※この作品はR-18です。

ファイアーエムブレム 娼俗の剣   作:どろまみれ

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4話 エリミーヌ教

 

 学業の方針を定め、路は敷かれた。

 地盤を固めたケイオスは、いよいよ自らの目的へ向けた行動を開始する。

 

 足を運んだのは『エリミーヌ教団』。

 1000年前の八神将・エリミーヌの教えを今も守らんとする宗教団体の、ベルン王国支部であった……。

 

 

 エリミーヌ教団

 

 

 城下町の大通りを奥まで歩き、公園を抜けた場所に、エリミーヌ教の教会がある。

 エリミーヌ教は総本山をエトルリア王国に置く宗教である。支部とはいえ別国の文化を色濃くもった建築物は、ベルンの街並みから浮き出るようにその姿を現した。

 

 灰色の空がみえる開けた公園の中。整えられた緑の植物たちに囲まれながら。

 しかし奥には峻厳な山脈が見える。間違いなくベルン王国だなぁと、観光気分半分にどうでもよいことを考えながら、ケイオスは教会の奥。指定された場所へと向けて歩いて行った。

 

 木々の奥、目的の建物の入り口に人が居た。

 出迎えだ。くすんだ水色のローブ。禿頭。壮年の男はケイオスを認めると深く頭を下げた。男の名はヨーデル。今回ケイオスの要望に対応してくれた、エリミーヌ教の司祭である。

 

「こんにちは。ご足労いただきましてありがとうございます、ケイオス様」

 

「いえいえ。こっちこそ、急なお願いで申し訳ねーですヨーデルさん」

 

「本日は鑑定のほど、よろしくお願いいたします」

 

「いえいえいえいえ。こっちこそ、貴重な品を引き取りたいだなんてお願いを聞いてもらって申し訳ねーッス、ヨーデルさん」

 

 ふたりで頭をひとしきり下げ合った後。

 ヨーデルは柔和に微笑んで、では早速ゆきましょうと蔵の中へ案内してくれた。

 扉の取っ手をつかんで……バコンッ。

 

「お~……。丁寧な管理してもらってるッスね~」

 

 ケイオスの前に保管庫の光景が広がる。

 一面の棚に寝かされている杖。きちりと離して布に包まれた上で安置された宝玉。杖を痛めるような量のほこりもなく、教団がきちんと理解して保存をしてくれているのがうかがえる。

 

 端から端までずらっと。倉庫に安置されたこれらが全て、補助術の魔導杖。

 これらを鑑定という名目で引き取るのが、ケイオスが教会まで出向いてきた目的である。

 

 根回しそれ自体は難しいものではなかった。

 財力はもとより。セレーネ王妃の力を借りるにしても、武器よりは杖のほうが集めやすい。至極あっさり許可が降り、早々に引き取れることとなったのだ。

 

 ヨーデルは札の貼られた倉庫の鍵をケイオスへ手渡しながら、説明をくれる。

 

「回復術ではない杖は、軍の方への需要がありませんからねぇ。とはいえ魔導の用具は解体するにも手間がかかる。維持費だけがかさんでいる状況でしたので、正直に言って、引き取っていただけるのはとても助かるのです」

 

「でしょうねぇ。……そういえばベルンのエリミーヌ教会には現地の神官ばかりで、司祭は殆どいないと聞いてるんですが、こういった魔導の維持管理はヨーデルさんが?」

 

「えぇ。ただし。これら杖の管理は私が直接行っていますが、なにせ数が数なもので、全ての宝玉の術式確認まではしておりません。その点についてはご容赦を」

 

「ぜんっぜん問題ないっス。え~と……こっちが『バサーク』。こっちのが『スリープ』で?」

 

「あちらの棚が『サイレス』になります。手前の棚は『ワープ』ですが、こちらはまだ使いでがあるということでやや数は少ないでしょうかね……」

 

「ゆうて『ハマーン』よりはあるんでしょう?」

 

「はははは。『ハマーン』は現存する中では最も奇跡(・・)に近い魔導ではありますが、それゆえに、片手の指で数えられる程度しか管理されていませんからね。大陸全体でみても、何本が残っているのやら」

 

 ごそごそと引き取るための宝玉を選んでいるケイオスの横で、ヨーデルは確認を挟む。

 

「ケイオス様がお引き取りになられるのは、主に『バサーク』と『スリープ』と『サイレス』とお聞きしております。よろしいので?」

 

「うっす。ヨーデルさんも言ってたとおり『ワープ』とかは需要もあるって聞いてるんでサンプルぐらいで十分です。オレが研究したいのはそっち3つなんで、丁度いいス」

 

「なるほど……」

 

 運び出し物を示すための札を貼り終え、ケイオスは一旦手を止めた。

 司祭という立場の人物に尋ねられる折角の機会だ。ヨーデルに向き直って、尋ねる。

 

