完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「な、なぜアタシがこんな格好を……」
「わ、わたしも……すっごく恥ずかしいです……っ」
翌日の昼。
必要な書類の確認もひと通り終わり、ドロテイアとメディナを教会学校へと呼び出していた。
そして、二人がそろって困惑しているのには、当然ながら理由がある。
彼女たちにはメイド服を着てもらっていたのだ。
アリーシャの侍女であるリゼットが使用人として学校に出入りしている。
その話を聞いたとき、暇を持て余しているこの二人にも、俺の使用人として学校生活を手伝ってもらうのがいいと判断した。
ドロテイアに関しては……まあ、半分はお仕置きのつもりだ。
細かい雑務をするなど、彼女にとっては屈辱以外の何ものでもない。
――はずなのだが、俺の言うことなら嬉しそうにするので、結果としてほとんど罰になっていないのが現実だった。
一方メディナには、<隠密>スキルがある。
学校内で何かトラブルが起こった時、近くにいてくれれば確実に助かる。
なので二人には離れた家ではなく、使用人用の寮に泊まり込みで俺の身の回りをサポートしてもらう方針にした。
「主さま……この服、分厚くて動きにくいよぉ……」
「下着みたいな格好で校内うろつかせるわけにはいかないだろ。我慢しろ」
ドロテイアの普段の服は、胸と下だけ隠したほぼ下着同然の格好。
神聖を重んじる教会学校で、魔族がそんな姿で歩くなんてあり得ない。
用意したメイド服は、メディナの方はクラシックな長い丈のもの。
だがドロテイアは体格に合う服がなく、コスプレに近い、少し露出多めのメイド服になってしまった。
それでも普段の姿に比べれば、比喩抜きで常識的になったのだから、十分マシと言える。
「ってことで、悪いが……さっそくこの服、洗濯お願いな」
<ピュリフィケーション>で服を洗うことはできるが、匂いまで完全に消えてしまう。
できれば柔軟剤の良い匂いがした方が嬉しい。
便利な魔法にも、普通の生活の良さが失われる欠点はあるのだ。
「メディナ。ドロテイアが変なことしたら遠慮なく言えよ」
「は、はいっ」
「ふんっ。こんな小娘に何かしやしないよ。……主さまがお仕置きしてくれるってんなら、しなくもないけどねぇ」
「……面倒くさいこと言うなよ。じゃ、逆にしばらく放置してやるか」
「そ、それだけはやめてくれぇ! 身体がおかしくなっちまうよぉ!」
定期的に精気を摂らないと不調になる――魔族としてのドロテイアの特性。
他人から吸わせるわけにはいかないので、俺が管理するしかない。
「それと、学校の飯はタダらしい。好きに食っていいぞ」
「はいよぉ」
「わ、わかりましたっ」
そんなわけで、洗濯物第一号として、俺は自分の服を二人に託したのだった。
◇◇◇
「――今日は特別講師として、かつて成績トップを維持し続けていたエリナ・クラインさんに指導していただきます」
翌日。選択授業――俺は回復魔法が中心の修道士コースを受講してみることにした。
そこにはアリーシャとミュウミュウも参加しており、さらに驚くことに特別講師としてエリナが現れたのだ。
冒険者をやっている身で大丈夫なのかと心配になるが、実際に本人が壇上に立っている以上、問題ないのだろう。
「皆様、はじめまして。エリナ・クラインです。理由があって教会学校は中退しましたが、在学中は成績だけは常にトップにいました。今日は皆様のお力になれるよう、できる限り指導したいと思いますので、どうぞ遠慮なく質問してくださいね」
エリナは今年二十歳。冒険者歴は五年と言っていた。
つまり学校に在籍していた期間は短い。それでもトップだったというのだから、本当に努力家だったのだろう。
教会で働いていた経験もあると言っていたから、学業と仕事を両立していたわけだ。そう考えるとますます凄まじい。
「ふふっ」
俺の存在に気づいたエリナは、控えめに微笑んでこちらに視線を寄越す。
「エリナ先生……美人すぎる……」
「なあ、今こっち見たよな!? 俺の方見たよな!?」
