※この作品はR-18です。

転生したら術式が『無為転変』だったので禪院直哉をメスオナホにする   作:禪院直哉虐待委員会

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第三話

 

 ◎

 

「——で、きみ? 僕と決闘したいって子は」

 

 実際に相対して見ると想像していたよりずっと背が高くて、見上げる首が痛くなった。どうにも自分の背の低さを痛感させられて、少々腹が立つ。

 

「ええ、まあ」

 

 答えれば、彼は「ふーん」と気もなく頷いて、軽く周囲を見渡す。標高の高い山脈に囲まれた窪地。広大な空き地は、周囲の山まで含めて全て禪院家所有のもの。広さはあれどなにぶん山で、土地としての価値は二束三文。——仮にどうなったとしても、誰にも文句は言われない土地。

 

「なんでわざわざ決闘なんか? きみ、別に家のプライドとかどうでもいいタイプでしょ?」

 

 問われて、僕は後ろ頭を掻く。上空には烏。それを通して、遠く、この山脈を、ひいては僕たちを、両家のオーディエンスが鑑賞している。

 

 禪院家の中で、このマッチアップを望む声は前々からあった。いわゆるお家同士のマウント合戦。どちらの家の『最強』が真に最強なのか。その決着をつけるべきだなんて、何が「べき」なのか一ミリも理解できない声が聞こえてきたのは一度や二度では済まないし、そして僕が今日までそれを一切気にせず無視し続けてきたのも事実だ。

 

 だけど——

 

「諸事情あって、入り用になりましてね」

「へえ、何が?」

「——現代最強の称号」

 

 言えば。

 眼前に立つ男——白い髪に、黒い目隠し。絶世の、とさえ言っていい、日本人離れした美貌に、高い背、筋肉質。

 現代最強の術師、五条悟は、頬を裂いて笑った。

 

「面白い。奪えるつもりかい? この僕から」

「少なくとも、やってみようかと思う程度には思い上がらせてもらってますよ」

 

 むかつくならどうぞ、叩き潰して見せてくださいな。

 精一杯の煽りと共に言えば、彼はその両眼を覆う目隠しを外した。

 

「本当に面白いよ、きみ。ただの思い上がりってわけじゃなさそうだ。いいぜ、一手——仕合おうか」

 

 目隠しの向こうから、顕になる青い瞳。澄み渡るそれは、いつかみた輪廻の向こう側と同じ色で——

 

「胸を借りさせてもらいますよ」

 

 僕は一歩、五条悟(最強)へと向けて踏み込んだ。

 

 ◎

 

 最強は動かない。——無下限呪術。形而上より顕現する『無限』の概念をその身に纏うことによる無敵の守りは、彼の身に一切の害ある全てを寄せ付けない。それが故の後手の選択だろう。それを驕りであるなどとはとても言えない。彼は真実、無敵に等しく——それ故に、僕もまた。

 

「全力で行かせてもらいますよ」

 

 ばん、と地面に手を叩きつける。無為転変。僕の生得術式が呪力に乗って大地へ伝播し——周囲一帯のすべての『魂』へ作用する。

 

「! これは——」

 

 感心したように、声を上げる最強。その余裕も——すぐにひっぺがしてやるさ。

 

 どう、と大地がうなりを上げる。見れば——山間の窪地。そこに生える木々たちが——鳴動している。吠えるように、狂うように、叫び、捩れ、歪み——脈動し、()()()()()

 

『ヲ、ヲ、ヲ、ヲ、ヲ————!』

 

 立ち並ぶ無数の木々たち、その姿が——魂が、変質する。木の根は足となり、枝葉は手となり、その幹には叫び狂う顔が浮かぶ。

 

 無為転変。その真髄は魂の変質。僕は木々の魂を操り——彼らを動かぬ樹木から、獰猛なる怪物へと姿を変えた。

 

 魔猛樹(ザイクロトラン)。名付けるならそれだろうか。叫びを上げ、猛り狂う数百のそれらが一斉に腕たる枝葉を伸ばし、最強へと向けて攻撃するが——

 

