2
何度も何度も身体を重ねた。
シライがエルテシアの部屋を訪れてどのくらい時間が経ったのだろう。ベッドのシーツにはシライの膣内から溢れ出た精液のシミが広がり、腰を打ち付け合うたびにぐちゅりと濁った水音がベッドからも響き渡る。
「っは……ぁあっ……!!」
今は正常位で絡み合うシライが達すれば、繋がった場所からは泡立った白濁が垂れ落ちる。
膣肉は収縮し、何度目かのオーガズムを迎える。エルテシアの手を握りしめたまま気をやるシライに力強く腰を打ち付けながら、エルテシアはシライにそっと耳打ちする。
「好きだぞ」
「――っ、ん……!!」
顔を熱くして、ますます媚肉の締め付けは強くなる。
囁きかけるエルテシアは、シライの返事を待つようにしばし沈黙を保つ――しかしシライは真っ赤な顔をうつむかせ、エルテシアに返事が出来ずにいた。
(だって、そんなことは――)
これほどの痴態を晒しておきながら、エルテシアは年頃の少女としての羞恥心を捨てきれずにいた。
絶えず腰をくねらせ、頬を染めながらも瞳に少女の輝きを残すシライの姿はたまらなく愛しい。エルテシアの腰使いのピッチは上がり、射精までの間隔は少しずつ短くなっている。
「っくふぅ……!!」
喘ぎを漏らすエルテシアは素早くシライの膣内からペニスを引き抜くと、シライの胸元に発射。
「あ……っ、あ、っあつい……」
滾るような白濁汁を胸で受け止めただけで秘所が疼いてしまうシライは、ぎゅっとエルテシアの手を握りしめる。
「好きだぞ、シライ」
「っ――」
繰り返される囁きに、シライの意識が溶けてゆく。
再び肉棒を突き入れるエルテシアの姿は発情しきった淫魔そのもの。スペルマがエルテシアの髪にまで飛べば黒髪は白銀に変わり、魔女らしかった黒衣は淫靡なピンクに染め上げられた。
「――」
そんなエルテシアが、再びシライの中に挿入ってくる。
(ああ――)
エルテシアの――淫魔の瞳が、目が、肉棒が、シライを捉えて離さない。
シライが最後まで持っていた、少女らしい羞恥心が深く繋がった場所から砕けていく。
「シライ」
呼びかけるエルテシアは顔を迫らせる。
機は熟した。エルテシアはシライともう一度唇を重ねると、これまで以上の強さでシライを穿つ。
何度も何度も身体を重ねてすでにシライの弱点は知り尽くしている。エルテシアの打突ひとつでシライは大きくのけぞり、触れ合う唇から呼気が漏れる。
(今なら――)
計らった通りのことが出来ると悟って、エルテシアは精液とともに淫魔の力を
解き放つ。
「っあ――ぁ、あ……!!」
――完全体となった淫魔の力を込めたスペルマが注ぎ込まれる衝撃に、シライの身体から力が抜けていく。
見開いた瞳が赤色に染まり、火照った肌を包むボディスーツはエルテシアとお揃いのピンク色に。さらにピンクの髪は白くなって、二人の白い髪はベッドの上で溶け合うようだ。
「……――っ……!!」
ビクンッと、シライの身体が大きく跳ねた。
うねり続けていた膣肉が妖しい痙攣を示す。頭から黒角を生やしたシライはここに来たばかりの時とはまったく違う様相を呈し、見た目だけでなく中身も変容していく。
「っ――、……」
エルテシアの唇に、シライの舌が触れた。
自らエルテシアを求めたシライの舌先は、これまでと比べてはるかに熟達した動きを見せる。淫魔であるエルテシアを絡め取ろうと蠢く舌先は淫猥そのもので、シライに舌を吸われながらもエルテシアは愉快そうに目を三日月型にする。
(――ふくくっ……!)