冒険者であることは伏せているのだろうが、その人気は凄まじい。
登場した瞬間から、男子たちは完全に浮き足立っている。
「では、今日はエリナ先生と一緒に授業を進めていきますからね」
担当の女性教師の声が響き、俺たちは説明の場から移動することになった。
◇◇◇
辿り着いたのは、学校内にある治療室のような広い区画だった。
ずらりと並んだ数十台の治療用ベッド。その上には――見慣れない“何か”が横たわっている。
「なんだ、あれ……」
「みゃっ、それは治療人形ですよっ。魔物の皮膚で作られた特製の訓練用人形なんです。ああしてあらかじめ傷がつけてあって、回復魔法をかけると実践練習になるんですっ」
「へえ……そんな便利なのがあるのか」
てっきり治療院に手伝いに行く程度だと思っていたが、まさか専用の人形まで用意されているとは。さすがは教会学校というべきか。
「では、今からグループごとに訓練を行います。私が呼んだグループに分かれてください」
案内された先で、俺は同じ特別クラスだからか、アリーシャとミュウミュウと同じ班になった。
「あぁもう……あなたと一緒だなんてツイてないわ」
「ア、アリーシャちゃん……」
「気にすんな、ミュウミュウ。いつも通りでいいぞ」
アリーシャは俺を見た瞬間、露骨にそっぽを向く。
理由がわからない以上、追求しないのが正解だろう。
それに、アリーシャはエリナの存在を知っているはずだ。
言葉を交わしてはいないだろうが、王都までの旅は一緒だったからな。
「では、一人ずつ順番に回復魔法を使いましょう。他の人はその回復速度、効果範囲、威力……あらゆる項目を十段階で評価し、最後にアドバイスをしてあげてください」
ふむ、そういう形式か。
けど俺、回復魔法なんて全部適当でやってきたぞ……?
光らせて傷塞いで終わり、みたいな。不安しかない。
「じゃ、じゃあ……わ、私からいきますっ!」
ミュウミュウが勇気を振り絞って手を挙げ、治療人形の前へ進んだ。
「い、いきます――<ヒール>!」
光がぱっと広がった瞬間、俺は目を疑った。
「……なんだこれ。めっちゃ可愛いんだが」
ミュウミュウの<ヒール>は、俺の知る回復魔法とまるで違った。
手元に生まれた光が、まるで肉球みたいな形になっている。
光が可愛い。癒やし系のビジュアルだった。
「シュウくん、知らないんですか? 回復魔法って、光の形をイメージすると効果が伝わりやすいんですよ」
「マジで……?」
「あなた、本当に知らなかったの? これだから田舎者は……っ」
田舎者は認めるが、ババアやアミリア、そんなことしてたっけ……?
「お、終わりました! ど、どうでしょう……?」
「ミュウミュウ。光の形は可愛いし悪くないわ。でも狙いが一点に集中しすぎ。ほらここ、まだ傷が残ってるでしょう?」
「あっ、本当だ……アリーシャちゃん、ありがとうございますっ!」
王女だから授業なんて流していい立場だろうに、彼女は驚くほど的確に指摘する。
この完璧主義……生まれつきなんだろうか。
「で? あなたはどうなの。ミュウミュウにアドバイスしなさいよ」
「……俺?」
やべえ。考えが一つも浮かばねえ。
とりあえず思いついたことを言ってみる。
「えーと……その……レベルって、大事だよな?」
「あなた……ぶち殺すわよ?」
「す、すんませんでしたぁ!」
王女の気品など一切ない。
鋭い瞳で射抜かれた瞬間、俺は反射的に謝ってしまった。
レベルの暴力でここまで戦ってきた俺にとって、剣ならまだしも回復魔法は専門外だ。威力と速度だけはあると思うが、肝心の技術というものがまるでわからない。
「じゃあ次は私がやるわ。あ、さっきのミュウミュウは六点ね」
「はいぃぃっ!」
……あれで六点? 思っていたより高いじゃないか。
それで俺はいったい何点を付けられるのだろう。
「いくわよ――<ヒール>」
アリーシャが別の傷に手をかざし、回復魔法を放つ。
すると、その光がふわりと形を取りはじめた。
「へえ……」
「な、何よその顔っ。文句でもあるの?」
「いや、ないない」