「教団としてはこういうの、簡単に手放しても良いものなんスか?」

 

 エリミーヌ教は、ベルンの国教というわけでもない。どちらかというと国の境なく ――「人と人が手を取り合い協力すること」や「竜とは恐ろしい生き物である」ことを教えとしている。

 勿論それらを説いたエリミーヌ本人は、1000年前に居なくなっている。今のエリミーヌ教の全てが国という境から解き放たれている、とまでは言わないが……。

 

「ベルン王国に特別に助力をしている、って受け取られたりはしないんスかね。こう、偏っているというか、上からそう見られるというか」

 

「えぇ。構いませんよ」

 

 そういう思惑を込めたケイオスの問いは、あっけらかんと返された。

 ヨーデルはふむ、と返答を選ぶような間を置いて顎に指を這わせる。

 

「そもそもこのベルンの地は……いえ。率直に言って、今のエリミーヌ教にとっては辺境と言って良べるような場所でしょう。かくいう私も、お恥ずかしながら。中央(エトルリア)の司祭どもの腐敗には付き合いきれず、ここベルンまで来ているわけでして」

 

「ほ~」

 

 ヨーデルが語る。

 エトルリアという国が斜陽に差し掛かっているのは当然(・・)として、貴族や政治が腐っていないはずはない。ならば、宗教も。いくらエリミーヌが神だとはいえ、今を執り仕切っている司祭は人間なのである。

 そこから逃げてきた、とヨーデルは言った。単純に権力争いに負けたともとれるが……少なくとも、それが本当であれば、敬虔な司祭なのは間違いない。

 

「進んでここへ赴任したいという人も少ないので、争いもありませんからね。武と力の国とはいえ、エリミーヌ様の教えを守る人々も大勢いらっしゃる。その信仰は本物です。王家の方も貴族の方も、エリミーヌ教を追い出すことなく、うまぁく立ち回って共存してくださっている。ベルン王国は、私にとってはありがたい場所ですよ」

 

 年齢を感じさせる皺をたたえながら、ヨーデルは微笑む。

 最大の宗教だからこそ。政治に付き従う者もいれば、ヨーデルのような考え方をする者もいる。

 しかしつまり、管理している杖を譲ったところで非難する人がそもそも居ない……ということだ。ケイオスにとってもありがたいこと。

 

「んでは、ありがたく引き取らせてもらいます。どーもです、ヨーデルさん」

 

「いえいえ。魔導の探求をしたいという学者さんが生まれることは、司祭という立場からしても喜ばしいことですからね」

 

「というと?」

 

「奇跡の御技というのは、決して生命回復法だけではないはずですから。今の光術は魔道とされているにしても……杖と宝玉、という経路を利用した法はもっと広まっていてよいと思うのですよ」

 

「ですね。オレもそう思ってるス」

 

 ケイオスは心底うなずく。違いは無数にあるだろう。

 

 自然魔法は精霊の力を励起する必要があり、究極的には才能を必要とする。それだけに引き出せる力も現象も大きく、攻撃として有用である。

 魔導は回路と出力の点で杖や宝玉の補助を受けられるため、精度が求められる術に長ける。傷を癒やしたり、射出点を遠くにするのが容易であったり……。

 

 ―― 複雑怪奇で手を出し辛い、人の心を操ったり。

 

 攻撃性能という点において優劣はあるが、利点は確かに異なっている。

 ケイオスにとっては。それら補助術のほうが……ずっとずっと、ずぅっと、魅力的に感じられるのだ。感じて、欲してやまないのだ。

 

 ケイオスは溢れそうになった涎(よだれ)を飲み込んで、腰を曲げ。

 『バサーク』の札が貼られた箱の中からひとつ、宝玉を選んで手に持った。

 

 掲げる。ヨーデルの前に突き出す。

 

「最後に一応、起動の確認だけしてさしてもらいます」

 

「えぇ。どうぞ」

 

 そしてケイオスは、ヨーデルに向けて、『バーサク』の宝玉を光らせた。

 

「……ぉ」

 

 司祭の男は、すぐさま目線を奪われた。

 怒りであったり。妬みであったり。喜びであったり。

 そういう感情をぐるっと1周した後。ヨーデルは。

 

「……が、ひ。いひ、いひひ」

 

 司祭の男は股間を盛り上げ、勃起していた。

 柔和だった顔を好色に歪ませ、腰をへこへこと前後させ、周囲に女を探し……今にもチンポをシコり出してもおかしくはない、狂いよう。

 

 人の中に存在する ―― 性欲を選んで暴走させる『狂化(バサーク)』。

 ケイオスがずっと求めていた魔導そのものである。

 

「やっぱり人の欲を励起させて暴走させる術……っていうのが『バサーク』の本質だよな。カナス兄で色々試した甲斐あって、同じ術式で再現できてよかったぜ~」

 

