完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「きゃあああああああああっ!?」
「みゃあああああああああっ!?」
その日の朝。
女子寮の一室から、甲高い叫び声が響き渡った。
人生でここまで声を張り上げたことがあるのか、と思うほどの絶叫だ。
「な、なな……なんで――なんで私のここに、男のモノがっ!?」
彼女たちは生まれたときから、れっきとした女の子だった。
そのはずなのに――今、絶対にあるはずのないものが、そこに存在していたのだ。
◇◇◇
「にゅっ、ふっふっふぅ……」
この日の選択授業は、薬学の薬師コースを選んだ。
村でも薬草や簡単なポーションの扱いは学んでいたし、回復魔法以外にも人を救う知識は多い。だからこの授業も学んで損はないはずだ。
しかし、教室に現れた教師は想像以上に怪しい雰囲気をまとっていた。
白衣に黄緑色の無造作な髪。
分厚い丸メガネの奥の目には寝不足なのか隈が見え、研究者という言葉を全身で表している。
そして何より、その独特すぎる笑い方。
だが、生徒たちは慣れたもので、誰一人として動じていなかった。
「新顔がいるようだから、私から自己紹介しよう。――フェルディ・マイアだ。この学校の教師であり、魔法薬の研究者としても長い。……ふひ、今日は楽しい授業になりそうだ」
ちらりと俺の方を向いて、そう言った教師。
そう、彼女こそ、ずっと昔にジジイやババアと共に世界を巡っていた『聖者パーティー』のメンバー、フェルディ・マイアだったのだ。
だが、おかしい。
目の前にいるフェルディは、どう見ても二十代にしか見えなかった。
ジジイの家にある写真に写っていた彼女と同じ顔つきをしていたのだ。
その理由には、心当たりがあった。
フェルディの一番の特徴は髪色でも白衣でもない、その長い耳にあったのだから。
――エルフ族。
ドロテイアだって耳が長い。彼女は魔族ではあるが、角がなくなった今、ダークエルフという種族と同じ見た目になったという。
だから存在は知っていた。前世の知識にもあったオタクが夢見る種族。
もしその通りなら、彼女は長命種であるエルフ族ということになるが……。
「ミュウミュウ、フェルディ先生って……やっぱりエルフなのか?」
同じ授業に参加しているミュウミュウとアリーシャ。
アリーシャは俺を見るなりぷいっとそっぽを向くが、ミュウミュウは小声で答えてくれる。
「は、はい……。先生はエルフ族です。とても長く生きていると聞きますけど、詳しい素性はほとんどの人が知りません……」
「だよな。長命種なら知り合いがいなくなるのも普通か」
ジジイとババアが生きていた時代の人物。
今、彼女を知る者はもうほとんど残っていないのだろう。
「――さてさて。今日の授業はエリクサーについて、だ」
エリクサー――その名前だけは俺も聞いたことがあるが、実物は見たことがない。
「エリクサーについて説明できる子はいるかな?」
「はいっ!」
「では君」
手を挙げた女子生徒を指名すると、彼女は緊張した様子もなく、すらすらとエリクサーの特徴を語り始はじめた。
「エリクサーは万能薬とも呼ばれる、薬の頂点です。素材は上位竜の心血、マンドラゴラの抽出液、ゲキアカダケなど……。さらに、すり潰して混ぜるだけでは精製できず、一定以上の錬金術の技量が必要だと言われています」
……ん? どこかで聞いたことがある素材のような気がする。
「素晴らしい説明だ……彼女に拍手を」
