※この作品はR-18です。

ファイアーエムブレム 娼俗の剣   作:どろまみれ

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3話 ベルン王国での日々

 

 

 小隊での任務も受け始め。

 ケイオスの、ベルンにおける学業の日々が本格的に始まった。

 

 軍学校において教えられるものは、基本的な兵役における体術に始まり。

 そこから各々、専門分野に分かれてゆくこととなる。

 

 剣槍斧か、弓か、騎兵か。

 武器の習熟がどうこうという訳ではなく、配置される部署が異なってくる。どの武器にも適性があるものは、装備品の重量増加を考慮した重装兵に配置される可能性が高いとケイオスは聞いていた。あまり理由に納得は出来なかったが、国の方針に意義を唱える程暇でもない。そういう物だと思っておくことにする。

 

 馬か、竜か。

 飼育・調教された飛竜を与えられるドラゴンナイトは、上級の兵士ではあるものの数が少ないという訳ではない。卵生である飛竜の育成および交配方法は既に確率されている。ドラゴンナイトの量産を管理しているのはむしろ、ベルン国内での反乱や野良兵士の離反による野盗の増加を防ぐためという側面が大きい。

 飛竜を与えられるのは名誉である、という題目で数を管理していると言って良いだろう。

 

 武か、魔道か。

 基本的に魔道の素養を持つ者は貴重であるためそちらを勧められるが、ベルンにはひとつ。「飼育された飛竜は魔法に対する抵抗力に乏しい」という理由が存在している。

 飛竜に搭乗する魔法兵が現存していないのは、このためだ。騎竜がどうしても魔法を嫌がってしまうらしい。空中で飛竜に振り落とされそうものなら人は死ぬ。騎乗者だけならまだしも、整列中に暴発でもして仲間を巻き込んでしまっては元も子もない。

 そのため、その辺りの兵数を見ながら勧めているようだった。

 

 魔法か、杖か。

 魔法は魔道書を扱い、魔導は基本的に杖を扱うものだ。この2つへの適性を分けるための大きな項目は、個人がもつ魔力の限界値である。

 大きな魔力を扱えるものほど魔道への適性が増してゆく。とはいえ持て余してしまう訳でもなく、治療の術を扱える者はその才覚を活かした衛生兵に配置される。

 

 これら無数の道の中から、ケイオスは迷わず「杖」の道を選んだ。

 

 理由は幾つもある。

 元よりケイオスの望んだ魔導(・・)に繋がる道がこれら杖を扱う職(クラス)であり。

 師であるニイメに曰く、ケイオスの才覚が鋭い分野は魔道を逸れた場所にあるもの……であり。

 またはもっと単純に、「後方配置にしては待遇が良い魔導兵」という立場が好きなこともあった。

 

 とはいえ体術や武器種を選ばなくてよいわけでもない。

 ケイオスはその辺り、自分に合った道を探しながら日々を過ごすことにする。

 

 決まり。折角だ。小隊の仲間や学友にも話を聞き、参考にするべきだろう。

 寮の……既にケイオス専用の書斎と化した空き部屋の椅子から、腰を上げる。共用通路に出ると掃除中のニノが顔を出し、「お出かけ?」と聞かれたので頷く。

 

「いってらっしゃ~い。夕ご飯は?」

 

「決めてねーな。うう~ん、食材はもうあるのか?」

 

「ううん。ケイオスがこっちで食べるなら、これから買いにいくよ」

 

「そうするか。今日はゲイルにもマークにも会うから、3人分で作ってくれるとありがてーな」

 

「りょーかーい!」

 

 びしっと敬礼もどきをして見送ってくれたニノから視線を外して。

 過ぎ去ろうとしている春の中。ケイオスは変わらず峻厳なベルンの街並みへと繰り出した。

 

 

 

 

 ●

 

 

”……ケイオスは、神官になるつもりなの?”