「フーッ、フーッ……!」

 

 ヨーデルは、既にヨーデルとは言い難い。

 勃起した性器をローブの下で主張させ、射精のことしか考えていないような者は、人間ですらありえない。

 

 そんな壮年の男を、獣を、ケイオスは指さして笑う。

 

「マァァァァンコォォォォ……! チンポォォォオォ~~~~~~ッッッ!!」

 

「ぎゃは、ぎゃはははははは!!! せ、聖職者が叫ぶ単語じゃねぇ~~~! うひ、うひひひひひぃ~ッッ!!」

 

 いい年した男が勃起し、卑猥な言葉を連呼しているだけで爆笑が止まらない。

 充足感(・・・)。安心感(・・・)。居るべき場所にいる、という満足感(・・・)。何より、ワクワク感。

 ケイオスは、それらを今、頬張り噛みしめ咀嚼している真っ最中。

 

 幼き頃から、ケイオスは自らの周囲に混沌を求めた。

 それは、ある時はまだ見ぬ魔道の地平であり。ある時は隣人が学ぶ古代の闇であり。

 またある時は ―― 人の内に残った最たる獣。性欲であった。

 

 兄に魔導を行使したあの日。ケイオスという人間は、世の中にこの上ない歓喜を見出した。

 伸ばされた手を振り払い。人の輪を乱し。汚泥をぶっかけぐちゃぐちゃにかき混ぜることに……至高の喜びを感じたのである。

 彼はバサークという『人の心を操る』術に、魔導にこそ、魅入られたのだ。

 

 ヨーデルのバカ面をみやる。どこぞの女でも思い浮かべているのだろう。

 妄想の中の女が豊満なのか薄いのか、年配なのか年若いのか。そんなことはどうでも良い。

 壮年の男が、体裁も世情も市井も気にせず、性欲に傾いていて。自分がそれを成したというのが、何事にも代え難く気持ち良い。

 この術を研究し。研鑽し。極めたいという意欲がとめどなく湧いてくる。

 

「……おっと。オレが襲われちゃあ元も子もないしな。……そんじゃあオレが励起させたこの宝玉は、この教会に置いとくから、ヨーデルさんが自由に使ってくれ。教会の神官でも、次に来た信者でも、適当に襲うといいぞ~」

 

「……ッ!!」

 

 ゴトリ。鈍く光る宝玉を机の上に置く。

 ケイオスが顎で指し示すと、ヨーデルはそれを奪うように抱え……教会の本殿へ向けて走り去っていった。

 

 後には、満足げなケイオスだけが残される。

 性欲に塗れた司祭がどたどたと駆けてゆく姿を、ほ~んと興味深そうに見送ってから。

 

「……ま、明日もう1回くればいーか。あの宝玉もヨーデルに持たせとけば、定期的にバサーク状態を重ねがけしてくれるだろうし……宝玉の耐久が尽きる前に何重にも術をかけてみて、もともとの人格(・・)をどれくらい歪められるか(・・・・・・)も試したいし」

 

 自らの野望を、指折り数える。

 荷運びのために雇った衛兵が来るまでに数刻。倉庫の前で、ケイオスは笑い続けるのだった。

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 こうして。

 混沌の種は、ベルン王国の片隅で確かに芽吹いた。

 

 そして混沌の隣人、闇を貪欲に欲する者すらも……。

 今。ベルンというひとつの国に、集おうとしている。

 

 ベルンの国境。山陰に連なった森。

 木々と月の影 ―― 巨大な暗がりから、ぬっと男が歩み出た。

 

 男はローブを深く被ったまま夜の空を見上げる。

 ぎょろっとした眼球が、雲に覆われた月夜を這いずり回る。睨め付けるように見回すも、周囲には明かりひとつない。

 

 ぽつりと遠くにひとつ。

 山間に建てられたベルンの王宮だけが、薄く篝火を浴びて輝いている。

 

「……。……ク、ク。面白い。ここには混沌と退廃の風が、吹いているな……」

 

 黒色の中。星のない闇夜を見つめていた男の傍に。

 金の瞳と美貌を持った者たちが、音も無く現われて、告げる。

 

「―― お待たせしました、ネルガル様」

 

「……」

 

「ふふふ。ネルガル様。黒い牙の連中で、まずはこの国を引っかき回してみせましょう」

 

 そしてそのまま暗闇の中に、消えた。

 

 

 






 ヨーデルは『バサーク(淫欲)の宝玉(オーブ)』を手に入れた!

・バサーク(淫欲)の宝玉
 隣接する対象1~4人に、5ターンの間、バサーク(淫欲)を付与する。

・バサーク(淫欲)
 対象者は状態異常の間、性欲を第一に考え行動するようになる。
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