転生者と、シキガミと 作:ふなぐち又兵衛
ただしエロシーンがあるのは3話目のみとなります、ご了承ください。
2026.03.16追記、マカーブルさんからFAをいただきました!
一応のネタバレ防止ということで、後書きの方に掲載させていただきます。
「ねーこれって何てやる夫スレ?
盛るペコされたちょろいさんが、ねらう緒くんと手えつないでるとかびっくりなんだけど」
「しりょうのきしを連れて打神鞭を持った黒こなさんには言われたくない!」
『ダレがシリョウのキシだ』
時は日本の各地にガイア連合の支部や派出所がポツポツ建てられた頃、
舞台は紅葉がちらつき始めた星霊神社・修行場異界の浅層入口、
軽口を交わすのは、線の細い青年と、腰まで届く黒髪の小柄な少女。
彼や彼女のような覚醒者、或いは悪魔にしか聞き取れない、
念話という手段で発せられた低く深く渋い声が、アホウがと零していた。
だとしても、人なつこさとチャランポランっぷりを悪魔合体させたようなソプラノは、
お構いなしに、ぷっくりした口許から、太平楽に発せられたわけであったのだが。
「ところでさー
そのちょろいさんを落ち着かせてくんないかな?
あたしまだキミにカノジョさんお迎えおめでとーも言えてないんだけど」
「あー、うん」
苦笑する青年に名を呼ばれた長い巻き毛の少女が、まるで毛を逆立てたネコのように威嚇する。
そう、ふしゃー!! と。
ムスメ、せめてニンゲンのコトバをハナしたらどうだ、とのバリトンボイスが届いたからか、
軽い咳ばらいに続いた高めの甘い声は、警戒の色に満ちてはいたものの、
発した当人の容姿に似合わず、流暢な日本語の内容だった。
……まあ、青年の左腕を、それぞれが人の頭部ほどもある豊かなバストに挟み込んだ上で、
しっかりと抱きしめながらの発言だったのはご愛嬌、と言ったところだろうか。
「
「知ってる」
「シシー、落ち着いて、このメガネっ
「……泥棒猫、ではありませんの?」
どこから覚えて来たんだそんな言葉、
とテノールでボヤく、右目が前髪に隠れ気味な、線の細い青年に、
知識だけはありますもの、使い所はともかく、と返す、金髪の美少女。
泣きぼくろがある垂れ目の上から野暮ったい黒縁眼鏡を掛け、
黒髪を腰まで伸ばした女子小学生にしか見えない容姿ながら、
おどけつつもくたびれた風情がにじみ出た、こちらも相当に見目の良い少女が口許を歪めて、
「ないない、そもそもあたし地元にカレシいるもん」と、五指を伸ばした右手の甲側を掲げる。
疑わしげに
その薬指に輝くマーブル模様をした緑色の宝石を孕んだ、華奢なシルバーの指輪だった。
ダメ押しに真新しいスマートフォン……いや、この世界においては、
ガイアフォンと呼ばれている個人用通信端末が差し出され、
そこにはそれを差し出した少女が、前髪に目元が隠れた長身の少年に、
安心しきった笑顔で抱きついている、待ち受け画像が表示されていた。
画面に映る少年の右手薬指に、目の前の少女と同じデザインの指輪が嵌っているのを視認して、
桜色の唇から、ため息と唸り声のあいのこが、警戒の色とともに抜けていく。
明らかにやわらかくなった声音が紡いだのは、ほのかに不満をいだいた問いかけであった。
「お相手の方と離れてしまって、寂しくなられたりはしませんの? 何故おひとりでこちらに?」
「まーねえ、でも、ここって、
あたしやちょろ…シシーさんのご主人サマみたいな、
──それに、声を聞きたかったら、いつでもこれを使えば話はできるし。
飄々とのたまってそう結んだ黒髪の少女に『シシーさん』は、
しばし考え込むような唸り声を漏らして、曰く。
「便利ですのね……でも、
マスターと常々身体を重ねるか、せめて手をつないでいるかしていたいですわ」
「まーそーゆーのもわかるよ……てかあたしもだぁりんとそうしていたいし、ねえ」
「ですわよね!」
黒縁眼鏡越しに黒曜石が罅割れたような色の目と、芳香剤が零れたような色の目が、
湿度というか粘度が高い嗤いに歪んで、おのれの
