完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「朝のおっさん……」
俺がそう呟くと、団長――朝に会った男は、俺の隣でセイラに釘付けになっているカナンをちらりと見て言った。
「カナンと仲良くしてくれているようだな。これからもよろしく頼む」
「あ、ええと……ああ」
やはりカナンの父親らしい。
見た目はセイラと同年代にしか見えないほど若々しいが、実年齢は四十は超えているのだろう。
この端正な容姿……カナンはしっかりと受け継いでいるらしい。
「はーい、みんな静かにー!」
セイラとベルクハルトの姿にざわついていた生徒たち。
担当教師の声がすっと制した。
「せっかくお二人が来てくれているので、今日は実戦形式で行う。時間の許す限り、お二人と模擬戦できるようにする。ただし、それ以外は、こちらで決めた相手と戦ってもらうから、指示には従うように」
つまり、セイラとベルクハルトと直接戦える可能性があるということだ。
憧れの二人にとっては、喉から手が出るほど欲しい機会だろう。
「だが、最初は素振りから。向こうにある木剣を取ってくれ」
俺たちは各自木剣を手にして、整列した。
総勢五十名以上が、一斉に素振りをはじめる。
――ブォッ、ブォッ、ブォッ。
全体を見ると、どいつもこいつも綺麗な動きをしていた。神殿騎士団の型というものがあるのだろう。
隣のカナンすら、驚くほど精度の高い素振りを見せている。
一方の俺は、まったく別の流派で教わってきた。
型にはまった動きとは言えず、浮いている自覚はある。
「き、君……はじめて見る顔だが、噂の編入生か?」
「ん……そうだけど」
目についたのか、担当教師が俺の前にやってきた。
「音が、すごい。素振りだけでこの音を鳴らす生徒は見たことがないよ」
「そうか……? 本当は音を出さないのがいいんだろうけど、どうしても出ちまうんだ」
「はは……それは」
褒められたのだろうか。
だが、村のジジイに言わせれば、音を出さない素振りこそ至高らしい。
実際、ジジイの素振りは音を置き去りにする。<エアスラッシュ>抜きで威力ある剣風が生まれると本気で思うほどだ。
「ふむ……力はまだ未熟だが、筋はいいようだな」
「ああああああ!? ありがとうございますぅっ!」
声をあげたのはカナンだった。
いつの間にか、セイラがカナンの素振りを見に近づいていたのだ。
「ほら、しっかり握れ。柄は軽く、だが芯はぶらすな。実際に敵が目の前にいるつもりで振るのだ」
「あっ、あっ、セイラ様の手が……セイラ様の手がぁ……っ!」
カナンの手に重ねるようにして、セイラは剣を握らせた。
カナンの顔は真っ赤になり、完全に混乱状態だった。
「…………」
そして次に、セイラは俺の前でぴたりと立ち止まった。
何も言わず、まっすぐ俺だけを見つめる。
「おい、なんとか言えよ……」
「おい、だと? 今の私は臨時教師だ。そんな言葉遣いをすれば、周囲の生徒に何を言われるかわからないぞ? 団長殿にもな」
「お、お前……っ」
肩書きを利用して、俺に態度を強要してきやがった。
真面目な声色だが、わずかに震えた唇が笑いを堪えていることを物語っている。
そしてセイラは俺の隣に立ち、軽く手振りで素振りを止めさせた。
「神殿騎士の基本型というのは、こうだ」
カナンにした時と同じように、俺の手の上へセイラの白い手がそっと重なる。
長く整った髪が肩に触れ、かすかに甘い香りまで感じた。
美人で神殿騎士団の隊長格――惚れられて当然の女だ。
「俺には必要ないって、わかってるくせに」
「ふふ……公衆の場では、こうでもしないと触れられないからな。いいだろう?」
囁くような声のやり取り。
セイラは完全にわかってやっている。俺をからかい、反応を楽しんでいる。
「――実は今夜、空いているんだ。シュウ、どうだ。私の宿に来ないか」
「こんな場所で堂々と誘うなよ……」
「ふふ、予定がないなら……待っている」
そう言うとセイラは、一枚の紙片を俺の修道服の胸元へと滑り込ませた。
泊まっている宿の場所だろう。
その後もしばらく素振りが続き、いよいよ模擬戦が開始される。
まずは生徒同士の勝負だ。
「――あ、最初はガイツくんの番。相手は……」