喉を鳴らして笑うエルテシアが望んだ通り、シライは心身ともに淫魔と成った。
ゆっくり唇を離せば、シライの口からは甘美なため息が漏れる。エルテシアを見つめる瞳に宿るのは情欲と同じくらい深い恋慕の念で、シライの精神が完全に淫魔となり、目の前にいるエルテシアを伴侶と思い込んでいることが分かった。
「ふくく……っ」
含み笑いを上げながらエルテシアがペニスを引き抜けば、シライは無念そうに眉をたわませる。
「ああ……っ……」
繰り返し行為に耽ったためか、シライの恥部はエルテシアの形に大きく広がっていた。
ボディスーツは変わらずシライの身体を覆っていて、膣洞のヒダをくっきりと浮き上がらせている。
「ふく……良い眺めだ」
微笑みながら、エルテシアはシライの秘所に視線を注ぐ。
黒からピンクに変色したボディスーツの表面はテラテラと輝き、それ自体がシライの膣粘膜のようだ。膣内は大量の精液で真っ白に濡れ、抜かないまま繰り返された交合によって撹拌されたスペルマは膣口で泡立ってすらいる。
「っは、んん……あ、そんなに見るなんて……」
遠慮ないエルテシアの視線を受けて、シライは恥ずかしそうに身体をくねらせる。
今のシライにとって、エルテシアは愛しい伴侶だ。彼女に身体を見られることに羞恥と激烈な歓びを覚えてしまうシライの膣穴は絶えずヒクついて、シライ自身の言葉とは裏腹に注目を集めようとして見える。
「さて」
抜き取ったサオを揺らして、エルテシアはベッドに座り込む。
剛直は今も凛と上向いたままだった。タイツに包まれたサオはエルテシア自身の白濁をべっとりとこびりつかせ、言葉にしがたい淫猥な香りを立ち上らせている。
「――あ……まだ、大きい……」
エルテシアの股間から目が離せないシライはうっとりと呟く。
衰える気配もない肉棒を見せつけるように脚を開くエルテシアのそば、シライの身体は自然と動く。ベッド近くの床に膝をついたシライが顔を上げるとエルテシアの陽物が目の前にあって、シライはその素晴らしいモノを前に溜息を漏らす。
「すごい……」
エルテシアと同じ淫魔となった今だからこそ、シライは彼女のことがこれまで以上に理解できる。
見れば見るほどエルテシアのモノは大きい。指が回りきらないほどの太さで、コレが付け根まで自分の中に入っていたことが不思議なくらいだ。仰ぎ見るうちにどんどん喉が渇いてきて、シライは自分でも気付かないうちに舌を伸ばしてしまう。
「ふくっ、愛いぞ」
そんなシライの姿に笑いながら絶妙に腰を引き、シライを焦らしてみせるエルテシア。
「ぁっ……あぁ、あっ……」
無念そうな溜息を漏らすシライは、舌先を動かして必死にサオに届かせようとする――そんなシライの頭をそっと撫でて、エルテシアはゆっくりと肉棒を顔に近付けてやる。
「ぁうんっ……!!」
シライはたまらず魔羅にしゃぶりつき、レロレロと大きく舌を動かし始めた。
エルテシアの肉茎にこびりついた精子を舐め取ると、栗の香に混ざってシライ自身の蜜液の味もした。ねっとりと濃厚なクリームを舐め取るだけでシライの頭は痺れ、エルテシアへの愛しさでいっぱいになってしまう。
「んぇうっ、へ……っ、んく、んんっ……!!」
太い幹の付け根から上へ向かって、懸命に舌を這わせるシライ。
やわらかな舌を巻き付けようにも、エルテシアの太幹ではそれも難しい。驚くほどの硬度を誇る幹を舐め上げるたびにシライの顔は発情して、幹は荒い吐息に包まれている。
「んく……っ、ふふ、上手だぞ」
自分の足元にうずくまり、口淫奉仕に努めるシライを見下ろしてエルテシアは囁く。
完全体の淫魔となった今、エルテシアの身体には驚くほどの精力が満ちていた。シライとの交わりの時以上に力を持った肉槍は舐め上げられるだけでビクンと反応し、先端から先走り汁を滲ませる。
