※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

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第62話 記憶改変

 朝食をとりながら、イリスから昨夜までの一部始終を聞いた。

 

 激戦で満身創痍だったはずなのに、神殿騎士たちは休む間もなく動き出したという。

 ブルドグの屋敷と関連施設に突入し、強制捜査を開始。関係者をすべて拘束し、異端審問送りにしたらしい。

 あの衛兵ジルベの姿も、捕縛者の中にあったという。

 

 ブルドグ本人は、これから王都へと移送される予定だ。

 そこで異端審問が行われるとのこと。

 そもそも俺は異端審問がどのようなものかは理解していないが、いわゆる裁判のようなものだと思っている。……そうだよな?

 

 そして、俺にはやらなければいけないことがあった。

 ブルドグによって呪いをかけられた女性たちを集め、そのすべてを解呪することだ。

 

 ただ、それと同時に――俺にはひとつ、イリスに相談したいことがあった。

 彼女たちの記憶の問題だ。

 

 解呪を終えても、彼女たちの中には地下施設での出来事が残る。

 それは決して自分の意思で行ったことではないはず。

 故に、正気を取り戻したあとで深い傷として残るだろう。

 

 ポワンの村での出来事を思い出す。

 あの時、ゴブリンに襲われた女性たちは、俺との行為で上書きしてほしいと言ってきた。

 当時は戸惑うばかりだったが、今になって思う。

 ――もしかしたら、記憶そのものを書き換えるような魔法が存在するのではないか。

 

 イリスの答えは、肯定だった。

 ただしそれは、一人で行使できるような魔法ではないという。

 しかも今回は対象が多すぎる。

 膨大な魔力を集めることができれば、もしかするかもしれないと話してくれた。  

 

 そこで俺はやっと思い出した。

 ドロテイアを放置してしまっていたことに――。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「よう、生きてたみたいだな」

「ああっ、主さまッ!! 放置プレイが長すぎる……ッ!」

「今までのことに比べたら、このくらい軽いだろ――って、お前……本当にドロテイアか?」

 

 草原の大樹の下、半裸で座り込んでいたのはドロテイアだった。

 なぜか防具を着けず、俺が指示していないせいかそのままの姿で待っていたらしい。

 

 近づいた瞬間、俺は違和感に気づいた。

 肌の色――見た目がまるで別人のように変わっていたのだ。

 

「お前……なんで肌の色が変わってるんだ? 前は薄紫だったろ」

「アタシにもわからない……気づいたらこうなってて。でも、主さまのせいだと思う……」

「俺の?」

「主さま、女神と何か関わりがあるんだろう?」

「まあな。俺の体は女神の加護百パーセントらしい。だから状態異常は効かない」

「やはり……。アタシ、主さまと交わった時に女神の力が流れ込んだみたいで……それで魔族としての穢れが浄化され、この姿になったのかと……」

 

 言われてみれば、確かに以前のような魔族特有の薄紫色の肌は失われ、主張が強かった角だって跡形もない。

 代わりに、健康的な褐色の肌になっていて――見た目だけなら完全に俺好みのダークエルフだった。

 

「……まあ、そのほうが都合いい。ついてこい。お前にやってもらうことがある」

「な、なんでも……っ!」

「それと、お前、食事は要らないのか?」

「主さまの濃ゆい精気をたっぷりいただいたので……しばらくはいりません♡」

「……そうかよ」

 

 魔族としての体質はまだ残っているらしい。

 ……精気って、やっぱり精液のことだよな。それ以外のことも精気って言うのか?

 

 

 ◇◇◇

 

 

「――イリス、待たせたな」

「いえ。それは構いませんが……シュウ様、そちらの方は……ダークエルフ? 珍しいですが、どこかで……」

 

 ブルドグの所有する地下施設近くで合流すると、イリスは隣に立つドロテイアを見て目を丸くした。

 無理もない。肌の色も角も違えば、誰も彼女を魔族だとは思わない。

 

「コイツはドロテイアだ」

「ええええええっ!? シュウ様!? ど、どういうことでしょうか!」

 

 イリスが聖杖を構え、思わず戦闘体勢を取る。

 

「大丈夫だ。今のコイツは俺の奴隷だ――な、メス犬?」

「わ、わんっ!」

 

 ……いや、ほんとに犬になるなよ。

 けど、これは妙に癖になりそうだ。

 