 

 初めに会いに行ったのは、軍師見習いであるマーク。

 彼はいつも通りの場所……ベルンの戦史1000年分が書き起こされ貯蔵されている、図書館の隅の埃を被った区画を陣取っていたので探すのは簡単だった。

 尋ねられている。神官になるつもりなのか、と。

 

「いいや。オレは魔導を極めたいだけで、神職に就きたいわけじゃあねーからな。マークだって、ベルンの士官になりたくてここに来たわけじゃねーんだろ?」

 

”そうだね。僕は軍師としての最低限の知識を持ったなら、世界を旅するという約束をしているんだ。放浪の軍師見習いとしてね”

 

 マークはいつもの通りか細い声で。しかしながら強い意志を感じる言葉で、そう語る。

 積んでいた本を数冊崩して広げて。その表紙を指でなぞるように伝って。

 

”でも……このエレブ大陸は、人を「局所的な視点で動かす戦法戦術」の知識に乏しいんだよ。僕がベルンを出立点に選んだのは、この部分が理由だね”

 

「それはオレも思ったよ。ないわけじゃあねーんだけどな……なんでだ?」

 

”ふふ。単純だよ。人の個の力が強くって……それが戦略(・・)を大きく支配しちゃうんだ。この世界は。そういう多を支配的・限局的に扱うための視点が必要だったのは、歴史的な観点から見ると1000年前。人と竜の戦いの時だけだったみたいだね”

 

 マークはとても楽しそうに話す。

 いつかロイドとも話した内容だが……単純だ。人は、とても簡単に死ぬ。他を殺すことが出来る。それがたとえ英雄だったとしても、普通は(・・・)、1000年も過ぎれば老いさらばえて死ぬ。

 つまりは「とても強い個がいるのにまとまっていると魔法や弓や火で殺される可能性があるので、各々が分散しながら動いた方が、少なくともこの世界では強い」と判断されている。

 窮極的に先鋭された表現を用いるならば。軍師という役職は、必要(ぜったい)とされていない世界なのである。

 

「でも、マークはそれを指揮する道を極めたいんだろ? 変わってるっていうか、狭い路行きたい症候群というか」

 

”あはは! かもね! ……でも、ケイオスも面白いって思ってくれているよね?”

 

「だな! おもれー!!」

 

 互いに笑い声をあげようとして、マークの元へ蔵書を持って来てくれた図書館司書の顔が見えて。ここが曲がりなりにも王都の図書館であることを思い出し、取りやめた。

 

 ケイオスは、マークの才覚を恐ろしい(・・・・)とまでに評価している。いや。先日の蛮族討伐などでは表出し辛いが……例えば、規模を大きくして、それこそ人と竜との争い。国と国との争い。ゲリラ的に、高度に流動的な勝利の連続が必要な。そういう大戦が繰り広げられた場合などには。

 

 今までは、人が上手く(・・・)出来ていなかっただけで。

 戦場を俯瞰して。局所的な駒(ユニット)の進軍と選択を行えて。兵站を途切れさせず。士気を保ち。能力を把握して。勝利条件を見据えて。敗北条件を回避して。軍の信頼を勝ち得て、導くことが出来て。

 そんな神の様な視点と感覚と才覚を持つ軍師が、本当に居たならば……。

 

 彼(マーク)という存在の有無が、争いの勝者と終局を決めるのではないか?

 

 それほどまでの、他になさ。この世界における異物感を感じているのだ。

 ベルンだけでなく他国でも冷遇されるであろう「軍師」という職が ―― 争いと殺し合いでのみ輝く才覚が。これから必要とされる未来が訪れなければ良いのだが。

 

 それでいて彼の持つ能力や感覚の一端だけでも、自分が吸収出来れば上々だろう。そんなことを考えながら、ケイオスは席を立った。

 聞きたいことは聞けた。次だ。図書館を後にするケイオスの背中へ向けて、マークが声だけを飛ばす。

 目線は、本と地図へ落とされたままだった。

 

”そうそう。君が欲している魔道だけれど……良かったね。目論見の通り、ベルンにはちゃんとあるみたい。名称はそれぞれ『バサーク』、『サイレス』、『スリープ』だ。杖(ロッド)と宝玉(オーブ)で扱うみたいだけど、戦術への影響力の低さからか現存数が少ない。『ハマーン』なんかとはまた違った意味での希少さだから、金銭は十分に有効とみえる。ベルンの兵団との相性の悪さを鑑みるに、保存と保管をしているのはこの国のエリミーヌ教団だろうと予測をするよ”