「んぅう……っ」
先っぽから溢れた汁はエルテシアの亀頭を滑り落ちる。
雄棒を包むタイツは二人の体液に濡れて、もう一滴も吸収する余地はない。カリ高なペニスを転がり落ちたカウパーのしずくを乞い求めて舌を這い上がらせるシライは、冠状溝で先走りを捕らえることに成功した。
「んっ……! んく、ぁ――」
ピンク色の舌先で透明な粒を受け取り、こくんと飲み込む。
妖艶な美女のものとはいえ、カウパー汁は美味しいわけもないのに、シライはうっとりと目を細める――身も心も淫魔となり果てたシライからすれば、エルテシアの淫らな汁は何もかも好ましいものなのだ。
「ふく、美味しいのか?」
「ん……はい、美味しいです……んぅっ……」
笑みを含んでエルテシアが尋ねれば、シライはためらう素振りもなく頷く。
返事をしながらも、シライはチロチロと亀頭を舐めていた。思慕に満ちた瞳はじっとエルテシアを見上げていて、欲情の熱を帯びた眼差しはそれだけでエルテシアの情欲を煽る。
「はんっ……んぅ、んむぅっ……」
エルテシアを見つめながら、シライはひたすら口淫を繰り返す。
舌でカリ首を舐め回したシライは亀頭にたどり着くと、ためらいなく亀頭を咥えこんだ。
「んくぅ……っ」
敏感な先端部を責められ、思わず声を漏らすエルテシア。
わずかにのけぞったエルテシアの姿に、シライは先端部を含んだ口元を綻ばせる。愛しい伴侶が感じる姿はそれだけで幸福感をもたらし、シライは舌先でエルテシアの裏筋をくすぐり始める。
「ん……くふ、っふ……良いぞ、とても良いぞ……」
愛しそうに囁くエルテシアは、そっとシライの頭を撫でる。
真っ白な髪はサラサラしていて、頭の両側から突き出た黒い淫魔の角の存在感を引き立てる。淫魔そのものの姿になったシライの熱心なおしゃぶり姿にペニスを脈打たせながら、エルテシアはこんなことを訊いてみる。
「どうだ、あの屋敷の子と比べて大きいだろう?」
「っん……?」
突然の問いかけに、シライは小首を傾げる。
淫欲がくゆる眼差しに疑問の色がよぎる――質問の内容に引っかかったシライは、亀頭を舐めながら独りごちた。
「……あの屋敷の、子……?」
エルテシアの言う屋敷が何で、そこにいる子が誰を指しているのか、今のシライには分からない。
「――」
頬を染めつつも怪訝な表情を浮かべるシライを前に、エルテシアの胸は優越感で満たされる。
――初めてシライと邂逅したあの屋敷には、メイド服姿の少年がいた。ミシェルというらしい彼とシライの甘酸っぱい関係性は傍目にも理解できていたが――今のシライからは、彼との思い出がすっぽり抜け落ちているのだ。
「――くふっ……」
笑みは、嗜虐的な色合いすら帯びていた。
常人であれば壊れるほどの快楽をエルテシアから注がれて淫魔となったシライは、元のシライらしさを保ったまま、しかし過去の男のことは頭から失せてしまったのだ。
「ん、ぅ……? ぁう……ん……?」
これほど愉快なことはそうそうない、と唇を歪めるエルテシアの足元、ペニスに奉仕を続けるシライは不思議そうに彼女を見上げている。
「いや、何でもない」
軽く首を振って質問をなかったことにして、エルテシアはシライの頭を撫でる手に力を入れる。
ごく軽くシライの頭を掴むと、シライは自らエルテシアの股間に顔を沈めた。人並み外れた巨根を喉まで使って呑み込むシライは呼吸を荒くして、胸いっぱいにエルテシアの淫臭を吸い込んでいる。
「ふ――んんぅっ……! んむ、ぅふうっ……」
喉までペニスでいっぱいになって苦しいはずなのに、シライはこれまでにない充実感を覚えていた。
(すごい……こんなに満たされるなんて初めて――)
多幸感の裏で、物足りなかったセックスの記憶がよぎる。
(……?)
