完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
両開きの扉を開けた先――そこは白を基調とした、清潔で落ち着いた部屋だった。
豪奢な家具が並んでいるにもかかわらず、成金じみた嫌味はなく、むしろ上品な静けさが漂っている。
その空気を形づくっているのは、きっと部屋の主そのものなのだろう。
紅茶を嗜むのにちょうどよさそうな丸テーブルと四脚の椅子。
奥には天幕付きのベッドが見える。
そして――部屋の中央に立つ女性。彼女こそ、この国の聖女だとすぐに分かった。
「――ハラマリア様。ただいま戻りました」
「イリス……顔つきがずいぶん良くなりましたね。旅に出して正解だったようです」
イリスと同じプラチナブロンドの髪を腰まで垂らした女性。
白い聖衣を纏い、穏やかな笑みを浮かべている。
だが、イリスよりも背が高く、どこか成熟した雰囲気を纏っていた。身長はドロテイアと同じく百七十近くあるだろう。
マリーのように妖艶さも備え、その胸元は――目のやり場に困るほど豊満だ。
けれど、最初に抱いた印象は色気ではなく、神聖さだった。
その場に立つだけで空気が柔らかくなるような、触れてはいけない静謐さ。
どこか、ババアに通じる雰囲気を感じた。
そして、ふと目を引いたのは、左目だけを覆う白い包帯だった。
聖女としての清らかさを持ちながらも、その下には癒えぬ痛みと深い記憶が刻まれているようにも思えた。
「報告すべきことはたくさんあります。ですが、まずはこちらの方を――」
イリスがそう言って俺に視線を送る。
ハラマリアの方も、最初から俺に興味を持っていたようだった。
「こちら、シュウ・ミレイスター様。現在十七歳。――お手紙にも書きましたが、女神様に愛されたお方です」
「シュウだ。イリスとは偶然出会って、ここまで共に旅をしてきた。よろしく頼む」
どうしても素っ気ない言い方になってしまう。だが、これが俺の素だ。
「お手紙でお名前は拝見していました。ずっとお会いしたいと思っていたのです。私はハラマリア・アスティル。この国と教会を預かる現聖女です」
澄んだ声。響くだけで心が洗われるような声質だった。
……おかしい、声まで癒やし効果あるのかこの人。
正直、ドロテイア以上に危険な意味での魔性を感じてしまう。
「ふふ。私は淫魔とは違いますよ。こう見えて、多くの淫魔を討ってきた身ですから」
「あっ、いや、そんなつもりじゃ――」
な、なんだこいつ!?
ケリュネイアみたいに心を読んだように返してきやがった。
ヤバい、考えるだけでバレるとか……変な想像は封印しよう。
「思っていたよりも、可愛らしい方ですね。――シュウ、少しこちらへ」
「え、あ……ああ」
ハラマリアは手を差し伸べ、俺を自分のもとへ呼び寄せた。
距離が縮まるたび、胸の奥がざわつく。
そして次の瞬間――
「ああ……やはり、素晴らしい。女神様の祝福を強く感じます」
「え、な――うぐっ!?」
突然、抱き締められた。
顔が彼女の胸に埋まり、鼻先をくすぐるのは淡い花の香り。甘くも上品で、妙に安心する匂いだった。
その柔らかさと温もりに、思わず「ママ……」と呟きそうになる。
「ハラマリア様!?」
イリスが慌てて声を上げる。予想外の行動らしい。
「ごめんなさいね、イリス。でも我慢できなかったの。――これほど女神に愛された方ですもの。触れて確かめてみたいと思うのは、あなたも同じでしょう?」
「そ、それは……ですが、シュウ様が……!」
「ん……ぎゅ……息、が……っ」
「あら、ごめんなさい。少し強く抱きしめすぎましたね」
「ぷはっ……」
やっと解放されたとき、顔が火照っているのが分かった。
しかも――下の方まで反応している自分に気づき、心の中で悲鳴を上げる。
この聖女、マジで只者じゃない……。
「シュウ。あなたはミゼット様とオウジ様に育てられたのですね」
「ああ。かなり厳しかったけどな」
どうやら、イリスがすでにそのあたりまで手紙で伝えていたらしい。
「本当に小さい頃のことです。何度か見かけた程度ですが……彼女たちは偉大な功績を残したとして、古い文献にのみですが記録が残っています」
