完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「な、なな……なんで――なんで私のここに、男のモノがっ!?」
正真正銘、生まれたときからずっと女性だ。
精神的に男性寄りだったことも一度もないし、身体だって女性として育ってきた。
当然、下半身に男性器などあるはずがない。
生えているわけも、後から生えてくるはずもないのに――今、目の前にあるのは、強烈で暴力的とすら思える存在感を放つそれだった。
華奢で女性らしい体つきにまったく似合わない膨らみがこれでもかと主張していた。
「みゃっ、みゃあああっ……ど、どうして……男の子のが……っ」
「ミュウミュウっ……い、一回落ち着くのよ。これは何かの間違い……間違いなんだから……!」
アリーシャは震える手で枕元の時計を見る。
そろそろ起きて支度をはじめなければ、授業に遅れてしまう時間だった。
「すぅぅぅ…………はぁぁぁぁぁ…………」
大きく深呼吸をし、気持ちを整えるように小さく「よし」と声を漏らす。
そしてベッドを降り、下半身の違和感を無視して浴室へ向かった。
(いつも通り。……まずは、いつも通りに動かないと)
シャワーを浴びながら、アリーシャは自分に言い聞かせた。
だが、浴室の鏡に映る身体は、嫌でも現実を突きつけてくる。
――本来あるはずの自分の性器が消えている。
代わりに、男のそれが堂々と存在していた。
胸は確かにある。
腰つきも、身体のラインも女性そのもの。
ただ股間だけが、昨日までとは完全に別物になっていた。
「ミュウミュウ……上がったわよ」
「は、はいぃ……っ」
二人が交代し、ミュウミュウが浴室に入っていったその時。
コンコン、と扉が叩かれた。
「アリーシャ様、リゼットが参りました」
声に応じ、部屋へ入ってもらう。
朝の身支度――髪を整え、修道服を着こなす準備を手伝うのは侍女のリゼットの役目だ。
いつも通りの時間にやってきたのだが――
「アリーシャ、様……?」
「リゼット、落ち着いて聞くのよ……ひとまず、落ち着いて」
「は、はい……」
アリーシャは上半身にタオルを掛け、濡れた髪を拭きながら立っていた。
下はパンツを履いただけの状態だった。
そして、リゼットの視線は自然とアリーシャの股間へ。
盛り上がった布地を見た瞬間、異変は一目で理解できた。
「私、男性に……なってしまったみたい」
「っ……! ま、まさか……王家……いや、貴族の陰謀……!? アリーシャ様をよく思わない者が――」
突拍子もない告白にリゼットは目を見開いた。
だが長年侍女として仕えてきた彼女は、アリーシャの言葉を疑わない。
「正直、心当たりはある……」
「それは――」
「フェルディ先生の研究室にあった瓶よ……」
「へ……?」
リゼットが恐れていた王家や貴族の思惑ではなかった。
アリーシャの口から出たのは、まさかの名前。
「昨日、私が落として割ってしまった瓶の中の液体から出てきた煙……それを吸い込んでしまったの……」
「それは……」
「フェルディ先生は体に異常があれば、研究室に来てと言ってくださったわ……。だから昼休みか、今日の授業が全部終わってから――」
そんな時だった。
「みゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁっ!?」
浴室から響き渡る、ミュウミュウの絶叫。
「――ミュウミュウも、男の子になったのよ」
「そ、それは…………っ」
王家の陰謀ではないと理解したリゼットは、ようやく冷静さを取り戻しつつあった。
だがそのせいで、アリーシャが必死に真顔で状況を説明する姿が、どこかおかしく見えてしまい――
リゼットは主の前で吹き出すわけにはいかないと、奥歯を噛みしめて笑いを必死に堪えるのだった。
◇◇◇
「――トイレに行くわ」
身支度を終え、食堂へ行く前のことだった。
アリーシャは一人、足早に部屋のトイレへ向かう。
だが、そこで新たな問題に直面する。
(…………ど、どうやってすればいいのよ、これ!)