アリーシャの<ヒール>は――ハートマークだった。
可愛い。めちゃくちゃ可愛い。
普段は俺の前でぷんすかしているくせに、こういうところを見ると、可愛いものが好きなのかもしれない。
ミュウミュウの肉球ヒールよりも、精度と速度は明らかに上だ。
「どう? 点数をつけてもらえる?」
「は、はいっ……私的には指摘するところは……その……ありません。なので――」
「ちょっと待て」
ミュウミュウは十点をつける気満々だった。
だが、俺の目には回復した皮膚にわずかなシワが見えた。
「なによ」
「ちょっと傷、触るぞ」
そう言って、アリーシャが治した傷に指先を押し当てる。
ほんの少し力を込めると――
「あっ……」
アリーシャもミュウミュウも気づいていなかった。
一見完璧な回復に見えても、皮膚の深層までは治っていない。つまり、威力不足だった。
「思いっきり押したわけじゃないからな」
「っ……そんなの、わかってるわよっ…………でも、指摘してくれて助かったわ」
「お、おう……」
あれ、素直だ。
絶対に噛みついてくるタイプだと思っていたのに、真面目に受け止めてくれるらしい。
案外、可愛いところもあるのかもしれない。
「ミュウミュウが六点なら……七点ってところだな?」
「……いいえ、五点よ。ミュウミュウのは完全に治ってたもの」
「アリーシャちゃん……!」
「お前がそれでいいなら、まあ」
忖度はしない主義らしい。
俺を田舎者呼ばわりしたりもするが、変な差別意識はなさそうだ。
アリーシャのことがますます謎になってくる。
「じゃあ、次はあなた。やりなさいよ」
「はいはい」
俺は治療人形を裏返す。
まだ治っていない傷がいくつか残っていた。
「じゃあ――<ヒール>」
軽く魔力を流したつもりだった。
しかし――
「きゃああっ!?」
「な、なんですかっ!?」
人形全体が光に包まれた。
ミュウミュウやアリーシャのように光が形を取る暇もなく、全ての傷が一瞬で再生していく。
「――こんなもんだろ」
所要時間三秒。
ミュウミュウは三十秒、アリーシャは十五秒で一つの傷だけを治した。
俺は三秒で全部だ。
「あ、あなた……どういうこと!? ドーピングでもしてるの!?」
「こ、こんな<ヒール>……見たことありませんっ」
ドーピングってなんだよ。
そういや、ブルドグが巨大化した時も似たようなものだった気はするが。
他の生徒たちもこちらを見てざわつき出した。
気づけば神殿騎士コースの実技みたいな空気になっている。
「ふふ……さすがはシュウさんですね」
「エリナ……先生」
「あら。先生と呼んでくれるのですね」
「まあ、あまり軽んじるわけにもいかんしな」
セイラに言われたばかりだし、エリナの権威が落ちるのだけは避けたい。
一応、先生と呼んでおく。
「話では聞いていましたが、とんでもない威力です……」
「まあ、俺のレベル知ってるなら、予想つくだろ」
「ええ……」
エリナは俺のレベルを知っている。
問題は、知らない他の生徒たちだ。
これだけの威力を見せつけられて驚かない方が無理だ。
「あ、あなた……今の、何をしたのよっ」
「いや、<ヒール>だけど」
「う、嘘! そんなの……そんなの、聖女様でも……!」
どうやら聖女の回復魔法を見たことがあるらしい。
上級の<セイントヒール>は複数人を回復できると聞いたが、俺は下位魔法で同じ事ができる。
そんなことを言ったら、アリーシャが間違いなく発狂する。
「アリーシャさん。彼は私と旅を共にした仲間です。……あのメンバーにいた理由、あなたも理解できるでしょう?」
「す、すみません、取り乱しましたっ……そ、それは、わかっているのですが……」
エリナに言われると、アリーシャは急に敬語になった。
わかりやすいというか、露骨というか。
しかし、それはそれとして、さっきから気になっていることがある。
俺にもあの光の形は出せるんだろうか。少しだけ興味がある。
「――それで、アリーシャ。俺は何点だ?」
「っ! ゼロ点よ!!」
「なんでだよっ!」
忖度どころか、完全にアリーシャの私怨アリアリの点数だった。