しかし、シライはそれがいつの何だったかはうまく思い出せなかった。
(物足りないことがあった気がするのに……? ――思い出せません……)
先ほどのエルテシアの問いかけのせいもあるのだろう、思い出せないことが奇妙に胸に引っかかる。
(――でも)
しかし、シライはそれ以上何か考えることはなく、幹に舌を這わせだす。
思い出せないことが何であれ、愛しいペニスに奉仕することの方がずっと大事だった。朧げながらも物足りなかったことだけはハッキリしているのだ、そんな記憶にこだわる意味はない。
「んくっ……!」
そう割り切って、シライは口淫のペースを上げた。
口いっぱいの肉竿に舌を這わせ、頬まで窄めて口腔粘膜全体で奉仕する。さらに頭を大きく振って口から男根を出し入れして、エルテシアの性感を高めてゆく。
「んふ……っ、ふ、んんっ、んぅ……っ!!」
口をめいっぱい開けて激しい挿抜を繰り返せば、口腔に溜まった唾液が唇の両端から垂れ落ちる。
唾液とカウパーに濡れたシライの口元からは、ジュプジュプと淫らな音が立っていた。淫猥な奉仕を続けることにシライは悦びすら覚えて、こなれた舌使いはエルテシアに快楽をもたらす。
「ふ、く……っあ、――ああっ……」
奉仕を受けるエルテシアの興奮の溜息が、シライをそれ以上に欲情させる。
床に座ってフェラチオを続けるシライの秘所は痛いほどに疼いていた。何度も注がれたエルテシアの淫熱は身体の奥底に残っていて、絶えずシライの快楽神経をかき乱す。
「んむぅ……っ、んふ、っふうぅ……」
頬を内側から膨らませて幹をしゃぶるたび、骨の髄まで痺れるような悦びが駆け抜ける。
淫魔となったシライの頭の中は淫らなことでいっぱいだ。ちゅうっと茎胴に吸い付くたびに跳ねる剛直が愛しくて、シライは持ちうる舌技の全てを使ってエルテシアに快楽をもたらす。
「ふ――ぅくっ……そろそろ、出すぞ……?」
「んっ……!」
エルテシアの言葉に、肉棒を頬張ったまま大きく頷くシライ。
すでにラストスパートはかけている。頬も喉も舌も使って魔羅全体を愛撫するシライを見つめるエルテシアは悩ましげな声を漏らしながら、口内に白い滾りを解き放った。
「くうっ……!!」
優越感と快楽、それ以外のあらゆる悦びが混ざった射精は最高のもの。
いつになく余裕のない表情になったエルテシアの腰が跳ね、ひっきりなしにシライの喉を突く。苦しいほどに抉られてもシライは瞳を炯々と輝かせたままで、シライは直接注ぎ込まれる白濁を受け止めている。
「んふ……っく、ん……っ、んん……――」
エルテシアの竿だけでいっぱいだった口腔にザーメンまで注がれて、頬は膨らんでしまっている。
ねっとりと濃厚な香りが口いっぱいに広がると、シライは興奮に目を潤ませる。モジモジと腰を揺らしながら白濁液を味わうシライは全身がすっかり敏感になっていて、乳首は触れられてもいないのに勃起して淫悦をもたらし続ける。
「――ふ、くぅうっ……」
これまでの性交渉よりずっと長く、大量の射精だった。
律動する剛直棒がようやく収まる頃には、シライの頬はこれ以上ないほど張りつめていた。
「……ふくく、可愛いぞ」
まるで小動物のように頬袋に精液を溜め込むシライを見下ろすエルテシアは、シライの口から肉槍を引っ張り出す。
無尽蔵に等しい精力のエルテシアだが、立て続けの行為に気は済んだ。硬さを残すイチモツをシライの口から抜き取ると、シライは魔羅との別れを惜しむようにキスをひとつ。
「んっ……」
唇と亀頭を結ぶ白い橋がぷつりと切れてから、シライはエルテシアを見上げた。