満足げに頷いたフェルディの言葉に、教室中から拍手が起きる。
当てられた女子生徒は、誇らしげに胸を張ってそれを受けていた。
「――さて。これが、そのエリクサーだ」
「「えええええええっ!?」」
入手も精製も至難の業とされる秘薬が、まさか本当に目の前に出てくるとは。
生徒たちが一斉に驚きの声を上げたのも無理はない。
瓶の中で揺れる液体は赤。
ただ赤いだけではなく、透き通るような輝きを帯び、どこか神秘的でさえある。
青や緑が一般的なポーションとは、色味だけで格が違うように見えた。
「にゅふふふ。驚きの表情は何よりも栄養だ。――ちなみにこれは、私があらゆるツテを総動員して素材を集め、自ら精製したもの。だから、どれほど頼まれても譲るつもりはないよ」
つまり素材集めを誰かに任せたとしても、調合作業は本人がやったということだ。
フェルディは錬金術の腕もある……ということになる。
その後も、授業はエリクサーを軸にした回復薬の解説が続いた。
奇妙なところは多々あったが、内容自体は驚くほど有益で、ほとんどの生徒が満足そうだ。
セイラが変わり者だと言っていたから身構えていたが――俺には、そこまで扱いづらい人物には思えなかった。
「――シュウ・ミレイスターくん」
授業終了後、フェルディがこちらへ歩み寄ってくる。
俺も一度きちんと話したいと思っていたところだった。
「どうも。あんたがフェルディ……」
「ふふ。本当に不思議な子みたいだね。――良かったら、今日の授業が全て終わったあと、私の研究室まで来てくれるかい?」
「ああ、いいぜ。わかった」
どうやら俺のことは最初から知っていたらしい。
この世界に転生して五年。フェルディとジジイたちが手紙でやり取りしていたとしても不思議じゃない。
「ああ、それと──そこの二人も来てくれないかな?」
「え、わ、私ですか?」
「わ、わたしも……っ!?」
名指しされたのはアリーシャとミュウミュウ。
フェルディは、なぜか二人にも声を掛けていたのだった。
◇◇◇
こうして一日の授業が終わり、俺はアリーシャとミュウミュウを連れて、フェルディの研究室があるという場所へ向かった。
「すみませーん!」
「開いているよ、どうぞ入って」
ノックして声をかけ、中へ足を踏み入れた瞬間――研究室という言葉から想像していた光景は一瞬で吹き飛んだ。
「くさっ」
「うゔぉぇっ!?」
最初に悲鳴を上げたのはアリーシャ。
続いて嗅覚の鋭いらしいミュウミュウがぐるぐると目を回し、吐いて倒れそうになっている。
その匂いの発生源は明らかだった。
床に散乱した飲食物の残骸、脱ぎ捨てられた衣類、壁際に積み上げられた液体入りの瓶と実験器具の山。
さらには、生活感丸出しのベッドまで置いてある。
「やあやあ、よく来てくれたね。ちょっと散らかってはいるけれど、好きなところに座ってくれたまえ」
「…………どこに?」
視線の先にはソファと呼ばれた家具があったが、半分ほど衣服の墓場と化していた。
無造作な髪型からうっすら想像していたが、やはり生活面では完全に自堕落そのものらしい。
「ミュウミュウ、手伝ってちょうだい」
「は、はいっ!」
アリーシャは王女でありながら、躊躇なく散乱した物の片付けをはじめた。
意外なほど段取りが良く、どうやら寮生活でこういう作業には慣れているらしい。
俺も何もしないのは気まずくて、適当に手伝っておいたが――どうやら正解だったようだ。
「いやあ、すまないね。すっかり綺麗になったよ」
