完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
「――おはよう、シュウくん」
「あ……ええと……おはよう、カナン」
男子寮の自室、その扉を開けた瞬間、立っていたのはカナンだった。
いつもの柔らかな笑顔。なのに、なぜか背筋がひやりとする。
「朝帰りするなら、ちゃんとボクにも一言ほしかったな」
「わ、わりい……本当は戻るつもりだったんだが……」
「へえ。ボクを置いて、女子の部屋に泊まってくるなんて、なかなか大胆だね、シュウくん」
完全に問い詰められている。
しかも、昨日アリーシャに誘われていた場面は、カナンもすぐそばで聞いていた。
だから俺が彼女と一緒にいたことくらい、察しているはずだ。
「あはは……カナン、ちょっと怖いって」
「別に怒ってるわけじゃないよ。シュウくんが何をしていようと自由だし、同室だからって口出しする権利もないからね」
「だから、ごめんって……」
「…………とりあえず、シャワー浴びてきたら?」
「お、おう……」
怒っていないと言いながら、口元はわずかに引きつっていた。
それに、俺がまだ風呂に入っていないことも、見抜かれているらしい。
俺は促されるまま、浴室へと向かった。
◇◇◇
「な、なんなのあの匂い!!」
シュウが浴室に入ると、カナンは一人部屋で地団駄を踏んだ。
「さ、さすがにあの匂いは……どう考えても……っ」
カナンは知っていた。
アリーシャはともかく、ミュウミュウが発情期にどんなフェロモンを出すのかを。
だからこそ、シュウが戻ってきたときの違和感にも、すぐに勘づいてしまったのだ。
「…………ボクがここにいるのに……」
カナンはこっそりと浴室への扉を開けた。
脱ぎ捨てられたシュウの修道服や下着が、無造作に床に置かれていた。
ザーッとシャワーの音が響く。
カナンは扉越しにそれを聞きながら、シュウの下着を手に取った。
「こんな……こんなっ……すぅぅ……濃厚な匂いをさせてっ……はぁぁ……シュウくんの、バカっ……」
カナンは下着を顔に押し付け、すーはーと息を吸いながら、シュウへの怒りをつぶやいたのだった。
◇◇◇
「シュウ・ミレイスターくん。放課後、少し手を借りたいんだが」
「……わかりました」
魔法薬の授業が終わったあと、俺を呼び止めたのはフェルディ・マイア先生だった。
しかも、今回は俺一人だけ。以前はアリーシャやミュウミュウも一緒だったが、今日は特に用はないらしい。
そのアリーシャだが、今日の教室ではどこか控えめだった。
とはいえ、挨拶は向こうからきちんとするようになっている。
昨日のことはさすがに忘れられないらしい。
その様子を隣で見ていたカナンは、何も言わず、ただじっと俺を睨みつけていた。
「――君は状態異常が効かない体質なんだってね」
「そうらしいです」
フェルディの研究室に到着すると、俺は実験器具で淹れたらしいコーヒーを渡されていた。
「そこで、私の実験に少し付き合ってほしい」
「構わないが……何をするんだ?」
「――女神様の加護は、外せるんだろう?」
「…………よく知ってるな」
その話は、俺がケリュネイアから直接聞いたことだ。
フェルディが知っているとは思えない。ジジイたちが手紙で伝えたのなら話は別だが、ここまで詳細を教えるとは考えにくい。どこから仕入れたのか。
「その加護を外した状態で、私が作った飲み物を飲んでほしい」
「それだと普通に状態異常受けるだろ……いや、あとで戻せばいいのか」
ケリュネイアに教わった加護の解除方法は単純だ。
髪の毛を一本抜き、それを生贄にして念じる。それだけ。
戻すときも、同じことをすればいい。
「で、その飲み物って何なんだ?」
フェルディが差し出したのは、細長いポーション瓶だった。
中身はほとんど透明に近い、淡い水色。
「若返りの薬だ」
「は!? そんなのアリなのかよ!?」
若返りであれば、ほぼ不老不死の薬に近いような代物だろう。
そんなものを平然と作るあたり、フェルディがかつてジジイたちと肩を並べていたのも納得がいく。
「だから実験なんだよ。まだ試作段階だ。ラットで試したところ、人間換算で一歳分の若返り効果があった。状態異常耐性を持つ君なら、安全に試せると思ってね。成功すれば、医療分野にも応用できるかもしれない」
医療か。
若返ることで回復力が上がるのかもしれない。
