転生者と、シキガミと 作:ふなぐち又兵衛
それは半終末の足音も未だ遠い休日の、時計の短針がXを指した頃のことだった。
軽快なインターホンの呼び出し音が、学生向けの賃貸アパートの一室に響く。
爽やかに冷えた千葉県の片隅の空気づたいに、鼓膜を震わせる音色を聞き取って、
今日も今日とて、朝から
「あ、やべ」
この上なく苦々しい表情を、右目が半ば前髪に隠れた細面に浮かべながら、
色も匂いもミルクめいた人頭大の双丘から顔を上げて、むくりと肉の薄い身体を起こした。
精を今朝から10発余りも吐き出してなお硬いままの、やや慎ましいサイズのペニスが、
濡れそぼった女の孔からあふれる欲望の残骸とともに、にゅるりとまろび出たせいで、
せつなげな快い悲鳴を、ベッドに組み敷いていた最愛のひとの唇から漏らさせながら。
「
「ごめんシシー、ハマお願い」
ここ数時間ばかり、己が半身と堪能していた悦楽の交換と共有をふいに打ち切られ、
濃い金色の眉毛と長いまつ毛が生え揃った垂れ気味の目つきで「
と語りながらも、左の口許にほくろのある桜色の唇は、ソプラノで【ハマ】と紡ぎ、
ふたりの五体に絡みついていた体液と、狭い寝室に満ちていた淫臭をそぎ落とした。
屍鬼や悪霊に分類される悪魔さえも祓い清める、破魔魔法の盛大な無駄遣いである。
それが不満をさらに煽ったか、瑠璃色の瞳が、まるで芳香剤が零れたような色に濁る。
再び響いたインターホンの音色に、口許をはしたなくもへの字にひん曲げたシシーは、
枕元に畳んでいた、瞳と色を同じくするランジェリーを身に着けながら伊緒に訊ねた。
「どちら様ですの? この近くに星霊神社に来られる方は住んでおられませんわよね?」
「僕の母さん」
ここを掃除に来たんだと続けて、ジーンズを穿いてパーカーを羽織った伊緒は、
下着姿のままのシシーの頭部とお尻に、ネコの耳と尾が生えているような気分になった。
普段は愛らしく垂れ気味の目がまんまるに見開かれているのだから、
ネコ耳はぺたんと倒され、ピンと直立した尾はブラシめいて膨らんでいるに違いない。
おかあ、さま。
その5文字を吐いた途端、シシーは猛然と再起動して灰色のニットワンピースを頭から被り。
金色の巻き毛を手早く手ぐしで整えてから、ハッとしたように眉尻を下げた。
伊緒に、今度は眉尻と同じく垂れ下がった、レトリバーの耳と尾を幻視させながら。
「どうしましょう、何の準備もできてませんわ」
「いーのいーの、なるようになるさ」
しょんぼりした嫁シキガミにほんのり欲情を掻き立てられたものの、
それどころじゃねーや、かーさんにシシーをどーごまかそーか、
だめだわなーんもおもいつかねーやあっはっはー……どうせいと、
などとヤケクソになった焦りともども飲み下して、
伊緒は寝室から3歩で届く玄関の扉のカギを、硬質な音とともに解錠してドアノブを回した。
「おはよー、遅いわよ伊緒」
「ごめん、おはよー母さん」
逆光に順応したシシーの瞳に映ったのは、一房のアホ毛を逆立てて丸メガネをかけた、
秋物の薄手のコートの下に、落ち着いた色合いのセーターとデニムパンツを着込んだ、
三十路くらいに見える、自分よりやや小柄な、ブラウンのショートボブの女性だった。
伊緒の、マスターの、おかあさま。
なるほど、少し小ぶりな口許の辺りなんて、伊緒とよく似ているような。
正気に返ったシシーが瑠璃色を取り戻した瞳で、まじまじと対面の女性を観察していると。
玄関の三和土に脱いだスニーカーをお行儀よく揃えて勝手知ったると言わんばかりに、
下駄箱の上段から取り出した、来客用のスリッパを履いた彼女が。
今更ながらに、寝室の入口から顔を覗かせたシシーに気がついたらしく。
しばし、バツが悪そうな伊緒の顔と、不安に満ちたシシーの顔を見比べていたのだが。
やがて、彼女はこわごわと、息子に向けて、沈んだ声音で問いを投げかけた。
「伊緒、誰、このコは」
「シシー、僕の、カノジョ」
つまですわ。
シシーはすんでのところでその5文字を呑み込んだ。
親愛なる先達たちが、自分と同じ立場に立った時にそうしてきたように、
愛すべき後進たちも、きっとそうするであろうからと。
さて、腹を痛めてこの世に送り出してからの20年、
とんと生身の異性というものに縁がなかった我が子から、
