完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「アリーシャ様、教会学校はお久しぶりですね」
「ええ。毎年思うけれど、まさかあの学校にもきちんと長期休暇があるなんて思ってもみなかったわ」
赤と金で装飾された豪奢な馬車が、森の中をゆっくりと進む。
蹄鉄の打ち鳴らす音と、車輪が小石を弾く乾いた響きが、静かな森に反響していた。
馬車の中には二人の女性が座っている。
一人は黒と白のメイド服を身に纏った若い侍女。
もう一人は赤いドレスを着た金髪をツインテールにした少女――アリーシャ。
「ご学友との再会、楽しみではありませんか? 同室だったミュウミュウ様とか」
「どうかしらね……あの子、もう私のことなんて忘れてるかもしれないわ」
窓の外を見つめながら、アリーシャは小さくため息をつく。
「アリーシャ様は、お友達を作るのが少し苦手ですからね。今年は新しいご縁があるといいのですが」
「ふんっ。別に友達なんていらないわ。――リゼット、あなた、私の性格を一番理解してるでしょう?」
「理解しているからこそ、申し上げているんですよ」
リゼットと呼ばれた侍女が、やわらかく微笑む。
その穏やかな時間は――ほんの一瞬で終わりを告げた。
「――奇襲ですっ!!」
馬車を護衛していた騎士たちが一斉に剣を抜く。
次の瞬間、十数名の粗末な装備の男たちが木々の陰から飛び出した。
「野盗……っ!? なぜこの森に――!」
「ぐあっ!」
騎士たちは決して弱くはないはずだった。だが、襲いかかった野盗たちは異様に手際がよく、容赦なく剣を振るっていく。
数分と経たぬうちに、護衛のほとんどが地に伏していた。
「リ、リゼット……!」
「アリーシャ様、ご安心を。私がなんとか――っ」
馬車の中で震える二人。外から響く声が、静寂を切り裂いた。
「――出てこい。大人しくしろ」
もう隠れることはできなかった。
リゼットが先に降り、震える声で言葉を絞り出す。
「あなたたち、一体何のつもりですか!」
だが、野盗たちは品定めするようにリゼットを眺め、いやらしく笑った。
「お前が知る必要はねぇ。もう一人も降ろせ」
ナイフを突きつけられ、リゼットは仕方なく従う。
アリーシャを後ろに庇いながら、彼女は必死に声を張り上げた。
「アリーシャ様には、絶対に指一本触れさせません!」
「ぐへへ……残念だが命はここまでだ。ただ、それまでは自由にしていいって話だ」
その言葉の意味を悟り、リゼットの顔が凍りつく。
そして――
「いやああああああっ!!」
ナイフが閃き、リゼットの服が一瞬で裂けた。
破れた布の隙間から、彼女の白い肌が露わになる。
「なんだ、意外といい身体してんじゃねぇか」
「リゼット……リゼットっ!」
アリーシャが震える声で彼女の名を呼ぶ。
だが野盗たちは止まらない。次の瞬間、アリーシャのドレスもまた無惨に裂かれていた。
「きゃあああああああっ!!」
「アリーシャ様ぁっ!」
リゼットが覆いかぶさるように抱きしめる。
だが、二人はすぐに引き剥がされ、それぞれ複数の男たちに押さえつけられてしまった。
「観念しろ、嬢ちゃんたち」
「いやぁっ、リゼット! リゼットっ!」
「アリーシャ様っ! アリーシャ様ぁっ!!」
絶望が迫るその瞬間だった。
「ぐっ……!? うあっ……!」
野盗たちが、次々と地面に崩れ落ちた。
何が起きたのか、誰も理解できない。
「な、何が起きたの……?」
息を荒げるアリーシャが顔を上げる。
すると、木漏れ日の中から一人の少年がゆっくりと姿を現した。
「――<ヒール>」
柔らかな白光が彼の手から溢れ、倒れた騎士たちを包み込む。
下級光魔法のはずの<ヒール>が、まるで中級以上の輝きを帯び、複数人を同時に回復。みるみるうちに傷が癒えていった。
その光景に、アリーシャもリゼットもただ、息を呑むしかなかった。
◇◇◇
――かなり、ヤバい状況だった。
森の奥。
高価な馬車の周囲を野盗らしき男たちが取り囲んでいる。