 

「おっ、どうも! 例の資金はそこに継ぎ込むことにするわ!」

 

 

 

 

 ●

 

 

 次なる小隊員は、練兵場で丁度よく王子の相手(・・・・・)を終えた所だった。

 

「おうゲイル。訓練中にごめんな? 王子もお疲れ様ッス」

 

「構わない。ただ……次からは、俺よりも先に王子に挨拶をすることだな」

 

「はは、気にしないでよゲイル。それにケイオスも。父上母上が居ない場所なら、そっちの対応の方が僕も楽だ」

 

 ふたりとも上裸の上から皮製の防具を付けた、鍛錬のための格好だ。

 場所は寮から最も近い、かつて寮生が使用していた訓練所。人が居なくて使用しやすいし警護もしやすい、とはゼフィール王子の談である。

 

 丁度休憩を入れるタイミングなようなので、ケイオスは率直に聞く。

 

「自分の兵種というか、体術の武器に悩んでまして。王子とゲイルは自分の武器をどうやって選んだんスか?」

 

「なるほど。……僕は王家に伝わる宝剣を扱うために、剣を選んだね。君の参考にはあまりならないだろうけど」

 

「……オレは騎兵の道を目指している。剣よりは槍。より長い得物の方が、馬上で扱うには便利だと考えた」

 

 それぞれしっかりとした考えがあるようだ。

 悩んだこちらを見てだろう。ゼフィールはいちど汗の垂れて来た前髪を手のひらでぬぐってから、ケイオスへ尋ねる。

 

「ケイオスは、魔導だったかな? ……つまりは魔法使いになるつもりはない、ということだと……僕は思っているのだけど」

 

「う~ん、そこは難しいとこなんスよね。自分の魔力の具合とか見ながら、どこまで手を出すか決めりゃあいいかなと思ってますが……どうも、武術の方は訓練次第で何とかなりそうなんで」

 

「ああ。つまりは『誰に師事するべきか』を悩んでいるということか」

 

「そうッスね」

 

 納得がいったと、ゼフィールとゲイルが頷いた。

 師事というと誇張であるが……軍に籍を置くからには、誰かの下に入らなければならない。

 ベルンと言う国の兵のトップである、三竜将。あるいはさらに区分けして、その下の軍団長や貴族の諸侯。

 どの下に属するか、というのは。結局は自らがどの兵種(クラス)になりたいのか、を決めるのとほぼ同義なのである。

 

 本来は兵の側に決める権利などないのだが、ケイオスらは幸運なことに有している。王族と言う後ろ盾を得たためだ。

 国外組は、少なくともゲイル以外は。軍学校を出て兵役を終えれば、ベルンと言う国を去るという進路も十分にある。国の内情などにもよるだろうが……後腐れがないほうが良い、という可能性すらあるのだ。

 

 そういう風に悩み続けていると、ゼフィールがぽんと手をうった。

 

「まぁでも、僕とゲイルは参考にならなかったにしてもだ。もうひとり。君たちの小隊には、頼りになる娘がいるじゃあないか」

 

「そうだな。王子の言う通り。魔道に悖るオレなどよりも、あのエトルリアの学徒の方が、お前の悩みには向いていることだろう」

 

 成る程な、とケイオスは頷く。

 その通りだ。折角もうひとり居るのだから、まずは聞いてみよう。

 即断即決。ケイオスが走り出してしまう前にと、ゼフィールが慌てた様に付け加えた。

 

「ベルン軍に席のあるうち、魔道なら君たちと同年の才媛・ブルーニャを。槍と斧なら僕たちの専属だから、マードックを紹介できる。母上もいっていたけれども、国内の縁なら僕を頼ってくれよ、ケイオス」

 

「どーーぉもーーーー!」

 

 そう言ってくれたゼフィールに手を振りながら。

 ケイオスは残るひとり、セシリアを探して修練場を駆け出て行った。

 

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