完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
――『上裸のまま背中から抱きしめて心臓がある部位を揉む』
これが<完全解呪>のスキルに指示された、アミリアの『火傷熱』の治療方法だった。
スキル、お前生きてんだろ!? と思ってしまう俺の気持ちも理解できるだろう。
生死の境を彷徨うほどの状態異常とは言え、まさかこんなセクハラな指示をされるとは思いもしなかった。
でも俺はスキルの指示通りに後ろから彼女を抱きしめて、心臓がある左胸を揉みしだいたといったわけだった。
時間にして、約三十分。
なかなかに長い治療時間だった。
そして、治療を終えたあと、疲労と睡眠時間が足りない早朝ともあって、俺はそのまま寝てしまったらしい。
目覚めた時には、先に『火傷熱』から回復したアミリアが上半身裸で俺を見下ろしていて、正直思い切りビンタされるものだと思ったのだが、彼女は瞳を震わせながら、俺に感謝の言葉を告げたのだった。
◇◇◇
――あれから数日後。
「ムッ……ムムッ…… ムムムムッ!?」
ケリュネイアにも似たスポーツ実況者のような声を出していたのはジジイ。
この日も、早朝から木刀を持って、剣の稽古をしていた。
しかし、不思議なことが起きていた。
以前よりも明らかにオウジの動きが目で追えるようになり、剣速にもついていけている気がしたのだ。
「確か聖獣様の『猛毒』を治したと言ったな……?」
「そうだけど……」
「それに加えて、アミリアの『火傷熱』……シュウ、お前はかなりレベルが上がっているのかもしれない」
「…………は?」
俺の驚きは目の前のことに対してではない。
レベルという概念に対しての驚きだ。
「いやいや、レベルってなんだよ。はじめて聞いたぞ」
「そうじゃったか? ワッハッハ」
このクソジジイ。大事なことはホント話さねえのな。
他にも話していないことがたくさんありそうだ。
「それで、レベルってなんだよ」
「そうじゃな。教えておこう。――レベルとは、その人物の強さを示す指標じゃ。教会での特別な儀式、もしくは<鑑定>スキル以外ではわからぬ。そして、魔法やスキルの使用、魔物を倒したりすることでレベルが上がると言われておる」
これは前世のゲームと似たようなものと言ってもいいのだろうか。
でも強さを示す指標って、具体的にはどういうことだ?
「シュウ、お前がワシの動きについていけるようになってきたのは、レベルが関係しているじゃろう。より強力な状態異常を二つも治療したことで、一気にレベルが上がり、身体能力が向上したというわけじゃな」
「ってことは、俺って見た目ではわからないけど、力が強くなったり、速く動けるようになってるってこと?」
「簡単に言えばそうじゃ」
おお〜〜〜〜。
ならこれはゲームに近いレベルアップなのではないだろうか。
攻撃力に守備力、素早さとかも。そういったステータスが上がったということだろう。
「それで、俺のレベルっていくつくらいなんだ?」
「わからん。知りたければ、ミゼットに教えてもらうがいい」
「それもそうだな。暇がある時に聞いてみるよ」
この世界にもレベルという概念が存在し、しかも自分が大きくレベルアップしていた――その事実を知った瞬間、俺は世界の仕組みに対する好奇心で胸が高鳴った。
しかしそれでもだ、俺がジジイとの稽古では全敗で、強くなったという感覚はそれほど感じることができないのだった。
「——そろそろ、魔物を狩ってみてもいいかもしれんな」
大の字で倒れた俺に対して、ジジイがそう告げた。
◇◇◇
言葉通りに翌日、俺はジジイと共に森へやってきていた。
魔物避けの効果のあるロザリオは外していけと言われたため、家に置いてきた。
よく聞けば、ケリュネイアが守護するこの森の中では魔物避けの効果はあるらしいが、他の場所ではそうはいかないらしい。
そして、村やケリュネイアがいる場所から離れれば離れるほど効果は薄れるのだとか。
