完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
翌朝。
俺は寮での生活がはじまっても、いつものように早起きし、持ち込みの木剣を振っていた。
寮の前には石畳の小道と色とりどりの花、ほどよく手入れされた茂みが広がり、小さな公園のような景観をつくっている。
ベンチもところどころに置かれており、朝の静けさが心地いい。
「あっち〜……」
魔技習得のために木剣を振り、ついでに魔法の練習も軽く試す。
集中していれば、そりゃ汗もかく。
「<ピュリフィケーション>」
だが今は、この浄化魔法がある。
淡い光がふわりと体を包み、汗や汚れが綺麗に吹き飛んでいく。本当に便利すぎる魔法だ。
「――こんな早朝から鍛錬とは、ずいぶん精が出るな」
休憩がてらベンチに腰を下ろしたタイミングで、声をかけられた。
見上げた瞬間、思わず目を見張る。
とんでもない美形の男が、朝の風に茶髪を揺らしながら立っていたのだ。
「ん……おっさ――いや、まあおっさんでいいか。何か用か?」
声の渋さから年配かと思いきや、見た目は二十代にしか見えない。
呼び方に迷ったが、俺の年齢からしたら十分おっさんだ。
「学校に用事があってね。早く起きてしまったから散歩をしていた」
「そうか。俺は鍛錬の休憩中だ」
服装はラフなのに、まとっている気配は完全に只者じゃないそれだった。
「………………」
てか、なんでこいつずっとここにいるんだ。
早く行ってくれよ……!
「木剣が二本あるようだな」
「んあ? ああ。予備で一本置いてるだけだが……」
「ふむ…………ちょうどいい。少し手合わせしてくれないか?」
「は?」
男は勝手にベンチから一本の木剣を取り、にやりと口角を上げた。
「……わかったよ」
どこかグレンに似た雰囲気を感じる。
戦闘好きというか、血が騒ぐタイプだ。
俺は木剣を握り、男と適度に距離をとった。
「三本勝負としよう――」
「ああ? ……まあ、いいけど」
久々に強そうだと思える相手だ。
なんとなく、セイラより格上な気すらしていた。
「では、はじめよう」
男が木剣を構えた。
ラフな服装でわかりにくいが、洗練された型に感じた。
一方で俺はというと、構えはかなり適当だ。
ジジイが教えてくれたのは型というより、状況に合わせてどう動くかという自由すぎる戦い方だった。元剣聖らしいが、名前から連想するものとは真逆のスタイルだと思う。
「…………」
茶髪の男は微動だにせず、じっとこちらを見据えている。
俺が年下だからか、先に動かせて様子を見たいらしい。
なら――
「――――ふッ!」
魔法は使わず、一歩で一気に距離を詰め、右下から跳ね上げるように木剣を振り上げた。だが茶髪の男は即座に受け止める。
「……なかなかやるな」
「おっさんこそ」
「ん――」
俺はおっさんの左足へと素早く足払いを仕掛けた。
木剣だけを使った勝負とは言っていない。
体勢を崩したところへ追撃を加えるが、おっさんは紙一重で身を翻して躱す。
だが俺はバランスを崩したところへ間髪入れず連撃を繰り出し、左右から木剣を打ち込む。
甲高い木剣のぶつかる音が、公園のような寮前に響いた。
しかし決め手には欠ける。
そこで俺は、軽く本気を出した。
両手で木剣を握り直し、腕ごと刈り取る勢いで左側へ大きく一閃。
「ぐぅぅぅッ……」
茶髪の男は一気に押し込まれ、辛うじて防いではいるものの、あと数センチで直撃という距離。
決まった――そう思った瞬間。
「――――っ!?」
木剣がすり抜けるように軽く流され、逆に鋭いカウンターが飛んできた。
間一髪で避けたが、髪がふわりと宙に舞った。
これが必殺だったらしい。
俺は相手の胴ががら空きになった隙を逃さず、木剣で軽くタッチした。
「――――ふう。私の一敗か……久しぶりに負けたよ」
「おっさん、今のなんだ? 魔技か?」
見た感じ、グレンの『陽炎』に近い、瞬間的なフェイントか移動のようなものだった。
「まさか――ただのトリックだ」
「そうか。じゃああと二勝したら、そのトリック教えてくれよ」
「ははははっ。言ってくれるね、少年」
その後の勝負も白熱し、最終的に俺が全勝した。
勝ちはしたが、正直いって辛勝だ。
レベルでいえばドロテイアよりは確実に下のはず。
なのに、ジジイとはまた違う独特の剣技と、初見殺しのテクニックが多すぎる。
俺はレベル差による反応速度でなんとか対応したにすぎない。
イアシス周辺の魔物の強さや、<完全解呪>と<完全解呪・反転>での経験値。
そしてハレスで一万体近く討伐した後――明らかに身体が軽くなった。
その積み重ねのおかげで力負けはしない自信はあったが……。
「私が誰かに三連敗したのは、二十年以上前かもしれない」
「おっさん……何歳なんだよ……」
この見た目でまさか四十歳を超えてるのか……?