窓を全開にして換気しながらアリーシャが手際よく掃除した研究室は、ようやく人の研究室としての形を取り戻していた。
「――それで、フェルディ先生。ご用件は何でしょうか?」
片付いたソファに座ったアリーシャが尋ねる。
目の前にはフェルディがお礼だと差し出したコーヒーが三つ。
しかし、この部屋の惨状を見たあとだと、一口飲むのにも勇気がいる。
「まあまあ、肩の力を抜いて。冷めないうちに飲んでおくれ。話はそれからだ」
促され、俺たちは半ば警戒しながらカップを口に運んだ。
「あれ……美味しい」
「ほ、本当だ……すっごく美味しいです……」
「……確かに」
全員一致で美味いと判断。
実験器具――ビーカーなどを使って淹れたコーヒーとは思えないほど、香りも味も整っている。
「私は研究者だからね。配合と抽出の調整くらい、朝飯前さ」
そう言ってフェルディはくいと眼鏡を押し上げる。
なるほど、素材の組み合わせで味が決まるのだと理解しているなら、コーヒーひとつでも最適化は可能だろう。
実際、ポーションだって年々改良され、昔のような激マズ薬ではなくなったと聞く。
「――今日来てもらった一番の理由は、シュウ・ミレイスターくんと軽く世間話をするためだよ。確か、アリーシャくんとミュウミュウくんだったね。二人にも来てもらったのは、少し協力してほしいことがあったからだ」
「協力……?」
「まあまあ、それまではシュウくんとの話に付き合ってくれたまえ」
研究者の言う協力という単語が、妙に不安になる。
同じ特別クラスの俺がいるから誘いやすいと思ったのだろうが、俺と話せるミュウミュウはまだしも、アリーシャはどこまで協力してくれるか……。
「なら……どうぞ、お話を」
アリーシャは俺以外――特に女性に対してはそれなりに礼儀のある態度を見せている気がする。
「ふふ、そうさせてもらうよ。――シュウくんのことは、オウジとミゼットから聞いていたんだ。あの二人、気まぐれに手紙を寄越してくるからね」
「やっぱりな。なんとなく察してた」
「……シュウくんはフェルディ先生と親しいんですか?」
「いや。育ての親がフェルディ先生と知り合いなだけで、俺が会うのは今日がはじめてだ」
「育ての親……そ、その……ごめんなさいっ」
「気にしなくていい。色々あるけど、俺は恵まれてたと思うしな」
ミュウミュウは俺に両親がいないと気づいたのだろう、しゅんと肩を縮こませた。
だが転生した身としては、重い話題というほどでもない。
「ジジイとババアには会ってないのか?」
「ふふ、あいつらをジジイ呼ばわりとはね。……もう何年も会っていないな。私はエルフだからね、時の流れが違うんだ。とっくに白髪だらけになっている頃だろう?」
「正解だ。どっちも白髪で……でも、めちゃくちゃ元気だぞ」
「にゅふふふっ。まあ、殺しても死なないようなヤツらだ。元気でもおかしくない」
やはり本当に一緒に旅をしていたのだ。
七十を超えてなお、俺では歯が立たない二人。
特にババアは元聖女のくせに物理攻撃が異常に強い。理不尽である。
元気になった一番の理由は俺が『腰痛』を治したからではあるが……。
「でも懐かしいよ。シュウくんはどこかオウジにも似ている。……女の子の知り合いが多いところとかね」
「女の子の……?」
「ちょ、変な勘違いするなよアリーシャ」
フェルディのニヤついた顔に、アリーシャが怪訝な視線を向けてくる。
さらに胸元を押さえて身を守るようなポーズまで取られてしまった。いや、襲わねえよ!