詳しいことはわからないが、人の役に立つ研究であることは伝わってきた。
「……わかった。じゃあ、加護を外すよ」
「ああ、頼む」
加護を外すのははじめてだ。
状態異常をあえて受けるため、以前から試すつもりではあった。
俺はデバフ魔法が効かない代わりに、バフ魔法も効かない。
なら、加護を外せばバフも受けられるはずだと。
「……こうして、念じれば――加護解除」
頭から一本、髪を抜き取る。
手に持ったまま、意識を集中させて言葉にした。
「……外れたか?」
「感覚的にだが、君から神聖な気配が消えた気がする」
「フェルディ先生にもわかるんだな」
「伊達に長生きしていないからね」
どうやら成功らしい。
いよいよ実験開始だ。
「じゃあ、これを飲めばいいんだな」
「ああ、少し待――――って、ちょっと!? 何をしてるんだ!」
「え? 普通に飲んだだけだけど……」
俺は瓶の中身を、そのまま喉へ流し込んでいた。
量は少なく、一瞬で空になる。
「一歳分の量は、スポイトで三滴だ……」
「…………え?」
「全部飲むとは思わなかったんだ……」
「ってことは、俺――――ぐ、うぅっ!?」
次の瞬間、全身が焼けるような熱に包まれた。
細胞一つ一つが暴走しているかのように、体温が急激に跳ね上がる。
「がっ……う、うぅ……っ」
「シュウくん! シュウくんっ!!」
「フェル……ディ……せん……せ……っ」
視界が白く霞み、
俺はそのまま、意識を手放した。
◇◇◇
「…………ん、んぅ……」
「目が覚めたかい?」
「あ、れ…………」
目を開くと、すぐ真上にフェルディの顔があった。
状況からして、どうやら膝枕をされているらしい。
――だが、違和感がある。フェルディの体が、妙に大きく見えた。
「とりあえず、ゆっくり起き上がろう」
「……ああ」
言われるまま身を起こすと、次に研究室全体が視界に入る。
おかしい。
フェルディだけじゃない。研究室そのものがやけに広く大きく感じられた。
「……そこに姿見があるだろう。自分の姿を確認してみるんだ」
「…………」
嫌な予感がする。
ソファから降り、鏡の前まで歩く。
いや、正直、もう察してはいた。
視界に入った自分の体が、すでに答えだったからだ。
それでも――実際に見る衝撃は、別物だった。
「はあああああああああっ!?」
小さい。
明らかに、小さすぎる。
俺の体は、七歳か八歳くらいの子供の姿になっていた。
声も高く、完全に声変わり前。
髪色こそ灰色のままだが、中身以外は完全に子供だ。
この世界に転生した時よりもさらに小さくなっている。
「フェルディ! ど、どうするんだよこれ!」
「落ち着きたまえ。君自身が言っていたじゃないか。同じように毛を抜いて念じれば、加護は戻ると」
「そ、そうだ……!」
俺は慌てて、自分の髪を一本ぶちっと抜いた。
「――加護よ、戻れ!」
毛を握りしめ、声に出して念じる。
「………………」
加護が戻れば、体も元に戻るはず。
なのに、何も起こらなかった。
考えられるのは一つ。
加護は戻っているが、加護を外している間に受けた状態異常は消えない、とか。
「フェルディ……加護、戻ってるか?」
「…………いや、まだ神聖な気配は感じない」
「マジ……か……」
つまり、そもそも加護が戻っていないということになる。
「どうなってんだよクソ鹿ぁぁぁっ!」
手順を間違えた?
いや、方法は同じはずだ。手順も何もない。
俺はケリュネイアに教わった通りにしたはずだ。
「一応だが、若返りの薬は現段階では一ヶ月ほどで効果が切れる仕様だ」
「ってことは……最低でも一ヶ月はこの姿ってことか?」
「そうなるね。……仕方ない。校長には私から説明しておこう。他の生徒には遠出したことにして、代わりに親戚の君が学びに来た、という形で」
「親戚!?」
意味がわからない。
普通に休学でいいだろ。
「授業に出られるなら、その方がいい。時間は有限だからね。学べる時に学んでおくべきだ」
「……まあ、それはそうだけど」
「自分の寮には戻れそうかい?」
「ああ……服が問題だが、なんとかする」
今の俺は、フェルディが持っていたらしい適当な布を巻き付けているだけ。
修道服も下着も、全てサイズが合わなくなっていた。
「子供用の衣服は校長に手配させておく。明日まで待っていてくれ」
「助かる……」
こうして俺は、幼児化したまま、寮に戻ることになるのだが、そこでとんでもない事件が起きるのだった――。