対戦相手は例のA組でガイツと口論していた男だった。
どうなるか、少し不安になる。
同時に複数の模擬戦が始まるなか、俺とカナンは休みでガイツの戦いを見守る。
「勝負は相手が参ったと言うまで! ――開始っ!」
教師の合図とともに木剣のぶつかり合う音が響いた。
「ふっ……来いよ、ガイツ」
「言われなくても……ッ!」
A組の男子は余裕の表情で構え、挑発するように笑った。
ガイツは真正面から飛び込み、多方向から木剣を振るう。
だがその全てを相手は綺麗に受け止めていく。
「どうした、それだけか」
「まだ、これからだぁッ!」
ガイツは姿勢を低くし、歩幅を広げ、一気に踏み込んで横一閃。
甲高い衝撃音。相手の剣が押されはじめる。
それなりに力はある。
だがレベル差というやつだろう。押されていても、A組の男にはまだ余裕が見える。
「そういえば、お前の父親――また団に迷惑をかけたそうだな」
「……何が言いたい」
「神殿騎士には不要ってことさ」
「貴様ぁぁぁぁぁっ!!」
ガイツの父も神殿騎士らしい。
何か失敗をしたのだろう。家族の話題を出された瞬間、ガイツの剣筋が乱れた。
相手は手首を返して受け流し、そのまま胴へ鋭いカウンター。
「ぐッ――!」
ガイツは吹き飛ばされ、腹を押さえて立ち上がれない。
「おい、この程度で負けたなんて言わないよな?」
「あたり、まえ……だろ……ぐはっ!!」
倒れたガイツへ容赦のない追撃。
木剣が何度も胴や顔に叩きつけられ、体が跳ねる。
教師は止めない。
ガイツがまだ「参った」と言っていないからだ。
「いつもああなのか?」
「うん……それでも、ガイツくんはいつも強気でいるんだ」
「…………」
編入早々に敵意を向けてきた男子。
だが、今のガイツを見ていると……どこか嫌いにはなれない。
家族のことを踏みにじられれば、俺だって平静でいられる自信はない。
「う、おおおおおっ!!」
「はっ、声だけは立派だな」
「ぐぅ……ッ!」
最後に、起き上がりかけたガイツの顔へ容赦なく木剣が叩きつけられた。
鈍い衝撃音とともに、ガイツの体が崩れ落ち、そのまま意識を手放す。
「シュウくん?」
周囲ではまだ他の模擬戦が続いており、担当教師は状況に気づいていない。
俺は無言でガイツへ駆け寄り、膝をついた。
「<ヒール>」
顔は腫れ、痣だらけになっていた。
だが、俺の魔力が流れ込むと、その痣はみるみる消え、肌の色が元に戻っていく。
ただ、ガイツの意識はまだ戻らない。
俺は肩を貸し、演習場の壁際へとゆっくり座らせた。
さらに見れば、取り巻きのダッドとモリスも倒れている。
俺は同じように二人を運び、<ヒール>を施した。
「シュ、シュウくん……?」
「どうした?」
「今の……<ヒール>、だよね?」
「ああ――俺の<ヒール>は、どうやら少しだけ強力らしい」
「少し、なんてレベルじゃ……」
回復速度と威力。
以前にも指摘されたことがあるが、レベルの問題なのか、それとも加護の問題なのかわからない。
「――次、シュウ・ミレイスター。カナン・アルトリア。こちらに」
俺とカナンの名が呼ばれ、指定された場所へ移動する。
対面に立つのは、またしてもA組の生徒。
「なんだ、見ない顔だな。特別クラスに編入したのか?」
「ああ」
「ふっ、あのお遊びクラスに入るなんて……底が知れてるな」
特別クラスは、ただ弱い者の集まりと勘違いされているらしい。
実際は理由の異なる生徒が集められているだけだが、A組からすれば、そう見えているのだろう。
ガイツの時と同じく、言葉が無駄に多い。
こんな連中が将来神殿騎士になると思うと、胸の奥に嫌悪が湧いた。
「おい、何か言えよ。雑魚クラス」
「…………」
相手の言葉は無視した。
そのタイミングで、担当教師の声が響く。
「では、開始――!」
「うらあああああっ!!」
号令を言い終える前に、相手は突進しながら木剣を振り下ろしてきた。
だが――遅い。これがレベル差というものなのだろう。
「――死んでくれるなよ」
「ぼうふっ!?」
体を軽くひねって攻撃を躱し、空いた胴へ木剣を振り抜く。
衝撃で相手の体がくの字に折れ、一直線に吹っ飛び演習場の壁に激突した。
「あ゙……うぅ…………」
たった一撃。
相手は呻き声を漏らすだけで、完全に沈黙した。