だがフェルディの指摘は間違いではない。
ただ、ジジイたちがそれを知るわけはないのだが……どうやってその情報を仕入れたのか。
――その後も世間話は続いた。
フェルディいわく、ジジイたちとの旅は長い人生で一番楽しかった時期だったらしい。
どれほど長生きなのかわからないが、話からジジイたちよりずっと年上なような気がしている。
四つの国を渡り歩き、他国の聖女や勇者と揉めたり仲良くなったり……。
アリーシャたちは、なんの話なのか話半分で聞いていたっぽいが、フェルディの話が面白かったのか、たまに笑顔が見えた。 アリーシャも笑う時は笑うらしい。
「――さて、今日はここまでにしよう。時間を取らせてすまなかったね、寮に戻っていいよ」
「え、協力の件は……?」
「ふふ、それはまた次の機会に」
「ええ……? じゃあ私たち、本当に話を聞いただけじゃないですか」
「たまにはそんな日もあるだろう」
俺自身、大した身の上話はできなかった。
アリーシャとミュウミュウがいる場で話せることは限られていたし、結局ジジイとババアの思い出話ばかりになってしまった。
そして、協力の話はまた今度。
本当に必要だったのか、ますます謎だ。
三人そろって研究室を後にする。
そう思った時だ。
――ガシャンッ。
整理整頓したからといって、物が減るわけではなかった。
アリーシャが棚に置いていた瓶に少しだけ肩が触れてしまった。
そのせいで、床に瓶が落ちてしまい、割れてしまったのだ。
「きゃっ!? なに!?」
「にゃああっ!? 煙があっ!?」
瓶が割れたことで中にあった液体がこぼれ、そこから紫色の煙が発生したのだ。
「ゲホッ、ゲホッ」
俺たちは咳き込み、研究室を出ようとする。
「待ちたまえ! ――風よ、一つに」
そう言ったフェルディ。
すると次の瞬間、紫色の煙がみるみるうちにフェルディの手元へと集まり、どんどん小さくになっていき、最終的にはそれが掻き消え、霧散した。
「ふぅ……ひとまずこれでヨシ。君たち大丈夫かい?」
突然のことにも冷静に対処したフェルディの対応力。
さすがは伊達に長く生きてきたわけではないようだ。
「だ、大丈夫ですけど……ご、ごめんなさい」
「いいさ、こちらとしては問題ない。だが――」
アリーシャが割ってしまった瓶についてフェルディに謝罪する。
そしてフェルディは俺が気になっていたことをそのまま口にした。
「中にあった液体なんだけど、もしかしたらどこか体に影響があるかもしれない」
「えっ……それって、どういう」
「これだけの数だ。私も全ての瓶の中身を把握しているわけじゃない。だからその瓶の中身も正直忘れてしまった……人が死ぬような物は扱ってはいないが……」
フェルディの杜撰さが裏目に出たようだ。
もし体に異常が出るものなら、イリスに視てもらうこともできたのだが、ここにはいない。
「ひとまず様子見かな……だが、もし体に異常があれば、私のところへ来るんだ」
「わかりました……」
そうフェルディに言われたアリーシャとミュウミュウは。不安そうにしながらも、俺と共に研究室を出た。
◇◇◇
「ん、んん……もう、朝……」
翌朝。カーテンの隙間から差し込む柔らかな光に、アリーシャはゆっくりと意識を引き戻した。
いつものように朝風呂に入って、軽くご飯を食べて――そんな朝の流れを思い浮かべながら、布団から体を起こす。
だが、その瞬間、妙な違和感が体を走った。
なんとなく下半身が重い。いや、重いというより――何かがある。
「ん……なに、これ……?」
半分寝ぼけたまま手を伸ばし、パジャマ越しに自分の下半身を探る。
指先が、あり得ない膨らみに触れた。
「……え?」
パジャマの中央が、明らかに盛り上がっている。
テントのように突き上がり、しかも、触れた途端に胸の奥がドキンと跳ねるような奇妙な興奮まで湧き上がってくる。
信じたくない気持ちを押し殺し、アリーシャはそっとパジャマのズボンを下ろし、続けてパンツも下げた。
「なに、これ……?」
下半身に突如として現れた、大きなブツ。
ギンギンに反り返っていて、我ながら逞しいとさえ思う、その威容。
だが、アリーシャは、見たことはなくとも、知識で知っていた。
同時に、その異物感に気づいたらしいミュウミュウも反対側のベッドで目覚めており、アリーシャと同じく下半身を確認していた。
そして、互いの目線が交差し、次に下半身に視線が動いた時、二人は抑えきれない感情を部屋に響き渡らせた。
「きゃああああああああっ!?」
「みゃああああああああっ!?」
アリーシャ、そしてミュウミュウ。
二人の下半身には、男性にしかないはずの男性器がなぜか生えており、そして、ギンッギンに朝勃ちしていたのであった――。