完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
一日というのは、思っていた以上に長い。
久しぶりに授業を受けて、改めてそう感じた。
昨日までは、時間なんて一瞬で過ぎていた気がする。
けれど、椅子に座って講義を聞くだけの座学だと、どうしてこうも長く感じるのだろう。
今日の授業では、教会の歴史だけでなく、俺のために特別な内容も組まれていた。
教会学校での立ち振る舞い、毎朝の女神様への祈り、卒業後の進路――それに、いくつかの教会用語も教わった。
どうやら俺は今、五年生という扱いらしい。
教会学校は一年から六年まであり、十三歳から入学して十八歳で卒業するのが基本だとか。
ただし、優秀な者は飛び級で早く卒業することもあるそうだ。
現代日本に置き換えるなら、今の俺は高校二年生あたりってところだろう。
……とはいえ、イアシスの村で得た知識しか持っていない俺が、いきなり五年生ってどう考えてもおかしいよな。
今日受けた内容だって、多分一年生向けの初歩だ。
それを思えば、このクラスのヤツらは既に五年間もここで学んできたわけで――
そりゃあ、下級魔法しか使えない俺がガイツに笑われても仕方ない。
……できればこれ以上、余計なトラブルには関わりたくないものだ。
◇◇◇
そうして午前の授業が終わり、今は昼食の時間。
自分で弁当を持参する生徒もいるようだが、皆、食堂で食べるのが普通らしい。
カナンに案内され、俺もそのまま食堂へ向かうことになった。
ついでにネメシアとミュウミュウ、アリーシャも誘ってみたが――結局ついて来たのはミュウミュウだけだった。
教室を出ると、ちょうど見覚えのある人物とすれ違う。
「あら……あなたは、確かシュウ様でしたね」
「アリーシャのメイドの……」
「はい、リゼットと申します」
そこに立っていたのは、整った黒髪をまとめたメイド姿のリゼットだった。
この学校には使用人用の寮も併設されていると聞く。ここにいるということは、アリーシャは彼女と昼食を取るのだろう。
「まさか教会学校に編入されて、アリーシャ様と同じクラスになっているとは、奇遇ですね」
「ああ。でも、なんか嫌われてるっぽいけどな」
「アリーシャ様は、心を許した方以外には少し不器用でして……ただ、押しに弱いところもあります。根気よく接してあげてくださいませ。ミュウミュウ様もぜひ」
「みゃっ……が、がんばり……ますっ!」
なるほど、王女とはいえ、寮は一人部屋ではないらしい。
ということは、俺が入る部屋にも誰かいる可能性が高い。
リゼットとの短い会話を終え、俺たちは食堂へと足を踏み入れた。
「うわ……人の数、えげつな……」
そこはまるで巨大なフードコートだった。
壁際には料理ごとのカウンターがずらりと並び、ざっと見ただけでも十店舗以上。
ラーメン、パスタ、うどんの麺類に、ハンバーグやステーキといった肉料理。丼物や中華、和食定食まで揃っている。教会だからといって禁止されている食べ物はないみたいだ。
「品揃えすげえな」
「驚いたでしょ? ボクも最初は感動したんだ。じゃ、一緒に並ぼう」
生徒は多いが、店の数も多いおかげで列の進みは早い。
俺たちは天ぷらうどんを注文し、空いているテーブルに腰を下ろした。
つやつやの麺の上に、揚げたてのかき揚げ。
湯気の立ち上るその香りだけで、もう腹が鳴るほどだ。
「てか、金払わなくていいのか?」
「うん、食堂は全部タダだよ。教会学校の運営費は教会に集まる寄付金とか、治療費から出てるんだ。将来立派な聖職者を育てるために、学費以外はほとんどお金がかからないようになってるそうだよ」
「なるほど……」
教会の治療費が高いと言われている理由が、少し分かった気がした。
確かに、次世代を育てるための投資と考えれば、悪い話じゃない。
むしろ、こういうところに金が回っているなら、軽々しく批判もできないかもしれない。
……でも待てよ。今、学費って言ったよな。俺、払った覚えないぞ?