「そうらしいな。けど俺はそんな話を一度もされたことはないんだよな」
「彼女たちは『聖者パーティー』と呼ばれ、世界各地を巡っては、数えきれないほどの人々を救ったそうです」
「『勇者』じゃなくて、『聖者』……か」
勇者が勇気と剣で世界を救う存在なら、聖者は聖なる力と癒しで人々を救う――そんな印象を受ける。
剣聖と聖女の名は聞いたことがあるが、家に飾られていた写真に写っていた残る二人が、どんなジョブだったのかはわからない。
「そういえば、ザラキア連邦で勇者が誕生したという話をご存じですか?」
「勇者? そういう存在がいるのか」
「ええ。しかもその力を誇示せず、謙虚で優しい方だと評判です。武を尊ぶザラキア連邦では少し異質な存在ですが……私は、素敵な方だと思っています」
ザラキア連邦――温暖な南方の国。
いつかその勇者に会うこともあるのだろうか。
だが、俺はしばらく教会学校に籍を置く身。しばらくは訪れることもないだろう。
「気になってたんだが、戦争みたいなことにはならないのか? 国同士はいがみ合ってるって聞いたが」
「ここ十数年は冷戦状態です。むしろ、国とは別に教会同士の交流があるんですよ」
「……教会同士? そんなことがあり得るのか? 信仰する神が違えば、ぶつかり合うのが普通だろ」
この世界には四つの大国があり、それぞれ異なる神を信仰している。
だからこそ、教会同士の交流など夢物語だと思っていたのだが――
「仲良くする、というのとは少し違いますね。ただ、他教会の活動や教義、戦術を知ることで、ミシア教会にも利益があるのです。あなたがこれから通う教会学校でも、他教会との交流戦が行われますよ」
「交流戦? つまり、教会学校同士が戦うのか?」
「その通りです。毎年恒例の行事で、もし代表に選ばれたなら、他教会の修道士見習いや神殿騎士見習いたちと魔法や剣を交えることになるでしょう」
「へえ……」
思っていたよりもずっと面白そうだ。
勉強ばかりだと思っていた教会学校も、意外と実践的な一面を持っているのかもしれない。
「――イリス。王都に滞在している間、できるだけ私のもとへ通って、旅の話を聞かせてください」
「はいっ! もちろんです! お手紙だけでは書ききれませんし、シュウ様のことならいくらでも語れます!」
「ふふ。それ以外の話も、たくさん聞かせてくださいね」
ハラマリアとイリスのやり取りを見ていると、どこか母娘のようでもあり、姉妹のようでもあった。十歳以上は離れているように見えるが不思議と心の距離は近い。
「――シュウ様、このあと私はハラマリア様に報告があります。お一人で宿まで戻れますか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ありがとうございます。明日からの編入も、今日と同じように職員の方に伝えれば教室まで案内してもらえるはずです」
「わかった。助かるよ」
イリスはそのままハラマリアの部屋に残り、旅の報告をするらしい。
俺は一人で部屋を出て、ルミナパレスの廊下を歩き、王都の街へと続く出口へ向かった。
◇◇◇
「――イリス。あの話、本当なのですね?」
シュウが部屋を出ていった直後。
紅茶を淹れ終えたハラマリアは、湯気の立つカップをそっとテーブルに置きながら、静かに問いかけた。
「はい……本当です。私のここは、もうすべてシュウ様のものとなりました」
「まさか……私よりも早く運命の人に出会うなんて。イリス、少し生き急ぎすぎではありませんか?」
「運が良かっただけです。――一度は呪いにかけられ、あのままでは聖女候補として終わるところでしたから」
イリスは聖衣の上から、そっと自らの下腹部に手を添える。
うっとりとした表情とその仕草には過去への感謝が滲んでいた。
「先代の聖女様は今、隠居されているとか。けれど、そのような相手に巡り会ったという報告はありません。それほど運命の相手というのは稀なものなのです」
「ええ……私もそう思っていました。けれど――シュウ様は魂ごと女神様に祝福されたお方。<鑑定>で見た瞬間、わかりました。あの方こそ、私の聖膜を破る運命の人だと」
――聖膜。