「ここの学生なら、どこかですれ違うはずだ。それではまたな――」
「へいへい」
去り際まで無駄に絵になる男だった。
若い頃は確実にモテモテだったんだろう。
「……余計に疲れたな。部屋戻ってシャワー浴びるか……って、名前聞いてねぇじゃん。結局誰だったんだよ……」
名前を聞くどころか、カウンタートリックすら聞くことを忘れていた。
◇◇◇
早速だが、今日は選択授業の日だった。
せっかくなので俺はカナンが選んだ神殿騎士コースに同行することにした。
ちなみに選択授業は基本的に他のクラスとの合同授業になるらしい。
「はんっ。お前も神殿騎士取ったのかよ。恥だけは晒すなよ、新入り」
「そうだぞ」
「ガイツさんに迷惑かけるなよ!」
ガイツ、ダッド、モリスの三人が、相変わらずの調子で絡んでくる。
来そうだとは思っていたが、本当に同じ授業になるとは……。
「シュウくん、気にしないでね。ボクたちはボクたちで頑張ろう」
「ああ。カナンが一緒なら心強いよ」
ちなみにアリーシャとミュウミュウの姿はない。
どうやら別の授業を選んだようだ。
向かったのは、教会学校敷地内の大規模な演習場。
小さなコロシアムのような造りで、思っていた以上に金がかけられている。
「よーし、全員揃ったな。こっちに並べー」
担当らしき教師に呼ばれ整列すると、生徒の数はなかなか多い。
「また特別クラスと一緒かよ……恥かかせんなよ?」
「あぁ? クラスランクでしかマウント取れねぇ雑魚は黙ってろ」
「なんだと。やんのか?」
カナンによれば、隣はAクラスとBクラス。
つまり教会学校の上位クラス勢らしい。
Aクラスの奴が煽ってきたことに対し、ガイツが即座に煽り返した、という構図だ。
「はは……いつもこうなんだよね」
「ガイツとあいつら、どっちが強いんだ?」
「えっと……それは……」
カナンの曖昧な反応で察した。
口では反撃しているがエリート組には勝てないのだと。
そもそも、なぜガイツが特別クラスなのか謎なんだが……。
「――はいはい、そこの君たち。今日の授業、そんなケンカ腰でいられなくなるぞー? なぜなら今日は特別講師が来てるからだ!」
教師が妙に誇らしげに宣言する。
それを聞いてざわつきはじめる生徒たち。
特別講師が誰か、皆が気になっているのだろう。
「紹介する! 神殿騎士団クローヴァー隊隊長のセイラ・クローヴァー殿。そして、神殿騎士団団長兼アルトリア隊隊長のベルクハルト・アルトリア殿だ!」
………………え?
「セ、セ、セイラ様だっ!!」
「団長までいるぞ!?」
「女神様に感謝……!」
悲鳴のような歓声が同時に上がる。
セイラがしばらく滞在しているのは知らされていた。
だけど、まさか教会学校に来るとは思わないだろ。
「セイラしゃまぁ~~~~!!」
「うおっ」
背後のカナンは、目を完全にハートにして叫んでいた。
神殿騎士を目指したきっかけが彼女だと聞いていたが、ガチファンらしい。
だが、俺にはセイラ以上に気になる人物がいた。
――セイラの隣に立つ、ベルクハルト。
団長と呼ばれたその人物はカナンと同じ姓を持っていた。
「な、なあカナン。お前の父親って……」
「セイラしゃまぁ~~~~っ」
ダメだコイツ。セイラしか見えてない。
だが、姓が同じ時点で察するしかない。
そして――俺の姿を見つけた団長は、軽く笑って言った。
「ふっ……また会ったな、少年」
――ベルクハルト・アルトリア。
彼は今朝、俺と木剣で手合わせした、あの爆イケおっさんだった。