「ほら、尻を出せ」

「あ、主さま……コイツに見せるのかい……?」

「いいから早く」

「は、はいぃ……♡」

 

 どうやら俺に命令されるのがたまらなく好きらしい。

 

「私が教えた奴隷紋……本当に契約を結ばれたのですね」

「ああ。見た目も変わったし、もう誰も魔族とは気づかないだろ」

「ならば問題ありません。ただ、魔族だったことは――誰にも話さないほうがよいでしょう。シュウ様のためにも」

「わかってる。仲間内だけにしておく」

 

 そう言いながら、俺たちは薄暗い路地を進み、例の地下施設へと向かった。

 だが――その入口では予想外の光景が待っていた。

 

 

「や、やめなさい! ここは神殿騎士の管理区域です!」

「いいから入れてぇっ! 待ってるのぉ!」

「疼いて我慢できないのっ!」

 

 入口で押し問答をしていたのは、神殿騎士の女性たちと、地下施設へ突入しようとしている若い女性たち。

 その数、五十を超えていた。

 体に刻まれた『淫染呪』のせいで、彼女たちは理性を失っている。

 

「……マジかよ」

「……早く、治してあげましょう」

 

 その元凶の一人が、俺の隣にいる。

 そう思うと、まだまだ罰が足りない気がした。

 

「――神殿騎士の方々! 通してあげてください! 私たちが対処します!」

「聖女候補様!? ですが――」

「大丈夫です。任せてください!」

 

 イリスの一声に、神殿騎士たちは顔を見合わせ、道を開けた。

 

「……あとはお任せします」

 

 俺たちはそのまま地下へと進んでいった。

 

 暗い通路の奥、大きな扉を開くと――そこには先ほどの女性たちが服を脱ぎはじめていた。

 男のいない空間で、熱に浮かされたように。

 

「――オトコっ!!」

「うぇっ!?」

 

 すると、男である俺を見つけた途端、襲いかかるように飛びついてきた。

 

「<スリープ>」

 

 ドロテイアが闇魔法を放つと、部屋中の女性たちが次々に倒れ込み、眠りについた。

 

「眠らせる魔法があるのか」

「主さまには効きませんけどねぇ」

「助かった。――じゃあ、解呪を頼む」

 

 ドロテイアに指示を出すと、彼女が手を前に出した。

 

「<淫染呪・解呪>」

 

 ドロテイアの詠唱とともに、女性たちの下腹部に刻まれた淫紋が、淡く光を残して消えていく。

 これで第一段階は完了。だが、問題はここからだ。

 

「――イリス、準備は?」

「はい。お二人とも、私の肩に手を置いてください。魔力を徴収します」

 

 一瞬ドロテイアは嫌な顔をしたが、俺は顎で指示した。

 そうして俺とドロテイアは肩に手を置くと、イリスが深呼吸を三回行った。

 

 静かに聖杖を掲げ、つぶやいた。

 

「女神様……皆をお救いください――<アストラルセレニティ>!」

 

 光の奔流が放たれ、腕を通じて魔力が吸い上げられていく。

 

「う、おおおおおっ……!」

「な、なんだこの消費量は……っ!」

 

 眩い粒子が部屋中に舞い、女性たち一人ひとりを包み込む。

 やがて、全身から柔らかな光が抜け、静寂が訪れた。

 

 時間にして、十分ほどだろうか。

 

「はぁ、はぁ……っ」

 

 イリスの額から汗が滴る。俺もドロテイアも膝が震えた。

 

「……これで、終わりです」

「やばいな、魔力欠乏寸前だ」

「精気がほしい……こんなに消耗するなんて……」

 

 その瞬間、イリスが崩れ落ちた。

 

「イリスっ!」

 

 俺は抱き留め、腕の中でしっかりと彼女を支える。

 

「多分、これで……皆さんが……」

「よく頑張った。街も守って、今も救って……ほんと偉いよ」

 

 イリスにしかできないこと。

 街を守り、女性たちを救った彼女は、本当に尊敬に値する。

 

「後は俺が運んでやるから、ゆっくり休め」

「はい…………シュウ、さま……」

 

 イリスは魔力欠乏に陥り、そのまま意識を彼方へと飛ばした。

 

「ふんっ。聖女候補だか何かしらないけど、このくらいで……」

「お前のせいでこうなってんだぞ。まだ反省が足りねぇな」

「ひぃっ……じゃあ、また躾けてくれますかぁ?」

「お前……」

 