小便の仕方がわからないのだ。
尿意はある。でもどうやるのかがわからない。
このまま自然に任せるわけにもいかないし、漏らすような形で出すのは絶対に嫌だった。
「こ、こう? こうなの? ……こ、こうっ――あっ………………」
便座に腰を下ろして試行錯誤しているうち、ようやく解放感が訪れた。
アリーシャはその安心に小さく息を吐き、肩から力が抜けた。
「……そ、それにしても、なんで私の……こんなに大きくて、グロいのよ……っ。可憐な私なら……もっと、こう……小さくて可愛い感じのはずなのに…………」
下半身を見下ろし、アリーシャは情けなく呟いた。
◇◇◇
校舎ヘ向かい、ミュウミュウと共に食堂でなんとか朝食をとり終えると、二人は特別クラスへ向かった。
「…………」
「なんだよ、アリーシャ。俺の顔になんかついてるか?」
教室に入るなり、アリーシャはシュウ・ミレイスターをじっと見た。
彼も昨日、フェルディの研究室に一緒にいたのだ。
アリーシャの推測が正しければ、シュウにも何かが起きている可能性がある。
だから、話しかけようと――
『――あなたの性器はどうなってるの!?』
(って、聞けるわけないでしょおおおおおっ!!)
脳内でシュミレーションしたアリーシャは、頬を赤くして黙って席へ向かった。
「なんだぁ? 変なヤツ」
「う、うるさいわねっ!」
言い返すのが精いっぱいだった。
昼休みまで我慢する。それまでは誰にも悟られずに耐え抜く。
アリーシャはそう決意していた。
「アリーシャちゃん……っ」
「なに……?」
「お、お股が……気になって、変な感じで……しかも、パンツからはみ出て……」
「っ……バカ。とにかく我慢するのよっ! こんなものが太ももの間にあろうが……っ」
授業がはじまると、隣のミュウミュウがひそひそ声で訴えてきた。
どうやら彼女は慣れるどころか、気にしすぎて全く落ち着けていないらしい。
「――ではアリーシャさん。この式、解いていただけますか?」
「あっ、へっ? ……で、できますっ!」
教会学校では最低限の一般教養も教えるらしい。ちょうど今は数学の時間だった。
シュウの元いた世界では小学生レベルの簡単な計算。アリーシャにとっても、特に間違えることのない問題だった。
――なのに、今日だけは少し様子が違っていた。
(朝は収まってたのに……なんで今なのよ……っ)
理由はまったくわからない。
ただ、立ち上がった瞬間、下半身が突如として主張をはじめてしまったのだ。
「アリーシャちゃん、大丈夫ですか……?」
「だ、大丈夫よ! これくらい朝飯前なんだからっ」
しかし、どう見ても朝飯前の顔ではなかった。
「アリーシャ、腰痛か? それとも体調悪い?」
「だっ、大丈夫だって言ってるでしょ!!」
腰を折り、お尻を突き出した変な姿勢のまま黒板まで向かうアリーシャ。
チョークをつかみ、計算を解こうとするが――
(た、高い……! この姿勢じゃ届かない……っ)
腰を落としたままでは黒板の上段に届かなかった。
「アリーシャさん?」
教師が怪訝そうに声をかける。
(だ、大丈夫……この角度なら、誰にも見えない……! なら背筋を伸ばしても平気よね……!)