ジジイの後に着いていき、約一時間が過ぎた頃。ピタリと足を止めることになった。
「ここいらでいいじゃろう」
「ついにヤるのか」
「そうじゃな。真剣はちゃんと振れるんじゃろうな」
「まあ、なんとか」
俺は少し前から真剣をもらい、素振りだけはさせてもらっていた。
持っているのは無骨で飾り気のないロングソード。重いとは思っていたのだが、レベルアップしたお陰か、さほど重いとは感じなかった。
俺はまだババアの<鑑定>で自分が何レベルなのかを聞いていないし、どのくらいのレベルが強いと言えるのかも聞いていない。
でも、わかる。ジジイは俺よりも遥かにレベルが高いと。
「ほら、来たぞ。ジャイアントボアじゃ」
ジジイが指差す先――目の前に川が流れているその場所に一体の魔物がいた。
川に顔を突っ込み、水を飲んでいたのだ。
「――――は?」
しかし、俺はその姿を見て固まってしまった。
その理由は明白、体長はゆうに十メートルは超える巨大な猪だったからだ。
ゾウと同じくらいの体長を持つケリュネイアよりもさらに大きいのだ。
ジャイアントボアは、その威容だけでもとても強力な魔物に見えた。
「ここには巨大な魔物しかいねえのかよ!!」
「ん? これくらい普通じゃろう。大きさをいちいち気にしていちゃ何もできんぞ。ほら、いけ」
「はぁ!? どこをどうやって斬ればいいんだよ!」
「いいからいくんじゃ!!」
「うわっ!?」
するとスパルタジジイは、俺のケツを思い切り蹴って、ジャイアントボアの目の前までふっとばした。
あのクソジジイ。後で見てろよ……。
「ブモォォォォォォ……」
するとジャイアントボアは俺に気づいたのか振り返り、左右に生えた凶暴な牙を見せる。
俺は剣を構えながら恐怖で少しずつ後ずさりをする。
「マジかよ……どうすりゃいい――うおおおっ!?」
するとジャイアントボアは、巨体とは思えないスピードで俺に突っ込んできた。
間一髪で牙に剣を滑らせて避けることができたが、これはマズい。一発受けただけでも重傷になってしまうかもしれない力だった。
「何度も教えたじゃろう。相手の武器を削ぐのが、戦いの基本じゃ。では、ジャイアントボアの武器とはなんじゃ」
ジャイアントボアの武器……?
俺は次の攻撃を仕掛けようとするジャイアントボアに向き直り、じっと見つめる。
そうしてもう一度向かってきた時、俺はその牙に向かって剣を突き立てた。
「ぐ――――っ」
ガキン。という音が鳴り、俺はその勢いに負け、吹き飛ばされたのだった。
「あほんだらぁ! 猪の武器は足じゃろうが! 牙を削ったところで足が残ってれば、何度でも突進してくるわい!」
「く……ジジイの言う通りだが……俺はまだ戦闘に慣れてねぇ」
「ふむ……手本を見せずいきなり戦闘をしてもわからぬものか……ならばワシの手本を見せてやろう」
するとジジイが後方からゆっくりと歩みを進めて俺の前に立った。
右手一本で剣を構えると、ジャイアントボアは俺と対峙した時とは違い、なぜか警戒をはじめた。
ジジイの強さが感覚的にわかっているのかもしれない。
「こい。猪よ」
「ブモォォォォォッッ!!」
同時に走り出す。
ジジイの走りはどうみても年寄りのそれではない。
一方でジャイアントボアの走りは一撃で殺さんとする勢いだ。
迫る太い牙。
しかしジジイは直前で、回転しながら牙を剣でいなし、その流れのままジャイアントボアの右前脚、さらには右後脚まで叩き斬った。
血しぶきが舞い、片足を失ったジャイアントボアがドスンと大きな音を立てて横に倒れる。
ジジイは動けなくなった相手を見やり、空へと飛び上がると、その鼻面へと剣を突き立て一刀両断――絶命させた。
「…………いや、できるかい!!」
ぶっとい脚にぶっとい鼻面を片手で軽々と斬った剣力。
あんなの普通であるわけがない。
しかしこの後も、そしてこれからも長く、俺に指導としてクソデカ魔物との実践訓練が続いていくのだった——。
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