰なのか理解する。

 

「この方々、あなたが目を覚ますまで帰らないと言いまして……。治療院に寝かせるわけにもいきませんでしたので、こちらで」

「……まったく。心配性がすぎるだろ、こいつら」

 

 思わず、小さく笑ってしまう。

 

「シュウ。あなたは――慕われているのですね」

「どうだろな……自分じゃわかんねぇよ。でも……ありがたい」

 

 マリエルはふっと微笑み、視線を祭壇の像へ向けた。

 白い女神像が、朝のステンドグラスの光に包まれている。

 

「女神アルテミシア様も、きっとあなたを祝福しています」

 

 優しいマリエルのつぶやきが、すっと耳に入り込んだ。 

 

「ん……ぅ……」

「おはよう、イリス」

「……っ! シュウ様!? シュウ様ぁっ!」

 

 イリスは目を開くなり、俺に飛びつくように抱きついてきた。

 その腕が震えている。

 

「遅くなった。よく耐えたな、イリス」

「……っ、はい……っ。わたし……頑張れました……」

 

 頭を撫でると、イリスは小さく涙を飛ばした。

 

「メディナも、頑張ったんだな」

「むにゃ……ぎゅむ……」

「……はい。メディナ様も、必死に……」

 

 メディナは椅子に小さく丸まって眠っている。

 彼女のレベルでは、相当きつかっただろう。

 でも、イリスの言葉から察するに。やれることはやってくれたみたいだ。

 

「……シュウ、無事で安心した」

「グレン――お前らもな」

 

 続いて、『銀の刃』の面々もゆっくりと目を覚ます。

 家で寝ればいいのに――と思いながらも、その気持ちは嬉しかった。

 

「……ありがとう、シュウさん」

 

 エリナとは、解呪で色々あった。おそらく、それを含めてのお礼なのだろう。

 

「ああ、エリナも……」

 

 リシアも、ガロも無事。

 セイラの姿はなかったが――無事だろうと、そう思えた。

 

 やがて俺たちはマリエルへ礼を告げ、皆で朝食を取ることにした。

 

 ――だが、飯屋へ向かう足の途中で。

 俺はふと、胸に引っかかりを覚えた。

 

 なにか、忘れてるような……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「主さま……まだ、こないのかな……へっくし……さむ……」

 

 草原の真ん中。

 ほとんど裸のまま、魔族ドロテイアは膝を抱え、ぶるぶる震えながら――

 ただひたすらに、シュウの帰りを待ち続けていた。

 

 

 

 





【★宣伝★】
本作の書籍第一巻が4月24日に発売されます!
ぜひともご購入お待ちしています!

→Amazon
→楽天ブックス
→一二三書房公式サイト
以下サイトはえっちな特典付きです!
→ゲーマーズ
→メロンブックス
→とらのあな

作者のXのフォローもお待ちしています!
→藤白ぺるかのX
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。