※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

63 / 115
第61話 目覚めの朝

「――結界、抜けたぞ!」

「押し返せ! 集中砲火だ!」

「だめだ、こっちも来るっ!」

 

 イリスが展開していた上級光魔法<サンクトゥアリウム>は、数千の魔物の圧に耐えながら、辛うじて戦線を支えていた。

 しかし、限界は近い。押し寄せる魔物の勢いは凄まじく、結界には細かい亀裂が走り、ついに一部が破られた。

 

 そこから流れ込んだのは、Bランク以上の厄介な魔物。

 一般の冒険者が対処できる相手ではない。だが――退くわけにもいかない。

 

「どらぁぁぁぁぁっ!!」

「はあああああぁッ!!」

 

 元Aランク冒険者バーグの戦斧が、怪物の首を一息で断ち切り、神殿騎士クローヴァー隊隊長のセイラが騎士剣で分厚い胴を貫く。

 

 その二人の前では、強敵すらなすすべなく崩れ落ちていく。

 だがそれでも、強力な魔物の数は増える一方だった。

 

「皆さん……もう少し、あと少しだけ持ち堪えてください……!」

 

 イリスは震える腕で聖杖を掲げ、崩れた部分に魔力を注ぎ込む。

 しかし修復中にも新たな亀裂が広がり、次々と結界が砕けていく。

 

 西門はまだ突破されていない。しかし、それも時間の問題だった。

 そして、ついに――

 

「っ……!?」

 

<サンクトゥアリウム>の結界全体がガラスが割れるように砕け散った。

 怒涛の黒い波が、冒険者たちへと雪崩れ込む。

 

「うあああああああああっ!!」

 

 絶望の悲鳴が響く中、イリスは唇を噛みしめ、目を閉じた。

 

「シュウ様…………」

 

 その時だった。

 

 砕け散ったはずの結界が――まるで巻き戻すように修復されはじめる。

 

「え……?」

 

 背後から、重く、地を響かせるような足音が近づいた。

 

 片手に抱えられた黒革装丁の特別製の聖典。

 血に濡れた法衣だが、身体はピンピンしており、強く地を踏んでいた。

 

「よく支えたな、イリス・カーネリア。……さすがは聖女候補」

 

 低くよく通る声。イリスは息を呑んで振り返る。

 

「ア、アラスター・ランドレース……枢機卿……!」

「久しいな。前に顔を合わせたのは王都の大聖堂であったか」

「はい……まさか、こちらにいらっしゃるとは……」

「ここしばらくは、娘の世話でな……」

 

 会話は淡々としていたが、今結界を立て直したのが彼であることは明らかだった。

 

「あとは私が抑えよう。魔力回復ポーションを飲め。結界が再度割れた時――その敵を屠るのだ」

「……はいっ」

「もうしばらくすれば、待ち人はやってくるだろう――」

 

 その言葉に、イリスの瞳が揺れる。

 

 名は言われなかった。

 それでも、誰のことかは分かっていた。

 

「皆さん! あと少し――あと少しだけです! 必ず勝利できます!!」

 

 根拠はないが、言葉には確かな力があった。

 

 その言葉に力をもらった冒険者たちが、結界内に侵入した魔物を確実に仕留めていく。

 

 

 ――そして、数十分。

 

「く……さすがの私でも、これ以上は……っ」

「アラスター枢機卿!」

「豚おじ! 弱いとこを放棄しろ! 私が全て斬るッ!」

 

 セイラが叫ぶと同時に、限界を迎えた箇所の魔力をアラスターが意図的に弱めた。

 結界が破れ、魔物が噴き出す。

 

 セイラはその渦へ一直線に踏み込んだ。

 

「私は倒れん。この剣にかけて――ッ!!」

 

 叫びと共に剣を振りかぶった――だが、そのセイラの騎士剣は魔物に届くことはなかった。

 なぜなら――

 

 

「――なぁ、衛兵。俺が倒れたら、下にいる聖女候補のところまで運んでくれ」

「え……誰だアンタ!?」

 

 西門の上。

 そこには、いつの間にか濃灰色のローブを纏う一人の少年が立っていた。

 

「ああ、ここなら全てが見渡せる――」

 

 右手を掲げる。

 水色の指輪が淡く光った。

 

「――<完全解呪・反転>」

 

 次の瞬間。

 地響きのような唸りを上げていた魔物の群れが、同時に動きを止めた。

 

 身体が硬直し、泡を吹き、白目を剥く。

 次第に命が失われ――西門前は静かになった。

 

 冒険者たちは、言葉を失った。

 最初に声を上げたのは、門上にいた衛兵だった。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 その叫びを皮切りに――