聖女は生まれながらにして処女膜を持たず、代わりに聖膜と呼ばれる膜を持つ。
それは特別な相手にしか破ることができない、神聖な結界のようなものだった。
「これほどまでにイリスを羨ましいと思ったことはありません」
「はい……でも、私はシュウ様を私だけのものだとは思っていません。彼のスキルについても、少しお話ししたと思いますが――」
「ええ、<完全解呪>ですね。その名は、耳に残っています」
イリスは静かにうなずく。
シュウのスキルについて話すことは、事前に承諾をとり、許されていることだった。
「相手によりますが体に直接触れるという対価。この二ヶ月間で、シュウ様は多くの人々の呪いを解き、そのたびに身体を重ねてきました」
「……女性の方から、ということですね」
「はい。私もその中の一人です。けれど彼のことを思うと不思議と嫉妬ではなく……愛おしさが溢れるのです」
「本人が幸福を感じているのなら、その対価は正しいのでしょう。女神様が与えたものなら、なおさらです」
「それで――」
イリスは静かに息を整え、本題に入った。
ハラマリアはイリスと同じ聖女。
ゆえに彼女にもまた聖膜が存在し、それは三十年以上の時を経ても未だに……。
「……ハラマリア様。私はシュウ様にその聖膜を破っていただきたいと思ってります」
「イリス……あなたは……」
ハラマリアは驚きながらも、どこか優しく微笑んだ。
「聖女は人々を導く存在。けれど、同時に人でもあります。女性としての幸福を感じてこそ本当の救いを与えられるのではと……。ミゼット様とご夫婦の村で過ごした日々で、私はそう思うようになりました。あの小さな村には娯楽は多くありません――けれど幸せそうに見えました」
「……そうでしたか」
「ですから、ハラマリア様にも感じてほしいのです。心の底から、満たされるという幸福を」
イリスの声はまっすぐで、嘘がなかった。
自分がシュウによって物理的にも満たされたあの気持ちよさは、言葉にはできないほど幸福を感じさせられた。そして今でもそれは続いている。
「ですが、あの子は……どう思うでしょうね」
「おそらく、何か理由がなければ受け入れないでしょう。解呪の対価があってこそ、シュウ様はその関係を受け入れていますから、いきなりは難しいでしょう」
「……イリスの気持ちは嬉しいのですが」
ハラマリアは小さく首を振った。
その穏やかな微笑みの奥に、長年抱えてきた孤独が見えた。
イリスは唇を噛む。そんな顔を見たくて、話を持ち出したわけではない。
同じ聖女――聖女候補として、ハラマリアにも幸福を掴んでほしかったのだ。
「いつか、きっとわかってくださいます。シュウ様は優しい方です。私たちが同じ聖女であり、同じ体の構造を持つ存在だということも、すでに理解しているはずですから」
「……イリス。あなた、本当に変わりましたね。以前は、私にここまで気を遣える子ではなかったのに」
「はい。全てはシュウ様のおかげです。――今日は、たくさんお話をさせてください」
「ええ、ぜひ」
ハラマリアはそっと目を伏せ、自分の右手を下半身へと移動させる。
熱くなった股間に軽く触れながら、いつか自分の願いを叶えてくれるかもしれない相手を想って――
(シュウ・ミレイスター。あなたがいつか私の身体を満たしてくれるのでしょうか。もし、その時がくれば――聖女として生まれてよかったのだと本当の意味で喜べるのかもしれません……)
この日の夜、ハラマリアは久しぶりに自分の身体を慰めた。
抱き締めた時のシュウのゴツゴツした硬い体つき、自分とは違う男らしい匂い、<鑑定>するまでもなく女神に愛されたその魂。
その全てがハラマリアにとっての唯一の人だった。
「ぐっ……うっ……あっ、あっ……シュウ……シュウ……あなたが、ほしいっ……この熱い滾り……解放して、鎮めてほしい……っ……あっ、あっ……奥を、奥を、どっぷりとあなたのモノで……満たして……わたしを、孕ませて……っ……あっ、ダメです……くる……きますっ…………ん゙ぅっっっっっっっっ!?♡」
大きすぎるベッドに一人というのはとても寂しい。
だがいつか、その場所が彼で埋まると考えると、ハラマリアは自分を慰めるのを止めることはできなかった。