覚悟を決めて背筋を伸ばした、その瞬間。
(うぐっ……修道服に……引っかかるっ……これ、ちょっと……)
背筋を伸ばしたことで下半身のモノが修道服を突き破らんとする勢いでテントを張る。
そうして、必死に問題を解いていると――
「アリーシャさん? お腹のあたり……何か隠しているのですか?」
「ひっ!? な、なにもありません!!」
「でも……その膨らみは――」
「先生! 本当に何でもないんですッッ!!」
横から見ていた教師が思わぬ指摘をする。
アリーシャは怒りの形相で睨みつけ、威圧だけで黙らせた。
「…………正解です」
「ありがとうございます……っ」
アリーシャは腰を曲げた状態のまま席へ戻る。
教室中の視線が刺さり、いたたまれなかった。
(なんで私が、こんな……っ)
この日の授業は、アリーシャにとって地獄だった。
昼休みが来るのを、ただただ祈りながら待つしかなかった。
◇◇◇
「――カナン! コイツを借りるわ! ミュウミュウ、行くわよ!」
「うお!? な、なんだ急に!」
「ひゃいっ!」
昼休みのはじまりと同時に、カナンの隣にいた俺の襟元をアリーシャが掴み、そのままズンズンと教室の外へ。
ミュウミュウの腕まで引っ張って、勢いのまま連れ去ろうとしていた。
「お、おい……どこ行くんだよ」
「…………あなた、本当にかかってないの?」
「は? いや、だから何の話だよ」
謎すぎる質問。答えようがない。
ミュウミュウを見るが、彼女は俯いたまま、もじもじ震えているだけで何も言わない。
そうしてアリーシャが向かったのは――昨日訪れたフェルディの研究室だった。
「フェルディ先生! いますか! いますよね!? 先生!!」
ドンドンと扉を叩くアリーシャ。
俺が口を挟んでも聞く耳を持たなさそうで、黙って様子を見るしかなかった。
「――開いてるよ」
中から落ち着いた声。
アリーシャは即座に扉を開け、昨日掃除したばかりなのにもう散らかっていた研究室へ踏み込むと、バンッと、フェルディの机を叩きつけた。
「せ、先生! 体が、体が……! 多分、昨日の煙で……!」
「もしかして何か体に異常があったのかい?」
「そ、そうなんです! でも……こんなの……っ」
詰め寄りながら自分の体の異常を知らせるアリーシャ。
だが、その内容をそのまま口にはできないのか、どこか言い淀んでいる様子だった。
するとアリーシャは、フェルディの耳元へと近づき、自分の体に何が起きたのか伝えたようだった。
「ふむふむ……まさかっ……アレだったのか……これはすまないことをしたね……」
「いえ、私が落としてしまったので、私に非があるのですが……そ、それはそれとして、これどうすれば治るんですか!?」
フェルディはアリーシャの話を聞き、そしてメガネをクイッと押し上げた。
「――悪いが、私には治せないよ」
「なぁああああああっ!?」
「みゃああああああっ!?」
二人の悲鳴。
「治せない」という言葉に、何か二人に俺の想像以上の重大な異変が起きたことだけは理解した。
「そ、そんなはずありません! あなたはありとあらゆる薬を作れるでしょう!? エリクサーだって……だから、すぐに元に戻し――」
「落ち着いて聞きたまえ。――『私には治せない』と言ったんだ」
「…………どういう意味ですか?」
フェルディは、ちらりと俺に視線を向けた。
「――治せる人が、隣にいるじゃないか」
「…………俺?」
フェルディの言葉に、アリーシャとミュウミュウの視線が同時に俺へ向けられる。
「え……あなた……? あなたなら治せるの!? 治せるなら今すぐに――!!」
「シュウくん、治してくださいっ! お願いしましゅうぅっ!」
「ちょっ!? まだ話が見えないんだけど、どういうことなんだ!?」
意味がわからぬまま、二人に肩をガクガク揺らされる俺。
ミュウミュウの方は涙を飛ばしながらも顔は赤かった。
「シュウくんのあの回復魔法ならおそらく、いや、絶対治せるはずですっ!」
「いや、だから説明を――」
「だからっ! 私の……私の……っ」
「ミュウミュウ、それ以上は言わない――」
「――私の体に、おちんちんが生えちゃったんですぅぅぅぅっ!!」
…………は?
脳が一瞬でフリーズした。
今、なんて聞こえた?
ミュウミュウは女だ。完全に、女だ。
なのに、生えたって……?
信じられず、アリーシャの方を見る。
「いやぁぁぁぁぁああああああああああっ!?」
顔を真っ赤にし、両手で顔を覆いながら全身で絶叫するアリーシャ。
反応が完全に真実を物語っていた。
「フェ、フェルディ先生……説明、してもらえるよな?」
俺がそう聞くと、フェルディはあの液体のことを語りはじめた。
「シュウくん。聞いていた通り、君には効果がなかったみたいだね」
俺に状態異常が効かないことも、ジジイたちから聞いていたらしい。
「彼女たちの身に起きた現象は、一時的に性器が男女逆転してしまう魔法薬の効果……それにより男性器が生えてしまったんだ。――つまりこれは、『性器転換』と言えよう」
説明はシンプル。意味も理解した。
そして、これから俺がやるべきことも。
「もう、わかっただろう? 君が治してあげるんだ。――そして、その様子を私に見せてくれたまえ」
フェルディは、期待と興奮を隠そうともせずにそう告げた。