「――」
シライは唇を結んだままだ。
頬はわずかに膨らんで、エルテシアが吐き出したものがまだ口に残っているのだと分かる。口の中に精子を溜め込んだまま愛しいエルテシアをじっと見つめるシライの姿は健気そのもので、エルテシアはそっと彼女の頬に触れる。
「っん……」
宝石に触れるようなエルテシアの手つきにほのかに声を漏らすシライ。
「――」
膨らんだ頬を撫でるエルテシアは、シライの目を見て囁く。
「飲めるか?」
問いかけるエルテシアの声は真剣な色を帯びていた。
この行為はただの性的な交わり以上の意味を秘めている。シライがエルテシアに奉仕した一連の行為によって、エルテシアは眷属を作ることが出来るのだ。
「……」
エルテシアが吐き出したザーメンを飲み干せば、シライは正式にエルテシアの眷属となる。
――淫魔と化したシライにもそれは分かっている。眷属となることの意味を理解した上で、シライは微笑んで喉を動かす。
「……ん、っ……――」
ゆっくりと、エルテシアのスペルマを喉へ送り込む。
固形に思えるほどの濃厚汁を喉に送るためにシライは上を向いて、エルテシアに白い首をさらけ出す。ピンク色のスーツに包まれた首元が上下したかと思えば、シライはゆっくりと嚥下を始めた。
「ん……く、……ん……」
エルテシアの精子を味わいながら、少しずつ種汁を飲み下す。
わずかに漏れる声は確かな喜悦に染まっている。エルテシアの精液を飲み、眷属となることを心から受け入れたシライはほどなくして口の中のものを飲み干し、見せつけるようにエルテシアへ向けて口を開けた。
「ぇうっ……」
べえっと長く伸ばされた舌はツヤツヤとピンク色に輝いていて、どこにも白濁液は見当たらない。
「うむ……良いぞ」
エルテシアが満足そうに頷けば、儀式は完遂される。
――二人の髪は、服装は、この家で出会った時と同じものに戻った。全身を包んでいた淫靡な熱狂も失せて、今のシライとエルテシアには静かな満足感だけがあった。
「これで儀式は終わりだ」
告げるエルテシアはベッドから立ち上がると、傍らにあるテーブルセットに向かう。
テーブルには二人分のティーセットが置かれていた。このテーブルもティーセットも部屋に入った時にはなかったはず――しかし、エルテシアほどの者になれば、この程度の魔術は造作もないことなのだろう。
「座ると良い」
「は、はい……」
エルテシアに促され、シライは用意された椅子に腰掛ける。
シライの正面、エルテシアがティーポットを傾ければ熱々の紅茶がカップに注がれる。温められたカップから立ち上る香りは、度重なる情交に疲れ切った身体に心地よい。
「……いただきます」
呟いて、カップを傾けるシライ。
ふうふうと水面に息を吹きかけるシライを、エルテシアはじっと見つめている。
「……くふ」
深い交わりを経て、エルテシアが抱く気持ちはいよいよ確かなものとなった。
少しずつ紅茶を飲むシライがカップを置いたのを見計らって、エルテシアは姿勢を正す――目の前の老獪なる魔女の様子にシライも視線を上げ、つられて背筋を伸ばした。
「愛しいぞ、シライ」
告げるエルテシアの頬はほんのりと染まっていた。
「君のことが好きだ」
「あ……」
エルテシアの言葉に、シライの頬も赤くなる。
「いつまでもここにいると良い。一緒にここで過ごそう」
セックス中に囁かれたどんな睦言よりも甘い響きを帯びた言葉だった。
シライは時も忘れてエルテシアを見つめる。気品高い美貌のエルテシアは愛しそうな視線をシライに注いでいる。赤い顔を見ればエルテシアが本心からシライと共に暮らしたがっていることは明らかで、妖艶な美女が自分に懸想している事実がシライをますます赤くする。
