ファイアーエムブレム 娼俗の剣 作:どろまみれ
いよいよベルンの王立軍学校に入隊したケイオスは、随分とご機嫌だった。
ニノを手持ちの玩具にしたおかげで、ハウスメイド(もどき)と性欲処理女を同時に手に入れることが出来たのだ。当然のことといえよう。
幸運。この一言に尽きる。
ケイオスが寝泊まりをするのは、軍学校から離れた位置にある軍管理の家屋。かつては寮だったようだが……貴族の力の肥大化。属州民の統合や疎開。デズモンド王になってからの侵攻のなさなどから、現在は誰も使わなくなった場所であると管理人から聞いている。
つまりは自分で管理をするには手のかかる建物である。軍学校生徒という遠征の多い立場では、ハウスメイドを兼任させられるのはありがたい。飯炊きを兼ねられるなら尚更だ。
実際に、ケイオス以外でこの家屋を利用する生徒は1人しかいなかった。
ケイオスと同年かそれより若い同寮の輩。彼の名はゲイルといった。
初日。
誰も居ない、春風に壁を叩かれる音だけが響いている寮の入り口横、歓談室にて。
机にふたりで腰掛け、ケイオスが話す。主に部屋決めの理由についての相談である。
「そんじゃあオレの部屋はお前の反対。こっちの端っこにするぞ」
「ああ。それでいい」
水道回りの管理や掃除や動線の事を考えた提案に、特に異論はないとゲイルは頷く。
こういうのがどうでもいい質なのか、はたまた。……ケイオスはゲイルの表情をしばらく観察していたのだが、それは向こうも同様だった。
視線が合う。
「……合理的な話をするヤツだ、ケイオス」
「あん?」
思わず訝しんだケイオスに向けて、別段変化のないゲイルが続ける。
「もう一度言っておく。異論はない。遊び盛りのやつとは、部屋が離れていた方が俺も助かる」
ゲイルが家屋の部屋と部屋。ケイオスの個室との距離を指でなぞりながら、薄く笑って見せた。
元が寮だっただけあって、平屋だが部屋の数は多い。その内の端から端までだ。廊下も2つは曲がる。これはお互い様だが、連れ込んだ女を見られるようなこともないだろう。
言い分としては正しいのだが……。
「あー……それってオレの側の都合なんじゃねーの?」
「俺はそれで満足だ、と言っているんだ。……例えばお前が自分都合でしか考えない気質ならば、その前段階で当番や掃除の割り当てを行わん。部屋も我関せずの、1番近い位置にするだろう。実際、一昨年までいた先輩どもはそうだった」
喘ぎ声がうるさくて眠れず、仕方なく。可能な限り距離を置いた結果が現在の端部屋なのだそうだ。
つまりは「先輩よりもお前の方がずっとマシだ」と言われている。評価としては上々だろう、とケイオスは思った。
ゲイルもどうやら苦労をしている。思ったより取っつきやすいヤツなんだな……という感想を抱きながら、ケイオスは様相を崩した。先ほどよりも親しみを込めた声で続ける。
「ならいいか! あ、ちなみにゲイルの飯当番はどうすんだ?」
「当番の日だけ近場の家政婦を雇っている。俺は幼少の頃にサカから連れてこられた属州民でな。兵役が長い分、使い所のない金は余している」
「お~、サカ! だからこの家使ってんだな。ちなみにオレはイリア出身だぜ」
「ほう。……ケイオスは、ベルンには、望んで来たのか?」
「勉学のためだ。この年なら警戒されずに入国出来るだろ。オレにそう聞くって事は、ゲイルは無理矢理なのか」
「いいや、そんなことはないさ。金も貰っているし、拾ってくれた家には十分な仕送りも出来ている。個人としてもこうして、軍学校という竜騎士隊への正統な直通路も辿らせて貰っている。属州民にしては厚遇過ぎるくらいじゃないか」
「確かに! すっげーな! つーか宮仕えの
