※この作品はR-18です。

完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】   作:pelca

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第92話 若返りの薬

「――おはよう、シュウくん」

「あ……ええと……おはよう、カナン」

 

 男子寮の自室、その扉を開けた瞬間、立っていたのはカナンだった。

 いつもの柔らかな笑顔。なのに、なぜか背筋がひやりとする。

 

「朝帰りするなら、ちゃんとボクにも一言ほしかったな」

「わ、わりい……本当は戻るつもりだったんだが……」

「へえ。ボクを置いて、女子の部屋に泊まってくるなんて、なかなか大胆だね、シュウくん」

 

 完全に問い詰められている。

 しかも、昨日アリーシャに誘われていた場面は、カナンもすぐそばで聞いていた。

 だから俺が彼女と一緒にいたことくらい、察しているはずだ。

 

「あはは……カナン、ちょっと怖いって」

「別に怒ってるわけじゃないよ。シュウくんが何をしていようと自由だし、同室だからって口出しする権利もないからね」

「だから、ごめんって……」

「…………とりあえず、シャワー浴びてきたら?」

「お、おう……」

 

 怒っていないと言いながら、口元はわずかに引きつっていた。

 それに、俺がまだ風呂に入っていないことも、見抜かれているらしい。

 

 俺は促されるまま、浴室へと向かった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「な、なんなのあの匂い!!」

 

シュウが浴室に入ると、カナンは一人部屋で地団駄を踏んだ。

 

「さ、さすがにあの匂いは……どう考えても……っ」

 

 カナンは知っていた。

 アリーシャはともかく、ミュウミュウが発情期にどんなフェロモンを出すのかを。

 だからこそ、シュウが戻ってきたときの違和感にも、すぐに勘づいてしまったのだ。

 

「…………ボクがここにいるのに……」

 

 カナンはこっそりと浴室への扉を開けた。

 脱ぎ捨てられたシュウの修道服や下着が、無造作に床に置かれていた。

 

 ザーッとシャワーの音が響く。

 カナンは扉越しにそれを聞きながら、シュウの下着を手に取った。

 

「こんな……こんなっ……すぅぅ……濃厚な匂いをさせてっ……はぁぁ……シュウくんの、バカっ……」

 

 カナンは下着を顔に押し付け、すーはーと息を吸いながら、シュウへの怒りをつぶやいたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「シュウ・ミレイスターくん。放課後、少し手を借りたいんだが」

「……わかりました」

 

 魔法薬の授業が終わったあと、俺を呼び止めたのはフェルディ・マイア先生だった。

 しかも、今回は俺一人だけ。以前はアリーシャやミュウミュウも一緒だったが、今日は特に用はないらしい。

 

 そのアリーシャだが、今日の教室ではどこか控えめだった。

 とはいえ、挨拶は向こうからきちんとするようになっている。

 昨日のことはさすがに忘れられないらしい。

 その様子を隣で見ていたカナンは、何も言わず、ただじっと俺を睨みつけていた。

 

 

「――君は状態異常が効かない体質なんだってね」

「そうらしいです」

 

 フェルディの研究室に到着すると、俺は実験器具で淹れたらしいコーヒーを渡されていた。

 

「そこで、私の実験に少し付き合ってほしい」

「構わないが……何をするんだ?」

「――女神様の加護は、外せるんだろう?」

「…………よく知ってるな」

 

 その話は、俺がケリュネイアから直接聞いたことだ。

 フェルディが知っているとは思えない。ジジイたちが手紙で伝えたのなら話は別だが、ここまで詳細を教えるとは考えにくい。どこから仕入れたのか。

 

「その加護を外した状態で、私が作った飲み物を飲んでほしい」

「それだと普通に状態異常受けるだろ……いや、あとで戻せばいいのか」

 

 ケリュネイアに教わった加護の解除方法は単純だ。

 髪の毛を一本抜き、それを生贄にして念じる。それだけ。

 戻すときも、同じことをすればいい。

 

「で、その飲み物って何なんだ?」

 

 フェルディが差し出したのは、細長いポーション瓶だった。

 中身はほとんど透明に近い、淡い水色。

 

「若返りの薬だ」

「は!? そんなのアリなのかよ!?」

 

 若返りであれば、ほぼ不老不死の薬に近いような代物だろう。

 そんなものを平然と作るあたり、フェルディがかつてジジイたちと肩を並べていたのも納得がいく。

 

「だから実験なんだよ。まだ試作段階だ。ラットで試したところ、人間換算で一歳分の若返り効果があった。状態異常耐性を持つ君なら、安全に試せると思ってね。成功すれば、医療分野にも応用できるかもしれない」

 

 医療か。

 若返ることで回復力が上がるのかもしれない。

 詳しいことはわからないが、人の役に立つ研究であることは伝わってきた。

 