まさか、あの豚のおっさんが立て替えてたりしないよな……。
「――あちっ!?」
「ふふ、ミュウミュウ。慌てると危ないよ」
「しゅ、しゅみませんっ……あ、私、猫舌なんですっ」
「そうなのか。でも、この熱々がうまいんだよな……!」
ずずずと啜ると、出汁の効いたつゆとコシのある麺が絶妙に絡み合う。
普通にうまい。
向かいのミュウミュウはというと、頬をぷくっと膨らませながら、何度もふーふーしては慎重に麺をすする姿がなんとも可愛らしい。
「あの……シュウくんって、どうして教会学校に? この時期に編入って、ちょっと珍しいなって……」
恐る恐るという感じで聞いてくれたミュウミュウ。
自分から話しかけてくれるのが嬉しかった。
「俺はせい――」
……っと、危ない。
聖女候補のイリスと、女神アルテミシアに言われて入学したなんて言えない。
ただの一般人がそんな人物と知り合いだなんて言ったら、確実に怪しまれる。
「ご、ごめんなさいっ! 変なこと聞いちゃいましたよね……! すみませんっ」
「いや、気にするな。まあ、ちょっと事情があってな。もともと辺境の小さな教会で修道士の真似事みたいなことをしてたんだ。そしたら、周りが勧めてくれて……せっかくだからここで学ぶことにしたって感じだ」
半分は本当だ。
このくらいの説明なら、変に思われずに済むだろう。
「え、そうなの? すごい……! それって、何年か教会で働いてたってことだよね?」
「そこのシスターに教わりながらだったけどな。村は小さかったが、薬の処方もしてたし、薬草の知識くらいはある」
「シュウくんすごいねっ。ガイツくんは色々言っていたけど、もしかして特別クラスの逸材なのかもしれないねっ」
ミュウミュウとカナンが目を輝かせて褒めてくる。
まあ、ババア直伝の知識だから間違ってはいないだろう。
ただ、教会学校のやり方とは少し違う部分もあるかもしれないけどな。
「王都に来る前はハレスの治療院でも少し手伝ってた。あそこは本当に忙しかった」
「ええっ!? それってすごいよ! ハレスって冒険者が多い街でしょ? 怪我人も多いって聞いたことある!」
「一日中、患者が途切れなかったな」
「へぇぇ……やっぱりシュウくん、ただ者じゃないね……」
治療院で働いていたというだけで、ちょっとした箔がつくらしい。
実際には数日しかいなかったんだけどな。
「じゃあ逆に聞くけど、二人はどうして教会学校に? やっぱり親が聖職者とか?」
聞かれたことは、聞いてもよいことだろう。
俺の問いに、カナンが真っすぐな目で答えた。
「ボクはね、父さんが王都で神殿騎士をしてるんだ。でも最初は、正直あんまり興味なかったんだ」
「へえ。じゃあ、心変わりするきっかけでもあったのか?」
そう尋ねた瞬間、思わぬ名前が出てきた。
「――セイラ様、だよ」
「……セイラって、セイラ・クローヴァーか?」
「うん。シュウくんも知ってたんだね、今では有名だもんね」
まさかここで、セイラの名前を聞くとは思わなかった。
「たしか五年前くらいかな……まだ隊長じゃなかった頃のセイラ様に助けてもらったことがあって……その頃は女性の神殿騎士は少なかったけど、セイラ様が活躍だしてから、一気に増えたんだよ」
「なるほど……そういう影響を与えてきたんだな」
「うん。それ以来、ボクはセイラ様みたいになりたくて。だからこの学校に入ったんだ」
カナンの憧れは正しかったということか。今では隊長にまで上り詰めているからな。
「ミュウミュウは?」
「わ、私は……お母さんがシスターで……とっても優しい人なんです。だから、私もお母さんみたいになりたいなって思って……」
「なるほど……二人とも、ちゃんとした理由があるんだな」
思えば俺も、ババアが元聖女で、ずっと教会と関わりのある生活をしてきた。
だからここに来たのも、ある意味、必然だったのかもしれない。
――それも全ては女神が仕組んだことかもしれないが。
◇◇◇
午後の授業も滞りなく終わり、放課後。
俺はレーベン先生から数枚の書類を手渡された。
そこには、寮生活に関するルールが細かく記されていた。
「シュウくんは、カナンくんと同室になる。今日一日で多少は打ち解けたようだし、このまま仲良くやってくれると助かるよ」
「だから席も近かったのか」
視線を向けると、カナンはどこか照れくさそうに笑っていた。
「うん、実は知ってたんだ。先生から伝えてもらってから話そうと思ってて……ごめんね」
「いや、気にすんな。これからよろしくな、カナン」
「うんっ! こちらこそ、よろしくね、シュウくん!」
こうして俺たちは、同じクラスだけでなく、同じ部屋の住人にもなった。
寮は校舎のすぐ隣にあり、男子寮と女子寮は完全に分かれている。
男子が女子寮に入るには正式な許可が必要らしく、勝手に入ったら即退学だとか。
まあ、そこまでして入りたいとは思わないが……。
「けっこう広いんだな」
「でしょ? でもね、これまではずっと一人部屋だったから、少し寂しかったんだ。シュウくんが来てくれてうれしいよ!」
「そう言ってもらえると助かる」
部屋は二人部屋とは思えないほど広々としていた。
ベッドは壁際にそれぞれ置かれ、間には仕切りカーテンを吊るせるレールまである。
机やクローゼット、浴室まで備え付けられていて、まるで小さなアパートのようだった。
「……ん?」
カナンのベッドの上部に紐が張られており、いくつかの洗濯物が干されているのが見えた。
だが、その洗濯物の中に――
「うわああああああっ!? み、見ちゃダメぇっ! あっち向いてっ!!」
「うおっ!?」
突然、カナンが俺の目を両手で塞ぎ、そのまま勢いよく体の向きを変えさせた。
「す、少しそのままで待っててねっ!」
「わ、わかったって!」
数十秒ほど経ち、背後から「もう大丈夫だよ」と声がかかる。
振り返ると、干されていた洗濯物はすべて片付けられていた。
「あ、あはは……何も見てないよね?」
「え、ああ……もちろん。俺は何も見てない」
「ほっ……よかったぁ……」
カナンに話を合わせておいた。
――だが、干してあった洗濯物の中に、女性物の下着があった気がした。
きっと見間違いだろう。そういうことにしておこう……。