花咲くようなというにはだらしなく綻んだ自分の従者と、年下の知人・
かたや左の口角にほくろがある桜色の、かたやネコのそれのようにぷっくりした口許を見比べて、
「どっちもサキュバスにしか見えない……」
『カタホウはおマエのオンナだろうが』
──ウレしいのがスけてミえるぞ、アホウめ。
──や、そりゃ僕にだけこんなこと言って寄り添ってくれる、理想の美少女ですしおすし。
ノーテンキなノロケを聞かされ、クソっ、オレのミのマワりにいるヤツはこんなのばかりか、と、
長袖のシャツとズボンの上から胸甲を纏い、手は鉄片を縫い付けた革手袋、足は半長靴で固め、
アガシオン・スパルトイモデルのヒコザは、呆れ果てた念話を
何せ、彼の虚ろな眼窩が向けられた先では、端的に言うと、モヤシ小僧と金ピカなメスの駄犬が、
普段の自分の主とその恋人よろしく、公共の場で平然と乳繰り合っていくさりやがっていたので。
ふたりともヒトマエでクチをスいアおうとするな、
アルジもウラヤましそうにユビワをイジってニヤニヤするんじゃあない。
念話による彼のボヤきに応えたのは、意外なことに、
主人にしなだれかかってムダにデカいバストを薄い胸板に押しつけて、
キスをする5秒前と言わんばかりだった、金ピカな駄犬こと、新米嫁シキガミのシシーであった。
「ゆびわ?」
「そそ、あたしとだぁりんと、お揃いの指輪ね」
伽奈が口にした台詞を最後に、その場にしばしの沈黙が訪れた。
天使が通ると表現しなかったのは、
伊緒も伽奈も、ここがメガテン世界であると認識していたからである。
……天使が通った? よし殺せ、或いは捕らえて『加工』して使い潰せ。
そういう声が
会話を再開させたのは、小首を傾げた伽奈であった。
「ねー矢作くん、
「……実は、先立つものが心許ないというか、その」
──スキルカードガチャひいて、シシーの服買ったら、ね?
口ごもる伊緒に、ヒコザは再度肩を竦め、シシーは不満を湛えた半眼になりつつも消沈する。
何せ、『シシーの服』の内訳は、6割が【盛るペコ】体型に合わせた特注品の女性用下着で、
3割が人前で着るには憚られるデザインのシロモノ、残り1割は普段使いの私服と、
今彼女が着ている、スカート部分の左右に大胆なスリットが入ったシスター服めいた造作な、
嫁シキガミの異界探索用にと各種耐性を付与された、紺色の長袖ワンピースだったのだから。
……今日のシシーに着せたのが、時期を同じくして購入した、これまた各種耐性付与済みな、
少し動くだけで下着が見えそうな、マイクロ丈の黒と白のエプロンドレスでなかったのは、
伊緒のなけなしの羞恥心と自制心の為せる
いずれにせよ、伊緒の財布からエクソダスした衣装代の大半は、それら2着が占めていたわけで。
手持ちの可処分所得ならぬ可処分マッカの大半を、
彼女のそれに注ぎ込んだのは控えめに言って莫迦の所業であるが、
理想の恋人としての嫁シキガミをお迎えしたての『俺ら』には、ありがちな莫迦であろうか。
その辺りの事情に思い至り、『パートナーとお揃いのペアリング』を、
羨望の視線で見つめてくるシシーの潤んだ瑠璃色の瞳を見返し、
伽奈は*1「しょうがねぇーなぁー」と言いたげなため息をついた。
「じゃあさ、指輪代の為にもいっしょに潜ろ、シシーさんも連れてさ」
「よろしくお願いします!」
鼻を鳴らすような色を帯びたヒコザの念話と、
ハッとしたかのように発せられたシシーが
その場にいた4人は、揃って異界へと足を踏み入れた。
「ジャージにミニスカの小学生、しりょうのきし、
ヘンテコヘルメットの作業員、テレビゲームに出てきそうな金髪おっぱいシスター、
そんなパーティーによるダンジョンアタックって、これなんてネット小説?」
「シるか」
「とりあえず僕は読まないかな……」
「テレビゲーム? ネット小説?」
肥大化した教鞭にも見える白い三段警棒型の武器シキガミを右手に伽奈が叩いた軽口に、
古めかしい剣と盾と胸甲を装備した骸骨型の使い魔がそっけなく返し。
右肩に金属バットを
イルカを模した頭頂部の飾りは据え置きなドルフィンヘルムを被り、
