お湯を被っても男の姿に戻らなくなっていることに最初に気が付いたのは、五寸釘くんだった。
ある日エッチを終えシャワーを使っていた俺を盗撮(今は許可している)しょうとして、シャワーがあたたかいのに、女の姿のままだったため異変を察知したらしい。
それでもその時は「しばらくするとまた男に戻るようになるだろう」と思っていたが、それ以降体の変化が訪れることはなかった。
「困った、どうしょう」
そんな言葉を五寸釘くんに伝えたが、本心では少しも困っていなかった(笑い)。
何たって最近は、好きな人とほとんど毎日のように会ってエッチをするリアリア充の日々なのだから当然だ♡
その原因ははっきりしないが、恋をしたことで女性ホルモンが活性化したのだろうと勝手に想像している。
いずれにしろ男に戻ることができなくなったことで踏ん切りがついた俺は、かすみさんを通じて、あかねに今の現状を伝えてもらった。
体のこと、恋のこと、五寸釘くんのこと。かすみさんも、俺の変化をあかねに伝えるべきか悩んでいた段階で、その時はまだ何も伝えていなかったらしい。
返答もかすみさん経由だった。怒りはなく「おめでとうとだけ伝えて」というあっさりしたものだった。少しショックを受けた。俺たちの関係はそれだけのものだったのか。そう思ったが「どの口が…」となるのはあきらかだから、何も言わなかった。
同時に驚くべきニュースも飛び込んできた。どの程度進展しているかはわからないが、今あかねにもいい感じの人がいるらしい。同じ青年海外協力隊の日本人だとか。
あかねも俺と同じ年齢。そりゃ、恋のひとつぐらいしても不思議ではない。
かすみさんも「らんまくんもよかったじゃない。これで思う存分恋を楽しめるわね」と言ってくれた。
そのことは俺から五寸釘くんにも伝えた。
「ふふふ、ついにやりました、僕の藁人形があかねさんに恋の病を発症させました」と歓喜していた。
さすが五寸釘くんである。
ちなみに五寸釘くんが俺を好きなったのもあかねと関係があり、あかねに告白し見事に振られた五寸釘くんを女の姿の俺が慰めたことがきっかけだったと聞いている。
そんな俺の異変は、シャンプーや右京にも影響を与えた。シャンプーは俺が完全な女になったことに激怒し何度も襲ってきたが、次第にあきらめ、今はムースと付き合っている。
右京も同様に激怒したが、その相手がひ弱極まりない五寸釘くんだったことに世の無情を感じ、怒りもなくなったらしい。家を出て行方知れずになったままの良牙にその事実を伝えるべく、旅に出る準備を進めている。ひょっとしたらあのふたりもうまくいくかも知れない。まあ、ちゃんと見つけることができたらではあるが。
このシャンプー、右京とは同じ街に暮らしていることもあり、いままで通り頻繁に会っている。ランチ女子会と称して昼食を共にし、男たちのダメなところを言い合って盛り上がっている。
こうしてみると男だった頃の早乙女らんまの存在が、皆を振り回していたことはたしかだ。完全に女になったことで、それぞれ新しいスタートをきっている。
めんどくさいのは、未だ俺をおさげの女と呼びアプローチしてくる久能先輩くらいだろう。まあ、久能先輩くらいなら何とかなるからさして気にはしていない。
問題があれば五寸釘くんに藁人形で呪ってもらえばいい。
五寸釘くんとの関係はさらに進展した。性別が変化するおかしな体質がなくなり、安心して付き合えるようになった。お陰で五寸釘くんのご両親にもご挨拶させてもらうことができた。
ふたりして実家を訪ねたのだが、五寸釘くんのキャラがご両親から受け継いだものであることがよくわかった。
部屋中に藁人形が飾ったあったので「お父様、素敵な人形ですね」とお世辞を言ったら満足そうだった。
その時ふたりから「結婚は考えてるの?」なんて質問が出て衝撃を受けた。
その思いは付き合い始めた頃に芽生えていた。しかし俺の体質がネックでお互いにその話題は避けていた。
もうその必要がないことにご両親に気づかせてもらった。
その時は「さすがにまだ若いですから」なんて適当に返事してごまかしたが、それ以降「結婚もありかも」と思い始めている。
ただ、男に戻らなくなったことで困ったこともある。
俺は人並み以上に独占欲が強くなってしまったのだ。
五寸釘くんがシャンプーや右京と楽しく話をしているだけでも、負の感情が生まれてしまう。
この前など、たまたま五寸釘くんと楽しそうに話していた右京に出くわし不機嫌な顔をしたら彼女が激怒、久々のバトルにまで発展した。五寸釘くんがとりなしてくれたことでその場は収まったが、しばらくは口をきかなかった。
そして今日も穏やかではない。
五寸釘くんがデートを断って、合コンに出かけてしまったからだ。急に欠席者が出て先輩から頼みこまれたのだとか。
一応カッコつけてLINEで「頑張って」と送ったが、次第に心配になり五寸釘くんのアパートで待つことにした。最近はよくアパートを訪ねるようになってため、合鍵を持つていた。
もし女を連れて帰ってきたらその場で……
もちろん五寸釘くんがそんなにモテるタイプでないことくらいわかっている。それでも一応男だ。コンパの女の中に変わり者がいないとは言いきれない。
午後10時、まだ帰ってこない。
スマホで見て時間をつぶしているがなかなか時間がたたない。
ひょっとして、女の子とラブホテルへ。
そんなありえない妄想が頭に浮かぶ。
大きな袋のポテチもなくなった。
その時だった。
玄関のドアが開き、ようやく帰ってきた。
ソファーから飛び起きた俺は玄関へ。
よかった♡
ひとりでの帰宅だった。
安心して気が抜けた俺だが、簡単に弱みを見せられない。
「お帰り。退屈だったから越させてもらっている」
「それはいいですけど。ひよっとして早乙女くん、僕が女の子を持ち帰ってくるとでも思ったのですか?」
まずい。ばれそうだ。
「そんな訳ないよ。どうせひとりで寂しく帰ってくるだろうから、笑ってやろうと思って待つてた」
「まあ、いいでしょう。そういうことにしておきましょう。では、これからゲームでもしますか?それとも僕と…」
まあ、その通りだった。顔が真っ赤になってうつむいた俺を見て五寸釘くんも気付いてくれた。最近俺の顔を見るだけで気持ちを察してくれるようになっている。
「仕方ないですねーでも早乙女くんが『もう止めて』と言っても止めないですからねー」
「ふん、そのセリフそっくりそのままお返しする」
「言いましたね、後悔しても知りませんよ」
「後悔するのはどっちかな。デートより合コンを選んだ男にお仕置きだー♡♡♡」
未だ上手に甘えることはできない俺は、五寸釘くんとそんな口ゲンカをしながら部屋に戻り、そのままベッドに押し倒された。
ジェラシーの炎であたためられた体はもう十分準備ができている。
今夜は長い夜になりそうだ!♡♡♡♡♡