豪奢なドレスを裂かれ、怯える少女たち。助けが来る気配など、どこにもない。
判断は一瞬だった。
どちらが悪いかなんて、今の俺には関係ない。
目の前で泣いているのは――少女たちだった。
「――<完全解呪・反転>」
咄嗟に詠唱した瞬間、野盗どもは<麻痺>によって全身を痙攣させて地に崩れた。
周囲を見れば、護衛らしい騎士たちが血まみれで倒れている。
幸い命はあるようだ――俺は続けて<ヒール>を放った。
「アリーシャ様っ!」
「リ、リゼット……っ!」
上半身裸のままの女性が、金髪ツインテールの少女に飛びつく。
互いに涙を浮かべ、抱き合っている姿は、それだけで何が起きたのかを物語っていた。
「ひっ……!」
だが、俺が一歩近づくと、少女たちは怯えたように後ずさった。
当然だ。突然現れた俺だって男だし、いきなり信用しろという方が無理だろう。
「……とりあえず、ドロテイア呼ぶか」
俺は心の中で念じる。
次の瞬間、転移魔法<アビスゲート>の闇が地面に現れる。
「主さまぁ……トイレ中に呼ぶなんてぇっ!」
「シュウ様! 何かあり――これは……!」
「ドロテイア、とりあえず<空間収納>から布を出してくれ」
ドロテイアが勘違いして顔を赤らめているのをよそに、イリスとエリナはすぐに状況を把握した。
「イリス。この布を彼女たちにかけてあげてくれ」
「わかりました!」
「任せてください!」
女性同士の方が安心するだろう。俺はイリスたちに任せた。
「ドロテイア、メディナ。野盗どもを拘束してくれ」
「あいよ〜」
「は、はいっ!」
続いてドロテイアが取り出した縄で、麻痺して動けない男たちを手際よく縛り上げていく。
「リゼット……私たち、助かったの……?」
「そう、みたいです……」
布をかけてもらった少女たちは、ようやく息を吐いた。
怯え、震え、そして――安堵。
俺の判断は間違っていなかったようだ。
◇◇◇
「――本当にありがとうございます! あなた方のお陰で、私たちは救われました」
「あ、ありがとうございます……っ」
暗紫色の髪をポニーテールにしている、リゼットと呼ばれた女性は侍女だったらしい。そのリゼットが丁寧に頭を下げてお礼をした。
馬車から取り出した荷物の中に予備のメイド服が入っていたようで、既に身なりを整えていた。
その隣に立つのは、金髪ツインテールの少女――アリーシャ。
怯えの色が消え、少しずつ気品と威厳を取り戻していくその姿は、どこか神聖さすら感じさせた。
その佇まいだけで、彼女が只者ではないと分かる。
「いいえ。全てはシュウ様のお力です。お礼は、あちらへ」
イリスが俺の方を示す。
俺は木に寄りかかりながら、遠巻きに様子を見ていた。
この後の対応は、女性であるイリスたちに任せてある。
二人の視線がこちらを向いたので、俺は軽く頷いて返した。
「それにしても……あなたが身に纏っているのは……」
「ええ。私はイリス・カーネリア――聖女候補です」
「や、やはり……! なんという巡り合わせでしょう……!」
「聖女候補……! 本物の……!」
イリスの名を聞いた瞬間、二人の表情が一変した。
王都に近づくほど、聖女候補の名は広く知られているようだ。
もしかして教会関係者ではないか、そう思ったのだが――次の言葉が俺の予想を覆す。
「アリーシャ様……」
「ええ」
侍女が静かに頷くと、少女は一歩前へ進んだ。
ドレスの裾をつまみ、優雅に頭を下げる。
「私は――エインフェリア王国、第三王女。アリーシャ・エインフェリアと申します」
空気が張りつめた。
鳥の鳴き声すら遠ざかるような、そんな静寂の中で。
「救世主様。私たちを救ってくださったこと、心より感謝申し上げます」
その声には、王族としての誇りが宿っていた。
エインフェリア王国とミシア教会。
本来ならば手を取り合うべき二つの存在――だが、現実はそう簡単ではない。
国と教会の間には、長く続く確執があると聞いている。
そんな二つの頂点に近い存在――
王女アリーシャと聖女候補イリスが、今ここで邂逅を果たしたのだった。
……俺、マズった?