「残念」

 

 鋭く尖った枝たちの先端は——彼の纏う『無限』に阻まれ。

 

「そうなることはわかっていたんですよ」

 

 その枝葉の影に隠れていた僕自身が彼の眼前へと飛び出す。

 

()()()()

 

 拳に自らの領域を()()()、それを最強(五条悟)の顔面に——()()()()()()()()()()()()

 

 黒閃。

 

 それは打撃との誤差百万分の一秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。衝突の際には黒い稲妻と化した呪力が激しく迸り、その名の通り黒い閃光を生み出し——その威力は平均して通常時の二・五乗に上る。

 

 その一撃を無警戒に顔面に受けた五条悟は、血反吐を吐き散らしながら背後へと吹き飛んでゆく。

 

 それを見送りながらも——僕は身を巡る呪力の励起、加速する神経、頭蓋の内側を満たす強烈な全能感に酔う。

 

 満ちる。呪力が。尖る。感覚が。澄んでゆく。魂が。

 

 黒閃——単純な威力においても驚異的なそれであるが、真に重要なのは黒閃を決めた術師は一時的に呪力の核心を掴み——極限の過集中、呪力操作の著しい向上、呪力生成の加速などなどが行われ、いわゆるスポーツにおける『ゾーンに入った』状態となり、その実力を百二十パーセント以上に引き上げる。

 

 それはたった今、五条悟に対し初撃にて黒閃を決めたこの僕も例外ではなく——

 

「最初から、フルスロットルで行かせてもらうよ」

 

 僕は笑う。ハリボテの敬語も、もうやめだ。

 

「いけ、魔猛樹(ザイクロトラン)

 

 僕は命ずる。己が下僕と成り果てた樹木たちへ。

 

 領域展延——結界術の一種であり、いわゆる『纏う』領域。領域を空間に展開するのではなく、肉体に『纏う』ことで術式による干渉を中和し、肉弾戦を可能とする技術——五条悟の『無敵』を突破するためにこの技術は必須であるが、一方でこれを使用している最中は生得術式が使用できなくなる。

 

 僕の場合は『無為転変』が使用不能になるわけだが——無為転変。この術式は、あくまでも魂を変質させる術式。変質した魂は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これを利用して——僕は無為転変によって生み出した『魔猛樹(ザイクロトラン)』を操りつつも、同時に領域展延を使用している。

 

 吹き飛んだ五条悟に対し、魔猛樹(ザイクロトラン)の枝葉が殺到する。それに紛れて、僕もまた突貫するが——

 

「二度も同じ手を喰うかよ——術式順転・蒼!」

 

 中空で体勢を立て直した五条悟の右の手のひらに——青い光が宿る。それは彼の『無限』が生み出す法外な力の一つ——手のひらの内側に収束する『無限』を生み出すことで対象を引き寄せ——圧殺する呪法。

 

 彼はそれを振り翳し——魔猛樹(ザイクロトラン)たちを吸収、圧殺する。当然、僕もそれに巻き込まれるが——無為転変。足を杭状に変形させ、地面に突き刺すことで吸収の効力から逃れる——が。

 

「立ち止まっていいのかい?」

 

 着地した彼の、その手の内で、練られる呪力の()()()()()

 

「『位相』『波羅蜜』『光の柱』」

 

 それは尋常の、負の性質を持つ呪力ではなく——それ同士を掛け合わせることで生まれる『正』の性質を持った呪力。それがもたらす術式とは——

 

「術式反転・赫——!」

 

 放たれる、反転した術式。収束する無限である蒼に対する、()()()()()()の赫——詠唱を伴う最大出力で放たれた『無限』の衝撃波が僕を襲い——

 

「『六道』『四悪趣』『貪瞋痴』」

 

 ぽう——と。

 浮き上がる光の球は——周囲一体。地を覆う苔、草木、這う虫、鳥に獣、果ては菌糸や微生物——それらが持ち得る『魂』そのもの。それらが一斉に、僕の手のひらの内側に集い——