「流石にまだまだ経験と歴が必要だがな。お前の方は……志は魔道か」
「一応な。ついでにゲイルが詳しいなら聞きたいんだけどよ、今の学舎内で……」
「ああ、それなら……」
ケイオスがゲイルに次々と質問を飛ばしてゆく。
これからの指針のためにと全てを聞き終えた頃には、とうに日は沈んでいて。
暗闇に沈んだ寮の扉を開いて、少女がひょっこりと顔を出す。
「―― あの、ご飯、作って良い……?」
「いいぞ!」
「たのんだ」
食材を買い出してきたニノがおずおずと顔を出すと、すっかり仲良くなった2人に出迎えられたのだった。
●
入学してから数週が経過した。
王立の軍学校というだけあって、学ぶべきものは座学だけではない。体術や周辺諸国の地形把握。魔法体系の理解や、馬と竜の乗り方・飼い方・躾け方。
そして何より ―― 人との戦い方。竜との戦い方。
それら知識はケイオスにとって学ぶべき、彼の好奇心を満たして然るべき。十分を過ぎて余剰が溢れて。毎日のように夜中まで知識を詰め込んで楽しめる、望んだとおりの場所であるといえよう。
しかし、学徒とはいえ軍属である。
ケイオスらは小隊を組み、王都周辺……というよりは。離宮までの道程の
はっきり言って、楽なもの。半端な新人にこそ相応しい任務である。
ベルン王国には、山間深くに建てられた離宮が存在する。
離宮には王妃とその王子であるゼフィールが住んでいる。王から隔離された、しかし守りに最適な……ある意味では竜の上に座すベルンにこそ相応しい宮殿であるといえよう。
その離宮までの道程は、他の隣国への道が繋がっている訳でも無い。離宮への荷は運ばれるものの、当然ながら監視の目は素早く、盗賊も利益をあげづらい。
だからこそ新人たちの
兵の間ではピクニックと揶揄されるそれらを来月に控え、ケイオスは早速と小隊の仲間探しに乗り出した。
初手は、当然の如くゲイル。
「組もうぜ!」
「ああ。いいぞ」
即決である。
ゲイルは任期こそ長いが同年の学徒であり、小隊を組むのに適している。彼の側としても下手に貴族らの下に入るよりは、同じ属州民や外部の人間と組んだほうが気楽だと聞かされている。
「じゃあゲイル的には、他のメンバーも同じような境遇のヤツがいいか」
「……その条件で4人も集まるのか?」
腕を組んだゲイルが指摘したのは、小隊の条件である最低人数。
先に挙げたように ―― ベルンは王政であり。貴族が存在する。
ベルン王国は力を是とする国である。必ずしも貴族が権力を持つとは限らないが、しかしながら、庶子よりは力を持っているのも確かなこと。
軍学校の学舎でも同様で、優秀な生徒には貴族の唾がかかっていることが多い。
たかが学徒の小隊に、優秀さが求められるのか。
当然、求められる。なにせ馬鹿な族でも現われた際には、命をかけて相手をしなければならないのだから。
ゲイルとしてもケイオスとしても、可能な限り優秀な人材を集めたいというのは当然のこと。
だからこそその幅を自ら
ケイオスには勝算があった。
目を付けている国外からの人材が、2人いる。
早速と声をかけ、顔合わせはその日の内に行った。
お
「……」
裾の長いローブを羽織り。無言のまま、透明な笑顔を浮かべる男子。
背は並。筋肉の付きも並。しかしその軍略に惚れ込んだケイオスが熱烈なコールを送った、同年の麒麟児 ――
そして。
「わざわざ
深緑の色をした長髪を側頭部でツインテールにまとめ。腕を組み。挑戦的な視線を隠そうともしない、自信に満ちあふれた学徒の女。
エトルリアからやってきている客将 ―― 新任の魔道軍将・パントが留学生として帯同させた学徒。魔道士・セシリア、その人である。