 本気で反省してんのかこいつ。

 

 すると、床に倒れていた女性たちが、少しずつ目を覚ましはじめた。

 俺は身構えたが、誰も襲ってくる様子はなかった。

 

「あれ……私、なんでここに……」

「暗い……って、私、服が――!?」

 

 混乱する声が次々に上がる。

 どうやら、ここがどんな場所だったのかも覚えていないらしい。

 

 俺は彼女たちを外へと誘導した。

 

 これで、全員が救われたのかはわからない。

 中には借金や家庭の問題を抱えていた者もいたらしい。

 

 それでも――呪いに縛られ、絶望のまま男たちに嬲られ生きるよりは、きっとマシだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――夕方。

 

 一人の女性が、静かに家へと帰ってきた。

 そこは、かつて彼と共に過ごした、温もりの残る家だった。

 

「……ただいま」

 

 玄関の扉を開くと、懐かしい香りが胸に満ちた。

 何も変わっていないはずなのに、どこか遠い記憶のように感じた。

 

 ――そういえば、最後に帰ってきたのは、いつだっただろう。

 

 靴を脱いだその瞬間、リビングから人の気配がした。

 顔を上げると、そこには一人の男性が立ち尽くしていた。

 

「……っ」

 

 女性の姿を見た瞬間、男性は目を見開き、震える手で口を押さえ、その場に膝をついた。

 しかし次の瞬間、まるで夢を追うように立ち上がり、女性へと駆け寄った。

 

「ローラっ!!」

「……オスマン、どうしたの? もう、そんなに強く抱きしめたら……痛いわ」

 

 彼――オスマンは、ローラを腕の中に閉じ込め、声を詰まらせた。

 嗚咽が漏れ、肩が震える。

 

 ローラには、なぜ彼が泣いているのかがわからない。

 けれど、その涙の温度だけで、愛しさと安堵が胸に伝わってきた。

 

「……オスマン、少し痩せた?」

「う、うぅ……ローラ……君がこの家を出てから、どれほどの時が過ぎただろう……。君の父親が莫大な借金を抱えていると聞いて……君は、そのためにどこかで戦っているのだと思っていた……」

 

 震える声で、オスマンは言葉を紡ぐ。

 まとまらない言葉の中に、焦燥と後悔、そして祈りが滲んでいた。

 

「……君が何をしていたのか、私は知らない。だが、もういい。もう無理はするな」

「オスマン……?」

「君の父親のことも、私がなんとかする。借金も、全部。私がこの命に代えてでも、彼を更生させ、君を――この家を守ってみせる!」

 

 叫ぶような言葉は、真っすぐで、痛いほどの本気だった。

 ローラの目尻に、ぽろりと涙がこぼれる。

 その涙の理由は、自分でもわからなかった。

 

「……寂しく、させちゃったのね」

「あぁ……あぁっ……ローラ……っ」

「よしよし……泣かないで」

 

 子供のように泣き崩れるオスマンの頭を、ローラは優しく撫でた。

 気づけば、オスマンはその細い体に縋りつき、胸元に顔を埋めていた。

 

「ローラ……こんな私でも……結婚してくれるか?」

「――ええ、もちろんよ。私が結婚したいのはあなたしかいないもの。私はあなたと結婚するためにここにいるのよ」

「……ローラ……ローラ……あぁ……ローラ……っ」

 

 嗚咽をこらえながら、オスマンは懐から小さな箱を取り出した。

 それは、何度も開け閉めして磨り減った婚約指輪の箱。

 彼は震える手でその指輪を取り出し、ローラの薬指にはめた。

 指輪の宝石が夕陽を反射し、二人の瞳に淡く輝いた。

 

 ローラは微笑み、そっとオスマンの頬に手を添える。

 そして、穏やかに唇を重ねた。

 

 

 オスマンは、ローラがいなくなっていた間に何があったのかを知らない。

 そして、ローラ自身も、その期間の出来事を全く覚えていない。

 

 これから先、彼女が本当に幸せになれるのかはわからない。

 けれど、少なくとも今、新たな人生を歩もうとしはじめた二人がここにいた。

 

 

 ――これは、一人の女性が堕落の果てに辿りついた、もう一つの物語。

 

 そしてその闇を晴らした光が、冒険都市ハレスの空に、静かに灯りはじめていた。

 

 

 

 

 

 





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