 

「『集いて両界』『遍一切処』」

 

 ——拡張術式。

 

「重魂総滅」

 

 ——炸裂する。

 

 混ぜ合わされた魂たち、その全てが一瞬にして燃焼し——その内側に秘められていたエネルギーを放出する。

 

 魂の仮想重量は二十一グラム。一寸の虫にも五分の魂——遍く魂は等価なる。E=mc2——その理に従って、集った一〇三一の魂——二十一・六五キログラムの仮想質量がエネルギーへと転変する。その結果——放出されるのはおおよそ二千ペタジュールの熱量。これは地上最強の核兵器、ツァーリ・ボンバの爆発の十倍に匹敵する熱量であり——それは発散する『無限』と真正面から激突してなお凌駕する!

 

「お——おおおおおおおおおおおおっ!」

 

 叫ぶ。それは五条悟の声か、はたまた僕の声なのか。解き放たれた二千ペタジュールのエネルギーが、『無限』の衝撃波と真っ向から激突し——その無限をすら飲み込んで突き進む! 瞬間的に放出されたエネルギーが安定を求めて熱と光へと転じ、地上に恒星が落ちたが如き輝きが放たれる。爆熱が天地を焼き尽くし、衝撃波は周囲の山という壁を持ってしてなおも地球全土を七周した。

 

 焼けつく大地は灼熱のマグマと化して熔化し、大気はプラズマとなって焼けこげる。周囲の山は半壊し、その表面はあまりの高熱にガラス化している。地上に顕現した地獄。そう呼ぶしかない終末の風景の内側で——なおも。

 

「ははは——きみ、最高だよ」

 

 最強は笑う。その体に幾許の傷すらもなく。

 

 無下限呪術——それが齎す『無限』は絶対の理。たとえ星が滅びる一撃であろうとも、それが無限を超える概念をもたぬのであれば、彼には幾許の痛痒ももたらさない。

 

 で、あるならば。

 

「相手の術式が煙たいなら——やることは一つ」

 

 地上に顕現した地獄の中——相対する『最強』と同じように、無傷の体で立ちながら——僕はその両手で印相を組む。虚空蔵菩薩印。それは一切の空——彼方に広がる宇宙をこそ示す印であり、それは奇しくも。

 

「いいね、わかりやすい」

 

 彼が組む印相——帝釈天印。それが齎す領域——無量空処と似て非なる概念。

 

「「領域展開」」

 

 声が、重なり。

 

 僕らは焼けつく地獄の底で、互いに領域を展開して——

 

 ◎

 

 一年の時が経って、僕は晴れて十四歳になった。

 

 少し背が伸びたけど、声変わりはまだ。まあ、この辺りは個人差あるし、しょうがないよね。

 

 この間に、それなりに色々なことがあった。メスオナホ直哉は髪が伸びて、今はもう腰の辺りまでのロングヘアになった。姉二人はここ一年でググッと背が伸びて、ようやく背丈が並び始めてたのにまた引き離されてしまった。僕は『現代最強』の術師、五条悟と決闘して、なんやかんやあって引き分けたりしたけど、そんなことより背が伸びないことの方が悩み事だ。いっそ無為転変で伸ばしても良いけど……それはなんか負けた気がする。

 

 さて。一年が経った、ということは、大好きな姉二人は、晴れて十五歳。となると当然——高専への入学が始まる。

 

 おいおい、天与呪縛のフィジカルギフテッドと、万並みの構築術式の使い手が今更高専かよ、という話だけれど、これにはもちろん理由がある。

 

 表向きにも、裏向きにも。

 

 表向きの理由は、一言で言えば五条悟だ。

 現代最強——の、片割れ。僕との手合わせ以降、一段階格が落ちはしたけど、彼は凡百の術師からすれば雲の上どころか宇宙の果ての強者であることには変わりない。そんな彼が、呪術師の育成機関である呪術高専の教師をやっている。

