完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「アリーシャ様、おはようございます。リゼットです」
朝。アリーシャの身支度を整えるため、リゼットは寮の部屋を訪れた。
昨夜の出来事と、シュウと話してわかったことを、どう伝えるべきか考えていた。
「アリーシャ様……?」
だが、部屋に入った瞬間、リゼットは異変に気づいた。
アリーシャは頬を赤く染め、呼吸もどこか落ち着きがなく、いつもより艶のある雰囲気を纏っていた。
「もしや、風邪を……?」
「違うの……違うの、リゼット……っ」
一見すると体調不良にも見えたが、アリーシャは首を振って否定する。
その様子に、リゼットは別の可能性を思い浮かべた。
「それと……ミュウミュウ様は、もしや……」
「ええ、今日は学校を休むそうよ」
「……そうでしたか」
いつもなら同じ時間に起きて支度をはじめているはずのミュウミュウは、部屋の仕切りの向こうにいて、姿を見せる気配はなかった。
「ど、どうしたらいいの……リゼット」
「一体、何があったのですか?」
「……笑わないで、くれる?」
「もちろんでございます」
アリーシャは意を決したように、ゆっくりと自分のパジャマのズボンを下ろした。
その様子を見た瞬間、リゼットは事態の深刻さを理解する。
「アリーシャ様……これは……」
「体が……熱くて……落ち着かないの……どうしても……っ」
言葉を絞り出すアリーシャの声は、かすかに震えていた。
メスの匂いを漂わせる濃密な液体がパンツから溢れるほどアリーシャは発情していた。
「これは……どういった状況なのでしょうか?」
「考えられるのは、あの魔法薬しかないわ……。治まったと思っていた症状とは別に、遅れて症状が出たのよ……」
説明を聞き終えたリゼットは、しばし思案するように視線を落とし――やがて、はっきりと口を開いた。
「――アリーシャ様。シュウ様を落としましょう」
「はっ……え? どうして、ここでそうなるのよっ」
「この状態を治してほしいとお願いするのです。その流れで、より深く距離を縮めれば……」
「さすがに早すぎない!? だって私……男の人に自分から触れたことすらないのよ……」
「ですが、今は……触れてほしいと、思っていらっしゃいますよね?」
「…………っ」
リゼットの言葉は、核心を突いていた。
抑えきれない違和感、熱を帯びた感覚、そして――これまで身体に触れたことのある相手はシュウだけ。
「少しだけ、素直になりましょう。――野盗に襲われた日の夜、怖かったと泣いていましたよね。助けてくれて嬉しかった、とも」
「そ、それはそうだけど……でも、アイツは平民だし、口も悪いし……それに、男だし……」
「異性とあまり関わってこなかったからこそ、戸惑うのは当然です。でも、気になっているのは確かではありませんか?」
「…………わ、わからないわよっ」
アリーシャは、自分の気持ちがよくわからなかった。
人を想う感情も、人付き合いも得意ではない。社交の場は特に苦手で、話しかけられても早々に距離を取ってしまう。
親からそれを咎められるのも嫌だったし、何より王族という立場が煩わしかった。
近づいてくる人間の多くが、肩書きを目的にしているのだと感じてしまうからだ。
その点、教会学校は比較的気が楽だった。
身分を明かしても過剰に扱われることは少なく、同室のミュウミュウも、今では自然に話せる存在だ。
付き合いはもう五年になる。ミュウミュウにどう思われているかは分からないが、アリーシャ自身は彼女を大切に思っていた。
「昨夜、シュウ様にお会いしてきました。ぶっきらぼうに見えて、とてもお優しい方です。それに……情に訴えられると、無視できない性格だとも分かりました」
「リゼット……あなた、まさか……」
その言葉で、アリーシャは察してしまった。
リゼットは、自分のためならどこまでも尽くす存在だ。
――だが今回は、それだけではない。
そんな予感が、胸の奥に静かに広がっていた。
「私も、それなりにシュウ様のことをお慕いしております。あのお方は、アリーシャ様に踏み込まれたら、きっと無視はできません」
「だ、だからって……どうすればいいのよ……」
「あ、あの――!!」