物理及びいくつかの魔法耐性を持たせた、作業着じみた霊装姿の伊緒と、
左手に小さく華奢な造りのメイスをぶら下げた、
スリットシスター姿のシシーが、それぞれ苦笑いを浮かべ、或いは首を
さっそくと言っていいものか、どこか嘲笑うような気配を漂わせた、悪魔の金切り声を耳にして。
4人はめいめいの得物を構え、迎撃の準備をしたのだった。
しばし時計の針が進み……もとい、シシーが、ヒコザの見様見真似でメイスを振るい。
出くわした悪魔を、星霊神社の神主製シキガミ特有の物理耐性任せに、
或いは霊装の耐性による正面突破で、ゴリ押しで撲殺してまわるか。
伊緒が前衛2名の背後からアギやムドを放ち、悪魔を滅ぼすか。
はたまた伽奈が武器シキガミを振るって生じさせたガルで、悪魔を両断するか。
そんな道行きが1時間余り続いただろうか。
洞窟を模したエリアにおいて、シシーが唐突に駆け出し、メイスを振りかぶった。
澄んだ絶叫、異界の空気を引き裂きながら振り下ろされる金属製の
ようやく追いついた伊緒の視線の先では、地霊コボルトのものとおぼしき、
赤茶けた毛皮に覆われた後頭部に、シシーのメイスがめり込まんとし。
血飛沫をあげるかと思われた唐竹割りの一撃は、すんでのところで虚しく空を切り、
咎める色を帯びつつも、鈴を転がすような声が、その場に居た者たちの鼓膜を揺らした。
「っと、なんなんスかいきなり」
振り向きながら発せられたのは、声音に似合わず伝法ぶって崩れた敬語もどき。
愛らしく丸みを帯びた鼻面と立てられた耳、ツヤツヤした黒い鼻と瞳、白い牙。
桃色の舌と伸びた口蓋が紡いだ、聞き覚えのある高く甘い声に、
ヒコザは肩を竦め、伽奈は苦笑いして頬を掻き、伊緒は慌てて声を張り上げた。
「ごめん豆柴ニキ! シシー! ストップ!!」
「お、黒川さんと、ヒコザさんに」
しばしの沈黙の後、「すんません、名前が思い出せなくて」と呑気に頭を下げる、
自分より頭ひとつほど小柄な獣頭人身の姿に向かって、伊緒は半ば動転しながら声を張り上げた。
何せ、視線の先では、
いとしの嫁シキガミが、いつの間にやらメイスを取り落とした挙げ句、
捉えられた手首を背に回された状態で、正座させられるような体勢で拘束されていたので。
「矢作! 矢作伊緒! 掲示板では【舶来】って名乗ってる!」
「ふぇ? 【洋ピン】じゃなかったの?」
「それは皆がそう呼んでるだけ!」
「でしたでした、舶来さん、でしたっけね。
すんません、嫁さんを取り抑えちまって」
──離しますぜ、でも殴らねえでくださいな、金髪さん。
ほのかに苦笑する気配とともに、体毛に覆われた小さな手が、戒めを解き。
うずくまったままのシシーが、悔しさと痛みに涙ぐみながら喚き散らした。
「キィイイイイ! 当たりませんでしたわぁー!! ……あら? あのコボルトはどちらに?」
メイスを拾い上げながらきょろきょろと周囲を見るシシーの瑠璃色の瞳に映るのは、
いとしのマスター、その知人らしい小さな少女とその従者、
そしてやや長めの髪も、長い睫毛に縁取られた瞳も、
そのどちらもが濡れ羽色をした、165cmの自分より
それにしては、初対面の時のカナさんに感じたような、
不安を
おれがそのコボルトなんスと、苦笑を深めながら発せられたソプラノを耳にして、
シシーはクエスチョンマークで頭をいっぱいにした。
そんな彼女をよそに、平謝りの伊緒と、
笑って謝罪を受け入れる、防弾ベストとカーゴパンツ姿の小柄な人物に、
「ごめんで済んだらケーサツっちゅーんは要らんのとちゃうんかー?」
と、地獄の底から響くようなアルトが発せられ、
伽奈が「うわでた」と口にして「やめろアルジ」とヒコザがたしなめ、
シシーが恐怖と謝罪を覚えるまで、あと5秒。
それから、金髪の『先達』を侍らせた、甘い声で話す黒髪と矮躯の持ち主が、
伊緒と性別を同じくすると知ったシシーは、
素っ頓狂な声を上げてしまって「そない驚かんでもええやないかい」
と、ヘドロが溜まったような色のジト目で睨まれたそうな、どっとはらい。