 

 これが周りの無能な人間からどう見えるかというと——そう、私兵作りだ。東京の呪術高専は、五条悟の縄張り。五条悟がわざわざ教師なんてものをやっているのは、呪術界上層部の息がかかりずらい生徒たちを自らの私兵にして、勢力を拡大するため。そんな風に見えるらしい。

 

 馬鹿じゃないのか、と思う。五条悟に、私兵なんて必要ない。彼が一人いれば地球上の人間なんて——少なくとも今は、僕を除いてにはなるけれど——容易く皆殺しにできる。そんな人物が、わざわざ有象無象の兵力なんて頼りにするものか。

 

 ただ一方で——勢力の拡大、という部分では、一部、的を得ている。彼は呪術界上層部——利権にしがみつき、伝統を振り翳して新人を排斥する腐った老害連中を嫌悪しており、いずれは自らの生徒たちによって『革命』が起こされることを期待している。

 

 ある意味では、上層部連中の危機感も間違いではないわけだ。ピントがズレてはいるけれど。

 

 ともかくそういうわけで——呪術界の体制派、上層部に大きく食い込んでいる禪院家としては——それに対抗しなければいけないわけである。

 

 五条悟に対して刺す『釘』として、東京の呪術高専には次期当主である真希ねぇが、京都の呪術高専には、その妹であり真依ねぇが、それぞれ派遣されるというわけだ。

 

 と。ここまでが、表向きの理由。

 

 で、裏向きは何かというと——そっくりそのまま、その逆。

 

 つまりは、五条悟と仲良くなること。ついでに、高専の生徒たちと仲良くなって——なるべく多くの『味方』を作ること。それが目的で、なんてことはない、上層部が五条悟に対して危険視していることを、ウチ(禪院家)もそっくりそのままやろうってわけだ。

 

 これにはもちろん、理由がある。次期当主の内定が下っているとは言え、真希ねぇは禪院家の中では非主流派の革新派。味方は少なく、敵は多い。

 

 もちろん、その少ない味方の中には『現代最強』の片割れであり、一人で禪院家を皆殺しにできる僕という戦力がいるわけだけれど——じゃあそれで、本当に僕が身内を皆殺しにすればハッピーエンドかと言えば、それは目指すところではない。

 

 あくまでも穏やかな革新を、今の真希ねぇは求めている。

 

 そういうわけで、当主となった時の『味方』を増やし、呪術界の上層部の腐敗、旧来の大家の因習にメスを入れるその下準備として——二人は『外』へと出向いたわけである。

 

 僕? 僕はもちろんお留守番だ。学校とか、今更行く意味もないし。そんな時間があるならオナホで遊んでたい。

 

 ……ま、ある意味で僕がこういう態度であるから、家中の人間も慌てずにいられるわけである。仮に真希ねぇと真依ねぇが『乱心』したとしても、禪院真十が抑えてくれるだろう、みたいなね。そんなわけないのに、馬鹿で助かるよ。

 

 そんなわけで、僕としては毎日直哉をいじめて姉のいない寂しさを紛らわす日々が始まり、それは今後四年くらい続く——はずだったんだけど。

 

「や、真十」

 

 どういうわけか、今。

 

 僕の目の前には——白髪、目隠し、長身の美男子。

 かつて僕が決闘にて引き分けた、現代最強のその片割れ。

 

 五条悟が、やってきていた。

 

 ◎

 

「……で、なんの用事?」

 

 応接間。お茶の入った湯呑みが乗るテーブルを挟んで、僕は五条悟と向かい合う。彼は出された茶菓子の最中を遠慮なくむしゃむしゃと貪りながら、気楽に言った。

 

「冷たくない? 仮にも一度は殴り合った仲なのにさ」

「一度殴り合ったら友達って、思考回路が週間少年ジャンプすぎるでしょ……ただでさえ、あの戦い以後、お互い周りに『ビビられてる』んだからさ、そう気軽に顔合わせるわけにも行かないって」