テレビで放映される古いハリウッド映画の女優や、
ワイドショーでたまに見かけた海外の王室の姫君も及ばぬ美貌と、
人間の頭部大のバストを兼ね備えた
あまつさえ対面でニットワンピを纏ったその娘に、深々と頭を下げられた矢作
「え、え、え、え……いお、あんたの、かの、じょ?」
「うん」
「お、お初にお目にかかります、シシー…コットン、ですわ、お
伊緒…さん、とは、その……」
二世の、いえ、永劫の契りを結ぶ前提で、おつきあいさせていただいておりますの。
シシーが偽名ならぬ偽姓を、欲望ダダ漏れの本音とともに口にして、
失笑した伊緒が「永劫ってあーた」とツッコむのを聞き流しながら、
声なき叫びとともに、赤熱融解した表情を、繊手で隠したところで。
44年生きてきたこれまでの中で、最大音量となる絶叫をあげたのだった。
「……母さん、うるさい」
伊緒は耳を手で抑えつつ、ペンキが掠れたような色の目で今世の母を睨んだ。
あとで眠気覚ましや痛み止め代わりに常備している、
星霊神社に集った転生者たちが生成した、イワクラの水を服用することを決めながら。
「だって、だって、だって……!!」
「あの、お義母様?」
「あっはいなんでしょう!?」
「お義母様、深呼吸、深呼吸ですわ。
鼻から吸って、吸って、止めて、口から全部、吐いて、吐ききって、
鼻から吸って、口から吐いてを、落ち着くまで繰り返してくださいまし」
「…………ッッ、はああああああ……ッ、ふーんッ、はああああああ…………」
「何この茶番」
息子の薄情なジト目に、伊与は丸メガネ越しに剣呑な視線をブチ刺した。
が、効果はイマイチである。
何せ、幼馴染である夫からも、お互い物心がついた頃からずーっと、
「にらめっこするタヌキ」などと称されたほどの、柔和な目つきだった故に。
誰がタヌキじゃアホンダラァ。
おどれはそのタヌキに土下座してオトコになったんやないかいゴラァ。
慣れるまでホンマ痛かったねんぞダラァ。
……慣れてから? 7日に6日は発情期の乳牛と種馬でしたわねオホホホホホホ。
腹立たしい記憶を思い出させた咎で、
今夜「も」夫を寝かせない事を固く決意して、
伊与はあらためて、目を眇めた伊緒と、自分の背をさすってくれている、シシーを見比べる。
その途端、彼女はモヤシとゴールデンレトリバーを連想した。
息子の白さ細さと、息子の恋人を名乗る外人さんのボリューミーな巻き毛と体型が悪い。
……にしてもほんっと顔いいわねこのコ、見た目だけでご飯食べていけそうじゃない。
いいえ、見た目だけじゃないわ、丁寧だし、優しいし。
瑠璃色の瞳を丸メガネ越しに覗き込むと、垂れ気味な目つきがほにゃりと弧を描いたので。
伊与もまた、大きく高鳴る胸を抑えつつ、困ったように微笑みを返すことしかできなかった。
「落ち着かれましたか、お義母様?」
「……ごめん、もう少しお願いでき…る?」
「はい♪」
「シシー」
「伊緒、伊緒のお母様なら、
「何この健気なコ!」と伊与がまたしても胸を抑える一方で、
「そりゃシシーは
イヤ待てよ? シシーの親って……もしかしなくても、ショタおじじゃね?
詮無いことを考えてジト目を伏せた伊緒に、ようやくまともに会話ができるようになった伊与は、
シシーに礼を言うのもそこそこに、馬鹿息子に掴みかからんばかりに問いただした。
「伊緒? 一から全部ハッキリ教えてちょうだい。
ホントにこの……シシーさんとは」
「死でさえも分かつことのできない、未来永劫寄り添いともに歩むパートナーですわ♪
……ですわよね伊緒、そうだよと、シシーは僕の女だと、
お義母様の目を見て言ってくださいまし……いいえ、
「シシー、お願い、落ち着いて、ぼかぁそういう恥ずかしい宣言を親同伴でしたくないんだ」
「あら、ふたりきりでなら、言ってくださいますの?」
眼前で繰り広げられる、息子と外人さんの痴話喧嘩未満に、伊与はたまらず噴き出した。
「何よ、ずいぶんと愛されてるじゃないのこのこの♪」
「はい♪
「あらまあ……ところで、シシーさん、でいいのかしら?
あなたは、どういう経緯で、うちの息子と知り合いになられたの?」
「それは「夏季休暇の時に参加したオフ会で!
そこで紹介されたバイト先も一緒だったから!