「わ……私、は――」
予想もしなかった言葉に戸惑ってシライは言葉を切る。
心も身体も淫魔になり、エルテシアの眷属にもなった。想いを寄せるエルテシアの誘いを断る理由はどこにもない――そう思うのに、シライは首を横に振る。
「――嬉しいです。とても、嬉しいんです」
そう言った上で、でも、と言葉を継いで。
「もうしばらくは、冒険者をやりたいんです」
「……。……そうか」
エルテシアはわずかに眉を下げるのみで、それ以上は何も言わない。
憂いを帯びたエルテシアの表情はそれだけで胸に迫るものがある――エルテシアの誘いを断った罪悪感が胸をよぎって、シライはそっとエルテシアの手を握る。
「でも、いつか……必ず、ここに戻ってきますから」
絶対です、と語気を強めて告げるシライに、エルテシアは表情を緩めて。
「そうか」
それだけ言うと、紅茶を残して立ち上がった。
3
――二人は手を繋いで住まいを出た。
「森を抜けるまでは一緒にいよう」
告げるエルテシアに、シライは静かに頷く。
出立の用意は済んでいた。冒険する先も決まっている。シライはこれからも旅を続けるだろう。
(でも、もうこれまでとは違う)
冒険するのは、淫魔であり、エルテシアの眷属となったシライ。
見える景色はきっとこれまでとは違うだろう――行く先で何があるかは分からないが、冒険が終わったあと、きっとシライはエルテシアの元へ帰るのだ。
――思いを馳せるうちに森を抜ける。
エルテシアの元を訪れるまでは長い道のりに感じていたのに、エルテシアと共に歩けば道程はすぐだった。森を抜けた先にはどこまでも続く草原があり、しばらく歩けば街々に行き着くだろう。
「……」
シライとエルテシアは立ち止まり、どちらからともなく向き合った。
「いつまでも待っている」
告げたのはエルテシアだった。
行為の時の熱情は過ぎ去り、今のエルテシアは静かな信頼をたたえるのみ。どれだけ時間が経とうとも、きっとシライは自分の元に戻ってくると信じる眼差しは凪いでいて、唇には優美な微笑みをたたえていた。
「はい」
エルテシアに頷いて、シライは彼女を見つめる。
見つめ合う二人の背中を押すように一陣の風が駆け抜けた――自然と二人は顔を寄せ合い、別れの口づけを交わす。
「――ん……」
とろけるような柔らかさの唇を重ねれば、どちらからともなく吐息が漏れる。
エルテシアの手はシライの頬を、シライの手はエルテシアの腰を抱いた。別れを惜しんで抱擁する二人の口づけは次第に深いものとなって、シライとエルテシアは互いの唇を貪りだす。
「んく……っふ……」
「ふ――ぅう、んっ……」
ぴちゃりと、互いの口腔で唾液が交わされる。
出入りする舌はとろけるような心地よさ。いつまでも終わらずにいて欲しいと願うほどに口づけは甘いのに、深く繋げた唇もいつしか離れてしまう。
「――ん……」
舌が抜き取られ、唇が離れる。
唾液の銀糸がシライとエルテシアを繋ぐも、それもやがて切れてしまう――ふつりと糸が切れたのをきっかけに、シライはエルテシアに背を向けた。
「待っているぞ」
「はい」
短い言葉を交わして、シライは草原へと進む。
――晴れた空の下を進むシライの足取りは確かで。
きっと戻って来る時も同じような足取りなのだろうと思いながら、エルテシアはシライを見送るのだった。
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