その時だ。バリケードの向こうからミュウミュウの声が響いた。
どうやら二人の会話は筒抜けだったらしい。
やがて衝立が少し動き、ミュウミュウが恐る恐る顔を覗かせる。
「ミュウミュウ、あなた……」
「はぁ、はぁ……もし、迷惑じゃなければ……アリーシャちゃん……私と一緒に、シュウくんに……その、お願い、できないかニャ……っ」
濃厚な匂いを纏ったミュウミュウの表情は昨日以上に酷い状態だった。
息を乱し、顔を火照らせ、見えてはいないが、おそらくアリーシャと同じように下半身を濡らしている。
「こんなに、抑えきれないの、はじめてニャ……こんなの、一人じゃ我慢しきれニャくて……」
「アリーシャ様……どうでしょう。ミュウミュウ様のために、一肌脱いでみては」
言葉にはしていないが、それはシュウに体で迫る、という意味だった。
アリーシャ一人では、この昂ぶりをどうすることもできない。だが、長い時間を共にしてきたミュウミュウが一緒なら――そう思ってしまったのだ。
「ミュウミュウのためじゃ、ないんだからね……っ」
「アリーシャ……ちゃんっ」
「アリーシャ様……!」
ミュウミュウの願いを受け、アリーシャははっきりと承諾の意思を示した。
相変わらずの強がりではあったが、ミュウミュウにはそれが自分ためでもあることがわかっていた。
「でも私……何をすればいいのか、わからないわ……」
「アリーシャ様。私の存在をお忘れですか? とっておき、教えて差し上げます。これを前にして、平静でいられる男性などおりません。せっかくですので、ただ治療のお願いをするのではなく、喜ばれるよう準備してお迎えしましょう」
そう言って、リゼットは意味ありげに微笑んだ。
ひとまず今日は、火照る体の違和感に目をつぶることにして、アリーシャはリゼットの手を借りながら、登校の準備を進めていった。
◇◇◇
「――シュウ・ミレイスター!」
「うわっ。なんだ、アリーシャ……」
朝の教室に現れたアリーシャは、席に着くなり俺の名を呼んだ。
どこか様子がおかしい。こういう時の彼女は、大抵ろくな予感がしない。
「放課後、顔を貸しなさい……っ」
「え、えっと……ああ」
有無を言わせない圧があった。
俺はカナンと顔を見合わせ、首を傾げつつも、その誘いを断れなかった。
――そして放課後。
待ち合わせ場所へ行くと、アリーシャは一言も発さず歩き出した。
何をするのか、されるのか、まるで見当がつかない。
気づけば進行方向は女子寮だ。
嫌な予感がする。来るのは二度目だが、また俺が行って大丈夫なのか……。
予想通り、連れてこられたのは女子寮だった。
管理人に手続きを済ませたアリーシャは、そのまま自室へ向かう。
「そこで……少し待っていなさい」
「あ、ああ……」
部屋の前で立たされたまま、俺は待機することになった。
中からは、何かを準備しているような物音が聞こえる。
通りかかった女子生徒に、鋭い視線を向けられた。
男が立っていれば、そう見られるのも無理はない。
早くしてくれ、アリーシャ。
廊下で待つのは、なかなか心臓に悪い。
「……いいわよ。入ってきなさい」
小さな声に促され、俺はドアノブに手をかけた。
そして、一歩踏み込んだ瞬間――濃密な匂いと共に、信じられない光景を目にした。
「シュ、シュウくんを……私たちのティールームにご招待ニャ」
「こ、心を込めてお迎えするニャン……っ」
「…………は?」
最初に目に入ったのは、ミュウミュウの姿だった。
胸部と腰回りだけを隠した、モコモコの衣装に身を包み、ふわりと揺れる天然物の耳と尻尾がやけに目立つ。その発情的姿に、俺は思わず言葉を失ってしまう。
彼女の言葉通り、部屋の中央のテーブルには紅茶と焼き菓子が用意されていて、まるで来客を迎えるための簡易的なティールームのようだった。
そして――問題はアリーシャだった。
顔を真っ赤にしているあたり、自分でもこの状況に強い羞恥を感じているのだろう。
猫耳のカチューシャに肉球付きの手袋、お尻には揺れる尻尾。
ミュウミュウとは色違いの胸部と腰回りだけを隠したモコモコの衣装に身を包み、猫の手を前に可愛いポーズをとっていた。そして、語尾にはニャンをつける始末。
まるで発情した猫のようだった。
俺の理解は完全に追いついていなかった。
だから、そっと扉を閉じたのだった。