「周りのことなんてどうでもいいですーって面してる割には結構気にしいだよね、真十ってば。いいじゃん、周りの連中なんて、好きにビビらせとけばさ」

「そういう五条さんは周りに気を配ってるふりして心底エゴイストだよね。そういうとこ、好きじゃないな」

「あらら、嫌われちゃった。悲しいなー。えーん」

「きっつ」

 

 もう直ぐ三十路を迎える男の泣き真似なんて、見苦しいだけだった。

 

「ま、冗談はこのくらいにしておいて……今日は、真十にお願いがあって来たんだよね」

「お願いって?」

 

 女体化させてほしい、とかだろうか。そういう依頼なら大歓迎なんだけど。

 

「当たらずとも遠からず、ってところかな。もちろん、僕に女の子になりたい趣味があるってわけじゃあないけれど——つまり、きみの術式、『無為転変』を頼らせて貰いたいんだよね」

 

 ふむ。僕は頷く。

 

「誰か、手足を失うような大怪我でもした?」

「いいや、そういうわけじゃあなく——天与呪縛関連でね」

 

 ああ、なるほど。僕は納得する。

 これは——来るべき時が来た、ってところかな。

 

(むた)幸吉(こうきち)、って知ってる?」

「いいや」

 

 本当は『知ってる』んだけど——その知識は反則で得たそれだから、もちろん否定する。五条悟は頷いて、話を続けた。

 

「きみのお姉さん——真依ちゃんが通っている呪術高専の京都校にいる生徒でね。きみのお姉さんと同級生になる男の子なんだけど——その彼が、厄介な天与呪縛を持って生まれてる」

 

 厄介な天与呪縛、ね……。

 

 与幸吉。原作の知識を参照にするのなら、傀儡操術という文字通り傀儡を操作する術式を持ち、膨大な呪力と日本全土に及ぶ術式範囲と引き換えに——

 

「右腕、両足の欠損。下半身の感覚喪失。全身に常時走る痛みと、極端に弱い肌」

 

 そんな肉体的ビハインドを、持って生まれた。

 五条悟は語る。

 

「通常の反転術式では、これらを治すことができない。きみも知っての通り、反転術式はあくまでも肉体を『元の形』に戻す力だ。『元からその形』である天与呪縛には効果がない」

 

 だが——

 

「真十。きみの『無為転変』なら——『魂の形』を自在に変えることができるその術式ならば、彼の『呪い』を、解いてやることができるんじゃないだろうか」

 

 そんな風に、問われ。

 

「確かに——僕の術式なら、それをなんとかすることはできるだろう」

「本当か! なら——」

「でも」

 

 喜色をあらわにする彼に、僕は冷や水をかける。

 

「本人の意思は、どうかな」

 

 僕が問えば——彼は。

 

「そういうと思って」

 

 と、背後の襖を開ける。

 

「連れてきました、本人」

 

 って言っても、厳密にはその傀儡だけどね——なんて言葉が表す通り、そこにいたのは、呪術高専の制服を身に纏った一体の傀儡——というより、ロボットだった。

 

「初めましテ。ご紹介に預かったタ、与幸吉ダ」

 

 ちん、と正座した傀儡を通して、彼はしゃべる。

 

「どうも、与くん。僕は禪院真十。いつも姉がお世話になってます」

「いや、こちらこソ、お姉さんにはいつも世話になっていル」

 

 お互いに挨拶をぺこりと交わしつつ——本題に入る。

 

「で——聞いたところ……きみは、その天与呪縛を無くしたいんだって?」

「ああ、そうダ」

 

 僕が聞けば、彼は一も二もなく頷く。

 

「生まれてからずっト……俺はこの不自由な身体に苛まれ続けてきタ。手足の欠損。月明かりにも焼かれる弱い肌。とてもではないが外には出られズ——今日この日まデ、傀儡を通してでしか『外』と繋がることができなかっタ。もし、この身体を治してくれるのならバ——どんな代償だって払ウ」

 