……まあ、そこから、ズルズルと……」……ですわね」
「へー……で、シシーさん? 伊緒のどこが気に入ってくれたの?」
「
「あらやだ♪ ……まだ3、4ヶ月でこんなベッタリになるなんて……なんだか若い頃の私とあの人みたいだわ、遺伝かしら?」
「聞こえてるよ母さん、息子の前でそういうノロケ話はやめてくれない?」
「ゴメンねー?」「いいえ、
「勘弁してよお!」
ちなみに、先程の伊緒の発言を副音声込みで再現すると、
「大学の夏季休暇の時に参加した、山梨県の星霊神社での、転生者同士のオフ会で」
「どうにか覚醒できたから、ショタおじに嫁シキガミを造ってもらって」
「お迎えした嫁シキガミがこのシシーで、星霊神社の異界の悪魔の間引きや、
ガイア連合の方から紹介されたというか回された、
地方の霊障や発生した異界のトラブルを解決するというバイトも、私生活も」
「この数ヶ月間、ずっと一緒だったから」
……となる。
ちなみに、伊緒に発言を割り込まれたシシーが、
この数ヶ月間、異界で伊緒を悪魔の攻撃から護ったり、逆に援護射撃してもらったり。
異界や伊緒が大学に向かわない日は、爛れた日常『性』活を送ってきたことを回想して。
お行儀の良い微笑みの裏で発情していたのを知るのは、本人だけであり。
ひとしきり伊与をもてなして、今度は伊緒とふたりで、
実家の父親にも挨拶に行くと約束を取り付け、彼女が帰ってから。
食器の洗い物も、昨晩のうちに済ませて干していた洗濯物の取り込みもそこそこに、
大儀そうに広くもない居間兼食堂の椅子に腰掛けて、食卓に突っ伏していた伊緒を。
前衛型嫁シキガミの膂力に物を言わせて、
寝室に引きずり込んで、パーカーとジーンズを下着ごとひん剥いて。
豪快に脱ぎ捨てたエプロンとニットワンピースと、その下のランジェリーばかりは、
伊緒の衣服ともども丁寧に畳んで、寝室の衣装ケースの上にそっと安置して。
蒼い残光を引かんばかりのケダモノの目で射竦めた全裸の伊緒を、
ベッドの上に押し倒して、安物のマットレスのスプリングと、床を軋ませて。
「お義母様が来られるまでの続きをいたしましょう、伊緒?」
と告げて、引きつった半笑いの伊緒の腰にまたがり、後ろ手に回した右手で、
伊緒の脚の間に鎮座する、ウズラの卵大の、双子の宝玉をマッサージしてやり。
無節操にいきり立った小ぶりのウインナーに、流れるように右手を添えて、
照準を合わせた、赤みがやや強いサーモンピンクの、潤いを湛えた秘貝にご招待。
もぞもぞと腰の位置の微調整を済ませて、伊緒の手を取り胸元に押しつけて。
彼の親指の腹が、血の気を帯びた、大きめの先端をくすぐってくれるのを確認すると。
立派とは口が裂けても言えないが、健気に甘く震えてくれる、熱く硬い伊緒の分身を、
濡れそぼった人造の肉襞で噛みしめながら、シシーはだらしなく蕩けた笑みを浮かべたとさ。
それから。
或いは鞍上の競馬騎手めいた上下動、或いはベリーダンサーのような前後左右へのうねり、
はたまた、人造の産道に秘められた性感帯を、遮二無二未成熟な亀頭冠で刺激するような、
浅ましくもいとおしさを強く感じさせる、シシーの淫らな腰使いと、粘膜の蠕動の数々に。
巻き癖のついたブロンドのロングヘアが、右の谷間にほくろがある人頭大のバストとともに、
激しく甘く躍動し、自分の名を呼びながら、喘ぎと嬌声を垂れ流す
瑠璃色の瞳を覗き込み、差し出された繊手を握りしめ、シシーの名を叫びながら。
必死になって腰を突き上げ、込み上げて来る白く粘ついた灼熱の圧に耐えかねて。
仰け反るシシーの断末魔に合わせて、欲望の噴火に焼き尽くされて、ともに果てた。
やがて、絶頂の嬌声と痙攣が、左の大陰唇にほくろを備えた陰部の蠕動が止んで。
飛ばしていた意識が還って来たシシーが安心しきった表情でのしかかって来たので。
伊緒は華奢な肩と、野生動物のしなやかさを連想させる白い背中に両腕をまわした。
造り物のハズの心臓が、とくんとくんと脈打つのにあわせて、薄い掌が背を叩いた。
瑠璃色の瞳が閉ざされた瞼に隠れ、桃色の舌が唇を割って入って来るのを受けつつ、
伊緒の左手は、口づけたシシーの豪奢な金髪を、優しく
私がカオ転三次で読みたいもの=転生者と嫁シキガミが、転生者の今世の家族とドタバタ
それと、嫁シキガミでも現地民でも転生者でもいいから、
女のひとが上になるカタチでのイチャラブえっち、もだよなあ……。
そんな嗜好だからでしょうか、ヒロインが全員、メスカクエンになるのは。
それにしてもおっかしいなあ、曲がりなりにもこれの舞台はメガテン世界ぞ?
なのにこんなホームコメディ? 要素が強いのはなんでやねん。
そうは思いますものの、どうしてもそっち側に筆がすすむのです、お恥ずかしい限りで。
読んでくださってありがとうございました、またいつかお目にかかりたく思います。