完全解呪のプリースト〜状態異常完治スキルで呪われた美少女を救うたび、俺への依存度がカンストしていく件〜【7/24第2巻発売】 作:pelca
ロザリオはともかく、反転の指輪はなぜか俺の指に合わせてサイズが可変してくれた。とりあえず攻撃手段は残っているらしい。
レベルがどうなったのかは不明だが、明らかに力が弱まっている感覚がある。純粋な力勝負では、自分より大きな相手に勝てる気がしない……なんて薬を飲ませてくれたんだ。――いや、最後まで話を聞かなかった俺が悪いのだが……。
「ぼく、どうかしたの?」
「ここは教会学校よ。迷い込んじゃったのかな?」
寮までの道中、突然声をかけられた。振り返ると、話したことのない二人の女子生徒だった。
「あ……う……だ、男子寮に行きたくて……」
「男子寮? もしかして兄弟か誰かいるのかな」
「迷子になったら危ないよ。お姉ちゃんたちが連れて行ってあげるっ」
「えっ、ちょっ」
なんだこれ……知らない生徒に手を引かれてしまった。
しかも手を繋ぐのがやけに難しい。身長差がありすぎると、こんなことになるのか。
「それで、男子寮の誰のところに行くの?」
「えっと……」
ここで俺の名前を出していいものか。
一応フェルディには、俺のことを親戚として扱う話をしていたが……。
「な、ないしょ!」
「ふふっ、内緒だって。かわいーっ」
「何この子、変に意固地になっちゃって〜」
「ちょ、おいやめろっ!」
ただ秘密にしたかっただけなのに、笑われながら髪をぐしゃぐしゃにされる。
もう、なんなんだよ……子供の姿になっただけなのに……。
「じゃあねー、ショウくーん!」
「また遊ぼうねー!」
なんとか男子寮前まで辿り着き、「ここでいい」と何度も伝えたら、やっと二人は帰ってくれた。
どうやら女子が男子寮に入るのは許可されているらしい。男女差別にもほどがある。
ちなみに名前は安直だが、ショウにしておいた。親戚という設定なので、年の離れた従兄弟ということにした。
「ふぅ……戻ってきた」
まだ一ヶ月ほどしか生活していないが、実家のような安心感がある。
「あの〜」
コンコンとドアをノックして、中にいると思われるカナンに声をかける。
「ん、どちら様?」
カナンが顔を出す。最初は前を向いていたため、俺の存在には気づいていなかったようだ。
だが身長が低めのせいか、すぐに下にいる俺に気づいてくれた。
「えっと……シュウ兄ちゃんの代わりに来ました。今日から一ヶ月間お世話になります」
「ええええっ!? ど、どういうこと!? き、君はシュウくんの……弟!?」
突然の申し出に、カナンは戸惑いを隠せなかった。
「俺は従兄弟です。シュウ兄ちゃんは一ヶ月間遠出するそうです。よくわかりませんが、代わりに俺がここで寝泊まりして、授業を受けるように言われました」
「そ、そんな……突然……シュウくん、どこに行ってしまったの……?」
「なんだか、ごめんなさい……」
仲良くしていたルームメイトが突然いなくなったのだ。
しかも子供を押し付けられたとなれば、怒るのも当然だ。
「ううんっ! 君は悪くないよっ。シュウくんが悪いんだから……えっと〜」
「ショウです。――カナンさんですよね? 校長先生から聞いています」
「ショウくんだね! ……それにしても、シュウくんに似てるね〜っ。そのまま小さくなったみたいで可愛いっ……目つきとかも似てるしっ」
「はい。知り合いにもよく言われます」
「ああっ、違うんだ。ボクはその目、結構好きなんだ。ん〜、ほら。ずっと見てたら癖になるというか……」
「それ、褒めてますか?」
「ふふっ……どうだろう? ほら、そこにずっと立っていないで中に入りなよ。色々と説明してあげるからっ」
冗談なのか本気なのか。
カナンは笑顔で幼児化した俺を受け入れてくれた。
◇◇◇
部屋に入ると、カナンは部屋の中や、どこに何が置いてあるかを詳しく説明してくれた。
「シュウくんの割には片付いてるのが悔しいよね。だからショウくんはぐちゃぐちゃにしちゃっても大丈夫だからねっ」
おい、なんだその理論。
それに、俺がいないからって、色々と言い過ぎじゃないか?