 彼はまっすぐに僕を見つめて言う。天与呪縛により、縛られた身体。それが齎す苦痛はいかほどか。五体満足に生まれた僕には、決して推し量ることのできない苦しみで——けれどだからこそ、僕は彼に問わなければならない。

 

「どんな代償だって——か。ねえ、与くん」

「なんだろうカ」

「きみ、友達っている?」

 

 問えば——彼はこくりと頷く。

 

「ああ、いル。大切な……大切な——友達ガ」

「そっか。じゃあさ」

 

 たとえば——

 

「きみはその身体を治す代償として、その友達の命を差し出せるかな?」

 

 問えば。

 彼は一瞬傀儡を動かしかけ——けれど五条さんが動かないのを見て、矛を収める。そして代わりに問うた。

 

「それは……どう言う意味ダ?」

「言葉通りだよ」

 

 僕は答える。

 

「天与呪縛……それによってきみがどれほど苦しんできたか、それを僕が推し量ることはできない。きっと想像すらもできないほどの多大なる苦しみだったんだろうね。だけど——天与呪縛は公平だ」

 

 奪った分、与える。捧げた分、得られる。それが呪術の原則。

 

「きみはその天与呪縛によって、奪われた手足や肌の分——それに匹敵する『力』を得ていたはずだ。莫大な呪力。日本全土を覆う術式範囲。それらは天与呪縛あってのもので——癒せば当然、無へと帰す」

「……っ、それでも俺ハ、それを失ってでモ、健康な体が欲しイ——!」

「そのせいで、いつか友達を失うことになるとしても?」

 

 僕は問う。

 

「与くん。呪術師という仕事には、常に命の危機がついて回る」

 

 人は死ぬ。容易く死ぬ。呪いの前で、人の命はあまりにも脆く儚い。

 

「この僕や——五条さんだって。『最強』ではあっても無敵ではない。死ぬ時は死ぬ。僕たちですらそうなんだ。きみやきみの友達だけが——その理から逃れられるなんてことはあり得ない」

 

 死は誰にも平等に、そして理不尽に降りかかる。

 

「きみたちは呪術師として、これからそんな『死』に立ち向かい続けることになる。そして——きみが天与呪縛によって授かった力は、間違いなくその『死』に立ち向かうのに役に立つだろう」

 

 僕は語る。事実をただひたすらに、淡々と。

 

「きみが天与呪縛を手放し、健康な体を手に入れたとして——いつか、それを後悔する日が必ず来るだろう。手放した力が有れば——救えた命。それを取りこぼす時が必ず来る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな時——きみは後悔せずにいられるか。

 

「あの時手放した力が有ればと、後悔し、苦しみ、失う。そんな未来に——きみは耐えることができるのか」

 

 ぼくは問う。

 

「きみは自らの力不足で——友を失う覚悟があるか」

 

 どこまでも残酷に——冷酷に。

 問うて——

 

 彼は。

 与幸吉は。

 

()()

 

 と。

 そうまっすぐに答えた。

 

「俺にハ——友を失う覚悟なんてなイ。友を失っテ、一人生き残る覚悟なんてなイ。()()()

 

 だから——強くなる。

 

 彼は言った。

 

「失ったならバ、それを取り戻せるようニ。失った力に匹敵する何かを手に入れられるようニ。努力して努力して努力して努力して——努力すル」

 

 眩しいほどに、強欲に。

 

「……並大抵の努力じゃあ、足りないぜ」

「覚悟の上ダ」

 

 友を失う覚悟なんてはできないが——友のために血反吐を吐く覚悟なら、できている。

 彼は言った。

 

「——いいね、悪くない」

 

 僕は言って、立ち上がった。

 

「請け負おう、与幸吉。きみの治療を——この僕が」

 

 ◎

 

 与幸吉を治療するかどうかは、迷いどころではあった。

 

 それはもちろん、彼に解いたような覚悟の話——なんかではなく、単純に。

 

 与幸吉という、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 原作における全ての黒幕——呪術全盛の世、平安の時代より生き続ける邪悪な呪詛師——『羂索(けんじゃく)』。