「……わかった。じゃあ、加護を外すよ」

「ああ、頼む」

 

 加護を外すのははじめてだ。

 状態異常をあえて受けるため、以前から試すつもりではあった。

 俺はデバフ魔法が効かない代わりに、バフ魔法も効かない。

 なら、加護を外せばバフも受けられるはずだと。

 

「……こうして、念じれば――加護解除」

 

 頭から一本、髪を抜き取る。

 手に持ったまま、意識を集中させて言葉にした。

 

「……外れたか?」

「感覚的にだが、君から神聖な気配が消えた気がする」

「フェルディ先生にもわかるんだな」

「伊達に長生きしていないからね」

 

 どうやら成功らしい。

 いよいよ実験開始だ。

 

「じゃあ、これを飲めばいいんだな」

「ああ、少し待――――って、ちょっと!? 何をしてるんだ!」

「え? 普通に飲んだだけだけど……」

 

 俺は瓶の中身を、そのまま喉へ流し込んでいた。

 量は少なく、一瞬で空になる。

 

「一歳分の量は、スポイトで三滴だ……」

「…………え?」

「全部飲むとは思わなかったんだ……」

「ってことは、俺――――ぐ、うぅっ!?」

 

 次の瞬間、全身が焼けるような熱に包まれた。

 細胞一つ一つが暴走しているかのように、体温が急激に跳ね上がる。

 

「がっ……う、うぅ……っ」

「シュウくん! シュウくんっ!!」

「フェル……ディ……せん……せ……っ」

 

 視界が白く霞み、

 俺はそのまま、意識を手放した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「…………ん、んぅ……」

「目が覚めたかい?」

「あ、れ…………」

 

 目を開くと、すぐ真上にフェルディの顔があった。

 状況からして、どうやら膝枕をされているらしい。

 ――だが、違和感がある。フェルディの体が、妙に大きく見えた。

 

「とりあえず、ゆっくり起き上がろう」

「……ああ」

 

 言われるまま身を起こすと、次に研究室全体が視界に入る。

 

 おかしい。

 フェルディだけじゃない。研究室そのものがやけに広く大きく感じられた。

 

「……そこに姿見があるだろう。自分の姿を確認してみるんだ」

「…………」

 

 嫌な予感がする。

 ソファから降り、鏡の前まで歩く。

 

 いや、正直、もう察してはいた。

 視界に入った自分の体が、すでに答えだったからだ。

 それでも――実際に見る衝撃は、別物だった。

 

「はあああああああああっ!?」

 

 小さい。

 明らかに、小さすぎる。

 

 俺の体は、七歳か八歳くらいの子供の姿になっていた。

 声も高く、完全に声変わり前。

 髪色こそ灰色のままだが、中身以外は完全に子供だ。

 この世界に転生した時よりもさらに小さくなっている。

 

「フェルディ! ど、どうするんだよこれ!」

「落ち着きたまえ。君自身が言っていたじゃないか。同じように毛を抜いて念じれば、加護は戻ると」

「そ、そうだ……!」

 

 俺は慌てて、自分の髪を一本ぶちっと抜いた。

 

「――加護よ、戻れ!」

 

 毛を握りしめ、声に出して念じる。

 

「………………」

 

 加護が戻れば、体も元に戻るはず。

 なのに、何も起こらなかった。

 

 考えられるのは一つ。

 加護は戻っているが、加護を外している間に受けた状態異常は消えない、とか。

 

「フェルディ……加護、戻ってるか?」

「…………いや、まだ神聖な気配は感じない」

「マジ……か……」

 

 つまり、そもそも加護が戻っていないということになる。

 

「どうなってんだよクソ鹿ぁぁぁっ!」

 

 手順を間違えた?

 いや、方法は同じはずだ。手順も何もない。

 俺はケリュネイアに教わった通りにしたはずだ。

 

「一応だが、若返りの薬は現段階では一ヶ月ほどで効果が切れる仕様だ」

「ってことは……最低でも一ヶ月はこの姿ってことか?」

「そうなるね。……仕方ない。校長には私から説明しておこう。他の生徒には遠出したことにして、代わりに親戚の君が学びに来た、という形で」

「親戚!?」

 

 意味がわからない。

 普通に休学でいいだろ。

 

「授業に出られるなら、その方がいい。時間は有限だからね。学べる時に学んでおくべきだ」

「……まあ、それはそうだけど」

「自分の寮には戻れそうかい?」

「ああ……服が問題だが、なんとかする」

 

 今の俺は、フェルディが持っていたらしい適当な布を巻き付けているだけ。

 修道服も下着も、全てサイズが合わなくなっていた。

 

「子供用の衣服は校長に手配させておく。明日まで待っていてくれ」

「助かる……」

 

 こうして俺は、幼児化したまま、寮に戻ることになるのだが、そこでとんでもない事件が起きるのだった――。

 

 

 

 

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