カナンはもしかして、俺の存在に結構ストレスを感じているのだろうか。
「というかショウくんって、何も持ってないよね? 着替えの服は? 修道服は?」
「明日、校長先生が用意してくれることになってます」
「ならいいね……あ、そうだ!」
会話の途中、カナンが何か思いついたように声を張り上げた。
「せっかくだから街に出て色々お買い物しよう! シュウくんって、いつも忙しくて、ボクとの約束のお出かけ、全然してくれないんだよ?」
「それはシュウ兄ちゃんが悪いです」
「だよねっ! ってことで、ショウくん行こっ!」
自分で自分を責めるという不可思議な状況が発生しているが、カナンの機嫌が取れるなら問題ないだろう。
早速、俺たちは日が暮れるまで街へ繰り出し、日用雑貨を揃えることになった。
「あ、でもお金って持ってる?」
「はい。シュウ兄ちゃんがお金を隠している場所を教えてくれました」
「って、えええええっ!?」
俺はベッド横の小棚の引き出しを開ける。
中には、じゃらりと貨幣が雑多に押し込まれていた。
「金貨がこんなに!? てか、引き出しの中にしまってるなんて不用心すぎるよっ」
「あはは……ここから自由に使っていいと言われてます」
「もう、シュウくんったら……戻ってきたらお説教しなきゃっ」
さすがに俺も適当すぎると思うが、カナンを信頼しているので、とりあえずこのままにしておいた。
◇◇◇
「まずは洗髪料と洗顔料だね。シュウくんの好み……は、わからないよね?」
「シュウ兄ちゃんは多分こだわりはないと思います。そんな性格してると思いませんか?」
「うーん。確かに……でも、ボクとは別のを使ってほしいなぁ。毎日同じ匂いというのも……ね?」
俺はずっとカナンの日用品にお世話になっていた。
だからいつもカナンと同じ匂いになっていたが、どうやらそれがお気に召さないらしい。
俺たちがやってきたのは、この世界のドラッグストア的な場所らしい。
日本ほど種類は多くないが、それなりに香りやパッケージの違うシャンプーなどが揃っていた。
「じゃあ、俺が適当に選んでみます」
「うんっ。ショウくんは少し大人っぽいね。体はこんなに小さいのに」
「余計なお世話です」
「ふふ、そういうところも可愛い。やっぱりシュウくんに似てるなぁ」
どこが似ているのか。いや、本人だからそうなのだが、普段とは少し言葉遣いを変えているのに……。
こうして、俺たちは日用雑貨を買い込んだ。
両手に買い物袋を抱えることになり、俺の力だけでは持てなかった。
小さいカナンにも色々持たせてしまい、少し申し訳ない気持ちになった。
「せっかくだし、夕食も外で食べて行こう。門限まで後少しあるし」
「はい。カナンさんのお勧め、教えてください」
「任せてよっ。ボク、美味しいお店知ってるんだっ」
カナンに連れられたのは洋食のお店だった。
俺はオムライス、カナンはデミグラスソースのハンバーグを注文。
子供でも食べやすいお店を選んでくれたらしい。カナンは本当に気が利く。
夕食を済ませると、陽はほぼ沈みかけていた。
さすがにこれ以上街を案内するのは難しく、このまま寮に戻ることになるが――
「――カナンさん?」
カナンが立ち止まり、どこかを眺めていた。
視線の先にはショーウィンドウ。複数のドレスが飾られ、中央には真っ白なウェディングドレスがあった。
この世界にもウェディングドレスがあるらしい。
教会での結婚式はイアシスの村でも見たことがないが、基本的に王国民は皆ミシア教信仰者らしい。
ここにウェディングドレスがあるのなら、結婚式で着るための物なのかもしれない。
「結婚に憧れがあるんですか?」
「あ〜……どうだろう。ないことはないけれど……ボクにはちょっと遠いものかな……」
「? カナンさんは顔が良いですから、選び放題のような気もしますが」
「か、顔がいい!? ショウくんにはそう見えるのかい!?」
「はい。男らしいというより可愛らしい顔をしていますが。でも、そういう顔が好きな女性も結構いるはずです」
「あっ……そうだね、そうだった……ふふ、シュウくんじゃないから少しだけ素に戻ってたよ」
「ん……どういう意味ですか?」
しかし、カナンは最後の俺の質問には答えなかった。
「ごめんね。じゃあ行こうっ」
「わかりまし――わっ」
ショーウィンドウから目を離したカナン。
俺に謝ってから道を歩きはじめた。俺も同じように歩こうとしたその時だった。
前を歩いていた人物にぶつかり、後ろに転んでしまったのだ。
「おお、すまない。私の不注意だ。大丈夫かい?」
「あ……はい」
ぶつかった人物が手を差し伸べてくれたので、その手を取って立ち上がる。
「もう、しっかりしなさいよね。その子のこともそうだけれど、あなたがちゃんと妹を見ていないから、はぐれちゃったんだから」
「いや、それは私のせいではなく、いつものことで――」
そこにいたのは二人の人物だった。
一人は杖を持つ赤髪の長身の男性。もう一人は薄緑の髪をポニーテールにした女性で、背中には弓を背負い、耳が長い。……珍しいがエルフだろうか。
「君、うちのメンバーがごめんね。お詫びにこれを渡すわ」
「えっと……」
エルフの女性から手渡されたのは、銀紙に包まれた何か。
「チョコよ。彼の妹が手作りしてくれたの」
「味は保証するぞ。なんて言ったって、私の妹が作ったのだからな」
「……妹さんが大好きなんですね」
「そうだ! 妹は可愛くて強い! だが、自分の立場を全くわかっていないんだ」
「はいはい、シスコンさん。早く行くわよ」
エルフの女性が嘆息し、赤髪の男性を急かす。
移動しようとした二人だが、赤髪の男性が足を止めてこちらに振り返った。
「――ああ、まだ名乗っていなかったね。私はバーベキューだ」
「私はオルマよ」
「俺はショウです……チョコ、ありがとうございました」
名乗った二人は手を振り、ランプの灯る街路へと消えていった。
「チョコか……」
俺は銀紙を開け、一口サイズのそれを口に含む。
「どう、美味しい?」
「えっと……うん。美味しいです……」
カナンに聞かれ、俺は素直に返した。
その味は、どこか故郷――日本のチョコを思わせる、優しいカカオの味がしたような気がした。