 

 彼の動向は、原作において結構綱渡りなところが多い。用意周到に見えて行き当たりばったり。偶然に頼った行動が多すぎて——読みにくい。

 

 僕という原作にない異物がいる時点で、ただでさえどうなるかわからない中、原作において内通者であった与幸吉を治してしまえば、それがどう作用するものか。

 

 不安はあって——それでも僕は与幸吉を治すことに決めた。

 

 相手の手が読めないというのなら——正攻法。

 

 仲間を増やして強くなる、だ。

 

『羂索』の望む世界——一億の日本人を呪霊へと変え、『人類の次』を生み出すなんて訳のわからない計画へは全く賛同できない以上、僕と彼は戦うしかない。

 

 しかない上で——僕という術師は、彼に狙われる理由がある。

 

 無為転変——原作においては呪霊・真人が持っていた術式であり——羂索はそれを手に入れるがため、『呪霊操術』の術式を持つ『夏油(げとう)(すぐる)』の肉体を欲した。

 

 が——この世界においては、禪院真十()という『無為転変』の使い手が存在する。

 

 わざわざ呪霊操術を手に入れそれによってさらに無為転変を奪う、なんて面倒な手順を踏むより——僕の肉体を直接奪った方が楽だ。そんな風に考える可能性は十分以上にあった。

 

 ()()()()()、僕は現代最強の術師(五条悟)と決闘したのだ。

 

 僕は欲しかった——現代最強の称号が。

 

 羂索という黒幕に、()()()()()()()()()()()()()()と思わせる圧倒的な強さの証明が。

 

 僕の周りを狙わんとした場合——『現代最強』が敵に回るのだという()()が。

 

 僕は欲しくて——()()()()()()()()、僕は五条悟との決闘を取り行った。

 

 結果として——羂索は僕に対して行動を仕掛けてきてはいない。

 それらしき兆候はない。

 少なくとも、今のところは、だけど。

 

「——で、五条さんはなんで与くんを助けようと思ったわけ?」

 

 与幸吉の居場所へと向かう道中、僕は五条さんにそんなことを問うてみた。五条悟は呪術高専の教師だけれど、それは東京校の話。京都校は管轄外のはずだ。そんな意味を込めて問うてみれば、けれど彼は笑みを浮かべる。

 

「そんなの当たり前でしょ。誰であれ——若人の青春を邪魔することは許されない。だからだよ」

 

 なんて、軽やかにも、重く。

 

「若人の青春を邪魔することは許されない、ね。それが天与呪縛でも?」

「そうさ」

「あるいはそれが——運命でも」

「もちろん」

 

 それを邪魔させないのが——大人の役目でしょ。

 

 彼はそう言って笑った。

 

「……頼もしいね、全くさ」

「そういう意味じゃ、きみもだよ。困った時は、いつでも頼ってくれていいからね」

「あいにくと、青春どうのってたちでもなくてね」

 

 僕は肩を竦めた。

 

「自分がってよりは——うん。五条さんと一緒かな。僕もどっちかっていうと——人の恋路を邪魔する奴を、蹴飛ばしてやる馬になりたいタチだ」

 

 言い切る頃には。

 暗い暗い闇の底——生命維持のための器具が満ちる、与幸吉の寝所へと、僕らは辿り着いていた。

 

「……待っていました。真十さん」

「ああ、敬語とかいいよ。僕の方が年下だしね」

 

 言って、僕は生命維持装置の山を登り、全身に包帯が巻かれた与幸吉の体へと近づいた。

 

「それじゃあ——始めるよ?」

「ああ、頼む」

 

 頷かれ、そっと。

 僕は彼の手に触れる。痛ませぬように、可能な限り優しく。

 

 与幸吉。

 彼は原作において、仲間たちと出会うため。そんな小さな願いのために命をかけて——そして敗北し、死にたえた。

 

 不遜なのは重々承知。その上で——あえて言おう。

 