 歓喜が戦場全体へ広がる。

 

「よ、かった……」

 

 少年は力が抜けたように崩れ落ちた。

 

「おい! 少年! しっかりしろ!」

 

 衛兵たちに支えられながら、意識は闇に沈んでいった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ん……ぁ…………」

 

 白い天井。見慣れた部屋。

 ここは――俺が少し前まで働いていた治療院だ。

 

「――おはようございます、シュウ」

「……マリエル、か」

 

 目を開けると、眼鏡越しの優しい瞳が俺を覗き込んでいた。

 修道服の襟元には、夜通し看病していたのだろう、少しだけ皺が寄っている。

 

「身体、起こせそうですか?」

「ああ……なんとか」

 

 腕に力を込め、ゆっくりと上体を起こす。

 手のひらを開閉しながら、自分の体の状態を確認していく。

 

「魔力を使い切って倒れたと聞きました。戦場に……いたのでしょう?」

「……ああ」

 

 俺は短く答え、ベッドから足を下ろす。

 まだふらつくが、立てないほどではない。

 

「無茶をしたのですね」

「そうかもしれないな……ありがとう、マリエル」

 

 マリエルは俺が何をしたのか――本当のところまでは知らないだろう。

 ブルドグの件も、まだ耳に入っていないはず。

 だが、今日の彼女はいつもよりも優しいマリエルに思えた。

 

「では――教会へ向かいましょう」

「え?」

 

 言われるまま、俺はマリエルに先導され、治療院隣の教会へ向かう。

 扉を開けると、眩しい朝の光が射し込んだ。小鳥の鳴き声が心地よく聞こえる。

 俺はかなり長く眠っていたらしい。

 

 薄暗い教会内の広間へと進むと――何人かの影が並んだ椅子で毛布を被り眠っていた。

 その姿を見た瞬間、誰なのか理解する。

 

「この方々、あなたが目を覚ますまで帰らないと言いまして……。治療院に寝かせるわけにもいきませんでしたので、こちらで」

「……まったく。心配性がすぎるだろ、こいつら」

 

 思わず、小さく笑ってしまう。

 

「シュウ。あなたは――慕われているのですね」

「どうだろな……自分じゃわかんねぇよ。でも……ありがたい」

 

 マリエルはふっと微笑み、視線を祭壇の像へ向けた。

 白い女神像が、朝のステンドグラスの光に包まれている。

 

「女神アルテミシア様も、きっとあなたを祝福しています」

 

 優しいマリエルのつぶやきが、すっと耳に入り込んだ。 

 

「ん……ぅ……」

「おはよう、イリス」

「……っ! シュウ様!? シュウ様ぁっ!」

 

 イリスは目を開くなり、俺に飛びつくように抱きついてきた。

 その腕が震えている。

 

「遅くなった。よく耐えたな、イリス」

「……っ、はい……っ。わたし……頑張れました……」

 

 頭を撫でると、イリスは小さく涙を飛ばした。

 

「メディナも、頑張ったんだな」

「むにゃ……ぎゅむ……」

「……はい。メディナ様も、必死に……」

 

 メディナは椅子に小さく丸まって眠っている。

 彼女のレベルでは、相当きつかっただろう。

 でも、イリスの言葉から察するに。やれることはやってくれたみたいだ。

 

「……シュウ、無事で安心した」

「グレン――お前らもな」

 

 続いて、『銀の刃』の面々もゆっくりと目を覚ます。

 家で寝ればいいのに――と思いながらも、その気持ちは嬉しかった。

 

「……ありがとう、シュウさん」

 

 エリナとは、解呪で色々あった。おそらく、それを含めてのお礼なのだろう。

 

「ああ、エリナも……」

 

 リシアも、ガロも無事。

 セイラの姿はなかったが――無事だろうと、そう思えた。

 

 やがて俺たちはマリエルへ礼を告げ、皆で朝食を取ることにした。

 

 ――だが、飯屋へ向かう足の途中で。

 俺はふと、胸に引っかかりを覚えた。

 

 なにか、忘れてるような……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「主さま……まだ、こないのかな……へっくし……さむ……」

 

 草原の真ん中。

 ほとんど裸のまま、魔族ドロテイアは膝を抱え、ぶるぶる震えながら――

 ただひたすらに、シュウの帰りを待ち続けていた。

 

 

 

 





【★宣伝★】
本作の書籍第一巻が4月24日に発売されます!
ぜひともご購入お待ちしています!

Amazon
楽天ブックス
一二三書房公式サイト
以下サイトはえっちな特典付きです!
ゲーマーズ
メロンブックス
とらのあな

作者のXのフォローもお待ちしています!
藤白ぺるかのX
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。