 これからその運命を、僕が変えるのだ、と。

 

「『六道』『流転』『菩提樹の根本』——術式順転・無為転変」

 

 詠唱を用いての、最大出力。僕は自らの術式を以て——与幸吉の魂に触れる。

 

 ああ——なんと深く傷付き、それでいながら強く輝く魂だろう。

 

 天の呪いによって縛られ、戒められたその魂を、少しずつ、少しずつ解きほぐしていく。

 

 天与呪縛なんて、よく言ったもの。天より与えられる、呪いと縛り。望まずして与えられる苦しみと、そして才能。——公平だ、なんて馬鹿馬鹿しい。一方的に押し付けておいて、ふざけるなという話でしかない。

 

 その『縛り』を作っているのがどこの誰なのか、僕は知らない。この世界のどこかにいる『神』なのか、はたまた宇宙検閲官か、あるいは我々の魂自体がそれを作り上げているのか。全ては不明で——されど誰かが、あるいは何かが、『バランス』を保つために『それ』を見定めているのはわかる。

 

 だから僕は——語りかける。誰かに、あるいは何かに。

 

 これより、僕は与幸吉の体を治す。呪縛によって奪われていた肉体を、取り戻す。その代償として、お前は彼に与えた才能を奪い去っていくつもりだろう。だが——僕が彼の体を治したとて、()()()()()()()()()()()。生まれてからの十六年——それだけの間、彼は奪われ続けてきた。手足をではない。肌をではない。その人生を——人並みの幸福を。彼は奪われ続けていて——そしてこれからの人生がどれほど幸福で満ちようとも、その欠落を埋められるものではないのだ。

 

 奪われたものは——戻らない。たとえ手足が戻ったとしても、肌肉が健康になったとしても、彼は奪われ、捧げられた人間なのだ。

 

 だから——そう。

 全てを奪い去るのは、やりすぎだ。

 

 一方的に与えて、体が健康になったからと言って全てを取り上げるのは、あまりに傲慢。それでは天秤は——傾いたまま。失われたものには、代償が必要だ。そうだろう? そうであってくれ。

 

 願い、祈りながら、僕は可能な限り彼に呪力とその操作範囲が残るようにしながら繊細に魂の形を整えて——

 

「——施術、終了」

 

 どっしゃりと汗を掻きながら、僕はため息を吐いた。

 

 見れば——包帯に覆われていた与幸吉の体。手足の欠けていたその体は五体満足となり、焼け爛れていた肌は健康な肌艶を取り戻し。彼はその両足で——立ち上がっていた。

 

「——ありがとう」

 

 眦から、一条の涙を流しながら——彼は言った。

 

 いいってことさ、なんて言おうとして、ふらり、と体が倒れそうになり——その体を、五条悟に支えられる。

 

「——凄まじいね。天与呪縛によって与えられていたはずの膨大な呪力と術式範囲。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どうやったの?」

「……ま、気合いってとこ」

 

 僕は笑った。頑張ったせいか、ほとんど呪力がすっからかんだ。今誰かに襲われたら普通に死ねる。近くに五条悟がいたからこそ出せた全力だ。

 

「気合いか、さすが、と言っておこう。本当に——ありがとう。生徒を救ってくれて。僕にできるお礼なら、なんでもするよ」

「別にいいよ。困った時助けてくれれば。……あー、いや」

 

 一つ、頼みたいこと、あったかもしれない。

 

 五条悟の腕の中で、僕は言う。

 

「ねえ、五条さん。ちょっとだけ無茶なお願い、聞いてくれる?」

「いいよ、どんなお願い?」

 

 内容も聞かずに頷かれて苦笑しつつも——僕は言った。

 

加茂(かも)憲倫(のりとし)が残した特級呪物——呪胎九相図。その一から三番、僕にくれない?」

 

 悲劇に立ち向かうには、正攻法。

 

 味方は多い方がいい。そうだろう?

 





エロまで辿り着けませんでした。次回は直哉をいじめたい。

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